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第二章
30商会との打ち合わせ
しおりを挟む「え~姫様の今日の御予定は午前中にハイゼル商会が来ます。そして打ち合わせ。昼食を取ってからベルネーリ商会が来ます。そして打ち合わせですね」
「了解です、セバス」
レイジェス様が出仕していなくなると、セバスに今日の予定を忘れないようにとスケージュールを言われた。
「お昼寝は?」
「本日は却下です」
まったりしてて眠くなったらどうするんだよぅ。
はっ、まったりするなってことか。
「ハイゼル商会が来ました、姫様。お部屋に通しますね」
セバスがそう言うと、私の後ろに立っているアーリンがシャキっと立ち直した。
セバスに先導されて40代くらいの男が入ってくる。身分が高いものから挨拶するのが礼儀と教えられたので私は先に声を掛けた。
でも、教えられても忘れちゃうんだよなぁ…気をつけないとだ。
「はじめまして、ごきげんよう。アリア=アズライル、8歳です。アルフォード公爵様の婚約者でございます」
「はじめましてごきげんよう。私はハイゼル商会で会頭をしております。ミゲル=カスティージョでございます。どうぞよろしくお願いします」
「以前ピレーネの調整に来た方とは違うのですね」
「あれは調整を専門にやっている調整員ですから。本日は何やら特別注文があると伺ったので私が参りました」
「そうでしたか。会頭様自ら足を運んで頂いて申し訳ないですね」
「いえいえ、仕事ですから。で、どういったものを?」
私は、紙に描いておいた絵と説明を見せた。そして身振り手振りで説明する。ついでに音響についても相談した。
「出来ますよ? あと、音響についてはスピーカーを付けましょう。4つほど付ければこちらの大広間なら確実にいい音になりますね」
「では4つで。あと、ヘッドマイクは念のため6つほど作って欲しいです」
「分かりました」
「代金はわたくしが支払います。いつにしましょう?」
「では品物を納品した時に。けれど、結構なお値段ですが、大丈夫ですか?」
会頭が私に聞く。レイジェス様が払うと思ってたらしい。
それを聞いていたセバスが眼鏡のブリッジを押さえて言った。
「姫様は幼いですが先日御自分で5000万ギル稼いでますから。お金の事なら心配いりませんよ」
そう会頭に言うと、会頭は驚いていた。
「凄いですね。こんなに小さいお姫様なのに」
ミゲルは微笑んだ。商売人だけあって小さくても自分で稼いでいるというのは良い印象を持ったようだ。でも、涙を売っただけなんですけどね…。
稼いだうちに入らないよ。
その後納品の期日を話して、納品は一週間後ということになり、話は終わった。気付くとお昼だった。セバスが昼食にしましょうという。
「さっさとしないと職人達が戻ってきます。急いでください姫様」
とせかされる。もう、早く工事終わらないかな。部屋間の移動にこんなの疲れる。
お昼は面倒だったのでトウミだけでいいと言った。
そしてトウミ丸ごと一個食べてご馳走様をするとセバスが言った。
「もうベルネーリ商会が来ています! 部屋に通しましたので早くしてください」
とセバスがまたせかす。
「まだお茶も飲んでいませんわ?」
「お部屋にお持ちします。行きましょう」
そう言われ、ちょっと失礼します。と抱き上げられた。そして早足でスタスタ歩く。私はセバスの顔を見た。私の視線に気付きもしない。
セバスって本当に魅了にかかってるの?
