上 下
30 / 69
第三章

ミッションフェイルド

しおりを挟む
 情報もだいぶ集まってきた。

 この塔にいる宮廷魔術師で構成される調査団は、団長であるカミランを除くと男4名、女4名で構成されている。
 副官らしき壮年の男性以外は、いずれも10代後半から20代前半と、エリートである宮廷魔術師の平均年齢としてはやたら若い。

 野外任務として、体力のある若者が選出されただけなのかもしれないが、注目すべきは年齢のみではない。見た目にも選考基準があるかと疑われるほど、容姿端麗な者ばかりなのだ。

 特に女性はスタイルもよく、美人さんばかり。しかも服装にも気を遣っているようで、制服らしき純白の外套ローブこそ一様だが、その下の服装は実に各々個性的だ。

 良家出身の令嬢らしき落ち着きのある女性は、折り目正しいドレスシャツにタイトスカート姿。上下をローブに合わせて白一色で統一したコーディネイトは、高潔感を演出している。

 気の強そうな赤毛の女性は、豊満な胸元を強調したベアトップワンピース。ローブの純白と、髪色に合わせた原色系の服色とのコントラストが色鮮やかに映えていて、実に見栄えする。

 まだ少女のあどけなさを残した女性は、清楚で可愛らしいフリルをあしらったブラウスに、ひらひらのフレアスカートという装いだ。若草系の淡い色が、雰囲気によく合っている。

 宮廷魔術師という要職にある意識感からか、だらしない格好をしている者はひとりもいない。
 そもそも身をすっぽりと覆うローブのせいで、通常ではインナーはほぼ見えない。颯真のように下から覗き込んでいるのでもなければ。
 にもかかわらず、そういった見えない部分でも服装に手を抜かないのは好感が持てる。
 そして、全員がスカート派なのも、ポイントが高い。

 理由? そんなの言わずもがなでしょ?

 いったい、なんの情報収集だと突っ込みたくなるところだが、事実、颯真はすっかり目的を見失っていた。

 ちなみに、騎士隊は全員むさくるしい野郎ばかりなので、颯真は興味の欠片もなかった。

 残る女性は、あとひとりでコンプリート。情報収集も佳境に入ってきた。

 うきうきと待ち構える颯真のもとに、階下から上ってくる足音があった。
 颯真は天井にへばり付き、様子をうかがう。

 なにやら小難しそうに話し合いながら姿を見せたのは、宮廷魔術師のふたり組だった。
 ひとりは男性。ひとりは女性。
 男性はどうでもいい。問題の女性のほうは初見だった。

標的捕捉ターゲットロックオン――!)

 さらなる情報収集のため、颯真は天井から壁を伝い、通路を歩くふたりの足元へ這い寄った。
 ふたりで熱心に議論に近い情報交換を行なっており、今回もまた足元は疎か。これ幸いと颯真はそのまま女性側に回り込み、並走する。
 ほぼ真下まで潜り込まないといけないのは、より話を詳しく聞くためなのだ。そうなのだ。

(やや、しまった。また不可抗力で)

 すっかり調子に乗った颯真は、心ばかりの言い訳をしながら、女性のローブの内側を下から覗き込んだ。
 女性はかなり際どいミニスカートで、サイドにスリットも入っているものだから、もう丸見え――

(…………)

 颯真はいったん女性から離れて、一呼吸置いてから、再び近寄り仰ぎ見た。

(馬鹿な……穿いていない、だと……?)

 戦慄が走る。

 颯真は念のためにもう一度だけ見上げてみる。ローブに包まれた暗がりの中、ひらひらするスカートの下の影には布地らしきものは見えない。

 いや、まさか。いくらなんでも、そんなはずはないだろう。そうこれは、きっとあれだ。黒とか紐とかそういうオチだろう。

 見る角度が変われば違うはず。颯真が身を捩って頑張っていると。

 ――ぶにゅ。

(あ)

「え?」

 踏まれた。
 そして、降りてきた視線と目(?)が合った。

「きゃああああ――!」

 直後に狭い通路に甲高い絶叫が木霊する。

(やばっ!)

