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46 嘘
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王都新聞社の次はダイアンさんの隣人宅に行った。
あのおばあさんの名前はジョハンナ=バントックさんと言った。
年齢は58歳だそうだ。
「前回はすいません、いなくなってしまって」
「大丈夫よ、……あなた、何か調べていたんでしょ?」
「ええ、もしかしたら私のせいでダイアンさんは殺されてしまったのかも知れません。私が事件の真相に近づいたから……」
「仕方ないわよ、起きてしまった事はもう覆せないわ……」
「あの、ダイアンさんが今現在、付き合ってる人、特に男の人とか知らないですか?」
「今は付き合ってる人はいないはずよ? 大分前に別れたって聞いたわ?」
「その人はどんな? 名前とか分かりますか?」
「どこかの下流貴族だって言ってたけど、名前までは知らないわ……」
「そうですか……ありがとうございました!」
僕は深くお辞儀をしてジョハンナさんの家を出た。
ダイアンさんは下流貴族の男と付き合っていた。もしかしてそいつが犯人かも知れない。
僕はそのあと、ハノーバー伯爵の屋敷にまた行った。
途中また、誰かの視線を感じて後ろを振り向いた。
辺りをしばらくじっと見るが誰もいない。
……気のせいか。
ハノーバー伯爵家の呼び鈴を押すとすぐに談話室に通された。
「お久しぶりです! ミレリアさん!」
ハノーバー伯爵の機嫌が滅茶苦茶良い。どうしたんだ? 何か良いことでもあったのかな? 満面の笑みだ。
「こんにちは、お久しぶりです、ポール様」
「あの後、何か分かったんですか?」
「いいえ、実は……ダイアンさんが殺されてしまっていて、お話を聞けなかったんです」
「何だって!?」
「この前、王都新聞に載ってたんですよ? 事件としては小さくて端のほうに少しだけしか書かれてませんでしたけど」
「そうでしたか……。もしかして、犯人に殺されたのでは?」
「現場で痕跡調査をしましたの。ここで使われたのと同じ魔法が使われていて、殺し方も同じでした。ただ、凶器のナイフは出てません」
「このままでは……ミレリアさん、貴女まで命を狙われるんじゃ……。私は貴女が心配です!」
と言って、膝に置いていた僕の手をぎゅっと両手で握り締めた。
んっ?
「貴女の事は私が守ります!!」
ハノーバー伯爵は瞳をきらきらさせて僕を見た。
もしかして、これはまずいかも?
「大丈夫ですわ、私には婚約者がいますから。わざわざハノーバー伯爵様のお手を煩わす訳にはいきませんから。それより今日はお願いがあって参りましたの」
ハノーバー伯爵は半分死んでた。
お願いを聞いて貰ってから婚約者の話をするべきだったか。
「お願いとは?」
「亡くなった、前ハノーバー伯爵様の交遊録をお貸し頂けないでしょうか? 書き留めましたらすぐ返しますので」
「交遊録ですか? ちょっとお待ち下さい」
交遊録とは貴族が付き合いのある方達を忘れない為に名前を記す物だ。
ハノーバー伯爵はしばらく席を外し、戻って来た時にはその手に黒い表紙の交遊録を手にしていた。
僕はそれを鞄にいれてお礼の言葉を述べた。
「本当にありがとうございます。大変助かります」
「いいえ……、所で、あなたの婚約者とは一体誰なんです?」
ハノーバー伯爵の瞳の中に燃えるような闘志が見えた。
侯爵様には悪いけど、お名前を使わせて貰おう。
「正式では無いんです。私は爵位があると言っても子爵家なので、下流貴族ですから……」
「誰なんです? 口外はしませんから、私にだけ教えて下さい」
「フォルカー=フィンク侯爵様です」
「ええっ!? あのお堅くて人には厳しいと言われている副神殿長ですか? 女には持てるくせに、浮いた話のひとつも無い生真面目な方ですよ? それが貴女と?」
「あら? そんな風に言われてるんです? とっても優しい方なのに。私と彼は長い付き合いなので、きっと他の女性を振っているのね。知らなかったわ。私の為に誠意を貫いて下さってるなんて。益々好きになりそう!」
