上 下
30 / 94

30 弟に押し倒された

しおりを挟む

 終春節が終わって、僕は自宅に戻った。
夜遅くだと言うのにまだセドリックは起きていた。

「お帰り、兄さん」
「ただいま」
「兄さんちょっとこっち来て」

 僕の腕を引っ張ってセドリックが頭の匂いを嗅ぐ。

「また石鹸の匂いだ……」

 僕の首筋を見て鬼の形相になった。

「何これ!? なんでこんなとこにっ!?」
「え?」
「兄さんの体、全部調べるから!」
「えっ? えっ?」

 セドリックは僕の腕を掴んで風呂場に行った。湯沸かし器のスイッチを入れて蛇口の水を流した。その間ずっと僕の腕をぎゅっと握っている。

「痛いよっ、セドリック! どうしたの? 何なのさ?」
「兄さん気付いてないの?」
「何が?」

 溜息をひとつして、セドリックは僕の体を押し倒した。背中に手を当ててくれていたから痛くはないけど、押し倒したあと僕の服を、シャツのボタンを外して脱がしだした。あっ、体に侯爵様に吸われた跡が残ってるかも知れない!

 慌てて胸元を両手で押さえた。それをむっとした顔で見るセドリック。
足の上に乗っかってて、足は動かせない。無理やり腕を剥がされて、両手を片手で押さえられた。力の差が有りすぎる!

「止めろって!」

 片手で器用にシャツのボタンを外して胸をはだけられた。じっと僕の体を確認するセドリック。

「脇の下の方にもあった。何の事だか分かるよね? 兄さん」
「な、何を言ってるんだ?」

 ばれた。吸い跡が弟に見つかった!

「他にも無いか調べるから、大人しくしててね、兄さん」

 くるっと僕の体の上で後ろを向いて、ズボンを脱がせ始めたセドリック。
僕は自由になった両手でセドリックの背中を叩いた。

「ちょ、止めろって!」

 セドリックは後ろを振り向いて僕の顔を見た。

「いつも裸で一緒にお風呂に入ってるでしょ? 見られるのが今更恥ずかしい?」
「そうじゃなくて……」
「そうじゃなくて何?」
「……見られたくない」
「何を?」
「……」
「言えないなら俺の好きにする。もう兄さんの言うことは聞かない」

 僕の言葉を無視してセドリックは僕のズボンを脱がした。下着も。
見れば分かるだろう、足の付け根の赤い吸い跡も。
セドリックは凄く不機嫌な顔で僕を睨み、僕の体を引っくり返してうつ伏せにした。
そして、足を大きく開かせて、僕の尻の穴まで確認した。

「……赤くて……ぐじゅぐじゅになってる。……ここで兄さんは男を受け入れたんだね……?」

 言葉に怒りが込み上げている。

「その人のこと好きなの……?」
「ちがっ、違うんだよ、セドリック!」
「何がどう違うんだよ! 俺の大好きな兄さんが……他の男に犯されてたなんて! 俺だって信じたくないよ!」
「ちがう……、ちがうんだ……」
「まだしらばっくれてるの!? こんなだったら、もっと早くに俺の物にしておくんだった!」

 僕は仰向けに押し倒されたまま、セドリックにキスされた。いつもの子供の遊びのキスじゃない。舌が入りこんで来てぬるぬる僕を絡め取るような、怒りと情熱の込もったキスだった。

「んんっ、待って! これ、契約違反になっちゃうから! 待って!」
「契約違反……?」
「……セドリック、お前のことだから、酷くショックを受けると思って言ってなかったけど……今から本当のことを言うから、気を確かにね?」
「……本当のこと?」
「僕は今、愛人契約をしてる。フォルカー=フィンク侯爵様と。それでうちにはお金があるんだよ……。授業料も生活費も……僕の身体を売って稼いだんだ。汚らわしい事だと蔑んでも構わない。僕はお金が欲しかったんだ……」
「……まさか、……本当に?」

 信じられないような顔で僕を見つめるセドリックに、僕は頷いた。

「そんな……生活の為に身体を売った? ……兄さんが?」
「荘園と屋敷を売っても、母上の療養費や治療費にお金が掛かって、あったお金はすぐに底を尽きたんだ。去年の4月には授業料も払えなくって、学校を辞める選択も先生に勧められた」
「そんな愛人契約なんて辞めてよ! 俺は兄さんが誰かに抱かれるなんて、耐えられないよ! 大体なんで僕に相談してくれなかったの!? 相談してくれたら反対したのに!」
「あの時は……明日食べるのもやっとだったんだよ! お前に何が分かるんだよ! 図体だけでかくなって! 僕に甘えるばっかりじゃないか! 相談!? 僕だって誰かに相談したかった! 誰かに助けて欲しかった! ……僕はもう……そんな生活に限界ぎりぎりだったんだよ!」

 僕はつい、自分の胸のうちの苦しさをセドリックに叫んでいた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者よ、わしの尻より魔王を倒せ………「魔王なんかより陛下の尻だ!」

ミクリ21
BL
変態勇者に陛下は困ります。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

腐男子ですが、お気に入りのBL小説に転移してしまいました

くるむ
BL
芹沢真紀(せりざわまさき)は、大の読書好き(ただし読むのはBLのみ)。 特にお気に入りなのは、『男なのに彼氏が出来ました』だ。 毎日毎日それを舐めるように読み、そして必ず寝る前には自分もその小説の中に入り込み妄想を繰り広げるのが日課だった。 そんなある日、朝目覚めたら世界は一変していて……。 無自覚な腐男子が、小説内一番のイケてる男子に溺愛されるお話し♡

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)

かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。 はい? 自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが? しかも、男なんですが? BL初挑戦! ヌルイです。 王子目線追加しました。 沢山の方に読んでいただき、感謝します!! 6月3日、BL部門日間1位になりました。 ありがとうございます!!!

処理中です...