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第三章
13 内緒の庇護者候補 ユリウス視点
しおりを挟む私は辺境伯爵、ユリウス=レーヴェン、23歳。と言いたい所だが、これは仮の姿。
真の私はユリウス=ワイアット=シルヴェストル、23歳。神聖大国ワイアット皇国の皇王、ツアーリである。
私がアルフォード公爵の城、グレーロック城に招待されて五日が過ぎた。
この城での生活はとても楽しい、なぜならアリア様がいるからだ。私が彼女と知り合う前のイメージはどちらかと言うと大人しいけど芯がある幼女という感じだったけれど、その印象はどんどん変って行った。
あんな可憐な見目で剣を振り回し、グランドグロウを青い炎で焼き尽くしたかと思えば、小さな子のように大浴場で無邪気に笑う。ダンスをするその足取りは優雅で淑女そのものだ。
私は彼女と念願のダンスをした。ワルツではない、コントルダンスだが楽しかったので良しとする。ダンスは良い、あんなに密着しても誰にも何も言われない。
思い出してにたにたしていると咳払いされた。執事のオリオンである。
「で、ユリウス様、姫様とどこまで行ったのです?」
私達がいるのは北東の棟、百合の間。
その部屋の応接セットの長椅子に私は座っている。
私の側には立ったままこめかみを押さえているオリオンが立っている。
ちなみにこの部屋は兄妹という関係で宿泊させて貰う事になっていたので、寝台は一人用が二つ並べられている。百合の間というだけあって、室内は白を基調として薄い黄色と緑でまとめてあり、壁際の飾りテーブルに置かれている花瓶には百合の花が飾られていてその芳香を放っている。
「どこまでと言われても、……何も手応えがない」
「姫様が攫われそうになった危機から救ったのですよね?」
「ああ、偶然な」
「普通でしたらここで愛が芽生えてもおかしくないのですがね?」
オリオンが睨む。
「そんな簡単に行くわけ無いだろうが! ……それに、あの時彼女は私に何者だと言った。もしかして何か分かってしまったのか? と焦った」
「何故そのような言葉を言ったのでしょうね?」
「よくは分からないが、なんとなく不思議がっていた。それが何について不思議がってたかまでは分からない」
「聞いてみたらいかがです? あの素直な姫様なら聞かれれば答えそうですが?」
「ああ、そうかもしれぬ」
私が目の前のウィスキーのグラスを取ろうとしたら空だった。
「あら、お兄様気付きませんで申し訳ございません」
クロエが氷とウィスキーを注ぐ。
「しかし、あの姫様は馬鹿なのか? 自分を攫おうとした者に罰を与えないとか、馬鹿としか言いようが無い」
オリオンは何故かイライラして言う。
「馬鹿じゃなくて優しいのだ。だが、ただ優しいだけではない。処刑された騎士団長の裁定時には彼女は処刑に賛成したそうだ」
「その者は一体何をやらかしたんです?」
オリオンが私に聞いてきた。
「生まれたままのお姿を見てしまったらしい、大事な所もな」
「それが死に値するんですか? 攫われる方が重大だと思いますけどねぇ……攫われたら裸を見るだけでなく色々されてしまいそうではないですか」
オリオンが続けて言って、その言葉に私も頷いた。
「私もそう思うが、知り合いだという事と、助かってしまった事で攫われた後の事まで想像できなかったのだろう」
私はウィスキーをごくごくと飲んだ。
「ユリウス様があの姫様を落とすのは厳しい気がします。もう、いっそ攫ってしまいませんか?」
過激な事をオリオンが言い出した。黙って聞いていたクロエが口を出す。
「今回のレンブラント様の件で護衛が二人に増えましたし、それは難しいのでは?」
「肖像画家までくっ付いて歩いているしな」
と私も言った。
「ああ、いましたね、くしゃくしゃの紺色の髪をした、ぶつぶつ独り言を言ってる気持ち悪い男が」
クロエが嫌そうな顔で言う。
「ああ見えて素晴らしい絵を描くらしいぞ? クロエも書いてもらうか?」
「素晴らしくてもわたくしはあの人は嫌ですわ。生理的に受け付けません」
「ふむ、そうか」
「でも、お兄様がわたくしとレンブラント様のことを公爵様に言うとは思いませんでしたわ」
「あれは、つい言ってしまった。言うつもりではなかったんだ」
クロエはため息を付いた。
「知ってる男の手の付いた女など男は抱かないですわ? わたくしも公爵様を落とせそうに有りません。お兄様、申し訳ございません」
「いや、アルフォード公爵は誰が落とそうとしても無理な気がする。アリア様しか見えていない」
クロエは頷いた。
「同感ですね。ダンスをした際に二人での散歩にお誘いしましたが即、断られましたもの」
私はまたグラスの酒を飲んだ。クロエがウィスキーを注ぐ。
「そう言えば、レンブラント様があのような状態だと近いうちにヒューイット様にばれてしまいませんか?」
クロエが言った。
「愛情が無い事がか?」
「ええ」
「普通もっと早く気付くだろう?」
「ええ、わたくしでしたらすぐ気付きますね」
「愛情が無いのがばれたとしてもあの二人はどうもしないだろう? 婚約解消するのも金がないと言って解消しないのだから」
クロエは目を瞬いた。
「二人の仲が問題なのではなくて、アリア様の身に危険が及ぶのではないかと思ったのです」
私は考えを巡らす。
「ヒューイットか?」
「ええ、傍から見ても憎しみの視線が凄いですよ。まるで鬼の形相ですわ? レンブラント様の気持ちが知られてないのにその状況です。知られてしまったら……」
「しかし、護衛が増えたし、そう簡単に手出しなど出来ぬと思うが……」
「一応王国魔術師団の副師長補佐まで務めている方ですよ? 護衛が二人いても危険かも知れません」
クロエが言うとオリオンが咳払いをした。
「その時はまたユリウス様がお助けすればいいのです! そして今度こそ愛が芽生えて貰わねば、ここに来た意味が全くございません!」
とぎろりと私を睨む。
私は肩を竦めて言った。
「まぁ、まだここに来て五日だ、焦るなオリオン」
オリオンの顔を見たが渋い顔をしている。
「クロエも、アルフォード公爵のことはもう考えなくていい、ここにいる間は楽しめ」
「良いのですか?」
「私がアリア様を振り向かせればいいだけだ」
「なんだか妬けます」
「いい雰囲気の様なので私は先に失礼しますね。ユリウス様、お子を作る為にもきちんとクロエの中に注いでくださいね」
オリオンは言いたいことを言ってさっさと部屋を出て行った。
「では子作りをするか? クロエ」
「はい、ユリウスお兄様」
私は自分の寝台にクロエを寝かせた。
やはり一人用だと二人で閨事をするには狭く感じる。
「ユリウスお兄様はお体が大きいですから、やはり一人用の寝台だと狭く感じますね」
ふふふとクロエが笑う。
「まぁいい」
私はクロエに口付けをした。私が舌を入れるとクロエはそれに吸い付いて離そうとしない。
私はクロエの顔を両手で掴んで離した。
「はぁ、はぁ、ユリウスお兄様ぁ」
目がとろんとしている。
「どうしたクロエ、おかしいぞ?」
「だって、ずっとお預けを食らっていましたからね、こういう風にもなりますわ?」
そう言ってクロエは私の手を握ってショーツの中に入れると、そこはもう濡れていた。私は思わず手を引っ込めた。
するとクロエが寝巻きを脱ぎだし、下着も脱いであっというまに裸になった。
「クロエのここにユリウスお兄様の肉棒を突っ込んで下さいませ」
クロエは股を開いて両指でその花びらをくぱっと開く。そこからはとろっとした透明な液が滴っていた。
「早く、早く入れて下さいませ、お兄様」
切ない声で私を呼ぶクロエに私の物は反応した。私はズボンと下着を下ろしクロエの蜜壷に亀頭を充てがって、先をぐりぐりと動かした。ぐちょぐちょと音がして液が溢れすぐ入れられる状態になった。
入れて、入れて、とうるさいのでそのままズンと入れた。クロエの中は温かい。
そしてそのまま腰を振って動かすと、ぬぷぬぷと音がしてクロエが善がり声を上げいた。
そんな中、私は少し冷めていた。
アリア様だったら、彼女だったらどんな反応をするのだろうか? そう考えてしまった。
馬鹿な!私は幼女趣味などでは決してない!
なのに、何故か大浴場に行った時のアリア様の湯浴み着姿を思い出してしまう。平らな胸、細くて小さな体、スカートが揺れた時に見えたショーツ。コンサートの後に打ち上げで見えてしまった、ショートパンツの内股の柔肌。彼女が誘拐されそうになってレンブラントから取り上げた時の感触。柔らかくてとてもいい匂いがした。
「ああ! お兄様がわたくしの中で大きくなったわ!」
違う、違う、私は幼女趣味などではない!
