41 / 69
第四章
幼女との出会い
しおりを挟む
闇昏き森から西――海まで続く平原は、風の迷い道と呼ばれている。
遮蔽物がなにもなく、照りつける太陽光で日中は熱いくらいだが、西の海から吹き抜ける風のおかげで、年中温暖な気候となっている。
日照が程よく、風も適度な水分を含んでいるため、草花の育成には最適だが、地表に近い部分に固い岩盤の層があり、根を張る木々には向いていない。
おかげで、見渡す限りの草原が地平まで続いている。
あまりに見晴らしがよすぎて、捕食者・被食者共にお互いに発見されやすいというデメリットがあるため、その広大な面積の割には、動物はあまり住み着いていない。
それはそのまま旅人や行商人、野盗の関係にも当て嵌まり、大草原を横断する道すがら、他人と出会うことは滅多にないという。
延々と続く代わり映えしない景色と草原で、目印となるべきものもなく、誰とも出会うことがない。
東を目指して出発したはずが、平原を抜けるときは北だった、なんてよくある話だ。
吹く風すら行き先を見失う。付いた呼び名が、風の迷い道だ。
ここを通る者は、風の精霊に感謝の祈りを捧げないと、道に迷わされるという言い伝えまである。
そんな中、大平原を突き進む土煙ひとつ。
白い馬体に翡翠のたてがみ、額に雄々しき角を生やした一角獣馬、颯真の擬態した魔獣である。
感謝の祈りなど露もなく、一角獣馬は土を跳ね上げ、草花を蹴散らし、西へ向けてひたすら邁進する。
出発した当初は大フクロウだったのだが、熱さが弱点の中身スライムの身には、降り注ぐ直射日光が厳しすぎた。
ちょうど、走るのが得意な一角獣馬を吸収していたのを思い出し、試運転とばかりに擬態して全力疾走してみたのだが――
(こ、怖ええぇ――! 速すぎんぞ、おい!)
泡を噴いた口元から「ひひ~ん」と嘶く声が出る。
こうしてすでに小1時間、止まらないのではなく止まれない。減速すらもままならない。
一角獣馬は走ることにかけての特殊能力――人間ふうに言うと固有魔法を持っており、本人の意識とは無関係に、ただ一直線に暴走している。
俗にいう”暴れ馬”――あれも固有魔法だったのかと、颯真は的外れな感想を抱く。
足場の悪い道程ながら、時速にすると100キロ強。体感速度では倍以上。
「ぶひひーん」(誰か止めてー)
颯真は悲愴な声を上げつつ、ただひたすら爆走した。
◇◇◇
走り続けることしばらく、周囲の景色も移ろい始めた頃、一角獣馬扮する颯真は、とある丘の上にある大きな木の下でようやく停止した。
正確にいうと、角が木の幹にずっぷしと突き刺さって止まった。
どうもこの特殊能力、走行系能力ではなく攻撃系能力だったらしい。
目標に向けて猛突進し、象徴たる一角角で抉る刺突技。発動したが最後、目標に命中するまで止まらない、みたいな。
幹から角を引っこ抜くと、みしみしと嫌な音を立てて、樹齢100年は超えてそうな巨木が倒壊した。
なんたる威力。角猪の突進なんて可愛いものだ。
(そりゃあ、魔獣指定されるわな)
なにはともあれ、ようやく止まれた。
しかも丘の向こう――眼下に望むは広大な海。近くには船舶が何隻も停泊している大きな港町も見える。
あれぞ目的の”海の宿場町”、港町シービスタに違いない。
本来の予定では、海に出るまで西に行き、その後北上するはずだったが、どうやら幸運にも、暴走により方向が逸れて、直行できてしまったらしい。
ちなみに颯真は知らなかったが、風の迷い道横断の移動時間再短記録だったりする。
(俺の運も捨てたもんじゃないな!)
