38 / 94
38 誰かに監視されている【残酷描写あり】
しおりを挟む
僕は考えながら歩いていた。
犯人の特徴は、魔法も使えることから平民では無い。貴族だ。
そして、ハノーバー伯爵様が背中を向けていた所を見ると、顔見知り。
そして、あとひとつ、ナイフを刺す時に見えた映像は左利きだった。
平民街の下級地にあるダイアンさんの家の前についた。
ドアをノックするけど、また返事が無い。前回叫んだら出てきてくれたので、また叫んでみた。
「ダイアンさん! いるなら出て下さい! ちょっとお聞きしたい事があるんですけど!」
僕が何度も叫んでいたせいか、隣の家の人が出て来た。ぷくぷくとした体の優しげな老婆だった。
「どうしたの? お嬢さん」
「えっと、ダイアンさん知り合いのミレリアと申します。ちょっとお話があって、来たんですが、いらっしゃらないんでしょうか?」
「あら? そういえばいつもなら何かしら生活音が聞こえるのに、今日は聞こえてないわね?」
「えっ……」
僕は厭な予感がして、ドアノブを握った。普通に開いた。
隣のおばあさんが言った。
「鍵を掛けないなんて変ね……」
「厭な予感がします。おばあさん、一緒に私と中に入ってくれますか?」
「ええ、いいわよ。私もダイアンが気になるわ」
僕とおばあさんは家の中に入った。壊れた木の隙間から暗い室内に光が入る。埃だらけのその家の中で光の中、埃がきらきらと舞っている。
血の匂いがした。
「何!? この匂い……」
僕は奥へ進んだ。居間の床でダイアンさんはうつ伏せで顔を横に向けて、目を開いたまま横たわっていた。
「ダイアン……!?」
おばあさんがダイアンさんを見て驚いている。
僕は深呼吸してからダイアンさんの首に手を当てた。何の反応も無かった。
「死んでます」
その姿は背中を刃物で刺されたんだろう、服が切れ、背中の肉に後が残っていた。
大量に床に広がった血液。よく見ると喉も切られていた。
なるほど、喉を切られていては回復魔法の『ヒール』を唱える事が出来ない。
それも考えて喉を切ったのか。僕は手のひらでダイアンさんの両目をそっと閉じた。
首からの出血も多いが、背中から心臓に向かって一突きされているこの傷からも出血の量は酷く、ダイアンさんの衣服は血で真っ赤に染まっていた。
ダイアンさんに触るとまだ少し温かかった。
「おばあさん、番所に行って衛兵を呼んできて貰えます? 私は痕跡調査をします。ダイアンさんを誰が殺したのか……知りたいんです」
「犯人の手掛かりになるの? その痕跡調査ってのは?」
「なります。私は必ず犯人を捕まえる」
「わかった。ダイアンは金にだらしのない子だったけど、私の事を年寄りだからか気遣ってくれてね、……いい子だったのよ? 必ず犯人を捕まえてちょうだい」
「はい!」
おばあさんは城の番所に行った。
ここから歩いて結構な距離だけど、大丈夫かな?
結構足腰はしっかりしてそうだったし、大丈夫か。
僕は考えた。
ハノーバー伯爵家で使った、『過去見のマジックスクロール』はあれ1枚しか持ってなかった。あれ1枚で7万ギルもする。在庫も魔道具屋に1枚しか無かった。
「う~ん。取り敢えず魔力感知の痕跡調査をするしかないかぁ」
持っていた鞄から杖を出し、魔方陣を書いてトンと叩いた。ぺたりと床に張り付く魔方陣をダンッ! と足で踏んだ。
するとぽわっと火属性の魔方陣が現れた。使われていた魔法はハノーバー伯爵家で使われた『STRアップ』の魔法だった。
「……目撃者を消したってことか」
他に周りをうろうろとして、何か手掛かりが無いかと探す。
テーブルの上にティーカップが二つあった。片方には口紅が付いている。
こちらがダイアンさんが使っていたカップだ。
じゃあもうひとつは犯人が使った物か。飲みかけのそのカップに触るとまだ温かかった。僕は半分程残っていた飲みかけのお茶を近くの鉢植えに捨てて、そのカップをハンカチで包み鞄の中に入れた。番所の人には申し訳ないけど、あんたたちの捜査はあてにならない。父上の事件でそれは身に染みてる。だから証拠を一つ貰うよ。
しかし、ふと思った。
前回僕が来た時、ダイアンさんは化粧っけがまったく無かった。なのに、今回は薄めではあるが白粉を塗っているし、口紅も引いている。
背中を一突きしているのも背中を見せられる程、仲のよい知り合い。
もしかして……ダイアンさんの男?
