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第二章

36寝室完成 (エピローグ)

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 やっと寝室が完成した。
午前中に荷物も運び終わり、これから初めて自分のお部屋に入る。レイジェス様が一緒に付いてきた。凹の字のこのお屋敷の右の山の奥にレイジェス様の今までの部屋があって私の部屋は反対側の山の奥だった。その反対側の山の奥から3部屋を繋げて、一番奥が私の部屋その次が寝室で一番手前の部屋がレイジェス様の部屋になった。
私は今、一番奥の部屋の扉の前にいる。
つまり、私の部屋の前。

「ドアの左にインターホンがあるだろ? ここの赤いスイッチを押すと部屋の中で呼び鈴が鳴る」
「へぇ」
「で、部屋の中と通話できる。なのでドアを開けなくても使用人に用事を頼める」
「便利ですね」

 扉を開けなさいと言うので開けたら、以前はワインカラーの壁紙と茶色い家具だったのが、今は白い家具に統一されいた。壁紙は薄い水色で、腰壁は天使の彫刻入りの白い板状の素材が貼られている。天井の廻縁も白い色で同じように繊細な天使の彫刻がしてあった。
乙女が喜びそうなお姫様っぽい部屋だった。

「……素敵!」

私は両指を絡ませ胸に当てた。この部屋、すっごい好き!

「レイジェス様!」

 私はレイジェス様を見上げて大きく手を広げた。
抱っこして? のポーズだ。
くすりと笑ってレイジェス様は私を抱き上げたのでほっぺにちゅっとキスをした。

「ありがとうございます! 凄い素敵! お姫様の部屋みたい!」
「まぁ、リアは姫様と呼ばれてるな?」

 と苦笑する。私を抱いたまま、またインターホンの説明を始めた。

「中のインターホンはドアの右に付いている。外の物よりボタンが1つ多い。上にあるボタンが外から鳴らされたインターホンの呼び出し音を止め通話できるボタンだ。下のボタンはこの部屋の中で使用人を呼びたい時に押すと子機を持っている従業員に繋がり通話が出来る。ちなみに、子機はセバスとオーティスに持たせてある」
「はい」
「その他にドアに鍵を掛けれるようにした」

 レイジェス様が獅子の模様が刻まれた豪華な金色のレバータイプのドアノブを指差した。

「ここを見なさい」

 見ると獅子の背中にスイッチみたいな突起があった。

「これを押すと鍵が掛かる」

 押したらカチっと音がして獅子の背中に突起はなくなった。
「またさわると解除になってスイッチが出てくる」

 そう言って触って解除した。

「やってみなさい? 届くか?」

 レイジェス様は私を降ろした。私はドアノブに触る。ちゃんと届いた。押すとカチンと音がしたのでまた触って外した。
私はまた抱っこのポーズをして抱き上げてもらった。

「ちゃんと届きました。わたくし、そんなに小さくありませんから」

 レイジェス様はそうか、すまぬ。と言ってまた説明を始めた。

「この鍵を掛けると鍵が掛かるだけでなく、防音の魔法も掛ける事が出来る。リアの部屋分くらいの防音装置だ」

 と言って寝室の方へ歩いて行く。寝室も私の部屋と同じ壁色になっていた。水色と白。寝台も白くて天使や花の彫刻が入ってる。そして天蓋が付いていて薄いレースのカーテンが寝台の柱に纏められていた。天井には四つ角に緑の魔石が浮いている。

「あれは?」

 と私が指差すとレイジェス様は説明を始めた。

「君が声を聞かれるのを嫌がるから寝室全体の防音魔法を自動で掛かる様にした。これで君が善がっても使用人には聞こえない」
「随分大掛かりなんですね。驚きました」
「改築のついでだ」
「あと、リアが蝋燭は危ないと言って気にしていたから、ここの3つの部屋のシャンデリアはみんな魔石灯に変えた。寝室のルームランプも魔石灯で、それじゃ明かりが調整できる」

 へぇ~とベットサイドテーブルにあったルームランプを見に行くと寝台から床に垂れている鎖に気が付いた。それを拾って引っ張ると寝台の下から鎖の先に外側は白い皮で内側には白い動物の毛がついた両手首に嵌める手枷が付いているのを発見した。
私はレイジェス様を振り返って薄い目で見た。

「ああ、それはリアを縛ってでも止めると言っただろ? それ用だ」

 事も無げに言ってくれる。

「内側にうさぎの毛を付けて、痛くなったり、跡が付かないようにした」
「え? これ、作ったのですか?」
「ああ? エドモンド商会で作ってもらった」
「はぁ!? アンヌさんも当然知ってるんでしょうね?」
「ああ、うさぎの毛はアンヌが付けた方が良いと言ったから付けた」

 私は脱力した。
いや、良いんですよ、百歩ゆずって、私がエロい事されてるって、ばれるのはまだ許せる。だけど、レイジェス様がこんな子供にエロい事をしてる変態だって思われたくないんだよ。
なんでわかってくんないんだろ? もう。
レイジェス様の顔を見ると全然分かってないっぽい。
私は室内履きのモカシンをその場に脱いで寝台に座った。

「本当に痛くないか付けてみて下さい」

 と両腕を出す。

「ふむ」

 チェーンと繋がっている手枷をレイジェス様が取り、跪いて私の両手首に付ける。確かにうさぎの毛があるからふわふわして痛くない。

「痛くないか?」
「はい」
「そのまま横になってくれ」

 そう言われてごろんと寝転ぶと、レイジェス様は寝台の反対側に周り、また寝台の下からチェーンを引きずりだした。そして私の右手首の枷のリングにカシャンと嵌める。私は手枷を嵌めて両腕を上げた状態で鎖で寝台に繋がれていた。腕を下ろそうとしてみたけれど鎖の長さがピンと張って丁度良い長さで、下には降ろせなかった。なるほど、これだったらレイジェス様のあれを自分に入れようとする事も出来ない。手が自由に動かせないんだから。
自分が全然信用できない私はちょっと安心した。

「ふむ、その姿のリアもそそるな」
「動けないであろう?」

 と言われたので頷く。

「これだったらわたくしはレイジェス様に悪さをできませんね」
「うむ、私は君に悪さを出来るがな?」

 レイジェス様がにこにこ笑う。

「あら、じゃあ……楽しみにしなければいけませんね?」

 私は微笑んだ。
レイジェス様は室内履きを脱いで寝台に上がった。そして私に口付けをした。舌が絡められてレイジェス様の唾液が私の口の中に流れる。
ぷはぁっと離すとレイジェス様は蒸気した赤い頬をしていた。

「今のは悪さではなくて御褒美ですよね? さ、悪さをしてくださいませ?」

 と私は足を折って膝を立てる。ショーツがちらっと見える。

「君は悪女かっ!」

 私を抱きしめて頭をなでなでするレイジェス様。

「わたくしに悪さをしようとしてたくせに、酷い言い草です」
「そうだ、私は悪さをする」

 そう言ってショーツを外した。そこにレイジェス様は顔を埋める。

「ああ、トウミの匂いだ……」

 レイジェス様が私の秘所を一舐めするとピンポーンと音が鳴った。

「あれが呼び出し音ですね」
「そうだが、暫く誰も寄越すなとセバスに言っていたのに、なんだ?」

 またピンポーンと鳴る。

「行って、対応して上げて下さいませ」
「うむ」

レイジェス様がインターホンで何やら話している。
そして私の所へ戻ってきて手枷を解いた。

「ちょっと厄介な事になった」
「え?」
「表門前に大量に人が押し寄せている」

 私は走って2階の窓から表門が見える所に行った。見ると30人位か? 人が集まっている。

「あれは何ですか?」
「セバスが言うには君のCDやグッズを買いたい人達だそうだ」
「え? もう全部売り切れてないですよ? それにどうしてこの屋敷に?」
「商会登録にこの屋敷の住所を使ったろ? 調べて来たみたいだ。繁華街の方にきちんと作った方が良いなこれは……」
「とりあえずあの方達には商品がない事を説明して帰って貰うしかないですね」
「そうだな。しかし、あんな中に君を連れて行きたくないな。危険過ぎる」
「あ、良い事考えました。門の中から拡声器でお話しましょうか?それなら入って来れませんし」
「う~ん……まぁ、仕方ないか」

