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6 正餐会
しおりを挟む家令のセルジオさんに食堂に案内され、指定された席に座った。
侯爵様はまだ来ていない。
長いテーブルの端に僕が座り、叔父は僕の斜め左に座った。
僕と向かい合うテーブルの端にフィンク侯爵様が座るんだろう。
僕と叔父が席に座るとセルジオさんは食前酒のシャンパンを注いだ。
「僕はまだ酒は……」
「子供でも飲める物です」
シャンパンを僕と叔父に注ぐと、セルジオさんは食堂から出て行った。
そして戻って来た時にはフィンク侯爵様を連れていた。
僕はその人を見て驚いた。
たかだか12歳の少年を愛人にしたいという男だ、どうせ太って脂ぎった中年の変態男だと思っていた。
所が侯爵様は見た感じ、年齢は20代後半位にしか見えなく、薄い水色の髪を後ろで一纏めに括り、目元は涼やかで切れ長な眼をしていて、深紅の瞳がこちらを見つめてくる。鼻筋もスッと通っていて高い、唇は健康的なピンク色で、薄いが良い形をしていた。肌の色も健康的な赤味を帯びた乳白色の肌をしている。
想像していたより、見目が美しかった。
身長も高く、ほっそりはしているが、多分筋肉質な体型なんじゃないかと容易に想像出来た。どう考えても女にモテるだろうに、何故男なんか? と凄く疑問だった。
フィンク侯爵様は席に着くと挨拶をした。
「初めまして、私はフォルカー=フィンクだ。今夜は私の正餐会に来てくれてありがとう、ルイス。ルイスを連れてきてくれたベルンにも感謝する」
「いえいえ侯爵様、所で私への謝礼は……」
「金は帰る時にセルジオに貰うと良い、セルジオよろしく頼む」
「はい、旦那様」
セルジオさんが厨房に続くドアを開けると、そこから側仕えが数人料理を運んで来て、僕達の目の前に置いてすぐ去った。その動きはテキパキとしていて機械のようだった。
「ベルン、どこまでルイスに話を通した?」
「えっ、愛人契約をしたいと言いましたが?」
「金額までは言っていないんだな?」
「はぁ、いくらか聞いてませんし」
具体的な金の話をされると緊張した。気を紛らわせる為に食事に没頭することにした。メインディッシュの肉は多分鶏肉なんだろうけど、味が普通の鶏肉より濃厚に感じて美味しかった。上から掛かっていたソースの味付けのせいか?
久しぶりにこんな贅沢な物を食べてしまって、弟の事を思い出した。
セドリックにも食べさせてあげたい。
僕一人でこんな美味しい物を食べるなんて……。
「聞いてるか? ルイス」
「えっ、あっ、すいません」
「契約金の話だ、ちゃんと聞くように。年間の手当ては1000万ギル、月々の手当は50万ギルで考えてる、それでどうだ? 契約期間は君が貴族学校を卒業する15歳までだ。それ以降はその時に延長するかどうか決める」
月々の生活費が50万ギル? それだけでも年間で600万ギルになる。その他に年間の手当てで1000万ギル……それで授業料が払えてしまう。
「……年間の……お手当てはすぐに頂けるんでしょうか?」
フィンク侯爵は手応えを感じて僕に微笑んだ。
「契約すればすぐに出そう、じゃないと君は退学になってしまうからな」
「……」
「もう、心は決まったんだろ? ルイス、契約をするんだ」
叔父さんが僕を説き伏せようとする。その顔は下卑た笑いを浮かべていて、ただ見られるだけで鳥肌が立った。
「……僕はまだ決めてないっ!」
「何だと!? 何だその口の利き方は! 私がお前を心配して言ってやっているのに!」
「……まぁ、ベルン、そう返事を急がすな。彼はまだ12歳だ、心の準備なんて出来なくて当然だ」
僕は喉が渇いてシャンパンを飲んだ。そして、急に眠気が差して……目の前が真っ暗になって行った。
「……眠くて堪らない……」
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