それに、私もセバスに抱き上げられても全然嫌じゃない。
リューク様の時は凄い嫌だったのに。なんでだろう? 今だって、セバスは気付いてないけど、実は手が私の胸にちょっとあたってる。ちっぱい過ぎて気付かれてないのが悲しいけど。
部屋に着くとアーリンがベルネーリ商会の人を監視していた。
「アーリン、私がこちらを見ているから、君は今のうちに食事を取ってきてくれ」
とセバスが言う。そして私を降ろす。
「はじめまして、ごきげんよう。アリア=アズライル、8歳です。アルフォード公爵様の婚約者でございます」
「お初にお目にかかります。ごきげんようアリア様。私はベルネーリ商会のテオ=ベルネーリ、会頭をやっております」
とテオが挨拶をした。20代後半くらいのイケメンだった。
「して、新しいご注文があると聞きましたが?」
「ええ」
私は紙に描いた瓶のデザインを見せた。
「これを30個程作って欲しいのです」
「30個も? 何に使うのですか?」
「リンス入れにします」
「リンス?」
私は髪に潤いを与える美容用品だと説明する。そして自分の商会で売ろうとしていることも。私が説明しているとセバスがお茶の用意をしていて私と会頭にお茶をだす。
「では定期的に注文が入るということになるのですか?」
「はい」
「でしたら、もう少しデザインをシンプルにした方がいいかも知れません」
「ガラスでおうとつのこ模様をこんなに造るのは大変なのですよ。おうとつの模様は一つにして中央に楕円形の絵を貼れる台を作った方が大量生産には向いていると思いますよ」
「それはいい考えです。あっ! ちょっと待ってください」
と私は今見せた神の裏にシンプルなデザインで中央に楕円を描きその中にAの文字を書いた。それを会頭に見せた。
「ああ、これならいいですねシンプルではあるがお洒落だ」
「では30個注文で良いですか?」
「はい、その後また注文するかもですが」
「承知致しました。これからもよろしくお願いします」
代金は納品の時にということで取引の打ち合わせは終了した。なんだかんだ長く話していてもう夕暮れだった。夕の4の刻少し前だった。セバスは取引話が終了すると1階へ戻った。私はアーリンと部屋にいて窓の外の夕暮れを見ていた。
コンコンとノックの音がする。どうぞ。と言ったら入ってきたのはリリーだった。
「姫様、旦那様がご注文なさった体重計が来ました。お持ちしたのですが、どうしましょう? お風呂の脱衣所に置いた方がいいですか?」
そう言われて私の目が輝く。今すぐ測りたい。でも自分の姿を見る。ドレスだけで結構な重さじゃない? やっぱり洋服を脱いで測ったほうが正確だよね?
「それは脱衣所に置きましょう。これからお風呂に入ります。リリー、着替えに部屋着を持って来て欲しいです。アーリンはどうしましょう? ここにいてもわたくしはいないわ?」
「では、お風呂の湯浴み手伝いをしましょうか? 曲者が現れても私がいれば平気です」
アーリンがそうと言うとリリーは笑った。
「単にアーリンが公爵家のお風呂に入りたいだけでしょ!?」
私は笑った。
「良くてよ? アーリン一緒に入りましょうか? わたくしどうせ背中とか、手が届かないですもの」
「え? 本当にいいのですかっ!?」
「女同士ですから、レイジェス様も怒らないでしょ」
と言うとアーリンは着替えを持ってくると自分の部屋に行った。
リリーは私の着替えを用意している。アーリンが戻ってきて3人でお風呂に行った。リリーが着替えを置いてから体重計の設定をする。その間私はアーリンに洋服を脱がせてもらっていた。
「姫様手を上に」
とアーリンが言って私はいわれるまま脱がされていた。するとアーリンが顔を赤くする。私の装飾下着を見たからだと思う。そしてショーツの紐を外そうとして外れない。
「え? 外れませんね?」
「ああ、これはレイジェス様じゃないと外せない下着なのです」
そう言って私は指輪を翳した。
「今何を?」
アーリンが聞くので指輪が解除になっていて指輪を翳すと私でも外れると説明した。
「そこまでするとは……」
アーリンが呆れている。
「今まで何回も危険な目に遭って、この装飾下着に助けられたこともあるのです。レイジェス様の独占欲だけの物ではないのですよ? 私の身を守る道具なのです」
そう言うとアーリンは納得した。リリーが体重計の設定が終わったというので、早速乗ってみることに。
「この体重計は最先端の魔道具技術で出来ているらしいです。1番目のスイッチにアリア様を登録しましたので、次からは乗る時にこの1番目のスイッチを押してから上に乗ってくださいね。」
