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第一章
6公爵邸にて
しおりを挟む朝目覚めると、私の目の前には絶世の美男子が眠っていた。
私の庇護者である魔術師長様だ。なぜかこの美男子様と一緒に眠っている。
何故だ? 昨日の記憶をたどってみるとスープをすくって飲んでいた後の記憶がない。もしかして私、食事中に寝ちゃった?
目の前の美男子様を見ると乳白色の肌に長い艶のある睫。乱れた長い黒髪が頬にかかる。昨日は腰まである長い髪を白い紐で結っていた。
眠る時は結わないのかな? とにかく眼福です!
と怪しげな事を考えていると魔術師長様の目が開いた。吸い込まれそうな澄んだ紫色の瞳。でも、眉間に皺が。
「君、起きるのが早いぞ? もぞもぞと動くと冷気が入るから寒いじゃないか。こっちに来なさい」
と言って私のことを引き寄せぎゅっと抱きしめた。
「君は暖かいし、いい匂いがするなぁ」
と呑気なことを言っている。正直、私22年間彼氏いなかったですから! こういう状況になれてないんですが! どういうことっ? 心臓がばくばくしだした。
「ん? なんで鼓動が早いのだ? 落ち着きなさい」
と背中をぽんぽんと軽く叩く。あ、そうか私、今子供だった。
魔術師長様は子供と一緒に眠っただけに過ぎないんだよね。背中をぽんぽんされるリズムの心地よさに私の瞼はまた重くなって閉じていった。しばらくしてカタンと音がしてまた目が覚めた。私の目の前には仕事用のローブを着た魔術師長様がいた。
「起こしてしまったようだな。私はこれから城に出仕するが5の刻には帰る。皆のいう事をよく聞き、おとなしく過ごすように。先程も鼓動が早かったようだが、大丈夫か?」
「大丈夫です。こんな格好で申し訳ありません」
「よいよい寝ていなさい。食事の支度が出来たら誰か呼びに来るであろう。それまで休んでいなさい。では行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
私は布団の中でふぅと息を吐いた。公爵って王様の次に偉い人じゃなかったっけ? すごい庇護者様でびっくりだよ。私みたいな庶民が公爵家でやっていけるのか不安だなぁ。
しかし、こっちの世界って美形しかいないの? 父神様も母神様も凄く綺麗だったけど、魔術師長様も凄い美男子なんですが! 目が合うだけで緊張しますわ! 眼福ですけど。
ってか、私寝巻き着てる。誰が着替えさせたの? 側仕えさん? 魔術師長様だったら恥ずかしくて死ねる! 泣ける!
私、上下下着履いて無かったんだよ? 上も下も丸見えじゃん!
一人布団の中にくるまって悶えてたら、執事のゼフィエルが食事の支度が出来たと呼びにきた。ゼフィエルは30代後半くらいの年齢で髪色は茶色で青い目をしている。執事服がとてもよく似合っていて、雰囲気が優しく見える。
そのゼフィエルに恐る恐る聞いてみる。
「わたくしの着替えをしてくださった方はどなたでしょうか?」
「お館様だと思います。ご自分で姫様を抱きかかえてお部屋に向かいましたから」
私絶望。そして意識が途絶える。
姫様!? とゼフィエルの叫び声が遠くで聞こえた。
再び目を覚ますと側仕え仕長のセレネがベッド脇の丸椅子に腰掛け私を見つめていた。セレネは40代中盤くらいの年齢で髪は金髪で瞳は緑色、髪の後ろに大きなお団子を作り回りを編み込みで纏めている。
服装は黒のメイド服に白いひらひらのエプロンだ。
「体調はどうでございますか? 姫様?」
「まだ胸が苦しい感じがしますけど、大丈夫です。お腹がすきました」
「昨夜眠ってしまってあまり食べていなかった様ですからね。お腹がすいているなら食堂で食事にしましょう。着替えのお手伝いをさせて頂きます。セレネです」
「はい」
昨日着ていた服を着るのかな?
と思ってたら、セレネが朝一番で市販の服と下着とスリッパタイプの室内履きを買ってきてくれていた。
人に服を着せてもらうのもなんだか恥ずかしい。ズロースやシュミーズを着るのも手伝われる。これ断れないやつだよね?
貴族の令嬢様はこういうの側仕えにやってもらうのが当たり前だったはず。ラノベの異世界転生物で読んだから私にはわかる!
恥ずかしくて、これは慣れるのに時間がかかりそう。
買ってきて貰って申し訳ないんですけど、ズロースが重い。普通のショーツしか履いたことがないからこんな大きくてフリルが付いた物をドレスの下に着ると
もこもこして歩きずらい。
ドレスもウエストの細いプリンセスドレスで、これを着るのにコルセットをしなくちゃいけなくて、子供用のボーンの入ってないコルセットにしてくれたけど、壁に手を付いてぎゅうぎゅうに締められてコルセットをした。
背中を足で押さえられていた様な気がするのは気のせいでしょうか?