そう言うと、ハノーバー伯爵は墓穴を掘った様にうな垂れていた。
ごめんなさい。ほんとすいません。
あのおばあさんの名前はジョハンナ=バントックさんと言った。
年齢は58歳だそうだ。
「前回はすいません、いなくなってしまって」
「大丈夫よ、……あなた、何か調べていたんでしょ?」
「ええ、もしかしたら私のせいでダイアンさんは殺されてしまったのかも知れません。私が事件の真相に近づいたから……」
「仕方ないわよ、起きてしまった事はもう覆せないわ……」
「あの、ダイアンさんが今現在、付き合ってる人、特に男の人とか知らないですか?」
「今は付き合ってる人はいないはずよ? 大分前に別れたって聞いたわ?」
「その人はどんな? 名前とか分かりますか?」
「どこかの下流貴族だって言ってたけど、名前までは知らないわ……」
「そうですか……ありがとうございました!」
僕は深くお辞儀をしてジョハンナさんの家を出た。
ダイアンさんは下流貴族の男と付き合っていた。もしかしてそいつが犯人かも知れない。
僕はそのあと、ハノーバー伯爵の屋敷にまた行った。
途中また、誰かの視線を感じて後ろを振り向いた。
辺りをしばらくじっと見るが誰もいない。
……気のせいか。
ハノーバー伯爵家の呼び鈴を押すとすぐに談話室に通された。
「お久しぶりです! ミレリアさん!」
ハノーバー伯爵の機嫌が滅茶苦茶良い。どうしたんだ? 何か良いことでもあったのかな? 満面の笑みだ。
「こんにちは、お久しぶりです、ポール様」
「あの後、何か分かったんですか?」
「いいえ、実は……ダイアンさんが殺されてしまっていて、お話を聞けなかったんです」
「何だって!?」
「この前、王都新聞に載ってたんですよ? 事件としては小さくて端のほうに少しだけしか書かれてませんでしたけど」
「そうでしたか……。もしかして、犯人に殺されたのでは?」
「現場で痕跡調査をしましたの。ここで使われたのと同じ魔法が使われていて、殺し方も同じでした。ただ、凶器のナイフは出てません」
「このままでは……ミレリアさん、貴女まで命を狙われるんじゃ……。私は貴女が心配です!」
と言って、膝に置いていた僕の手をぎゅっと両手で握り締めた。
んっ?
「貴女の事は私が守ります!!」
ハノーバー伯爵は瞳をきらきらさせて僕を見た。
もしかして、これはまずいかも?
「大丈夫ですわ、私には婚約者がいますから。わざわざハノーバー伯爵様のお手を煩わす訳にはいきませんから。それより今日はお願いがあって参りましたの」
ハノーバー伯爵は半分死んでた。
お願いを聞いて貰ってから婚約者の話をするべきだったか。
「お願いとは?」
「亡くなった、前ハノーバー伯爵様の交遊録をお貸し頂けないでしょうか? 書き留めましたらすぐ返しますので」
「交遊録ですか? ちょっとお待ち下さい」
交遊録とは貴族が付き合いのある方達を忘れない為に名前を記す物だ。
ハノーバー伯爵はしばらく席を外し、戻って来た時にはその手に黒い表紙の交遊録を手にしていた。
僕はそれを鞄にいれてお礼の言葉を述べた。
「本当にありがとうございます。大変助かります」
「いいえ……、所で、あなたの婚約者とは一体誰なんです?」
ハノーバー伯爵の瞳の中に燃えるような闘志が見えた。
侯爵様には悪いけど、お名前を使わせて貰おう。
「正式では無いんです。私は爵位があると言っても子爵家なので、下流貴族ですから……」
「誰なんです? 口外はしませんから、私にだけ教えて下さい」
「フォルカー=フィンク侯爵様です」
「ええっ!? あのお堅くて人には厳しいと言われている副神殿長ですか? 女には持てるくせに、浮いた話のひとつも無い生真面目な方ですよ? それが貴女と?」
「あら? そんな風に言われてるんです? とっても優しい方なのに。私と彼は長い付き合いなので、きっと他の女性を振っているのね。知らなかったわ。私の為に誠意を貫いて下さってるなんて。益々好きになりそう!」
そう言うと、ハノーバー伯爵は墓穴を掘った様にうな垂れていた。
ごめんなさい。ほんとすいません。
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