 私はオーティスから拡声器を借り、表門に行きセバスがお帰りください~と言ってる所に言った。レイジェス様も付いてくる。

「みなさ~ん! ごきげんよう! アリアだよ? 今日はみんな、どうしたのかなぁ? ここに来てもグッズはもう売れきれちゃってないの! 本当にごめんなさい!」

 とぺこりとお辞儀をして謝る。

「なるべく早いうちにグッズを作るから、もう少し待ってね!」

とウィンクする。

「商会を繁華街に作るから、ちょっと時間がかかるけどね! それまでみんな……待ってくれるかなぁ?」

と聞いてみると野太い声で

「「「「「うおおおお!わかったああああ!!」」」」」

 と返事が返って来た。野太い声で地面が揺れた気がした。

「じゃあ、みんな、今日は帰ってね♪ ばいば~い!」

 手を振ると皆さん帰って行った。
それをセバスとレイジェス様がポカンとした顔で見ている。

「そのキャラは、作っているのか? リア」

 とレイジェス様が聞くので正直に言った。

「もちろんそうですよ? 売り上げを伸ばしたいですからね!」

 拳をぐっと握りしめる私。
呆れる大人二人。

「リア、箱を買いに行くぞ」
「箱?」
「商会の建物だ。またこちらにこられては敵わないからな」
「もうすぐ馬車の準備が出来る。セバスは北の飛び地領地の視察書類のまとめを出してくれ」
「箱買いは私とリアで行く」
「はっ」

 セバスは屋敷に向かった。
レイジェス様とお話していると馬車がお迎えに来た。ドアを開けて抱っこして乗せてもらい、レイジェス様の向かい側に座った。そのあとにレイジェス様が乗り込んだ。

「私の服装で大丈夫でしょうか?」

私はエンパイヤドレスを着ていた。レイジェス様は家用ローブでラフ過ぎない?

「大丈夫だろ? 中流貴族街だからな行くのは。そうたいしたとこでもない」

 そう言って自分の膝に肘をつき頬杖をついて私を見る。

「なにか?」
「やはりあんなに多くの人達にリアは好かれてしまった。しかも全員男ばかりじゃないか……」

 こういう焼餅はどうしたらいんだろう? さっぱり分からない。
なんと答えたものかと思案しているとレイジェス様がはぁ、と言って私の頭を撫でた。
レイジェス様は中流貴族街の不動産屋に行き、店舗を探したいと言った。不動産屋のおじさんは揉み手をしている。

「え~と、あなた様はどちらのお貴族様で?」
「レイジェス=アルフォード、公爵をしている」

 というと不動産屋さんは目を丸くしていた。

「アルフォード公爵様と言えば鉄道とか銀行を手掛けていらっしゃる?」
「うむ」
「はじめまして私はファビオと申します。以後お見知りおきを」
「で、今回はどのような?」
「こちらのアズライル商会の会頭が店舗を探している。どこかいい所に空きはないか?」

 とレイジェス様が私を前に引っ張りだす。
ちょこんとレイジェス様の前に出る私。おじさんがじろじろ見る。

「会頭とおっしゃいます方はどちらに?」

 ときょろきょろ見渡す。え。小さくて認識されてない?
でもさっき、目が合ったよね?
レイジェス様を見上げるとむすっとしている。

「はい! わたくしです」

 私は手を上げた。おじさんは胡散臭い目で私を見る。

「お金ならありますわ!」

 そう言って私は銀行で作ったカードを出して見せた。

「お嬢ちゃんのお小遣いじゃ何も買えないでちゅよ~」

と馬鹿にされた。レイジェス様がかなりむっとしてる。このままでは店が破壊されるのではなかろうか? 私は両手を広げて抱っこのポーズをした。
レイジェス様が抱き上げてくれたので耳元に小声で言う。

「ここのお店はダメです。人を見た目で判断するなんて。他にいきましょ?」
「うむ」

 レイジェス様は頷いて店の外に出た。

「他に不動産屋ってあるのですか?」
「たぶん、うろうろしてれば見つかるだろう?」

 レイジェス様と手を繋ぎ、歩いているとぐるぐる巻きの派手な色合いのキャンディが売られていてそれを見ていたらレイジェス様が買ってくれた。

「店主、それを1本くれ」
「どのキャンディにしますか? 色が全部違うから、選んでね?」

とお姉さんが言ったので、これ、と指差した。白、水色、ピンク、黄色が混じった飴。

「ありがとうございます、レイジェス様」

 私は飴をぺろぺろと舐めながら歩いていた。大きな見せ窓のある店舗では大人の洋服が売られていて、お洒落だな~とそれを見る。
これあと何年で着れる様になるんだろ? と思いつつてくてく歩く。レイジェス様と手を繋いでいるけど、何故かレイジェス様は私の速度に合わせてくれている。
見上げると機嫌が良さそう。