色々調べ終わって、僕は自宅へ帰った。
おばあさんには申し訳ないけど、僕がいたら身元がばれて疑われる可能性もある。
なので、隅々まで調べたあとは早々に退出した。
ダイアンさんの家を出た時に、気のせいか視線を感じた。
いや、気のせいじゃないだろう。ハノーバー伯爵家でダイアンさんの事を聞いたら彼女が殺されたんだ。僕は誰かに監視されている。
犯人の特徴は、魔法も使えることから平民では無い。貴族だ。
そして、ハノーバー伯爵様が背中を向けていた所を見ると、顔見知り。
そして、あとひとつ、ナイフを刺す時に見えた映像は左利きだった。
平民街の下級地にあるダイアンさんの家の前についた。
ドアをノックするけど、また返事が無い。前回叫んだら出てきてくれたので、また叫んでみた。
「ダイアンさん! いるなら出て下さい! ちょっとお聞きしたい事があるんですけど!」
僕が何度も叫んでいたせいか、隣の家の人が出て来た。ぷくぷくとした体の優しげな老婆だった。
「どうしたの? お嬢さん」
「えっと、ダイアンさん知り合いのミレリアと申します。ちょっとお話があって、来たんですが、いらっしゃらないんでしょうか?」
「あら? そういえばいつもなら何かしら生活音が聞こえるのに、今日は聞こえてないわね?」
「えっ……」
僕は厭な予感がして、ドアノブを握った。普通に開いた。
隣のおばあさんが言った。
「鍵を掛けないなんて変ね……」
「厭な予感がします。おばあさん、一緒に私と中に入ってくれますか?」
「ええ、いいわよ。私もダイアンが気になるわ」
僕とおばあさんは家の中に入った。壊れた木の隙間から暗い室内に光が入る。埃だらけのその家の中で光の中、埃がきらきらと舞っている。
血の匂いがした。
「何!? この匂い……」
僕は奥へ進んだ。居間の床でダイアンさんはうつ伏せで顔を横に向けて、目を開いたまま横たわっていた。
「ダイアン……!?」
おばあさんがダイアンさんを見て驚いている。
僕は深呼吸してからダイアンさんの首に手を当てた。何の反応も無かった。
「死んでます」
その姿は背中を刃物で刺されたんだろう、服が切れ、背中の肉に後が残っていた。
大量に床に広がった血液。よく見ると喉も切られていた。
なるほど、喉を切られていては回復魔法の『ヒール』を唱える事が出来ない。
それも考えて喉を切ったのか。僕は手のひらでダイアンさんの両目をそっと閉じた。
首からの出血も多いが、背中から心臓に向かって一突きされているこの傷からも出血の量は酷く、ダイアンさんの衣服は血で真っ赤に染まっていた。
ダイアンさんに触るとまだ少し温かかった。
「おばあさん、番所に行って衛兵を呼んできて貰えます? 私は痕跡調査をします。ダイアンさんを誰が殺したのか……知りたいんです」
「犯人の手掛かりになるの? その痕跡調査ってのは?」
「なります。私は必ず犯人を捕まえる」
「わかった。ダイアンは金にだらしのない子だったけど、私の事を年寄りだからか気遣ってくれてね、……いい子だったのよ? 必ず犯人を捕まえてちょうだい」
「はい!」
おばあさんは城の番所に行った。
ここから歩いて結構な距離だけど、大丈夫かな?
結構足腰はしっかりしてそうだったし、大丈夫か。
僕は考えた。
ハノーバー伯爵家で使った、『過去見のマジックスクロール』はあれ1枚しか持ってなかった。あれ1枚で7万ギルもする。在庫も魔道具屋に1枚しか無かった。
「う~ん。取り敢えず魔力感知の痕跡調査をするしかないかぁ」
持っていた鞄から杖を出し、魔方陣を書いてトンと叩いた。ぺたりと床に張り付く魔方陣をダンッ! と足で踏んだ。
するとぽわっと火属性の魔方陣が現れた。使われていた魔法はハノーバー伯爵家で使われた『STRアップ』の魔法だった。
「……目撃者を消したってことか」
他に周りをうろうろとして、何か手掛かりが無いかと探す。
テーブルの上にティーカップが二つあった。片方には口紅が付いている。
こちらがダイアンさんが使っていたカップだ。
じゃあもうひとつは犯人が使った物か。飲みかけのそのカップに触るとまだ温かかった。僕は半分程残っていた飲みかけのお茶を近くの鉢植えに捨てて、そのカップをハンカチで包み鞄の中に入れた。番所の人には申し訳ないけど、あんたたちの捜査はあてにならない。父上の事件でそれは身に染みてる。だから証拠を一つ貰うよ。
しかし、ふと思った。
前回僕が来た時、ダイアンさんは化粧っけがまったく無かった。なのに、今回は薄めではあるが白粉を塗っているし、口紅も引いている。
背中を一突きしているのも背中を見せられる程、仲のよい知り合い。
もしかして……ダイアンさんの男?
色々調べ終わって、僕は自宅へ帰った。
おばあさんには申し訳ないけど、僕がいたら身元がばれて疑われる可能性もある。
なので、隅々まで調べたあとは早々に退出した。
ダイアンさんの家を出た時に、気のせいか視線を感じた。
いや、気のせいじゃないだろう。ハノーバー伯爵家でダイアンさんの事を聞いたら彼女が殺されたんだ。僕は誰かに監視されている。
0
お気に入りに追加
308
あなたにおすすめの小説
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
腐男子ですが、お気に入りのBL小説に転移してしまいました
くるむ
BL
芹沢真紀(せりざわまさき)は、大の読書好き(ただし読むのはBLのみ)。
特にお気に入りなのは、『男なのに彼氏が出来ました』だ。
毎日毎日それを舐めるように読み、そして必ず寝る前には自分もその小説の中に入り込み妄想を繰り広げるのが日課だった。
そんなある日、朝目覚めたら世界は一変していて……。
無自覚な腐男子が、小説内一番のイケてる男子に溺愛されるお話し♡
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜
7ズ
BL
異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。
攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。
そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。
しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。
彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。
どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。
ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。
異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。
果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──?
ーーーーーーーーーーーー
狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる