にっこと僕【R18】

鷹月 檻

文字の大きさ
上 下
9 / 30
第一部

9 ★菱田の気持ち 菱田遼視点

しおりを挟む

 俺の両親は動物病院を経営していた。
『菱田動物病院』、親父が獣医でお袋は受付兼動物看護師をしていた。
そんなある日、二人は突然に死んだ。
居眠り運転していたトラックが中央線を超えて両親の車と衝突したからだった。

 あれは3年前で、当時の俺はもう大人で、親父の友人の結構でかい動物病院で働いていた。大学卒業して勤めてまだ1年で、両親が亡くなっても悲しむ暇もなく仕事してた。

 ……いや、今思うと悲しみたくないから、仕事しまくってたのかも知れない。
やっぱり悲しまなきゃいけない時はちゃんと悲しまないと体が壊れる。
俺はある日ぶっ倒れた。原因は栄養失調だった。
ろくに食ってなかった。そんな自分に気付いてもいなかった。
俺は一ヶ月間の入院を機に親父の友人の動物病院を辞めた。
放置してあった実家の動物病院で開業することにした。





 そして、泉桂斗と出会った。

「泉桂斗6歳です」

 そう言ったその子は髪の色がミルクティみたいな色で、腕も体も細くて、俺を覗き込む瞳は薄い水色を帯びた灰色の様な色だった。
明らかに日本人じゃない。どこか外国の血が混じってるのが分かった。
可愛くて何かしてやりたくなって、ジュースをやった。
桂斗は喜んでた。

 日中に保育園に行かず公園でぷらぷらしてた桂斗と、次に会ったのは夜の公園でだった。飼い猫を追いかけて来たみたいだったが、桂斗の飼ってる『にっこ』という猫は、酷く目つきの悪い猫で、少し太めの……要するにブサイクな猫だった。
しかも鳴き声もダミ声で『ぶみゃぁ~』と鳴く。
猫は普通、『にゃあ~』だろ? あきらかににっこは普通の猫と違った。
俺は桂斗と何回か公園で会うようになって、公園に行くのが楽しみになっていた。





 そんなある日だ。
病気になったにっこを連れてきて、助けてと言う。
どうやら母親には金が無いから病院に連れて行けないと言われたらしい。
泉さんの町内での評判は良くない。ネグレクト、男遊びが激しい、幼児虐待してる等、町内では彼女の噂が絶えなかった。
母親が当てにならなくて、自分の力で何とかしようとした桂斗は俺を頼った。

 何だろうこの気持ちは? 桂斗に頼られて、俺は何でもしてやりたくなった。
それと同時にこの可愛らしい存在を俺の欲望で汚したくなった。

『何でもするから、にっこを助けて!』

 そう言われて俺の理性はぶっ飛んだ。
まだ小さなこいつの体を邪な感情で嬲る自分の姿を妄想した。
だけど、俺の妄想は桂斗の告白の前にあっけなくも脆く崩れ去った。

 桂斗は自分の実の伯父に性的虐待をされていた。
それも、自分が虐待を受けていると分かっていない。俺は目の前が真っ暗になった。
こんなに可愛い桂斗を自分の欲望で汚すなんて……桂斗の伯父に腹が立った。
それと同時に、伯父と同じように桂斗に邪な感情を持った自分が情けなくて、腹が立った。

 桂斗を守ろう。桂斗はまだ何も知らない、まっさらなままだ。
こいつは俺が汚してもいいような奴じゃない。
守って、甘やかして、何でもしてやって、俺がいなきゃダメだって位になれば、桂斗から俺と一緒にいたいって言ってくれるかも知れない。

 それからは桂斗の事しか考えれなくなった。
俺はゲイだ。男しか愛せない。
なのに桂斗の為に女とセックスする。桂斗の母親と。
桂斗の母親は全然桂斗とは似てなかった。
しいて似てると言うなら、耳の形が少し似ている程度か。
桂斗の母親の花蓮さんは、優しくも無く、自分勝手に子供を怒鳴り殴る人だった。
だから、少しでも俺が防波堤になればいいと思った。
多分、桂斗は父親似なんだろう。

 花蓮さんが俺に惚れてると感じる度に、ちょっとした罪悪感が湧いた。
だけど、他人の、しかも大人の男の俺が桂斗と仲良くするには世間体もあって難しかった。昔と違って今は公園で子供と挨拶しただけで警察に通報される時代だ。
桂斗の母親と仲良くなるのが手っ取り早いと考えるのは当然の事だった。
ただ桂斗は心配していた。俺が花蓮さんと結婚する事を。

 前は父親になってくれたら嬉しいとか言ってたのに、今は母親と俺が結婚するのを厭がる様子を見せてくれた。

 桂斗が俺に妬いてる。
そう思うと心が蕩けそうだった。

 花蓮さんと結婚すると、もれなく桂斗が付いてくる。
だったら結婚するのも悪くないか……と思った辺り、俺は重症だ。
しおりを挟む

処理中です...