とリリーが言う。
「あと、体重を量ると勝手に身長も測られるそうです。ちなみにプリストン王国の年齢平均の体重もこの説明書に載ってます。」
体重計に乗ってしばらくするとデジタル数字がぐるぐる動いた。私の体重は16キロ、身長は103センチだった。
リリーがそれを見て説明書のプリストン王国の8歳児平均と比べる。
「ええと、プリストン王国8歳児の平均は22キロ、身長平均は116センチですね…」
アーリンが私を見て言った。
「随分と平均より小さいのですね」
がーん。小さいと思ってたけど、平均よりかなり小さかったとは……。
私は両手と膝を床に付けて落ち込んだ。それをリリーがフォローする。
「こ、これから沢山栄養を取ればいいのですよ! そうしたら身長も伸びます! きっと!」
リリーが私を慰めてくれて、アーリンを窘めた。
「それより、早く入ってしまわないと公爵様が帰ってきてしまいますよ?」
とアーリンがせかす。
「では、アーリン、姫様を任せますよ?」
「はっ、了解です!」
裸で敬礼するアーリンがちょっと間抜けに見えて笑ってしまう。
私はアーリンとお風呂に入った。アーリンに洗われて、リンスは自分で付けて放置中である。アーリンも自分の体を洗って、髪を洗っている。
「アーリン、これがリンスです。髪を洗い終わったら付けてみて? 暫くしたら流して下さいね」
「ああ、さっき瓶を注文していたやつですね」
「そうそう。しっとりつやつやになりますよ」
アーリンはリンスを付けて暫く放置した。私はもう洗い流してお風呂に入る。
そしてお風呂でばちゃばちゃとクロールしていると、アーリンがそれを見て目をぱちぱちした。
「姫様がそんな子供っぽいことをするとは思ってもみませんでした」
「え? 何を言ってるのアーリン、わたくしは子供ですよ?」
「そうでしたね」
アーリンが笑った。そして、アーリンが湯で髪を流すと驚いていた。
「きしみが全くありません!しかもいい匂い…」
「でしょ? これから売るから使ってくださいね」
私はにこっと笑った。
アーリンもお風呂に入ってきて、その大人の女の体を見てしまう。
めちゃめちゃおっぱいが……おっきい。形もいいし……羨まし過ぎる……。
「アーリンはおっぱいが大きくて羨ましいです」
「はっ? 姫様もそのうち大きくなりますよ」
「そうでしょうか? 今日セバスに運ばれた時に手が胸に当たっていたのに気付かれていませんでしたよ?」
アーリンが、ん? という顔をした。
「いくら姫様がちっぱいだとしても気付くでしょう!? わざと触ったのかも知れません!」
「ちっぱい言わないで欲しいんですけど? アーリン、セバスはそんな人ではありませんよ」
「ちっぱい発言は失言でした。お許しを。しかし、男というものは触っていても、そ知らぬ振りなどよくある事です。いつも身近にいるからと信用しすぎてはいけませんよ? 姫様」
「本当にセバスに限ってないですってば」
と強く言うと
「ああ、もぅ! 姫様ったら! なんて無防備なんですかっ!!」
ぎゅううううっと抱きしめられた。でかい胸が当たってぷよぷよする。のぼせてきたので私はお風呂を上がった。
脱衣所の呼び鈴を押すとすぐにリリーが現れた。
手に2つのドライヤーを持っている1つをアーリンに渡し、リリーは脱衣所の端にある丸椅子を持ってきて私を座らせた。
エプロンのポケットからブラシを取り出し、ドライヤーで乾かしながら梳かす。
「髪はどうしましょう。結ったほうがいいと思うのですが、もう旦那様が帰ってきてしまいます」
「このままでいいですわ。あとは寝るだけですし」
リリーは髪を乾かしたあと私に下着を履かせて部屋着を着せた。部屋着は寝巻きと同じくらい薄着ではあるけど、家の中で着る物で家族や使用人の前で着ておかしくない程度の物であってお客様の前に出るのは良くない、相手が男だとしたらその男が好きなのかと勘違いされるとハンナ先生が教えてくれた。
「姫様、髪が伸びましたね」
リリーはその一言を何気なく言ったんだと思う。
そういえばこのお屋敷に来たときは肩をちょっと超えたくらいの長さだったのが今は背中の真ん中くらいに伸びている。時が流れた事がはっきりとわかる。
私はレイジェス様をお迎えに玄関に行った。
玄関にはセバスがいて、こちらにどうぞ、と自分の前に私を来させた。
ドアが開かれる。
「お帰りなさいませ!」
私が笑って言うとレイジェス様が目を見開いた。
「ただいま戻った」
レイジェス様はじっと私を見る。
「なぜ髪がほどかれている!?」
ぎろりとセバスを睨む。え? なんか分からないけどセバスが疑われてる?
