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19 事件の裏側 エドアルド視点

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 あれは終春節の季節(5月)だった。
私は南の領地の城、『グレーロック城』へお手伝いに行った。
その時、タウンハウスからも何名か手伝いの者が来ていたが、風変わりな女性がいた。サーシャという側仕えで、現実の男にはまったく興味が無く、好きなのはBL(ボーイズラブ)だと恥ずかし気もなく公言する彼女に、最初は呆れていたが段々面白く感じて話をするようになった。

 ある日の事だった、美しい少年は好きか? と質問されて、好きですと答えたら、タウンハウスのお屋敷には凄い美少年が二人いると言われた。『諜報ちょうほうの者のルイス』と『フットマンのオーティス』という二人だった。へ~と何気なく聞いていたが、終春節が終わり、北の領地から王都のタウンハウスに移動するフットマンのローレンスと、南の領地から移動する町長の娘のキャロルを指導してくれと、セバスから連絡があり行った。

 そして、フットマンのオーティスを見てしまった。
白味を帯びた水色の髪がふわふわと光の加減で輝いていた。瞳は薄い金色で鼻筋はすっと通って小さいけれど、いい形をしている。唇は真紅の薔薇のような色合いだった。線が細く中性的で、あまりの美しさに一目で恋に落ちた。それからの私は自分の年齢も省みず(35歳)私よりも一回り以上若いオーティスにアプローチした。
私の指導期間は一週間しかない。それまでに彼を北の城へお持ち帰りしたかった。
もう、一生添い遂げる気で勝手にいた。

 だが、そんな気持ちはまったく通じず、私はいつも彼に逃げられていた。
もしかして、『おっさんのくせに近寄るなっ!』とか思われていたのかも知れない。
そうだったら……死ねる。
一緒に北の領地に来て欲しいと言っても、全然返事も貰えなかった。領地に帰る日も見送りにも来てなくて、私は激しく落ち込んでいたが、セバス二号が彼を呼んできてくれた。泣きはらした目をして、行かないでくれと言われて、心の中で狂喜乱舞していたが、私は表情が薄い。

 心の中でそのような事態になっていても悟られることが少ない。
行かないでと言われても、職場に行かないとクビになる。セバスにオーティスをお持ち帰りしたいと言ったら許可が出て、連れて行くことにした。
オーティスは見かけは美しく、綺麗で可愛らしいが、その性格は結構口が悪い。自分が聞かれたくないことや言われたくない事を言うと口悪く反応する。それもまた可愛らしい。素直で努力家な所も見かけの美しさと相反していて、ギャップが堪らない。私は彼を一生愛すると決めた。




 オーティスを北の領地に連れて来て間もなくの頃だった。
自分の屋敷の書斎で書き物をしている所、ノックがして顔を上げた。

「イザベルです」
「どうぞ入ってください」

 イザベル=シェルフィールドは20代後半の女性で、諜報の仕事をしている。アルフォード公爵家で雇っているわけではない。
私がゼーゼマン男爵として雇ってる者だ。

「調べろと言われていたイアン=バークリー伯爵のご子息の件ですが、やはり血は繋がっていませんでした」
「血のつながりを調べるには『血』か『唾液』が必要ですよね? どうやって調べたんです? 結構大変だったでしょう?」
「飴を舐めさせました。1個の飴をあげて舐めている途中で、その舐めかけの飴と 10個の飴を交換しようと言ったんです。すぐ口から出して10個の飴を持って行きましたよ。簡単でした」

「まだ5歳だからか、誘惑に弱いですね。ちなみに父親については、誰か調べはついているんですか?」
「父親は領地の荘園しょうえん園頭えんがしらでした」
「なんだとっ!? 平民じゃないか!? 平民の子を貴族として育てようとしてたんですか!?」

「ええ、私も驚きました。魔力が無ければすぐばれるのに。バークリー伯爵は息子さんには興味が無くて、一度も顔も見ていなかったそうですから、見ていればすぐ自分の息子じゃないと分かったでしょう」
「というと?」
「髪は奥様譲りの金髪ですが、瞳は鳶色でした。奥様の瞳は真紅、バークリー伯爵は青い瞳です。鳶色とびいろの瞳なんて生まれませんよ」

 私は考えた。バークリー伯爵夫人を罪に問える材料がある。これでバークリー伯爵を救う事が出来る。しかし、彼は妻を強烈に恐れている。あの状態では妻を訴えることは出来ないだろう。本人に言ったら絶対拒否してしまいそうだ。

「どうしたものかな……」
「何がですか?」
「妻を訴えられる材料があるのに、夫が妻を恐れて訴えられない。どうしたらいいものですかねぇ」
「執事のバルト氏に代理人になって貰えばいいんじゃないですか? 証拠はこちらから渡せばいいだけですし」
「!! 君は賢いなっ!」

 私はさっそくバークリー伯爵家の執事であるバルト氏に通信連絡を取り、話をした所、バルト氏が代理人として番所に訴える事になった。




 その後も調査を続けていたイザベルから報告書が届いた。
伯爵夫人が経営していた荘園の帳簿にも不振な点があり、調べてみると荘園の月の売り上げを半分も横領、着服していたらしい事が分かった。結婚していた年数を考えると凄い金額だ。その着服した金は、プリストン王国の神殿で、美しい少年達を買い漁るために使い切ってしまったらしい。

 報告書を読んで身震いがした。女とは何とも恐ろしい。
その後、番所で裁定が行われ、バークリー伯爵は裁定で勝った。ロジータは荘園の金の横領、着服とお家乗っ取りの罪もあり処刑された。
ロジータを良い嫁として扱っていたバークリー元伯爵は、ロジータの罪を執事のバルト氏から聞くと、心臓発作を起こして亡くなった。元々病人で寝たきりだったので周りもそう騒ぐでもなかったそうな。
実子ではなかった少年は、神殿に養育権ごと預けられたが、平民とばれてしまい孤児院に引き渡された。そのやりとりの中で、バークリー伯爵は神殿から5歳の少年を引き取って養子にしたそうだ。大層綺麗な少年だという。

 私はイザベルの報告書を読み終わって、目頭をつまんだ。
たぶん、これで彼は自由になれるだろう。

「所でエドアルド様、何故バークリー伯爵に援助を?」
「彼がアルフォード公爵家に来た時に、彼の様子を知ってしまって……余りに可哀想になってしまってね。私だったら、男を含めて女と三人で致してまで子供を作るなんて、考えられないし狂気だよ。嫁が酷すぎる。あれではトラウマになるのも分かる気がしたから……ですかね」
「けれど、お子様は実子じゃなかったですよね?」

私は考えを張り巡らせてみた。

「そこまでして実子じゃないなんで、本当に悪魔の所業ですよ……。彼の妻はきっと、『妻の穴に挿入した』という事実が欲しかったんじゃないでしょうか? だから他の者を含めたプレイをしたのかも知れません。挿入した事の証人になりますしね。挿入した時期と合わせて子供を作れば、バークリー伯爵も周りの者も納得せざる終えない。事実、皆疑いもしなかった」
「……つかぬ事をお聞きしますが、バークリー伯爵はエドアルド様の大切な方と付き合ってたんですよね? 男として、そんな方を助ける気になるんですか?」
「まぁ、彼は実際私も会ったことがあるんですが、良い方でしたよ。奥様がいなければもっと精神的に安定出来たかも知れません。まぁ、もっと早くに彼が妻と別れていたら、きっと私はティスと付き合う事は出来なかったと思いますが」
「良い方ですか……。エドアルド様らしい」

 イザベルはそう言うと、私の屋敷の書斎から出て行った。





 神々が天界へ帰ったので手伝いは終わった。タウンハウスのお屋敷から戻ってきてすぐ、私はノースホワイト城の通信室にいた。

「ではよろしくお願いします、トリスターノさん」
「ええ、承知しました」

 私が通信機器を置いて通信を終わらせると、オーティスがひょこっと入り口から顔をだした。

「ここにいたんですか」
「ええ、どうしました?」
「あちこち見たけどエドがいなくて、探してただけです」

 ちょっと恥ずかしそうに言う姿に少し悶えたが、仕事中はきちんとしなければいけない。

「仕事中はエドじゃなくてエドアルドさんでしょうが?」
「あっ、つい心の中でエドって呼んでるから、出ちゃいました。すいません」
「前とは逆ですね?」
「あっ、ほんとだ、はははっ」

 屈託無く笑う、彼の笑顔に癒された。
肩を抱き寄せて額にキスをした。

「今私の事を叱ったばかりなのに、職場でキスなんて、絶対だめですよ」
「ああ、つい、すいません」
「それじゃあ定時なんで、自分の部屋に行きますね。お疲れ様でした。また明日」

 そう言うとオーティスは自分の部屋へ行った。
一人取り残された私。

「あ、うん。そうだよね、定時だよね……ってか、お持ち帰りしたのに、持ち帰れてないっ! 何のために北の領地まで連れてきたあああああああっ!!」

 ずっと、彼と始終しじゅう一緒にいたくて頭が爆発しそうだった。
よし! 今週末はギレス帝国に行こう。
そして結婚式をする! 私はもう決めた!



_____________________________________

用語解説

番所……プリストン王国のプリストン城内にある警察機関みたいなもの。
裁定……裁判みたいなもの。
神殿……貴族の子しか引き受けない。
孤児院……平民の子が主に預けられる。
トリスターノ……ペルチェ宝石商会を経営している、会頭トリスターノのこと。
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