「ご機嫌ですね?」
「うむ、たまにリアとこうして街を歩くのも良いなと思ってな」

 私はぐるぐるキャンディをぺろぺろしながら、なんにもしないで歩いてるだけなのにな? と思った。
歩いていると空き店舗を発見。表の窓の所に連絡先の不動産の住所が書かれていた。先程の不動産屋とは違うみたいで、レイジェス様がその不動産屋に行ってみるかと言ったので私は着いて行く事に。扉を開けるとカランコロンと鐘の音がして上を見ると扉に鐘がついていた。

「は~い」

 奥から女の人の声がして出てきた。その女の人はおっぱいが凄く大きくてウェストがめちゃ細くて髪は金髪、瞳は薄い赤の女の人だった。顔つきもきりっとして、でもきつい感じはしない
はっきり言って美人。

「あら、レイジェスじゃない! 久しぶり!」

 レイジェス様に声をかける美人さん。レイジェス様は嫌そうな顔をしている。

「婚約したって聞いたけど? もしかしてそれが彼女?」

 と顎で指される。
私はぺこりとお辞儀をした。

「へ~私は戴冠式に出てなかったからさぁ、見てみたかったんだよね、あんたの彼女」
「うるさい」

 レイジェス様がむっとして言う。

「不動産屋に用事があったから来たんでしょ? そんなむっとしてないでさっさと言いなさいよ。何が御入用?」
「リアの仕事用の店舗を借りたい」

 美人さんは私を上から下まで舐め回すように見て言った。

「借りるだけ? 買わないの? 男なら甲斐性見せなさいよ?」

 レイジェス様は私を見て、顎に手をやり暫く考えたあと言った。

「では、買う」
「毎度~あり~!」

 美人さんは明るい笑顔で言った。そしてカウンターから出てくる。

「どこかの店舗を見て来たんだよね? ここから近くのとこかな?」

 と聞いて来た。レイジェス様が道を説明して、ああ、と分かったようだ。

「内覧しに行きましょうか?」

 店の奥に行って鍵をだしてきた。そして先頭に立って歩く。
私は小声でレイジェス様に聞いた。

「誰ですか? 元カノですか?」
「元カノなどいない! 全く……あいつは学校が一緒だった。同じクラスだった」
「同級生! ……へ~」

 私は薄い目でレイジェス様を見た。同級生のあんな美人の女の子とあんなに親しく話してたんだぁ……へ~

「誤解するな。あいつは……男だ」
「え?」
「女の格好で女と致すのが好きな男だ。ちなみに橘は付いている。変態だ」
「でも、おっぱい大きいですよ?」
「あれは手術で作った、作り物のニセ乳だ」

 話していると声を掛けられた。

「早く来て下さい? 二人共」

 せかすのでレイジェス様が私を抱き上げた。

「あら」
「リアは歩くのが遅いからな」
「そんなこと言っちゃって、抱っこしたいだけでしょ?」

 美人さんはレイジェス様を横目で見た。

「着いたわよ。ここでしょ? 見たの」
「うむ」
「今開けるわ、どうぞ中に入って」

 私達は店の中に入った。1階は店舗になっていて、2階は事務所になっている。縦長の造りになっている1階と2階にトイレが付いていて、2階は従業員の休憩所みたいなものもある。広々しすぎてないのもいいかも知れない。

「リア、どうだ? ここでいいか?」
「はい!」
「お金はわたくしが払います!」

 私が言うと美人さんがレイジェス様と顔を見合わせた。

「ここのお値段、3億6000万ギルなんだけど、大丈夫? 払える? レイジェスに甘えた方が良くない?」

 と言われて固まった。3億6000万ギル!? そんなに広いわけじゃないのに?

