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38 誰かに監視されている【残酷描写あり】

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 僕は考えながら歩いていた。
犯人の特徴は、魔法も使えることから平民では無い。貴族だ。
そして、ハノーバー伯爵様が背中を向けていた所を見ると、顔見知り。
そして、あとひとつ、ナイフを刺す時に見えた映像は左利きだった。





 平民街の下級地にあるダイアンさんの家の前についた。
ドアをノックするけど、また返事が無い。前回叫んだら出てきてくれたので、また叫んでみた。

「ダイアンさん! いるなら出て下さい! ちょっとお聞きしたい事があるんですけど!」

 僕が何度も叫んでいたせいか、隣の家の人が出て来た。ぷくぷくとした体の優しげな老婆だった。

「どうしたの? お嬢さん」
「えっと、ダイアンさん知り合いのミレリアと申します。ちょっとお話があって、来たんですが、いらっしゃらないんでしょうか?」
「あら? そういえばいつもなら何かしら生活音が聞こえるのに、今日は聞こえてないわね?」
「えっ……」

 僕は厭な予感がして、ドアノブを握った。普通に開いた。
隣のおばあさんが言った。

「鍵を掛けないなんて変ね……」
「厭な予感がします。おばあさん、一緒に私と中に入ってくれますか?」
「ええ、いいわよ。私もダイアンが気になるわ」

 僕とおばあさんは家の中に入った。壊れた木の隙間から暗い室内に光が入る。埃だらけのその家の中で光の中、埃がきらきらと舞っている。
血の匂いがした。

「何!? この匂い……」

 僕は奥へ進んだ。居間の床でダイアンさんはうつ伏せで顔を横に向けて、目を開いたまま横たわっていた。

「ダイアン……!?」

 おばあさんがダイアンさんを見て驚いている。
僕は深呼吸してからダイアンさんの首に手を当てた。何の反応も無かった。

「死んでます」

 その姿は背中を刃物で刺されたんだろう、服が切れ、背中の肉に後が残っていた。
大量に床に広がった血液。よく見ると喉も切られていた。
なるほど、喉を切られていては回復魔法の『ヒール』を唱える事が出来ない。
それも考えて喉を切ったのか。僕は手のひらでダイアンさんの両目をそっと閉じた。
首からの出血も多いが、背中から心臓に向かって一突きされているこの傷からも出血の量は酷く、ダイアンさんの衣服は血で真っ赤に染まっていた。

ダイアンさんに触るとまだ少し温かかった。

「おばあさん、番所に行って衛兵を呼んできて貰えます? 私は痕跡調査をします。ダイアンさんを誰が殺したのか……知りたいんです」
「犯人の手掛かりになるの? その痕跡調査ってのは?」
「なります。私は必ず犯人を捕まえる」
「わかった。ダイアンは金にだらしのない子だったけど、私の事を年寄りだからか気遣ってくれてね、……いい子だったのよ? 必ず犯人を捕まえてちょうだい」
「はい!」

 おばあさんは城の番所に行った。
ここから歩いて結構な距離だけど、大丈夫かな?
結構足腰はしっかりしてそうだったし、大丈夫か。

 僕は考えた。
ハノーバー伯爵家で使った、『過去見のマジックスクロール』はあれ1枚しか持ってなかった。あれ1枚で7万ギルもする。在庫も魔道具屋に1枚しか無かった。

「う~ん。取り敢えず魔力感知の痕跡調査をするしかないかぁ」

 持っていた鞄から杖を出し、魔方陣を書いてトンと叩いた。ぺたりと床に張り付く魔方陣をダンッ! と足で踏んだ。
するとぽわっと火属性の魔方陣が現れた。使われていた魔法はハノーバー伯爵家で使われた『STRアップ』の魔法だった。

「……目撃者を消したってことか」

 他に周りをうろうろとして、何か手掛かりが無いかと探す。
テーブルの上にティーカップが二つあった。片方には口紅が付いている。
こちらがダイアンさんが使っていたカップだ。
じゃあもうひとつは犯人が使った物か。飲みかけのそのカップに触るとまだ温かかった。僕は半分程残っていた飲みかけのお茶を近くの鉢植えに捨てて、そのカップをハンカチで包み鞄の中に入れた。番所の人には申し訳ないけど、あんたたちの捜査はあてにならない。父上の事件でそれは身に染みてる。だから証拠を一つ貰うよ。


 しかし、ふと思った。
前回僕が来た時、ダイアンさんは化粧っけがまったく無かった。なのに、今回は薄めではあるが白粉おしろいを塗っているし、口紅も引いている。
背中を一突きしているのも背中を見せられる程、仲のよい知り合い。
もしかして……ダイアンさんの男?

 色々調べ終わって、僕は自宅へ帰った。
おばあさんには申し訳ないけど、僕がいたら身元がばれて疑われる可能性もある。
なので、隅々まで調べたあとは早々に退出した。

 ダイアンさんの家を出た時に、気のせいか視線を感じた。
いや、気のせいじゃないだろう。ハノーバー伯爵家でダイアンさんの事を聞いたら彼女が殺されたんだ。僕は誰かに監視されている。

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