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59 荒れた荘園
しおりを挟む次の日、叔父さんの屋敷に行って、驚いた。
柄の悪い人達が数人、門前にたむろしている。そして大きな声で叫んでる。
「出て来いベルン、オラーーー!! 貸した金返せやあああっ!!」
「てめぇが屋敷に篭ってんのは分かってんだぞおおおっ! 火つけっぞ!」
「金が無いなら屋敷と荘園、きっちり寄越せやああああっ!!」
びっくりした。
ちょっと見るからに怖い人達で、どうしようかなと困っていると声を掛けられた。
「どうした? お嬢ちゃん、何か用か?」
「えっと、うちの父は荘園で働いているんですが、旦那様が私を屋敷に呼んでると言ってたので来たんですが……、今日じゃなかったみたいですね?」
とっさに嘘を付いた。
借金取りの男が僕をじろじろ見て言った。
「あいつ、金もねぇくせに、こんな若くて可愛い女を犯ろうとしてたのか!? 許せん! 門に鍵が掛かって開かねぇんだ、ぶち殴っても壊れないし、あいつ魔法掛けてやがる、むかつく奴だぜ」
魔法が掛かってるのを壊せないと言う事は、この人達は平民だ。
平民は魔法が使えない。
「すいません、あの、あなた達は? 旦那様は?」
「何にも話聞いてないのか、可哀想に。俺達はシャノン商会に雇われてる取立屋だ。ここの旦那の借金の取立てに来てる。だが、出て来やがらない。荘園の小作人達もどんどん出て行ってるって聞いたが、お前さんの両親はまだ出て行ってなかったのか? ここの荘園も時期に売られる。両親に知らせとけ」
「お兄さん、ありがとう」
「おっ、おうっ!」
シャノン商会と言えば、ギャンブル屋だ。
僕はお辞儀して荘園の方へ向かった。叔父さんの屋敷も荘園の隣にある。
領地にあるわけじゃないから、屋敷も自分の物だ。
荘園に行ってまた驚いた。農作地が荒れていて、何も生えてない。小麦も芋もない。
枯れた何かが並んでるだけだ。枯れたそれはよく見たら豆のようだった。
けど、食べれる状態じゃない。枝も葉も枯れて皺々で、豆も水分が無く干からびて、小さくなっていた。
僕は農作地の隣にある小作人の家に行った。ノックをしても誰も出てこない。
5件ある家を全部回ったが、誰も出てこなかった。
もしかして、小作人達は全員出て行ったのか?
「兄さん、これじゃあ荘園を何とかしないと、お金なんて稼げるわけないよ」
「そうだな、農作地も全然手を入れられた感じが無い。小作人が出て行ったのは大分前だね……」
僕は叔父さんに会うのを諦めて家に帰った。
叔父さんがあの屋敷にいるのは本当だろう。彼らは門に魔法が掛かっていると言っていた。外出していたならそこまでしないんじゃないかと思う。多分、叫んでいたあの取立屋を屋敷の2階からでも見ていたんじゃないかと思った。
夕食の後、風呂に入ってるとセドリックがため息をついた。
「はぁ~」
「ん? どした?」
「あんな柄の悪い連中でさえ、兄さんは手玉に取っちゃうんだから……最悪だよ」
「そんなつもりないよ。勘弁してよ、僕が淫乱な男みたいに言うの」
「兄さんは分かってないんだよ。十分存在がエロいから」
「お前大丈夫? ってか、お前、僕にばっかり変な事言ってないで、彼女でも作ったら? 女の子はだめなの?」
「ってか、だめかどうか分からないよ。付き合ったことないし。それに兄さんの方が可愛すぎて他に目が行かない……。ホント、責任取って欲しい。俺をこんな体にして、お預け食らわせるなんて地獄だ!」
「じゃあ、一緒に風呂入るの止めるか。うん、それがいい」
「やだ! そこは譲れない!」
「……兄ちゃん、お前が一生独身になりそうで怖いよ……」
アホな事を言いながら風呂を上がると、玄関チャイムが鳴った。
僕は厭な予感がした。
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