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第三話 おっさん勇者、盗賊退治と遺跡漁りで路銀稼ぐ
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その日はエイラスがパンツ一丁になるよう命じたピリルを抱き枕にして寝ることにした。
最初はピリルが嫌がったが、主人の精神の安定を主張されると断り切れず、徹底的にエイラスの体をクリーンの魔法で綺麗にして、寝間着もきれいにしたものだけを着るように言うことは忘れなかった。
その夜からはもう、暗黒神も光明神もちょっかいをかけてくることはなかった。
問題はピリルである。いきなり抱きしめられてベッドの上で寝ることになったので、なかなか眠れなかった。
しかもこの主人、収納袋から食べ物を出して食べるように言うのはいいのだが…。
従者を名乗るピリルとしては常に冷めた料理を食べるというのは、主人のエイラスにとって申し訳ない感じで一杯だった。
というより使用人としてのプライドが許せなかったのだが、ここには調理器具などないし、魔法で火を起こしても煙が立ち上るのを見て、盗賊などがやってくることは間違いない。
せめてまともな調理器具とかコンロとかあればいいのだが、エイラスは面倒くさがって出そうとしないのだ。
もっともエイラスの事情を考えると、村や街を避けて移動しているのでこんな所で料理しようものなら、匂いなどでまず間違いなく周囲の猛獣や魔獣を引き寄せてしまう。
だから固いパンなどを食べるのは味気ないが、抗議するわけにもいかない。
依然として納得いかないまま、主従は時には猛獣を倒したり、盗賊達を倒しながら東にある村に行くことにした。
いくらエイラスが強くてもピリルは丸腰だ。何か武器や防具を買った方がいいということで南下するのは止めにして東にある村に行くことにしたのだ。
「しかし御主人。辺境にある村にいい武器とか防具って売っているんスかね? あったとしても短剣とか包丁くらいしか売っていないと思うんスけど…。それにあっしは魔法が使えるから装備品に拘らなくてもいいと思うんスけどね…」
「いやいや。盗賊を甘く見てはいけないぞ? あいつら数だけは多いからな。しかも外に出てくる時は珍しくてだな。大抵の場合は自分達の棲家にいて、罠とかこさえているから魔法が使えるからって油断は禁物だぞ?」
「確かに…。魔力が尽きたら頼りになるのは武器や防具っスからね。あっしもまだ戦闘とかは本格的なものはしていないっスし、長期戦になったらヤバイっスからなるべく質のいい武器や防具があれば手に入れておきたい所っス」
実際は魔力回復ポーションさえあれば、そんな装備品などいらないのだが…。それでもエイラスが装備しておいた方がいいと彼のカンが告げているとのことなので、ピリルは大人しく影の中で主人の意向に従うことにした。
本当は収納袋にいくつか装備品を入れてあり、そのほとんどはダンジョンの宝箱か、エイラスが倒した魔物や盗賊の装備品だったのだが、ピリルは小柄なのでどれもサイズが合わなかったのだ。
そこでピリルは旅装束の一つであるローブに付属しているフードを頭から被ることにした。もともと毛深いネズミの獣人のピリルだが、それでも強い風が吹くと寒くなる。
幸いなことに人気は全くないので、こうしてエイラスの影の中から出てきて共にゴーレムの馬に乗っている状態なので、風が吹くと結構こたえるものがある。
「しかし御主人。何だか南国に近いってのに、最近では冷え込んできたっスね。やっぱり南国でも冬の季節だと寒くなるんスか?」
「もちろん冬の時期でも南国といえど寒くなる時はあるが…。一番暑さや寒さを決めるのは精霊の力だな。氷の精霊が南国の山の洞窟にでも住んだりしたら、その山の半径10キロメートルは南国の夏の時期でも寒くなる。さすがに氷の精霊一体程度では雪までは降らないだろうけどな」
「なんか邪教徒辺りがその辺を利用していそうっスね。もしくは人間を嫌っている魔族かドラゴンとか。ま、御主人なら魔族であれ竜族であれ、敵じゃないっスから大丈夫っスね」