「レイジェス様、わたくしさっきお風呂に入ったのです」
「なぜ私と一緒に入らない? いつもは一緒であろうが」
う~ん……ご機嫌ななめだ。
「体重計が来たので乗りたくて、先に入ってしまいました」
「おお、来たのか。で、どうだった?」
と聞いてくる。
「談話室へお茶をお持ちします」
とセバスが言い、レイジェス様は私を抱き上げて談話室へ行った。
「たまに部屋着のリアを見るのも良いな」
「ハンナ先生には淑女は常にきちんとした格好でいるものです。って言われてますけどね」
レイジェス様は長椅子に座り私は膝に乗せられる。セバスがお茶を持ってきてテーブルに置く。ブラウンティとミルクティ。置くと夕食の準備があるのでと談話室を出て行った。
レイジェス様はブラウンティを飲んでふぅと息を吐いた。
「で、リアの体重は君が言う通り重かったのか?」
横抱きにしている私の目を見つめながら言う。私はその目を逸らしてしまった。
これ、体重が平均より軽いって分かったらもっと食べろって言われそう…。
そしたら本当に太っちゃうかも。ああ、でも胸にだけは肉が欲しいし…。
と思っているとレイジェス様が私のおでこにこつんと自分のおでこをくっつけた。
「ん? 黙っていてはわからぬぞ?」
間近で紫色のアメシストのような瞳がきらきら光る。
「レイジェス様の言う通り、ちょっと軽かったです」
「ほらな? 私の言う通りであった」
レイジェス様は機嫌が良い。私の髪を撫でる。
「髪が伸びたな」
私を抱き寄せて髪の匂いを嗅ぐ。
「風呂に入ったばかりのいい匂いがする」
私はレイジェス様に抱き上げられてうつらうつらしてきていた。
今日昼寝をしていなかったせいだと思う。レイジェス様が私に口付けをしても反応できなかった。まぁ、レイジェス様は気にしないで勝手に舌を絡めたり吸ったり、いつも通りやりたい放題だけど。
コンコンとノックの音がしてセバスが入って来た。
「夕食が出来たのですが、どうしましょうか」
「随分深い眠りに入っているが、リアは昼寝はしたのか?」
「本日は商会との打ち合わせで時間が掛かり昼寝はしておられません」
「ふむ、それでこうなのか」
レイジェス様が私の頭を撫でた。
「リアの体重はどれくらいだったんだ? 数字を隠したがってたが」
「リリーからの報告によりますとプリストン王国の8歳児平均は体重が平均、22キロ、身長平均は116センチでそれに対してアリア様は体重は16キロ、身長は103センチでした」
「何!? そんなに小さいのか? ……もしかして私の屋敷に着てから栄養が取れていなかったからか!?」
「それもあるかも知れませんが、もともとが少食なのではないでしょうか? 姫様は」
「以前はトウミのみでしたから霞を食べているのと一緒でした。今はそれより量が多いと感じますが以前が少なすぎたのです。それに、今は昼、夕食をきちんと食べられますが朝食を取らなくなりましたし」
「そうだな…そういえば朝は茶のみが多いな。」
「それが、天界では2食生活らしいのです。姫様が言うには昼、夕取れば足りて、朝は要らないとおしゃいますし。今はお体も小さく、活動量も少ないですから、動けばもっと食べれるようになるのでは?」
「ふむ……」
「ちなみに今日は忙しく、トウミ1個しか食べておりません。起こして食べさせますか?」
レイジェス様は気持ち良さそうに寝ている私を見た。
「セバスはどうしたらいいと思う?」
レイジェス様はセバスに意見を聞いた。