ついさっき、暴走して泣き言を漏らしていたのはどこへやら。
颯真は尊大な態度で満足げに、うんうんと翡翠のたてがみを揺らしていた。
そんなとき、
「お馬たーん」
どこからともなく聞こえる、舌足らずの幼い声。
(ん?)
次いで、尻尾をぐいぐい引っ張られる感触。
(おお?)
何故か後ろ足のところに幼女がいて、物凄く頑張っているふうに、颯真の尻尾を引っ張っていた。
遮蔽物がなにもなく、照りつける太陽光で日中は熱いくらいだが、西の海から吹き抜ける風のおかげで、年中温暖な気候となっている。
日照が程よく、風も適度な水分を含んでいるため、草花の育成には最適だが、地表に近い部分に固い岩盤の層があり、根を張る木々には向いていない。
おかげで、見渡す限りの草原が地平まで続いている。
あまりに見晴らしがよすぎて、捕食者・被食者共にお互いに発見されやすいというデメリットがあるため、その広大な面積の割には、動物はあまり住み着いていない。
それはそのまま旅人や行商人、野盗の関係にも当て嵌まり、大草原を横断する道すがら、他人と出会うことは滅多にないという。
延々と続く代わり映えしない景色と草原で、目印となるべきものもなく、誰とも出会うことがない。
東を目指して出発したはずが、平原を抜けるときは北だった、なんてよくある話だ。
吹く風すら行き先を見失う。付いた呼び名が、風の迷い道だ。
ここを通る者は、風の精霊に感謝の祈りを捧げないと、道に迷わされるという言い伝えまである。
そんな中、大平原を突き進む土煙ひとつ。
白い馬体に翡翠のたてがみ、額に雄々しき角を生やした一角獣馬、颯真の擬態した魔獣である。
感謝の祈りなど露もなく、一角獣馬は土を跳ね上げ、草花を蹴散らし、西へ向けてひたすら邁進する。
出発した当初は大フクロウだったのだが、熱さが弱点の中身スライムの身には、降り注ぐ直射日光が厳しすぎた。
ちょうど、走るのが得意な一角獣馬を吸収していたのを思い出し、試運転とばかりに擬態して全力疾走してみたのだが――
(こ、怖ええぇ――! 速すぎんぞ、おい!)
泡を噴いた口元から「ひひ~ん」と嘶く声が出る。
こうしてすでに小1時間、止まらないのではなく止まれない。減速すらもままならない。
一角獣馬は走ることにかけての特殊能力――人間ふうに言うと固有魔法を持っており、本人の意識とは無関係に、ただ一直線に暴走している。
俗にいう”暴れ馬”――あれも固有魔法だったのかと、颯真は的外れな感想を抱く。
足場の悪い道程ながら、時速にすると100キロ強。体感速度では倍以上。
「ぶひひーん」(誰か止めてー)
颯真は悲愴な声を上げつつ、ただひたすら爆走した。
◇◇◇
走り続けることしばらく、周囲の景色も移ろい始めた頃、一角獣馬扮する颯真は、とある丘の上にある大きな木の下でようやく停止した。
正確にいうと、角が木の幹にずっぷしと突き刺さって止まった。
どうもこの特殊能力、走行系能力ではなく攻撃系能力だったらしい。
目標に向けて猛突進し、象徴たる一角角で抉る刺突技。発動したが最後、目標に命中するまで止まらない、みたいな。
幹から角を引っこ抜くと、みしみしと嫌な音を立てて、樹齢100年は超えてそうな巨木が倒壊した。
なんたる威力。角猪の突進なんて可愛いものだ。
(そりゃあ、魔獣指定されるわな)
なにはともあれ、ようやく止まれた。
しかも丘の向こう――眼下に望むは広大な海。近くには船舶が何隻も停泊している大きな港町も見える。
あれぞ目的の”海の宿場町”、港町シービスタに違いない。
本来の予定では、海に出るまで西に行き、その後北上するはずだったが、どうやら幸運にも、暴走により方向が逸れて、直行できてしまったらしい。
ちなみに颯真は知らなかったが、風の迷い道横断の移動時間再短記録だったりする。
(俺の運も捨てたもんじゃないな!)