ここでピリルが言っているのは、エイラスが魔族であろうと竜族であろうとも、彼が「聖母竜の戦士」である以上は、聖属性の鎧と剣をもっているので、魔に属する魔族には有利に戦えるということだ。
さすがにドラゴンの使う魔法やブレスを無効化できても、魔族の魔法までは無効化できないのだが、神剣をもっているエイラスの敵ではない。よほどの軍勢でも相手にしない限りはエイラスが敗れることはないだろうとピリルは影の中で考えていた。
もちろんドラゴン・ブレイカーであるエイラスは素手でドラゴンを倒せるので、相手がレッサードラゴンの集団でない限りは普段の革鎧で十分だろう。
そこで村を探すことになったのだが…、やはり世界は弱者には優しくないのを裏付けるかのように、エイラスが地図を見て辿り着いた所は廃村になっていた。
それからはその村に居ついた盗賊達を退治するのに忙しかった。何しろ旅の戦士にしか見えないエイラスを見つけ次第、攻撃魔法や弓矢で攻撃してくるのだから凶暴なことこの上ない。
「いいかピリル。ここはもう普通の村じゃない。完全に盗賊の支配下にあると思っていい。その証拠にこうして村の近くに来ただけで攻撃してくる」
ヒュン、という音と共にエイラスの装備している革鎧に矢が突き刺さる。
もっとも彼が装備している鎧は防護魔法を付与してあるので、肌に矢が刺さることはない。
そして今度は魔法で創られた矢が3本ほどエイラスの革鎧の肩当てや革鎧の胴部に突き刺さっていく。
「な? こういう凶暴な連中だから手加減は無用。あいつら犯罪者に恩情は必要ない。見つけ次第殺さないと俺達がやられるというわけだ」
そう言っている間にもエイラスの頭部に氷のつららが2本ほど突き刺さる。
「ご、御主人! あんたツララが刺さっているっス! すぐに治療をするっス!」
と、ピリルが手を主人の頭部にかざすと、白い光が頭部を中心に包み始めた。
その間にエイラスはお返しといわんばかりに、一気に30本ほどの魔法の矢を作っては屋根の上に向けて一斉に発射した。
もちろん狙いは付けていない。単なる脅しだが、それほどの数の魔法で創られた矢を放てる相手だとは思わなかったのだろう。
悲鳴や怒号と共に屋根から落ちる音が聞こえてきた。どうやらパニックに陥って屋根から何名か落ちたようだった。
こうしてその日は廃村に巣食う盗賊を主従共に力を合わせて10名ほど倒すことができた。
日が傾くと村の外に出て野営の準備をする。この村の中で今から盗賊を退治するには家の数が多すぎるし、地の利が盗賊達の方にあるだけ、夜中までかかって盗賊を退治するのはあまりにも危険だからということで外で朝まで過ごす拠点を探すなり、魔法で創るなりした方がいいということになり、主従は一旦村の外に出ることにした。
だが翌日からは村に入らない限りはエイラス達が近寄っても、攻撃してくることはなくなった。
そうなると村の中に入らないといけなくなるので、エイラスは攻撃魔法で家を一軒ずつ潰していく戦法に切り替えることにした。その間は彼は無防備になるので、ピリルが盾を出現させて盗賊達の放つ矢や魔法の矢などを防ぐことになり、この村での盗賊退治はピリルの魔力を増大させるのに都合がよかった。
村が広いので二週間ほどかかったが、最初は一時間もたないで気絶していたピリルも三日目で二時間もつようになって、二週間では3時間以上魔法を使うことができるようになってきた。
これは魔力回復力向上のスキルが上がったせいである。おかげで盾をいくつも生み出しては敵の魔法攻撃や矢を吸収して主のエイラスを守り、その隙にエイラスが攻撃魔法で村の家の屋根に陣取って矢を放ってきた盗賊達を退治していくことができた。
もっともエイラスの膂力ならそのまま屋根の上に飛び乗って、盗賊達を退治することはできたのだが…。
今回は従者のピリルの魔法関係のスキルを上げるのに必要だということで、彼も攻撃魔法のスキルを上げる為に遠距離攻撃に専念することにした。
今回、エイラス達にとって幸いだったのは人が通りかからない廃村だったことだ。
