61 / 94
61 照合結果のその後のこと
しおりを挟む次の日僕は学校を遅刻した。早くエルズバーグさんに叔父さんが使ったグラスを持って行きたかったからだ。新聞社に行ってから学校へ行くと言ったら、弟までついてくると言った。心配だからと言われたけど、単に学校をサボリたいだけじゃ?
もちろん却下した。
「お前はちゃんと学校に行ってろ」
エルズバーグさんにグラスを渡して学校へ行くと、ビクトルに話しかけられた。
「ルイスが遅刻なんて珍しいね、どうしたの?」
「叔父さんが飲んだグラス、ゲットできたんだ」
「じゃあ……カップとの照合が出来るんだね?」
「うん」
「いつぐらいに結果出るんだ?」
「それがさぁ、調べるスキルを持った人が忙しくて、三月は掛かるらしいんだ」
「意外と時間掛かるんだな?」
「うん」
ビクトルが不意に言った。
「ねぇ、もし照合結果で叔父さんの唾液がダイアンさんの事件現場のカップのと一緒だって出たらさ、ルイスは叔父さんをどうするの?」
「え? そりゃ、証拠を突きつけて自白させるよ?」
「自白しなかったらは? だって、唾液が一緒だとしても犯人と言える確固たる証拠じゃないよね? それに自白したとしても、そのあとは?」
「……まだそこまで考えて無かった」
「ちゃんと考えた方がいいよ。いくら酷い叔父さんと言っても、血の繋がった身内だし、叔父さんが直接君のお父上を殺したわけじゃないんだから。番所の奴らがきちんと調べ上げなかったから……あんな事になったんだ。僕なら国を相手取って裁定に挑むね」
「……ビクトル、そうだよな、いくら金にだらしなくて悪人と言えど、僕の血の繋がった叔父さんだもんね……ちゃんと考えるよ。アドバイスくれてありがとう」
「うん」
ビクトルには『ちゃんと考える』とまともな事を言ったけど、僕の心の中は結構冷めてた。ビクトルの『いくら酷いと言っても血の繋がった身内』という考え方は性善説に基づいている。だからか違和感が酷かった。
世の中には本当に善の欠片も心の中に無い奴がいるのを、まだビクトルは知らない。それだけ幸せに生きて来たってことだ。
僕が思うに、叔父さんは善の欠片も心の中に無い人だ。だから人を殺して借金を踏み倒した挙句、それを実の兄のせいにして自分は罪を逃れた。
ダイアンさんを殺したのは、多分僕の調査を邪魔したんだと思うけど、二人殺したあと会っても、後悔した様子なんて全然見えなかった。
あの人は人を殺す事を何とも思っちゃいない。
そんな人をただ『血が繋がってる』ってだけで許したり、優しくしたりなんか出来るわけない。
まだ叔父さんが犯人て決まったわけじゃないけど……。
でも、もう叔父さん以外の容疑者は全て疑いが消えた。
僕のリストにはおじさんしか残ってなかった。
言語学の授業が始まって、僕は身が入らなかった。
たとえ唾液が一緒だとしても、それが即証拠にはならないからだ。
そんな事は僕にも分かっていた。
週末になり、侯爵様の屋敷に行った。
叔父さんが僕の家に来た時に、僕に侯爵様の何を話すなと言っていたのか聞いたら、『言っちまったら金にならねぇだろうがっ!』とだけしか言わなくて、何も聞けなかった。
侯爵様は一体何のネタで脅されてるんだ?
凄く気になって、閨事が終わってまったりしていたけど、聞いてみることにした。
「ねぇ、フォルカー」
「ん?」
「僕、終春節の時に夜中に喉が渇いて食堂に行ったんだ。……その時にフォルカーと叔父さんが話してるのを聞いた。叔父さんに脅されて、お金を取られてたでしょ? 僕に何かを秘密にしたくて。フォルカーは何を秘密にしてたの? 僕に言ったら、叔父さんからもう脅されても平気じゃない?」
侯爵様は酷く狼狽えていた。
「そ、それは……」
「僕には……言えない事なの?」
「……今は。でも、いずれ君に言わなければいけない時が来る。……その時は必ず君に言う」
「……分かった。僕はフォルカーの言う事を信じる」
「……」
黙っていた侯爵様は少し悲しげに見えた。
その表情を見て、僕は言ってはいけない事を言ってしまったんだと理解した。
叔父さんが握っている侯爵様の秘密は、とても重要な事なんじゃないかと思った。
0
お気に入りに追加
308
あなたにおすすめの小説
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
腐男子ですが、お気に入りのBL小説に転移してしまいました
くるむ
BL
芹沢真紀(せりざわまさき)は、大の読書好き(ただし読むのはBLのみ)。
特にお気に入りなのは、『男なのに彼氏が出来ました』だ。
毎日毎日それを舐めるように読み、そして必ず寝る前には自分もその小説の中に入り込み妄想を繰り広げるのが日課だった。
そんなある日、朝目覚めたら世界は一変していて……。
無自覚な腐男子が、小説内一番のイケてる男子に溺愛されるお話し♡
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
蜜柑色の希望
蠍原 蠍
BL
黒瀬光は幼い頃から天才と言われてきた神童ピアニストだった。
幼い頃から国内外問わずコンクールは総なめにしてきたまごう事なき才能の塊であり、有名な音楽家を輩出しているエルピーゾ音楽院の生徒であり人生の大半をピアノに捧げる人生を送っていた。
しかし、ある日彼はピアニストが稀にかかる筋肉が強張る原因不明の病にかかってしまい、14歳の時からピアノを弾くことが出来なくなってしまう。
最初は本人は勿論、彼に期待を寄せていた両親、彼の指導者も全身全霊を尽くしてサポートしていたのだが酷くなる病状に両親の期待は彼の妹に移り、指導者からも少しずつ距離を置かれ始め、それでも必死にリハビリをしていた光だったが、精神的に追い詰められてしまう。そして、ある日を境に両親は光に祖父や祖母のいる日本で暮らすように言いつけ精神的にもギリギリだった光は拒否することができず、幼い頃に離れた日本へと帰国して、彼にとって初めての日本の学生生活を送る事になる。
そんな中で出会う蜜柑色の髪色を持つ、バスケの才能が光っている、昔見たアニメの主人公のような普通と輝きを併せ持つ、芦家亮介と出会う。
突出していなくても恵まれたものを持つ芦家とピアノの翼を奪われた天才である黒瀬の交わる先にあるものは…。
※荒削りで展示してますので、直してまた貼り直したりします。ご容赦ください。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる