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第四章

幼女との出会い

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 闇昏き森デ・レシーナから西――海まで続く平原は、風の迷い道レ・フィールと呼ばれている。

 遮蔽物がなにもなく、照りつける太陽光で日中は熱いくらいだが、西の海から吹き抜ける風のおかげで、年中温暖な気候となっている。
 日照が程よく、風も適度な水分を含んでいるため、草花の育成には最適だが、地表に近い部分に固い岩盤の層があり、根を張る木々には向いていない。

 おかげで、見渡す限りの草原が地平まで続いている。
 あまりに見晴らしがよすぎて、捕食者・被食者共にお互いに発見されやすいというデメリットがあるため、その広大な面積の割には、動物はあまり住み着いていない。
 それはそのまま旅人や行商人、野盗の関係にも当て嵌まり、大草原を横断する道すがら、他人と出会うことは滅多にないという。

 延々と続く代わり映えしない景色と草原で、目印となるべきものもなく、誰とも出会うことがない。
 東を目指して出発したはずが、平原を抜けるときは北だった、なんてよくある話だ。

 吹く風すら行き先を見失う。付いた呼び名が、風の迷い道レ・フィールだ。
 ここを通る者は、風の精霊に感謝の祈りを捧げないと、道に迷わされるという言い伝えまである。

 そんな中、大平原を突き進む土煙ひとつ。
 白い馬体に翡翠のたてがみ、額に雄々しき角を生やした一角獣馬ユニコーン、颯真の擬態した魔獣である。
 感謝の祈りなど露もなく、一角獣馬ユニコーンは土を跳ね上げ、草花を蹴散らし、西へ向けてひたすら邁進する。

 出発した当初は大フクロウだったのだが、熱さが弱点の中身スライムの身には、降り注ぐ直射日光が厳しすぎた。
 ちょうど、走るのが得意な一角獣馬ユニコーンを吸収していたのを思い出し、試運転とばかりに擬態して全力疾走してみたのだが――

(こ、怖ええぇ――! 速すぎんぞ、おい!)

 泡を噴いた口元から「ひひ~ん」と嘶く声が出る。

 こうしてすでに小1時間、止まらないのではなく止まれない。減速すらもままならない。
 一角獣馬ユニコーンは走ることにかけての特殊能力――人間ふうに言うと固有魔法を持っており、本人の意識とは無関係に、ただ一直線に暴走している。
 俗にいう”暴れ馬”――あれも固有魔法だったのかと、颯真は的外れな感想を抱く。

 足場の悪い道程ながら、時速にすると100キロ強。体感速度では倍以上。

「ぶひひーん」(誰か止めてー)

 颯真は悲愴な声を上げつつ、ただひたすら爆走した。


◇◇◇


 走り続けることしばらく、周囲の景色も移ろい始めた頃、一角獣馬ユニコーン扮する颯真は、とある丘の上にある大きな木の下でようやく停止した。
 正確にいうと、角が木の幹にずっぷしと突き刺さって止まった。

 どうもこの特殊能力、走行系能力ではなく攻撃系能力だったらしい。
 目標に向けて猛突進し、象徴たる一角づので抉る刺突技。発動したが最後、目標に命中するまで止まらない、みたいな。

 幹から角を引っこ抜くと、みしみしと嫌な音を立てて、樹齢100年は超えてそうな巨木が倒壊した。

 なんたる威力。角猪の突進なんて可愛いものだ。

(そりゃあ、魔獣指定されるわな)

 なにはともあれ、ようやく止まれた。

 しかも丘の向こう――眼下に望むは広大な海。近くには船舶が何隻も停泊している大きな港町も見える。
 あれぞ目的の”海の宿場町”、港町シービスタに違いない。

 本来の予定では、海に出るまで西に行き、その後北上するはずだったが、どうやら幸運ラッキーにも、暴走により方向が逸れて、直行できてしまったらしい。

 ちなみに颯真は知らなかったが、風の迷い道レ・フィール横断の移動時間再短記録コースレコードだったりする。

(俺の運も捨てたもんじゃないな!)

 ついさっき、暴走して泣き言を漏らしていたのはどこへやら。
 颯真は尊大な態度で満足げに、うんうんと翡翠のたてがみを揺らしていた。

 そんなとき、

「お馬たーん」

 どこからともなく聞こえる、舌足らずの幼い声。

(ん?)

 次いで、尻尾をぐいぐい引っ張られる感触。

(おお?)

 何故か後ろ足のところに幼女がいて、物凄く頑張っているふうに、颯真の尻尾を引っ張っていた。
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