お陰で廃村の近くにある山の麓にある小屋を魔法で強化して、隠蔽の魔法も重ね掛けしておけば外に出ない限りはまずバレない。
洗濯物や鎧の汚れはエイラスもピリルも生活魔法が使えるので、大した問題ではない。
もちろん豪雨が一日中降っている事もあったが、そういう日は狩った猛獣から肉を取ったり、調理したりする他に武器や鎧の手入れとそれはそれで充実した一日になった。
特にエイラスは面倒な事は後回しにするタイプで、ドラゴン退治に使う竜の骨を加工した全身鎧や剣は特殊な魔法が付与されているので手入れの心配はいらないのだが、他の鎧や武器もダンジョン探索の為に潜った時に入手したらしく、鎧だけでも40を超えていた。
武器となると短剣、ナイフ、弓矢、片手剣、両手剣、斧、斧槍といったものが各種20個以上あった。
お陰でピリルはそれらの武具を鑑定魔法で識別して、呪い付きのものかどうかを調べなければいけなかった。
また収納袋もダンジョンや盗賊退治の戦利品を入れる袋、お金だけを入れる袋、宝石や貴金属を入れる袋、薬草や錬金術で使う道具の材料を入れる袋、魔獣、猛獣を退治して遺体を入れる袋などがそれぞれ一杯になってきたので、ピリルの指導のもと、エイラスも収納空間のスキルをこの二週間の間に獲得して、どうにか使いこなすことができるようになってきた。
だがここでまたピリルを悩ませる問題が起きた。収納袋は盗まれない限りは容量限界ギリギリまで、いろんなものを収納することができる。
それはいいのだが、エイラスが自分の魔力で作った収納空間の中に退治した盗賊達の装備品を全部、放り込んでしまったのだ。
そして他の収納袋も次々と放り込んでいく。ものすごく嫌な予感がしたピリルは、盗賊や魔物の戦闘ではなれ離れになってしまう事を考えて、いくらかお金とか自分ももっていたいと言うと、あっさりと金貨が100枚以上入っている袋をピリルにくれた。
次に薬草の入っている袋の一つもピリルはもらうことができた。
案の定、エイラスはズボラで収納袋を収納空間のスキルで開いた空間へと仕舞いこんでしまった。
収納空間の中は時間が止まるので中に入れている物が腐ったりすることはないので、エイラスの判断は正しいのだが…。
問題は収納空間の中にいろんな品物を片っ端から入れたことである。このまま盗賊や魔物退治をしていれば、その遺体や装備品、魔物の肉、角、鱗などの価値あるものを仕舞いこむだろう。
エイラスはかなり魔力が強くなっており、収納空間はほぼ無限の広さがある。実際に開かれた収納空間の中を見たピリルは、このまま売らないでいたら…どんどんいらないものやガラクタが増えていく一方なのではないかと思って早々に人のいる村や街に行くことをエイラスに提案した。
どうもエイラスは従者としてのピリルよりも、家族としてのピリルとして接しているようなので、ピリルもいい装備品があったら欲しいと上目遣いに言ったら、あっさりとエイラスはその提案に乗ってくれた。
こういう甘えた事を言ったりする事自体、従者失格なのではないかと思うのだが…今はこの鎧や盗賊達の装備品を売って、主の収納空間の中を整理したい。
でないと次々に放り込まれたもので一杯になり、いかに収納空間の中が無限の広さをもっていたとしても、ガラクタや宝石、武器、防具、薬草といろんなものでゴチャゴチャになってしまい、整理するのに何日かかるのかわからなくなる。
しかも主人のエイラスはいちいち収納したものを覚えていない。収納空間の中から出してみればいい、と考えているようだったので、ピリルは表向きはいろんなローブやマントが欲しいとおねだりをしたが、実際にはこの雑多な物の山をさっさと片付けたい、ということばかりを考えていたのである。
「ピリルもいつまでも同じ格好だと飽きるからなあ。大丈夫だ。お金なら沢山あるからな。ここから三日ほど歩いた所に別の村があるから、そこに行けばいろいろ買ってあげられるからな。それまでの辛抱だぞ?」
「そうっスね。あっしも楽しみっス」
と、エイラスの前に座らされたピリルはゴーレムとはいえ、馬に乗るのは初めてだったので最初はおっかなびっくりだったが、すぐに慣れた。
