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 侯爵様が自首したと言っても、別に殺人をしたわけじゃない。
罪状は叔父を庇った『犯人隠避罪』と叔父を監禁した『監禁罪』だ。
監禁罪は一週間牢屋に入ればそれで終了の軽い罪で、犯人隠避罪も入牢一週間の罪だった。同時には罪をつぐえないようなシステムになってるらしく、入牢は二週間になった。でも、両方とも軽い罪で、侯爵様の身分や地位には影響がないという。
新聞社のエルズバーグさんにも聞いたが、エルズバーグさんも侯爵様が入牢した事は知らなかった。

 もっと大きな犯罪が日々新聞を賑わせているので、そんな小さな犯罪じゃ、新聞の隅にも載せれないと言われて、ちょっと安心した。





 一月下旬侯爵様が牢屋から出て来たのを、僕は城の外で待っていた。

「フォルカー!」
「ルイス……」
「馬車が待ってます。一緒に帰りましょう?」
「ああ……」

 久しぶりに見た侯爵様は少し痩せいて、髭もじゃだった。牢屋では髭が剃れないらしく、早く家に帰って風呂に入って髭を剃りたいと言っていた。





 お屋敷のお風呂で僕は一緒にお風呂に入っていた。今月二度目の逢瀬だし、週末だから泊まるつもりでいた。
一緒に湯船に入る時、僕は侯爵様の股の間に体を入れて背を侯爵様の胸に預ける。
後ろから話しかけてくる侯爵様の吐息が首筋に当たる。

「はぁ、思ったより長かった」
「罰金払えば、すぐに出られる罪だったんですってね? エルズバーグさんに聞きました」
「エルズバーグ? 誰だそれは……」
「新聞社の記者さんです。事件を調査してた時、協力してくれたんです。いい人ですよ?」
「まさか、その男は君に邪な感情を持ってるんじゃないだろうな?」
「え? それは分かりません、聞いた事無いですから」
「……妬ける」
「大丈夫だよ。僕が今大切に想ってるのは、フォルカーだから」
「それはオプションで言ってるんだよな?」

 僕の顔を後ろから間近で覗き込みながら言われた。
僕は話をずらしてごまかす。

「そういえば、フォルカーに確認したい事があったんだけど」
「ん? 何だ?」
「フォルカーって少年好きなの? 大人の男はダメなの?」
「どうしてそんな事を聞く?」
「……だってさ、僕が父上と神殿に行ってたのって、10歳か11歳ぐらいだよ? 全然子供だった。そんな僕を見初めた上に、12歳の僕を抱いちゃったわけだから。少年しか愛せない人なのかと思ったんだよ」
「う~ん、確かに私は少年が好きだ。だが、『少年しか愛せない』わけじゃない。少女も愛せるし、青年も愛せる。女はちと厳しいが、女も愛せない事は無い。それはセックスをするという意味でな? ……ただ、私は美しい者が好きなんだよ。心も穢れていないのがいい。だから対象が幼くなりがちなんだが、一番大事なのは……」

 侯爵様は言いかけて止めてしまった。どうしたんだろう?

「どうしたの? 言いかけて止めちゃって。気になるじゃないか」
「いや、自分がこれから発言しようとした言葉が少し恥ずかしくてな。……言っても笑わないか?」
「笑うわけないじゃん」
「一番大事なのは……愛情さ。お互いを大切に思い、愛し合う事が出来れば、それは最高の幸せだ」

 まさかそんな風に真面目に考えてるとは思わなくて、少し驚いた。
そう言えば、ハノーバー伯爵が侯爵様の事を真面目だと言って、ちょっと馬鹿にしたように言ってたのを思い出した。

「僕はフォルカーが少年しか愛せないんだと思ってた」
「その言葉はちょっと訂正させて欲しい。少年なら誰でも良いと言うわけじゃない。『美少年』が好きなんだ、私は!」

 力説する侯爵様が微笑ましく見えた。

「笑わないと言っただろ?」
「フォルカーが可愛いなって思って見てただけだよ?」
「君って子は……まったく!」

「所でさ? 今年は僕の誕生日にフォルカーを招待しようかと思うんだけど、どう? 僕の家に来る?」
「え?」
「ほら、前に弟と3人で祝う? って聞いたでしょ? あの時は侯爵様が、弟に色々聞かれたらどうするの? ってなって止めたじゃない? もう弟は僕の愛人契約の事知ってるし、いっかな? って思ったんだよね。ただ、庶民の家だから狭くて小さいし、ちょと古びてる。掃除はしてるんで汚くは無いんだけど」
「弟さんに睨まれそうだ」
「あ~~、かも知れない。うちの弟って凄くお兄ちゃん子なんですよ。なのでちょっと侯爵様に反発心が強くなる可能性はあるかもー」
「君に似て可愛い弟さんなんだろうな?」
「え……それは、見てからのお楽しみかな?」

 侯爵様が僕に似た可愛い少年を想像してたら申し訳ないと思った。
弟は、儚げな美少年とは全く正反対の、筋肉マッチョなでか男に育っていたからだ。

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