「リア、ここは土地代が高いからそうなる。ここの代金は私が払う」

 レイジェス様は美人さんと交渉し始めた。

「でも……」
「気にするな、大した額じゃない」
「そうそう、レイジェスには全然たいした額じゃないから、気にしないで甘えちゃいなさい」

 しょぼんとする私。事務所に戻って契約するということでまた抱き上げられて移動。不動産屋に戻るとお客さんがいた。

「あら、来てたの? ソレーヌ」
「ええ、ここに来いって言ったのはお姉さまじゃないですか」
「あら? もうこんな時間だったのね。忘れてたわけじゃないのよ? ごめんなさいね。お客様と契約があるからもう少し待っててもらえる?」
「ええ。待ちます」

 ソレーヌはカウンター前の丸椅子に座っている。私とレイジェス様は奥の応接室に通されレイジェス様は長椅子に座り私はその隣に、テーブルを挟んで美人さんは個人椅子に座った。
書類をテーブルに出してペンと朱肉を出した。
レイジェス様は書類を読んで間違いがないか確認してからサインと印を押した。

「毎度有り!」

 美人さんが言う。

「もう、帰るの?」


美人さんが言ったあとレイジェス様が首を振った。

「いや、商業ギルドでリアの会社の秘書と従業員募集の張り紙を出してもらう」

と言うと美人さんが目をきらきらさせて私を見た。

「えっと? お名前なんでしたっけ? リアちゃん? でいいのかな?」
「アリア=アズライル8歳です。神籍です」
「アリア様、人を募集しているなら、私を雇ってくれません?」

 と美人さんが言う。私はレイジェス様を見た。首を横に振っている。
ダメってことだ。

「ごめんなさい」
「え、私、超仕事できますよ? 私を雇わないと絶対損をします」
「あの? ここのお仕事をしてるのではないのですか?」

 と私は聞く。

「ここは昨日手を出した女の子が辞めちゃって、で、私が仕方なくやってたんだけど、今さっき来た子がここの店をやるから、多分大丈夫」

 とにこっと笑う。

「リア、こいつは侯爵様本人だ。働かなくても食える。君の所で働きたいのは好奇心からだと思う」
「あら、いいじゃない私は優秀よ? ドッカンと儲けさせてあげるわよ」
「確かに、お前は学生時代から優秀だったが、女に手が早すぎる!」
「なに、結局アリア様に手を出されたくないだけじゃない」
「そうだ。それがどうした」
「いや~変るものね、人って。私、レイジェスは男色だと思ってたわ? ね~お願い! アリア様には手を出さないからぁ~!」

 とレイジェス様の腕に纏わり付き、おっぱいをくっ付けている。ん? ニセのおっぱいくっ付けられても退場させないとはこれいかに……。

「レイジェス様はニセのおっぱいの方が本物より良いのですね」
「あらあら、ケンカ~?」
「何を言っている!? リア」
「だって本物のおっぱいを見せた方はみんな即退場させていたのに、おっぱい触ってたし、しかも頬を赤く染めてましたよ? 今!」

 私は薄い目でレイジェス様を見た。

「誤解だ!!」
「あ、私の名前はルイーズ=フォンタニエ、24歳よ。レイジェスが私のおっぱい触っても何ともないなんて光栄ね?」
「こいつは男だぞ!? リア!!」
「そういえば、私に橘が付いている方が良いかもって言ってましたよね……」
「誤解だっ!!」
「え? 何、やっぱり男色だったの? レイジェス?」