こうしておっさん勇者とネズミ従者は廃村に巣食う盗賊を退治して、別の村へとのんびりと移動するのだった。
最初はピリルが嫌がったが、主人の精神の安定を主張されると断り切れず、徹底的にエイラスの体をクリーンの魔法で綺麗にして、寝間着もきれいにしたものだけを着るように言うことは忘れなかった。
その夜からはもう、暗黒神も光明神もちょっかいをかけてくることはなかった。
問題はピリルである。いきなり抱きしめられてベッドの上で寝ることになったので、なかなか眠れなかった。
しかもこの主人、収納袋から食べ物を出して食べるように言うのはいいのだが…。
従者を名乗るピリルとしては常に冷めた料理を食べるというのは、主人のエイラスにとって申し訳ない感じで一杯だった。
というより使用人としてのプライドが許せなかったのだが、ここには調理器具などないし、魔法で火を起こしても煙が立ち上るのを見て、盗賊などがやってくることは間違いない。
せめてまともな調理器具とかコンロとかあればいいのだが、エイラスは面倒くさがって出そうとしないのだ。
もっともエイラスの事情を考えると、村や街を避けて移動しているのでこんな所で料理しようものなら、匂いなどでまず間違いなく周囲の猛獣や魔獣を引き寄せてしまう。
だから固いパンなどを食べるのは味気ないが、抗議するわけにもいかない。
依然として納得いかないまま、主従は時には猛獣を倒したり、盗賊達を倒しながら東にある村に行くことにした。
いくらエイラスが強くてもピリルは丸腰だ。何か武器や防具を買った方がいいということで南下するのは止めにして東にある村に行くことにしたのだ。
「しかし御主人。辺境にある村にいい武器とか防具って売っているんスかね? あったとしても短剣とか包丁くらいしか売っていないと思うんスけど…。それにあっしは魔法が使えるから装備品に拘らなくてもいいと思うんスけどね…」
「いやいや。盗賊を甘く見てはいけないぞ? あいつら数だけは多いからな。しかも外に出てくる時は珍しくてだな。大抵の場合は自分達の棲家にいて、罠とかこさえているから魔法が使えるからって油断は禁物だぞ?」
「確かに…。魔力が尽きたら頼りになるのは武器や防具っスからね。あっしもまだ戦闘とかは本格的なものはしていないっスし、長期戦になったらヤバイっスからなるべく質のいい武器や防具があれば手に入れておきたい所っス」
実際は魔力回復ポーションさえあれば、そんな装備品などいらないのだが…。それでもエイラスが装備しておいた方がいいと彼のカンが告げているとのことなので、ピリルは大人しく影の中で主人の意向に従うことにした。
本当は収納袋にいくつか装備品を入れてあり、そのほとんどはダンジョンの宝箱か、エイラスが倒した魔物や盗賊の装備品だったのだが、ピリルは小柄なのでどれもサイズが合わなかったのだ。
そこでピリルは旅装束の一つであるローブに付属しているフードを頭から被ることにした。もともと毛深いネズミの獣人のピリルだが、それでも強い風が吹くと寒くなる。
幸いなことに人気は全くないので、こうしてエイラスの影の中から出てきて共にゴーレムの馬に乗っている状態なので、風が吹くと結構こたえるものがある。
「しかし御主人。何だか南国に近いってのに、最近では冷え込んできたっスね。やっぱり南国でも冬の季節だと寒くなるんスか?」
「もちろん冬の時期でも南国といえど寒くなる時はあるが…。一番暑さや寒さを決めるのは精霊の力だな。氷の精霊が南国の山の洞窟にでも住んだりしたら、その山の半径10キロメートルは南国の夏の時期でも寒くなる。さすがに氷の精霊一体程度では雪までは降らないだろうけどな」
「なんか邪教徒辺りがその辺を利用していそうっスね。もしくは人間を嫌っている魔族かドラゴンとか。ま、御主人なら魔族であれ竜族であれ、敵じゃないっスから大丈夫っスね」
ここでピリルが言っているのは、エイラスが魔族であろうと竜族であろうとも、彼が「聖母竜の戦士」である以上は、聖属性の鎧と剣をもっているので、魔に属する魔族には有利に戦えるということだ。