頭を振ったが快感には逆らえなかった。そのまま腰を振ってクロエの中で射精した。
「クロエ、致したすぐ後で言うのもなんだが、私の好みは慎ましい女だ。そのように扇情的に煽られるのは好かん、もう少し慎ましくなれ」
クロエは眉間に皺を寄せた。
「ユリウスお兄様とするのが久しぶりだったので、どうしても欲しくなってしまったのです」
私は疑問に思った。
ではずっとしなかったら? クロエはどうするつもりか? 他の男と寝るのか? 凄く興味が湧いた。貞淑さを試すわけじゃないが観察したくなったのは事実だ。
「私とクロエは兄妹設定であるからな、別にしなくてもいいだろう?まぁ、私と出来なくて辛いなら他の誰かと致しても良い。但しその場合子供は作るなよ?作ればお前は側室では無くなる。それだけの事だけどな」
「お兄様は意地悪です」
「オリオンにお前の相手をするように言っておく、寂しくなったらしてもらえ」
私は隣の寝台に倒れ込んだ。腰を振ったので疲れた。
体力はある方だと思うが精神的な疲れもあるのかも知れない。私は布団の中に入りアリア様の顔を思い浮かべた。
抱き上げた時の彼女の重みや私の首に絡められた細い腕を思い出す。
途端に胸の鼓動が早くなって落ち着かない。
もう夜も更けて遅い。早く眠らなくては駄目だ。早く眠らなくては……。
目が覚めると朝の7の刻半だった。クロエは裸のままで眠っている、せめて寝巻きぐらい着て寝て欲しい、段々恥じらいが無くなっている気がするのは気のせいか? 側室にすると宣言したあたりからこんな状態だ。もしかして考え直した方がいいのかも知れない。
私は昨日の寝巻きから伯林青色の紳士服に着替えた。中のシャツは白いジャボカラーのシャツになっている。着替えてから食堂に向かった。
食堂に入るとアリア様が紅茶を飲んでいた。
「ごきげんよう、アリア様」
「ごきげんよう、ユリウス様」
テーブル中央にはエドアルドが立っているので二人で話をするという分けにはいかない。
決まっている席順が近くて良かった。エドアルドは食事は普通取るか?飲み物を何にするか聞いてきたので、食事は取る、飲み物はブラウンティと言ったら厨房の奥に消えた。
なので、今の内に聞いてしまう。
「アリア様、お聞きしたい事がございます、レンブラント様事件の時に私の事を凄く不思議がって何者か? と聞かれましたよね? あれは、私の何を不思議に思っていたのですか?」
彼女は思ってもいなかった事を聞かれたようで面食らっていた。
「あ、えっと、あれは……」
「あれは?」
「……ユリウス様に触れられて嫌じゃなかったんです、わたくし。それが凄く不思議で」
「えっ!? ……私に触れられて嫌じゃなかったですって……?」
「あ、違うんです! その、変な意味じゃなくて……。わたくし、個人スキルで無自覚の魅了っていう、変なスキルがあるのです。魅了された方はわたくしに触れたくなってしまうんですが、もちろんそんなの凄く嫌です。レンブラント様にも触れられて嫌で嫌で寒気がしました。でも、あなたは平気だったんです。むしろ……安心出来たというか、それが不思議で」
私はアリア様が私に触れられて嫌じゃないと言われた時点で頭が沸騰していた。脳が沸いてふわふわしていて、今話されている事もあまり頭に入ってこない。
「そんな風に思う人ってレイジェス様とセバス、ユリウス様の三人だけなんです。三人共どこか同じ感じがするんです。顔も声も性格もみんな違うのに……どうして?」
アリア様が私を見つめた。
セバスの事は分からないが、私とアルフォード公爵には共通点があった。
【神の愛し子の庇護者】私はこれに候補という文字が付くが、庇護者ということは変らない。もしかして、執事のセバスもそうなのかも知れない。
でも私はアリア様にこの事実を告げなかった。私が話せばアリア様の口からアルフォード公爵様に洩れると思ったからだ。
エドアルドが戻ってきた朝食のプレートを私の前に置いた。セバスがその後ろからブラウンティが入ったティーカップを置いていく。
セバスを見ると普通に給仕をしている。
「今日はアルフォード公爵様とは一緒ではないのですね?」
私がアリア様に聞くと彼女は頷いた。
「レイジェス様は今、大広間でヴィオラの練習をしていると思います。一緒に演奏したいと言ったら少し練習をすると言ってましたから。わたくしが紅茶を飲み終わる頃にアーリンをこちらに寄越すと言っていたので、アーリンを待っていたのですよ」
「そうでしたか、私もあとで大広間に行くやもしれません」
ガチャッと音がして食堂のドアが開いた。彼女の護衛騎士のアーリンだった。
「噂をすれば影ですね」
「ええ、ではまたあとで、ユリウス様」
「ええ」
アーリンの他にアランとハンスもいた。アリア様は三人と共に大広間へ行った。私は食事を食べ終えたあと、少しぬるくなったブラウンティを飲んで一息ついた。