「気持ちよく寝ている所を可哀想ですが、起こした方がいいと思います。リリーが剣の稽古を今やっているので剣の稽古をやらせてから食事をしたほうが食事の量が取れると思います」
「そうだな」
「それからお風呂も一緒に入られると良いと思いますよ。汗を掻きますからね」
セバスが眼鏡のブリッジを押さえて言った。
「ああ、そうだ、私もアランと剣の稽古をする約束をしていた。忘れていたな」
「では食事の前にお二人で汗を流してらしてください」
そう言ってセバスは談話室をでた。
レイジェス様は私の頬を右手で包み口付けをした。舌を絡ませ吸う。
そして私の鼻を摘んだ。
息が出来なくて、苦しくて私は口を開けて目を見開いた。
「な、何をするんですか!死んじゃうではありませんか!」
「これから剣の稽古をする、行くぞ」
私は抱き上げられてそのまま中庭へ。
中庭ではアーリンとリリーが木剣で戦っていた。
アランが右! もっと攻めろ! とリリーを指導している。
地面に降ろされてもまだ寝ぼけ眼な私は大きなあくびをした。靴を履いてないので靴下が草の夜露で濡れる。私は神呪で靴を履き、靴下をアクアウォッシュした。
レイジェス様に気付いたアランが挨拶をしている。
「ご苦労、リリーも頑張っているようだな」
「リリーは筋がいいな。言われた事に対して飲み込みも早い。前も何かやっていたのか?」
「学生時代準騎士コースを受けていたと聞いた。騎士団長も筋がいいと言っていたな」
「なるほど、どうりで動きがいいはずだ」
リリーが打ち負かされた所で二人は挨拶し、リリーの稽古は終了したようだ。
「では次は姫様ですね」
アーリンがにこっと笑う。
私は空間収納から以前もらった自分用の木剣を取り出した。
そして両手で顔をパンパンと強く叩いた。眠気でまだ頭がぼやっとしている。
お願いします! と挨拶をしてすぐアーリンが叫んだ。
「さぁ、姫様、かかってきてください!」
アーリンが盾を出した。そうだ、寝ぼけてる場合じゃない。
「とわあああ!!」
私は上段構えの頭上から切り込んだ。といっても私は背が低いので剣先がアーリンの胸あたりにくる。
「いい感じですが上段からくると何処をねらっているのかが丸分かりですよ? 姫様!」
そう言われてパシンと勢いよく私の木剣は払われた。
今度は中段構えでわき腹を狙う
「そいやああ!」
盾にバシン!! と音が響く。
「いいですね! 今の平打ち! もう一度!!」
私は反対側の横っ腹をガツン! と狙った。
「お、反対来ましたか! やりますね、姫様!! 私も軽く行かせてもらいますよ?ちゃんと払って下さいね?」
アーリンはゆっくりめに剣を突き出した。私はそれを剣で払う。
「いいです、その調子です! 剣の動きを良く見れば払えますからね!」
アーリンがまた剣を繰り出すが私の右肩辺りに出すので防ぎ難い。
「右に来るのを防ぐには中段で構えたまま剣を縦にして払って下さいね。逆さ構えでもいいですよ」
「では行きますよ?」
言った瞬間ダッシュして来た。
そのスピードが怖い! 剣はゆっくり振ってはくれるけど。
ひゅっと剣を右肩に振られて言われた通り中段で剣を立てたまま右へ薙ぎ払った。
「そうですそうです! 姫様お上手です!」
アーリンは褒めて伸ばす先生っぽい。上手と言われて嬉しくなった。
「ではこれまでで、今日は終了です」
私はアーリンに挨拶をし終了した。神呪でタオルを出し。自分の汗を拭く。
隣を見るとレイジェス様とアランが剣の打ち合いを始めた。