さすがにドラゴンの使う魔法やブレスを無効化できても、魔族の魔法までは無効化できないのだが、神剣をもっているエイラスの敵ではない。よほどの軍勢でも相手にしない限りはエイラスが敗れることはないだろうとピリルは影の中で考えていた。
もちろんドラゴン・ブレイカーであるエイラスは素手でドラゴンを倒せるので、相手がレッサードラゴンの集団でない限りは普段の革鎧で十分だろう。
そこで村を探すことになったのだが…、やはり世界は弱者には優しくないのを裏付けるかのように、エイラスが地図を見て辿り着いた所は廃村になっていた。
それからはその村に居ついた盗賊達を退治するのに忙しかった。何しろ旅の戦士にしか見えないエイラスを見つけ次第、攻撃魔法や弓矢で攻撃してくるのだから凶暴なことこの上ない。
「いいかピリル。ここはもう普通の村じゃない。完全に盗賊の支配下にあると思っていい。その証拠にこうして村の近くに来ただけで攻撃してくる」
ヒュン、という音と共にエイラスの装備している革鎧に矢が突き刺さる。
もっとも彼が装備している鎧は防護魔法を付与してあるので、肌に矢が刺さることはない。
そして今度は魔法で創られた矢が3本ほどエイラスの革鎧の肩当てや革鎧の胴部に突き刺さっていく。
「な? こういう凶暴な連中だから手加減は無用。あいつら犯罪者に恩情は必要ない。見つけ次第殺さないと俺達がやられるというわけだ」
そう言っている間にもエイラスの頭部に氷のつららが2本ほど突き刺さる。
「ご、御主人! あんたツララが刺さっているっス! すぐに治療をするっス!」
と、ピリルが手を主人の頭部にかざすと、白い光が頭部を中心に包み始めた。
その間にエイラスはお返しといわんばかりに、一気に30本ほどの魔法の矢を作っては屋根の上に向けて一斉に発射した。
もちろん狙いは付けていない。単なる脅しだが、それほどの数の魔法で創られた矢を放てる相手だとは思わなかったのだろう。
悲鳴や怒号と共に屋根から落ちる音が聞こえてきた。どうやらパニックに陥って屋根から何名か落ちたようだった。
こうしてその日は廃村に巣食う盗賊を主従共に力を合わせて10名ほど倒すことができた。
日が傾くと村の外に出て野営の準備をする。この村の中で今から盗賊を退治するには家の数が多すぎるし、地の利が盗賊達の方にあるだけ、夜中までかかって盗賊を退治するのはあまりにも危険だからということで外で朝まで過ごす拠点を探すなり、魔法で創るなりした方がいいということになり、主従は一旦村の外に出ることにした。
だが翌日からは村に入らない限りはエイラス達が近寄っても、攻撃してくることはなくなった。
そうなると村の中に入らないといけなくなるので、エイラスは攻撃魔法で家を一軒ずつ潰していく戦法に切り替えることにした。その間は彼は無防備になるので、ピリルが盾を出現させて盗賊達の放つ矢や魔法の矢などを防ぐことになり、この村での盗賊退治はピリルの魔力を増大させるのに都合がよかった。
村が広いので二週間ほどかかったが、最初は一時間もたないで気絶していたピリルも三日目で二時間もつようになって、二週間では3時間以上魔法を使うことができるようになってきた。
これは魔力回復力向上のスキルが上がったせいである。おかげで盾をいくつも生み出しては敵の魔法攻撃や矢を吸収して主のエイラスを守り、その隙にエイラスが攻撃魔法で村の家の屋根に陣取って矢を放ってきた盗賊達を退治していくことができた。
もっともエイラスの膂力ならそのまま屋根の上に飛び乗って、盗賊達を退治することはできたのだが…。
今回は従者のピリルの魔法関係のスキルを上げるのに必要だということで、彼も攻撃魔法のスキルを上げる為に遠距離攻撃に専念することにした。
今回、エイラス達にとって幸いだったのは人が通りかからない廃村だったことだ。
お陰で廃村の近くにある山の麓にある小屋を魔法で強化して、隠蔽の魔法も重ね掛けしておけば外に出ない限りはまずバレない。
洗濯物や鎧の汚れはエイラスもピリルも生活魔法が使えるので、大した問題ではない。
もちろん豪雨が一日中降っている事もあったが、そういう日は狩った猛獣から肉を取ったり、調理したりする他に武器や鎧の手入れとそれはそれで充実した一日になった。
特にエイラスは面倒な事は後回しにするタイプで、ドラゴン退治に使う竜の骨を加工した全身鎧や剣は特殊な魔法が付与されているので手入れの心配はいらないのだが、他の鎧や武器もダンジョン探索の為に潜った時に入手したらしく、鎧だけでも40を超えていた。
武器となると短剣、ナイフ、弓矢、片手剣、両手剣、斧、斧槍といったものが各種20個以上あった。
お陰でピリルはそれらの武具を鑑定魔法で識別して、呪い付きのものかどうかを調べなければいけなかった。
また収納袋もダンジョンや盗賊退治の戦利品を入れる袋、お金だけを入れる袋、宝石や貴金属を入れる袋、薬草や錬金術で使う道具の材料を入れる袋、魔獣、猛獣を退治して遺体を入れる袋などがそれぞれ一杯になってきたので、ピリルの指導のもと、エイラスも収納空間のスキルをこの二週間の間に獲得して、どうにか使いこなすことができるようになってきた。
だがここでまたピリルを悩ませる問題が起きた。収納袋は盗まれない限りは容量限界ギリギリまで、いろんなものを収納することができる。
それはいいのだが、エイラスが自分の魔力で作った収納空間の中に退治した盗賊達の装備品を全部、放り込んでしまったのだ。
そして他の収納袋も次々と放り込んでいく。ものすごく嫌な予感がしたピリルは、盗賊や魔物の戦闘ではなれ離れになってしまう事を考えて、いくらかお金とか自分ももっていたいと言うと、あっさりと金貨が100枚以上入っている袋をピリルにくれた。
次に薬草の入っている袋の一つもピリルはもらうことができた。
案の定、エイラスはズボラで収納袋を収納空間のスキルで開いた空間へと仕舞いこんでしまった。
収納空間の中は時間が止まるので中に入れている物が腐ったりすることはないので、エイラスの判断は正しいのだが…。
問題は収納空間の中にいろんな品物を片っ端から入れたことである。このまま盗賊や魔物退治をしていれば、その遺体や装備品、魔物の肉、角、鱗などの価値あるものを仕舞いこむだろう。
エイラスはかなり魔力が強くなっており、収納空間はほぼ無限の広さがある。実際に開かれた収納空間の中を見たピリルは、このまま売らないでいたら…どんどんいらないものやガラクタが増えていく一方なのではないかと思って早々に人のいる村や街に行くことをエイラスに提案した。
どうもエイラスは従者としてのピリルよりも、家族としてのピリルとして接しているようなので、ピリルもいい装備品があったら欲しいと上目遣いに言ったら、あっさりとエイラスはその提案に乗ってくれた。
こういう甘えた事を言ったりする事自体、従者失格なのではないかと思うのだが…今はこの鎧や盗賊達の装備品を売って、主の収納空間の中を整理したい。
でないと次々に放り込まれたもので一杯になり、いかに収納空間の中が無限の広さをもっていたとしても、ガラクタや宝石、武器、防具、薬草といろんなものでゴチャゴチャになってしまい、整理するのに何日かかるのかわからなくなる。
しかも主人のエイラスはいちいち収納したものを覚えていない。収納空間の中から出してみればいい、と考えているようだったので、ピリルは表向きはいろんなローブやマントが欲しいとおねだりをしたが、実際にはこの雑多な物の山をさっさと片付けたい、ということばかりを考えていたのである。
「ピリルもいつまでも同じ格好だと飽きるからなあ。大丈夫だ。お金なら沢山あるからな。ここから三日ほど歩いた所に別の村があるから、そこに行けばいろいろ買ってあげられるからな。それまでの辛抱だぞ?」
「そうっスね。あっしも楽しみっス」
と、エイラスの前に座らされたピリルはゴーレムとはいえ、馬に乗るのは初めてだったので最初はおっかなびっくりだったが、すぐに慣れた。
こうしておっさん勇者とネズミ従者は廃村に巣食う盗賊を退治して、別の村へとのんびりと移動するのだった。
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