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1 目覚め

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 私の名前はオーティス=テラル、年齢は16歳。テラル男爵家の四男だ。
貧乏子沢山とはよくある話で、我が家は小さな屋敷に両親と、私を含めた四男二女の合計8人で暮らしていた。
収入は小さな荘園からの微々たるもので、母上は山で採れた山菜を、父上は領地に流れている川で釣った魚を売り歩いて生計の足しにしていた。
とても貴族とは思えないような生活をしている。
当然家督権のある兄以外は、さっさと家を出なければいけない。
私は貴族学校を出てすぐに働くことにした。

 でも、私はそんなに優秀じゃなかった。
賃金が良いので、国の機関で働きたいと思い試験を受けたが、ことごとく落ちた。
そして、考えた。このままでは無職になってしまう……どこでもいいから勤めれる場所を探さなくては! と、そんな時に父上の友人のお知り合いが従者を探していると聞いて、応募出来るように頼んだら、紹介状をその方に頂いた。

 ちなみに、貴族家に仕える使用人には二通りある。貴族でありながら貴族に仕える上級使用人と、平民で肉体労働や下働きの雑用をこなす下級使用人だ。
この違いは、貴族は魔力があり、屋敷内で使用する魔力製品などに魔力を供給する事が重要な仕事で、平民には魔力が無く、肉体労働や汚れ仕事などの下働きをさせている。当然扱いや給与も違う。上級使用人の方はお屋敷の1階や別棟に建てられている寮の1~2階を使える。それに対して平民の使用人はお屋敷なら地下に使用人部屋があり、寮に入れても地下にしか部屋が無い。
そして平民の使用人は、なるべく貴族に姿を見せてはならない。
給与も上級使用人は下級使用人の三倍以上の額を貰っている。

 貴族が貴族に仕えるなど、プライドが高く収入の多い中流貴族以上の方達は、絶対に貴族家の使用人になどならない。
しかし、私の家のように子沢山で貧しい生活を送っている下流貴族の女子や、家督権の無い男子は普通に貴族家で働く。
幸い貴族学校では『国務試験コース』の他にも『使用人コース』、『執事養成コース』も受けていた。なので、仕事内容は大体分かっている。
藁をも縋る思いで面接に行ったら少し話しただけで合格した。
私はそんなに優秀じゃないのに? と思って不思議だったけど、少しして自分が何故従者として合格したのか分かった。

 私が面接した、イアン=バークリー伯爵様は男色家だった。
私の見目を気に入って傍に置きたいと思ったようだった。





 イアン=バークリー伯爵様とは一年前、面接で初めてお会いした。
面接は彼の屋敷で一対一だった。

「やぁ、初めましてイアン=バークリー、41歳だ」
「お初にお目にかかります、オーティス=テラル、15歳です」
「15歳? 卒業と成人式を終えたばかりか」
「働いた経験はありませんが、頑張りますのでよろしくお願いします!」
「君は……美しいね。若さが眩しいよ」

 そう言って、俯きながら私の身上書に目を通す、バークリー伯爵様の肩まである濃紺の髪に窓から陽が射して、髪に光の輪を作っていた。不意に顔を上げこちらを見つめる青い瞳。
その瞳に見つめられて、私は少しドキッとした。
40代のしかも、男の人なのに、ドキッっとするなんて。

 伯爵様はこちらに向かって歩いて来て、立ったままだった私にぎゅっと抱擁をして言った。

「おめでとう、君は合格だ。これから私の為に頑張ってくれ」

 抱擁した時に、お尻の肉を掴まれたのは気のせいかと思った。伯爵様なのに、随分スキンシップの激しい方だな~というのが私の印象だった。
その時はまだ、伯爵様が男色家だとは知らなかった。

 従者の仕事とは、主人である伯爵様の身の回りのお世話だ。
そして、始終主人に付いて歩く。
寝起きに伯爵様の寝巻きを脱がせ、服を着せるのも私の仕事だ。ネクタイを結ぶのも慣れた物だ。しかし、風呂の湯浴ゆあみのお手伝いは苦手だ。
背中のみだけでなく、体の隅々まで洗ってくれと伯爵様が言うからだ。