ついさっき、暴走して泣き言を漏らしていたのはどこへやら。
颯真は尊大な態度で満足げに、うんうんと翡翠のたてがみを揺らしていた。
そんなとき、
「お馬たーん」
どこからともなく聞こえる、舌足らずの幼い声。
(ん?)
次いで、尻尾をぐいぐい引っ張られる感触。
(おお?)
何故か後ろ足のところに幼女がいて、物凄く頑張っているふうに、颯真の尻尾を引っ張っていた。
1
お気に入りに追加
130
あなたにおすすめの小説
イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)
こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位!
死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。
閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話
2作目になります。
まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。
「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
加護とスキルでチートな異世界生活
どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!?
目を覚ますと真っ白い世界にいた!
そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する!
そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる
初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです
ノベルバ様にも公開しております。
※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません
クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです
こたろう文庫
ファンタジー
学校をズル休みしてオンラインゲームをプレイするクオンこと斉藤悠人は、登校していなかったのにも関わらずクラス転移させられた。
異世界に来たはずなのに、ステータス画面はさっきやっていたゲームそのもので…。
間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎
って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!
何故こうなった…
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
そして死亡する原因には不可解な点が…
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
虐げられた魔神さんの強行する、のんびり異世界生活
雲水風月
ファンタジー
ある日、奇妙な事故に巻き込まれて異世界に転移してしまった主人公。
そして、何故かその世界では、人間たちから忌み嫌われる闇の魔力を身につけていた。
町の権力者たちからは理不尽な扱いを受けるが、しかし主人公はあまり動じないマイペースな性格だった。大様な人物だった。
主人公エフィルアは、彼を取り巻く激動の世界を尻目に、今日ものんびり異世界生活を強行する。美味なる食材を手に入れ、慕ってくれる仲間、モフモフがいつのまにやら集まってきて。
王国の守護神獣や、冥府魔界と地獄の統率神までもが同居を始めたとしても、けっきょく彼はただ、温かくて清潔なお風呂を皆で楽しむ事なんかを目指すのだった。
※、「闇属性で虐げられたけど思い切って魔神になってみたら」という作品の別バージョンになります。シリアス成分が減ってゆるめに。美味ごはん無双や育成要素が増えてる仕様。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
どうして俺が推しのお世話をしてるんだ? え、スキル【もふもふ】と【飯テロ】のせい? ~推しと名無しのダンジョン配信~
星屑ぽんぽん
ファンタジー
二年前、VRゲーム【パンドラ】は人気絶頂の中、突然サービスが終了した。
その直後【異世界アップデート】と呼ばれる現象が起き、地球に【パンドラ】と同じダンジョンやモンスターが出現。さらに【パンドラ】を行き来できるゲートも現れ、探索が開始された。
幸いにもステータスに目覚めた【冒険者】の活躍により、今では大多数の人間が平凡に暮らしている。
とある男子高校生も、借金でバイトまみれな点を除けば平凡そのものだ。
労働地獄の日々、彼の心のより所はVTuberなどの推したちだけ。
彼はいつも通りバイトに行く…………必要がなくなった。
『私と遊ぶだけで月100万あげるわよ』
同級生のお嬢様にママ活を提案され、彼の生活は一変する。
彼女の言う『遊び』とは、危険なパンドラを一緒に配信することだった。
それから彼はスキル【飯テロ】と【もふもふ】に目覚め、あらゆる美少女たちを虜にする。
気付けば様々な『推し』たちのお世話(執事)をするはめに……!?
パンドラ産の食材は不味い、効果がない、モンスターはテイムできない。そんな常識を全て壊してしまう。
彼のチートで美味しい飯テロもふもふにより、推したちは次々と強化されてゆく。
彼の名は知られていない。
ただ、【最強の執事(バッファー)】とか【神獣(もふもふ)テイマー】と呼ばれている。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる