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78 宵待ち草
しおりを挟む今日は新聞社に来た。エルズバーグさんの手紙には終春節中も新聞社は開いてて、自分はいるからいつでも来てって書いてあった。
夕の5の刻にお邪魔した。
受付のお姉さんにいつもの如く『エルズバーグさんよね?』と言われて苦笑いしてロビーのソファーで待った。
「やぁ! 久しぶり!」
「お久しぶりです、その節はどうもありがとうございました」
「いやいや」
「記事にしてもらったおかげで父上の名誉は大分回復しました。僕は本当に感謝してます」
「そう言って貰えると俺も嬉しいよ、じゃ、俺の家の近所にいい酒場があるんだ。一緒に行こう」
「僕、お酒は飲み始めたばかりなんで、あんまり飲めませんよ?」
「まぁ、無理には勧めないから、気持ち良くなる程度に飲めばいいさ。もし酔いつぶれたら俺の家の近くだし、泊まればいいよ」
「はぁ……」
そして僕の肩をぎゅっと掴んで新聞社を出て歩いた。
『泊まる』って言われて、少し動揺して挙動不審になってしまった。
まぁ、あれだ、男同士の友達的なお泊りだ。そこにエロい気持ちは入ってないんだ。
きっと。
エルズバーグさんについて行くと、段々お城寄りの中流貴族街に足を踏み入れていた。そこそこ大きなお屋敷が何件も並んでるなか、隠れ家のようにぽつんと酒場があった。ここはカナレス通り。店の名前は『宵待ち草』と言う。楕円形の看板が店の屋根に掛かっていた。
店の中は1階の広場に丸テーブルが何個も置いてある大人数の席と、ぐるりと2階を壁に沿って階段の手すりの様な柵で囲んである席があった。こちらは小さな四角いテーブル席に椅子が2つしか置いてない所を見るとカップル席だと思われる。
「いらっしゃい! ひさしぶりね、ウィンストン」
「取り敢えずビアを2つ、2階の席に頼むよ」
「は~い、すぐ出すわ。先に座ってて」
エルズバーグさんは手馴れた感じで2階の席に行った。僕も付いていってお互い小さなテーブルを挟んで座った。
「ここはよく来るんですか?」
「仕事でね。ここは城が近いから、騎士団や魔術師団、番所の者もよく利用するんだ。するとさ、情報が飛び交う。情報を仕入れる為にここに来てるのさ」
「ここって中流貴族街ですよね? ここの近くに家があるって……もしかして、エルズバーグさんて貴族なんですか?」
「あっ、まぁ……うん。黙っててごめん……俺はウィンストン=エルズバーグ伯爵本人だ」
「そっか……。僕はエルズバーグさんのこと、平民だと思って気軽に接してたけど、ダメだったんだね」
「ま、まさか! 俺は普通に生活するときはいつも平民の気分でいるよ。貴族の成りをするのは社交界に出入りする時だけだ!」
「じゃあ、今まで通り普通に話していいんですか?」
「ああ、そうしてくれ、寧ろそうして欲しい」
話していると女給がビアを両手に2つ持って来た。
僕達はグラスの端をぶつけ合って乾杯した。
「で、どうなんだ? アルフォード公爵家の南の領地は?」
「えっと、凄い景色の良い所で、空気も美味しいですし、人も優しくて居心地がいいです。ただ、同じ諜報の者の『アラン』て人がいるんですけど、男色家でセクハラ魔なんですよね~。何度注意しても人のケツを触ってくるんですよ! 上司にも相談してるんですけど、止めてくれなくて……どうしたらいいですかね?」
「だ、男色家の同僚か……、危険だな」
「触るだけなんで危険は無いと思うんですけど……」
「いや、危険だよ! 君は……そのぅ、女の子と見間違えるくらい可愛いから」
「えっ……」
僕の顔が熱くなった。女の子と間違われるくらい可愛いなんて、普段の僕だったら侮辱してんのか!? って怒るはずだけど、なんだか今日は可愛いと言われて嬉しかった。なんか、……脳みそまで雌化してきてるのか、僕は?
そのあと二人で色々話をした。エルズバーグさんは今追ってる事件の話をしてくれて、凄く興味が湧いた。だけど、そんな大事な事を僕なんかに話して大丈夫なのかな? と思った。僕も南の領地での生活が諜報の者らしく無くって、凄く平和でおばあちゃんと茶飲み友達と言ったら、エルズバーグさんは笑っていた。
酒のツマミのスナックを食べながらビアを何杯も飲んだ。
久しぶりにエルズバーグさんと話したのが楽しかったからだと思う。笑って話していると酔いが凄く回った。
気が付くと、エルズバーグさんに脇を抱きかかえられて夜道を歩いていた。
夜の空気はまだヒンヤリして、酒で身体が熱くなってる僕にはその風の冷たさが気持ち良かった。
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