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4 男娼? 冗談じゃない
しおりを挟む散々泣いて瞼が腫れた。でもヒールする気にもなれずそのままだった。
学校の帰りに市場で食材を買った。あの拾った白銀貨1枚で。
お金はすぐに無くなった。
家に帰ると弟のセドリックがもう家にいた。
夕食を作る手伝いをしてくれる。弟は優しい。まだ親に甘えたい年頃だろうに、色々我慢をしてくれている。
夕食が終わると二人で風呂に入った。
風呂と言っても洗い場に排水溝があるだけだ。
なので大きな盥を一つ置いてそこに水を貯めて入るようにしている。
盥なので水は腰辺りまでしか来ない。一人の時はその盥の中で体を洗うようにしているが、二人の時は盥の外の洗い場で普通に体を洗う。盥の中の水が汚れてしまうからだ。先に二人で体を洗い、背中だけお互い洗い合いをする。
洗ったあと水桶で体の泡を流して、盥に入れてある水を火属性魔法の『ファイア』で軽く水の表面を燃やして温めた。盥は金物なので燃え尽きない。
そしてちょっとぬるくなった湯の中に二人で入る。
大人一人用の盥なので二人で入るとちょっときつい。
二人で入る時は、僕の体より少し大きな弟の股の間に僕が入り込み、後ろから抱きかかえられるような格好でいつも盥に入っていた。
「もう二人で盥に入るのもきついね」
「僕が大きくなっちゃったからだ」
「セドリックはまだまだ大きくなりそうだよね」
二人の背丈は僕が少しセドリックに抜かされた位だ。その差は4センチ位か? セドリックの方が少し高い。
二人でぬるい風呂に入ったあと、寝巻きに着替えてまったりしていると玄関チャイムが鳴った。時刻を見ると夜の10の刻だった。
「こんな遅くに誰だろう?」
玄関のドアを開けるとそこにいたのは叔父のベルン=オレット男爵だった。
「やぁ、ルイス、お前は今夜も美しいな」
「何か様ですか?」
「少し二人で話がしたい。大事なことだ」
このベルン男爵は父上の唯一の兄弟で弟だが、あまり良い人間では無かった。
ギャンブルが好きで、常にどこかから金を借りてまでして遊んでいる。以前借金を払うことが出来ず、父上が肩代わりしてあげてたのを僕はよく覚えている。
うちも裕福では無いのに、父上は弟の為だからと借金を肩代わりしたが、叔父は反省などしておらず、一時期はギャンブルを止めていたようだが、またちょこちょこやっているようだった。
二人で話をしたいと言われたので、セドリックにはもう眠るように言って、叔父とは居間で話をした。
叔父は僕が長椅子に座ると、興奮したように話した。
「さるお方がお前の事を見かけて気に入ってね、愛人契約をしたいと言っている」
「……どちらの御婦人でしょうか?」
「それが、言いにくいんだか、女性ではないんだ。男性だ」
「男っ!? この僕に男娼をやれと言う気ですか? 冗談じゃない!!」
「まぁ、そう怒るな。金に困ってるのは事実だろう? 侯爵様は金ならたっぷり出すと仰っている。会ってみるだけでもどうだ?」
「厭です」
「本当にルイス、お前は美しい。まるで少女の様だ。この美しさを金に換える事が出来るのは若い時だけだぞ? 大体金も無くて授業料も払えないんじゃないのか?」
「どうしてそれを……」
「侯爵様がお前の事を気にして調べたんだ。あの方なら大事にして貰える、契約しなさい。弟にもっと良い物を食べさせないと、育ち盛りなんだから。なぁ?」
叔父は僕の肩に手を置いた。僕はそれを振り払った。
学校でもそうだった。アルトマイヤー先生が僕にキス以上の事をすれば金を払うと言った。そんなに僕は男の性の対象になりやすいのか?
確かに自分は男らしく見えない線の細い体つきをしている。
承和色の髪は波打って肩まで伸びているし、瞳は紺碧色に輝いて睫が長い。
叔父の肩越しに窓に映った自分を見た。
どう見ても儚げな少女にしか見えない。
まだ12歳で、骨格が育ってないからだと思っていたけど、男らしくない自分の見た目にコンプレックスを感じてしまった。
でも、いくら貧乏だからと言って金の為に男に体を売る?
……有り得ない。僕はこんな成りでも一応男だ。
男に組み敷かれるなんて、考えただけで寒気がする。
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