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50 金の無心
しおりを挟むあの後覚えてるのは、僕が泣き疲れて、セドリックが寝台に運んでくれた所までだ。
僕が目を覚ますと、セドリックが母上のお墓について説明を受けていた。
王都のお墓はお金が高いし、母上を運ぶのは大変なので、療養所の裏にある墓地に母上を埋葬してはどうかと言われた。金額も安いし、景色がいいという。
セドリックがそうしたいと言ったので、僕も反対しなかった。
そして僕とセドリックで墓穴を掘った。棺桶は無い。そのまま埋めるだけの墓だ。
二人で掘った墓穴に母上を寝かせた。近くに咲いてた花を摘んで母上に持たせた。
金貨一枚も忘れないで母上の胸元に置いた。
そして二人で母上に土を掛けた。最後に十字の板を土に刺した。今はこんな事しか出来ないけど、墓石くらい作ろうと思った。
最後に二人で母上の冥福を祈った。
「母上、僕を産んで育ててくれて……ありがとうございました」
僕はお墓にお辞儀した。セドリックは黙ってしまって何も言わなかった。
メイキス先生にはお礼を言って、お墓の代金は銀行振り込みすることになった。
自宅への帰りも野宿した。療養所は遠すぎる。こんな遠くにお墓を作って良かったのか? ちなみに父上の墓は罪人墓場にある。罪人は普通の墓地には入れない。
王都の端にある罪人用の墓場に埋められることになってる。僕はまだそこに行った事が無かった。狂人の墓守が二人いて、来る人を追い払うという噂話がある。
今度行ってみようと思った。そして、父上の罪が晴れたら……そこの墓場から父上の骨を取り出して母上の隣に移してあげよう。
「はぁ……やっぱりうちが一番落ち着く」
「兄さん、大丈夫?」
「……もう大丈夫。また野望が出来たから」
「野望? 何それ?」
「他愛も無い事だよ。お前が就職したらもっと天井の高い所に引っ越したいな~とか、父上の冤罪を晴らしたら罪人墓場から骨を拾い上げて、母上の隣にお墓を作ってあげようかな~とか」
「兄さんは……いつも人のことばかり考えてるんだね。自分の事は考えないの?」
「自分の事?」
「例えば恋愛とか……」
「恋愛? 今そんな余裕ないよ」
「侯爵様とはどうなの?」
「え? ……侯爵様とは僕が学校を卒業したら契約は終了するよ?」
「そんなにきっぱり切れるもんなの? 俺は……兄さんを諦められないよ?」
「侯爵様は別に僕が好きなんじゃなくて、少年が好きな男色家だから」
「そうなんだ??」
「たぶんね。僕は生活するので精一杯だよ。父上の冤罪も晴らしたいし」
「……まったく色気が無いね?」
「そういう事は言わないのっ!」
軽くこつんとセドリックの頭を小突いた。
すると玄関チャイムが鳴った。時間は夜の9の刻だった。
「誰だろう?」
僕が出ようとするとセドリックが出ると言って出た。
居間に入って来たのは叔父だった。
セドリックが僕にごめんなさいって顔をしていた。
「やぁやぁやぁ、ルイス、相変わらず美しいね。どうだ? 侯爵様には可愛がられているか?」
「止めて下さいそういう言い方。下品です」
叔父のセリフを聞いてセドリックが目を剥いた。
僕は叔父の下卑た笑いに背筋がぞっとした。
「今回はな~、お前にお願いがあってな? 来たんだ」
「……お願いとは何ですか?」
「まぁ、あれだ、金を貸してくれ」
「うちにそんなお金あるわけないでしょ? よく考えて下さいよ」
「そんな大金を貸せと言ってるわけじゃない、10万ギルだけでいいんだ」
「叔父さん、10万ギルも無いんですか? 現男爵なのに? 何でそんなにお金が無いんです? またギャンブルですか?」
「いいから、早く金を貸せ!」
「それが人にお金を借りに来た態度の人ですか? 大体、叔父さんは父上に借金があるんですよ? 分かってます?」
「借金だと?」
「父上が叔父さんの借金を以前肩代わりしたでしょうが」
「あれは兄貴が肩代わりしてくれただけだ。俺は別に肩代わりしてくれなんて言ってない!」
「でも借りた金を返すのは当たり前でしょ?」
「……それは……」
「僕にお金を借りたいなら、ちゃんと借用書を書かせますよ? 踏み逃げされたら堪りませんからね。それでも僕から借ります?」
「ううううっ! このっ、クソ坊主が! 誰のおかげで飯が食えてると思ってるんだ!?」
「誰のおかげ? 侯爵様のおかげです。でも、僕の見た目のおかげでもあります。僕が美しくなけりゃ、侯爵様も声を掛けませんでしたよ。叔父さんのおかげなんて、一度も思った事無いですよ?」
「この野郎! もういい! 二度とお前には頼まん! 今に見てろっ!!」
叔父は捨て台詞を吐いて帰ってしまった。
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