 とルイーズ様もレイジェス様を薄い目で見た。

「お前は男だろ? それはニセ乳だって分かってるし、いちいち反応しなくても当たり前だろうが! 他の女だったら即退場だ!」

 焦ってレイジェス様が言い返す、その反応が面白かったので私はこの人を雇いたくなった。

「レイジェス様、わたくしこの人を秘書として雇いたいです。お願い?」

 両指を絡めて首をこてんとした。
ルイーズ様も同じポーズで可愛くお願いをする。

「お前がやっても全然可愛くない!」

 私はルイーズさんを見た。

「そうですか? ギャップ萌えですけどね」

 私が言うと何それ~? とルイーズ様が聞いてくる。
私はギャップ萌えの説明をした。

「リア、こいつは男だぞ? 対象は女だからな?」

 としつこく言うのでひとつ提案をした。

「じゃあ、ルイーズ様は私に手を出さない。さっき言ってましたよね? それと、わたくしはルイーズ様に会う時は男になりますわ? それで問題ないでしょ?」

 と言うとレイジェス様が目が点になってたが言った。

「それなら安心できる。こいつは男に興味は無いから」
「え? アリア様って男にもなれるの? 凄い!!」
「じゃ、決定でいいですね?」

 というとレイジェス様は渋い顔をして頷いた。
私は早速ルイーズに今従業員とリンスを作る工場が必要な事を言った。マスコット類はエドモンド商会に追加発注してある。あとCDの大量生産がしたいこと。詳しくは今アズライル商会の秘書みたいなことをやってるセバスに明日こちらに説明させに来ると言った。

「明日から忙しくなるわ~!」

ルイーズが言った。
そのあと私とレイジェス様は馬車に乗って屋敷に向かった。私が馬車の中で食べそびれていた飴をぺろぺろ舐めていると

「私にも一口寄越せ」

と言って私が舐めて薄くなった所を齧って割ってしまった。
私の心は悲愴を極めた。

「酷いじゃありませんか? 割らないように綺麗に舐めていたのに」
「割らないと君の口では小さすぎて食べずらいだろ?」
「形を崩さずに舐めてから、最後に全体的に薄くなった所をバリバリと割りながら食べるのがいいのですよ! まったく女心の分からない人ですね」
「飴の舐め方に女心は関係ないと思うが?」

 レイジェス様はまったく謝る気がない様だ。私はツンと横を向いた。
お屋敷に着いて玄関のドアを開けると

「「「「お帰りなさいませ」」」」

 とセバス、他使用人に言われてレイジェス様がただいま戻ったという。
セバスが夕飯の仕度が出来ているから食堂へと言われて、そういえばレイジェス様の部屋を見てなかったなと思う。

「セバス、お食事に行く前にレイジェス様のお部屋を見てから行きます。それと、これを食堂に持って行って」

 と食べかけの飴を渡す。

「承知しました」

 とセバスが食堂へ向かう。
私はレイジェス様の手を握り言った。

「早く行きましょう? わたくし、まだレイジェス様のお部屋を見てませんから!」

 と笑ったらレイジェス様が呆れた顔をした。

「先程はあんなにツンとした顔を私にしていたのに、君はもう忘れたのか?」
「え? 何のことです?」

と言うとレイジェス様は、はぁ、とため息をして私を抱き上げた。

「まぁ、いい。行こう」

 と私に微笑む。私は頷いた。
レイジェス様の部屋の前に着いて扉を開けると魔石灯が付いた。

「辺りが暗い時だけ人の熱で反応して魔石灯が付くようになっている」
「便利ですね。」

 部屋の様子を見ると壁紙は落ち着いた紺色で、腰板と廻縁は茶色の唐草模様が刻まれた物だった。家具も茶色で統一してあって、応接セットの椅子の布張りは真紅の天鶩絨だった。床に置いてある絨毯は濃紺に金色の唐草の模様が入っている。
デザインは私の部屋と似たような感じだけど、色が大人の男の人の部屋って感じが凄く出ていてセンスがいいなと思った。

「この部屋もリアの部屋も私がデザインした。気に入ったか?」
「ええ、凄く! でも、寝室はわたくしの好みで、大人な感じじゃないですけど、良いのですか?」
「天蓋付きのお姫様みたいな寝台で寝てみたいと前に君が言っていただろう? それでこんな感じにした。私は寝れればどこでもいいからな」

 と笑う。

「でも、以前のように寝台がお互いの部屋に無いですから、わたくしに何かあった時とか、喧嘩した時とかはどうすればいいのでしょう?」
「寝台は以前のよりかなり広めにしてあるから、君に何かあっても一緒に眠れるし、喧嘩はしなければいいだけの事だ」

 レイジェス様は私の頬に軽くちゅっとした。
私はエメラダ様にバルコニーから突き落とされて一週間、レイジェス様が一人で眠っていた時の事を思い出した。
よっぽど離れたくなかったんだろうな……と思うとレイジェス様が可愛らしく見えた。
私はレイジェス様の頭を撫でて、ほっぺにちゅっとした。

「そうですね、仲良くしましょうね」

と微笑んだ。

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