そこにガチャリと食堂のドアを開ける音がして、そちらを見るとオリオンだった。
「食事は終えましたか?」
「ああ?」
「私はとても良い事を思いつきましたユリウス様、なので場所を変えてお話をしたいのですが、よろしいですか?」
オリオンがエドアルドを見やってから私に視線を移した。私はオリオンに食堂を出て左にある小さな待合室に連れて行かれた。大きな緑の植木があり人目につきにくい。
「良い事とはなんだ?」
「もう、面倒なのでユリウス様の個人スキルを使いましょう!」
「はっ!?」
突然の提言に困惑する。
「ユリウス様の個人スキルに幻影魔法があるではないですか。あれでアリア様を誑かせませんか?」
「ああ……なるほど、そういう事か」
私は幻影魔法で使えそうな魔法を考えた。私の個人スキルである幻影魔法は特殊なので、使えるには使えるだろうと思うが……納得はしない。
「私はスキルなど使わずに自然に好きになってもらいたいのだが……」
「それが難しそうだから言ってるのではないですか!」
オリオンは興奮して息巻いている。
「そう言えば、クロエはどうされたのです? 何故一緒に朝食に来られていないのでしょうか?」
「クロエなら裸で寝ていたぞ? あまりに見苦しいのでそのまま放置してきた」
「彼女は最近弛んでいますね。側室という言葉に甘えているのでしょうか?」
私は昨夜のクロエを思い出した。
「昨日、あれが積極的過ぎて萎えた。いつもは後宮の女を抱くが、後宮の女達は閨中私に口を利いてはいけないだろう? 善がり声さえ駄目じゃないか、なのにクロエと来たら……早く入れろ、入れろとうるさくて、あれには参った。確かに、クロエに喘ぎ声を出して良いと許可したが……あんなにうるさいと萎えるな」」
私がそう言うと、オリオンが眉間に皺を寄せた。
「ツアーリにそんな事を申すとは! 許せん! 今すぐ死んで侘びを入れさせます!」
その勢いのまま、百合の間に向かおうとしたオリオンの手首を私は掴んだ。
「ちょ、ちょっと待て! 早まるな! ここで殺してどうする!?」
「殺すとは言ってません、人聞きの悪い。死んで侘びを入れさせると言っただけですよ?」
オリオンは平気な顔で言う。
「同じだろうが!」
私はこめかみを押さえた。
「クロエは側室から降ろしましょう」
「その前に実験したい事がある」
「実験ですか?」
オリオンが目を瞬いた。
「クロエは私の事を愛していると言っていた。それが本当なら他の男と体を重ねないと思うのだが、オリオン、お前はどう思う?」
「はぁ、まぁ、愛している男がいれば他の男と体の関係にはならないでしょうね?」
「だよな? 昨日クロエが体が寂しいと言うのでオリオンに相手をして貰えと言った。もし、お前の所に来たら相手をしてやってくれ」
「はっ? ご自分の側室を……いいのですか? 私が好きにしても」
「知りたいのだ。クロエの貞淑さを。レンブラントに関しては私が奴の相手をしろと命令した。これは仕方がない、だが、命令がなければどうなるのか見たい」
「ユリウス様が私に相手をして貰えと言ったなら、クロエは許可されていると勘違いしていると思いますが?」
「許可など出していない。そんな夫がどこにいる? お前に相手をして貰えと言っただけに過ぎない。本当にお前を相手にするかどうかはクロエが決めることだろ?」
「はぁ……」
「貞淑かどうか、それで分かるじゃないか。楽しみだ」
私は笑顔になった。これでオリオンの所に行ったなら浮気をしたのだから側室は降ろす。しなければそのまま側室として置いてもいいが、私の幻影魔法にかけないと中身が好みにならない。見目だけ美しくても駄目なのだと最近分かってきた。
「では、私はこれから大広間でアルフォード公爵とアリア様の演奏でも聞いてくる、クロエの事はお前にまかせた」
オリオンの肩をぽんと叩いて私は大広間に向かった。
大広間に入るとアリア様が弾き語りをしていて、アルフォード公爵はヴィオラで共に演奏していた。剣ばかりの修練を積んで楽器など弾いたこともない私には、味わえない二人だけの世界だった。
壁際にある長椅子にはコモンとシエラ様も一緒に座って音楽を聞いていた。
アリア様の護衛二人は壁際に立っている。肖像画家のハンスは一人丸椅子に座り思いっきり猫背でデッサンをしている。私は壁際の空いている長椅子に一人で座って音楽を聞いていた。
レンブラントとヒューイットは来ていない。また二人で部屋に篭っているのか?
まぁ、いい。アリア様の害にならなければ。
曲が終わったので私は拍手した。
アルフォード公爵とアリア様は晴れやかに笑い見詰め合う。
お互いが愛し合い信じあう、その姿が羨ましかった。
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