私は芝生の上にタオルを敷いてその上に座ってそれを見た。
アランは確か諜報の者だと聞いた。剣はできて当然だと思うけど、レイジェス様がそれに負けてないのがびっくりだ。でもローブ姿だからか動きずらそう。
カン、カン、と乾いた木剣のぶつかり合う音がする。カン、カラカラカラという音で剣が飛ばされたのが分かった。剣を飛ばしたのはレイジェス様だった。
凄い! カッコイイ! レイジェス様は髪を掻き揚げた。額に汗が滲んでいる。
私は神呪でタオルを出し、レイジェス様に持って行った。
「公爵様がこんなに強いと思いませんでした」
アランがはぁはぁと息づいている。
「いや、久しぶりすぎて全然動けて無かった」
「それで、ですか?」
アランが驚く。私はレイジェス様にタオルを渡した。
「今日はすまなかったな。また頼む」
「いえ、私で練習相手になるかわかりませんが」
そう言った後、二人で握手をした。
その時、アランの頬が赤く染まるのを私は見逃さなかった。
ん? あの顔は…嫌な予感。アーリンがつかつかと私に近寄ってきて耳元で小声で囁いた。
「私の兄は男色家ですから、公爵様は兄のドストライクと思われます。お気をつけ遊ばせ姫様」
「え、ほんとに?」
アーリンがこくこくと頷く。私はすたたたとレイジェス様とアランの間に立ちはだかり、両腕を広げてレイジェス様を守った。
「もう、御夕食の時間ですから! レイジェス様はわたくしと食堂へ行かねばなりません。ご苦労でしたアラン!」
そう言って私はレイジェス様の手を引っ張って食堂に連れて行った。
「ん? どうしたリア?」
「あれはレイジェス様を狙っている目です! ゼフィエルと同じ目です!」
「何を言っている?」
「アランは男色家なのですって!」
「ん? 知っているが?」
「知っていて雇ったのですか?」
「じゃないとリアが危ないではないか」
「…っていうか逆にレイジェス様の貞操が危ないのですが!?」
レイジェス様はそれを聞いて暫く固まっていた。そしてはははっと笑う。
「ないない、あるわけない。ゼフィエルだって私に何もしていないではないか」
「ゼフィエルはほら、細身でしたし、レイジェス様より身長も低かったですから力でどうにも出来ませんでしょうが…アランは違います。体もレイジェス様より少し大きいですし、リューク様程ではないですが筋肉質ですよね。レイジェス様がもし、組み伏されたら…ぎゃああああ!!」
「待て待て、勝手に想像して悶えるな!」
「いくらなんでも私だって男だぞ。男に組み伏されるはずがないだろう」
「わ、わかんないじゃないですかっ!」
「先程の試合でも私が勝った。前にも言ったが、私は強いぞ?」
「ほんとにぃ?」
私がじと目で見るとレイジェス様はこめかみを押さえた。
「リアのイメージの中で私はどれだけか弱い男なんだ。泣きたくなってきたぞ」
そう言うレイジェス様に向かって、私は笑って誤魔化した。
そのあと二人で食事をして、私はいつもより多く食べた気がする。
運動したからかな?
そして汗を掻いたのでお風呂にもう一度イジェス様と入った。
お風呂を上がると、今日は昼寝をしてなかったせいかかなりうとうとしていた。
けれどレイジェス様が閨事を始めてしまった。君は途中で寝てもいい、というので私は気持ち良くされている中で眠りについた。
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