 ある日の事だった。湯浴みのお手伝いの為、私は従者の服(執事服よりも簡素なスーツ)の上着を脱いで、シャツとズボンになった。靴下も留め具を外し脱いでいる。シャツの袖をくり、ズボンの裾も折って濡れないようにした。

「失礼します、旦那様」
「ああ、オーティス、待っていた」

 と、伯爵様は裸のまま突っ立っている。洗う間ずっと立っているので、足を洗う時に私が屈まねばいけない、すると伯爵様のあれが、丁度目の前の位置に来る。
私は少し目を逸らしながら伯爵様の体を洗った。
目を逸らしても感触というものは伝わるようで、そこを洗っていると次第に伯爵様のそれは硬さを増して大きくなっていった。
私は内心焦っていた。自分の触り方が厭らしかったからそうなったのか? と、どうしたら良いのか分からず、ただひたすら黙って洗い続けていた。

「……もうそこから手を離すのか?」
「えっ……?」

 私が伯爵様を見上げると、彼は妖しく微笑んだ。

「オーティス、そこを君にそんな風にされると……凄く興奮する」
「えっ、あのっ、すいません!」

 私が謝ると伯爵様は私の顎を軽く持った。

「オーティス、君も私と同じなんだろう?」
「……え?」

 伯爵様は少し屈んで私にキスをした。
唇を割り、中に伯爵様の舌が滑り込んでくると煙草の味がした。舌を絡めて私の口の中で優しく蠢き、吸い尽くすと、伯爵様の唇は離れた。
私が惚けていると伯爵様が言った。

「……どうだ? 嫌じゃないだろう?」
「何を……仰ってるんです?」
「まだ分かってないのか? オーティス、普通は男のここなんて洗えない、いくら従者でも出来ないんだよ。それを君はやれる。私からのキスも受け入れられた」
「……? 仰ってる意味が分かりません」
「君は私と同じで、男を愛するって事さ」
「えっ……」
「同類は隠してても分かるんだ」
「わ、私は男色家ではありません! もうお体も洗いましたし、下がってもいいですよね?」

 私はそう言うと、風呂場から急いで出た。脱衣所で、タオルで濡れた足を拭いて、自分の上着や靴下を持つと裸足のまま自分の1階の部屋へ駆け込んだ。

 私が男色家? そんな馬鹿な。

 私には貴族学校の4年生時、お付き合いしていた少女がいた。
あの時私は13歳だった。
同じ4年生で別のクラスの子だった。身長が私より低くて、ふわふわした茶髪を後ろで一纏めにしていて、澄んだ青い瞳が印象的な可愛らしい子だった。
彼女の告白で私達は付き合った。
でも、付き合って一月たった頃、彼女が私にキスをした。

 そもそも兄妹が沢山いるので、部屋は相部屋、屋敷の中で一人になれず、自慰さえしたことが無かった。13歳にもなっていると言うのに。
だからか、私は彼女にされたキスを『気持ち悪い』と感じてしまった。
それからも彼女は私の手を自分の胸に当てて揉ませようとしたりして、私は彼女の存在自体が『気持ち悪い』と思ってしまった。
その時は、自分が初心過ぎて、まだ精神的に子供なんだ……と思っていた。


 なのに……伯爵様にキスをされて勃った。


 彼女にされた時のように気持ち悪いとも感じなかった。
寧ろ……もっとしたいと思ってしまった。
私は自分でも気付いて無かったけど、どうやら男色家らしい。
寝台で寝転んでいると溜息が出た。

「まさか、私が? ……信じられないよ」


_____________________________________

用語解説

家督権……貴族の長男が持つ、爵位を含めた相続の権利の事

貴族学校は10歳から入学になります。下記のような5年制です。

10歳~11歳……1年生
11歳~12歳……2年生
12歳~13歳……3年生
13歳~14歳……4年生
14歳~15歳……5年生、卒業と同時に成人。


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