スリッパもちょっと大きくて転びそうだ。ドレスの裾も長いから、尚更踏んづけてしまいそう。
セレネが足元に注目してこれでは歩けなさそうですね。といって私を抱き上げた。そしてもう一人の側仕えにスリッパを持ってくるように言って食堂に向かった。
席に抱っこして乗せてもらうと平たいお皿に桃が乗っていた。
「それはトウミと申します。果物の一種ですが栄養価が非常に高いので、先に食べさせるようにとお館様に申し付けられました。」
私はそれを一口食べた。見た目桃で味も桃だった。美味しい! ぺろっと1個食べたけれど食事はもうお腹に入らなそうである。
「美味しくて食べきってしまいましたが、お腹が一杯になってしまいました」
「結構ですよ。では広間の方に行きましょう」
ゼフィエルが私を抱っこし広間につれていく。側仕え見習いの女の子が私のスリッパを持って連いてくる。
広間に着くと商会の者なのだろう男女が数人いた。
ぱっと広げた一人用の絨毯の上に立たされると女性達がわらわら寄ってきて採寸を始める。商会の若い女の子が言われた数字を書き込んでいく。ドレスの布をどれにするかサンプル品を見てセレネとゼフィエルがこれ、これと決めて行った。
私のドレス作るんだよね? 私に聞かないの?
まぁ、どういうドレスだかわからないから、まかせた方がいいんだろうけど。
ドレス関係が終わったら次は靴の採寸だった。一人が採寸をし、一人が紙に記入していく。さっきと同じだ。
だけど、私の足を採寸する人の手つきがおかしい。撫でる様にじっとりと触る。
どう考えても採寸する様な手つきじゃない気がする……。
セレネとゼフィエルはまだ布選びをしてるのでこっちを見ていないし、足を採寸する人の様子がどんどんおかしくなっていくので、私はどうしたらいいか分からず固まっていた。
終には、はぁはぁ喘ぎながら私の生足を舐めだした。
これ、なんなの? どういう状況? 私どうしたらいいの?
私が固まっていたらその男が私の顔を押さえてキスをしてきた。
私の口はまだ子供なので大人の舌なんか全部入らない。
怖いよ! 怖くて声が出ない! 誰か助けて! 涙がこぼれた。
「……い、いやぁ……」
恐怖で小声にしかならない。ゼフィエルが気付いてくれて叫んだ。
「無礼者!! 姫様に何をしている!!」
走って近づいたゼフィエルがその不埒な男を殴った。
私の目の前で血が飛び散って私はまた気を失った。
目が覚めると魔術師長様の寝台の中で、寝台の脇には丸椅子に腰掛ける魔術師長様がいた。ゼフィエルが魔術師長様に連絡をして呼んだらしい。
「君は倒れすぎだな。厳重注意と言ったはずだが……使用人は何をしてるのか。それで、君は何をされたんだ?」
「え? 言うんですか?」
「言わなければ奴を罪に問えぬだろうが。と言っても、もうスティグマが顔に表れているから、あのまま番所に連れて行けば牢屋行きだな。で、何をされた? 私が聞きたいだけだ」
魔術師長様に両肩を掴まれて見つめられた。恥ずかしくて俯いてしまう。
「足を撫でられて舐められました」
「それだけか?」
「あと、キスされました」
「ふむ……」
「わたくし、初めてだったのに」
「いや、君はキスは初めてじゃないぞ?」
「え?」
魔術師長様は昨日私が倒れた時に薬を飲ませるため口移ししたことを話し始めた。でも、意識が無いときにそんなことされてもカウントされないと思うんですが? 救命作業だし。
余計なことを考えてると魔術師長様はローブの内ポケットから右手で杖をだし、左手で私の頭を抱き寄せてキスをした。魔術師長様の舌先が私の中に入ってきた。何事!? と驚いていると右手で杖を振った瞬間、口の中がしゅわしゅわと泡が弾けるような感じが広がった。
魔術師長様はなんのことはないというような表情で私を見つめて言った。
「消毒した。君は穢れてないぞ」
え? え? 今のって普通に杖振るだけじゃだめなんですか?
キスしながらやらなきゃいけないもんなんですか?
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色々突っ込みたい気持ちを飲み込む。
そんなきらきらした笑顔で間違ったことなんかやってないよ? どうしたの? って感じでいられると、
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これだから美男子は……文句言えないじゃないですか! 色々考えるのが馬鹿らしくなって私は布団の中に潜りこんだ。
「仕事中に抜けてきたので私は城に戻る。罪人は連れて行く、今日の君は倒れすぎだと思う。私が帰るまでゆっくり休んでなさい」
「はい、いってらっしゃいませ」
立ち上がって行こうと背を向けた魔術師長様は、私を振り向いてフッと微笑んだ。
「うむ、行ってくる」
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