 颯真は即座に身を滑らせ、通路途中の曲がり角の陰に飛び込んだ。

「な、なんだ、どうした!?」

「今! 今なにか踏んだ、ぶにゅんって! そしたら、影みたいなものがそっちの角に!」

 女性が同僚の男性の背に隠れて、颯真の隠れた方向を指差しながら、ぎゃあぎゃあ喚き立てている。

(はっ! そうだった! 俺、潜入作戦スニーキングミッションの真っ最中だったんだっけ!)

 颯真はようやく正気に返った。
 だが、時すでに遅しとも言う。

 ふたりは警戒しながらも、じりじり颯真との距離を詰めてくる。
 広げた手の平を掲げ、いつでも魔術を放てるように臨戦態勢だ。

 颯真といえば、焦って曲がり角に飛び込んだはいいが、通路はすぐに途切れ、袋小路となっていた。
 やり過ごそうにも、壁や床に身を隠せそうな割れ目や隙間はない。なんちゃってステルス迷彩も、通常ならまだしも、こんな警戒状態では発見される可能性大だろう。

「襲い掛かってくる気配はないみたいだが……古い建物だし、猫かネズミでも棲み付いているんじゃあ……?」

「……そうかしら。もっと大きそうなものに見えたけれど……とにかく、確認しておかないと」

(猫かネズミ……それだ!)

 わざわざ与えてくれたヒントに、颯真は飛び上がって喜んだ。

 こんなときこそ擬態の出番だ。
 昔から決まっているテンプレだと、ここは猫の鳴き真似だが、あいにく猫は取り込んでいない。
 だったら――

(これだっ! ネズミ!)

 颯真は意気揚々と放電針鼠スパークラットに擬態した。
 ネズミも針ネズミも似たようなものだろう。こんな深い森にある建物なら、針ネズミの1匹や2匹棲み付いていてもおかしくないはずだ。

 ひょんなことで放電針鼠スパークラットの初擬態となってしまったが、擬態自体は上手くいった。
 颯真はいかにも害意のない普通の動物を装い、無垢な瞳で小首を傾げる小芝居を織り交ぜながら、ふたりの前に踊り出た。

「なんだ、森の動物が紛れ込んでいただけか、人騒がせな……」

「ええ、そうね。この仔ったら。ふふ」

 ――などという反応を颯真は期待していたのだが、それとはまったく正反対に、ふたりは目を見開き、表情を強張らせていた。

「ま、まさか――雷獣、放電針鼠スパークラット!?」

「高危険ランク種の魔獣がどうしてここに!?」

(……あ。そういや、こいつって魔獣だったんだっけ)

 状況が悪化しました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

覇者となった少年 ~ありがちな異世界のありがちなお話~

中村月彦
ファンタジー
よくある剣と魔法の異世界でのお話…… 雷鳴轟く嵐の日、一人の赤子が老人によって救われた。 その老人と古代龍を親代わりに成長した子供は、 やがて人外の能力を持つに至った。 父と慕う老人の死後、世界を初めて感じたその子供は、 運命の人と出会い、生涯の友と出会う。 予言にいう「覇者」となり、 世界に安寧をもたらしたその子の人生は……。 転生要素は後半からです。 あまり詳細にこだわらず軽く書いてみました。 ------------------  最初に……。  とりあえず考えてみたのは、ありがちな異世界での王道的なお話でした。  まぁ出尽くしているだろうけど一度書いてみたいなと思い気楽に書き始めました。  作者はタイトルも決めないまま一気に書き続け、気がつけば完結させておりました。  汗顔の至りであります。  ですが、折角書いたので公開してみることに致しました。  全108話、約31万字くらいです。    ほんの少しでも楽しんで頂ければ幸いです。  よろしくお願いいたします。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

幼馴染みの2人は魔王と勇者〜2人に挟まれて寝た俺は2人の守護者となる〜

海月 結城
ファンタジー
ストーカーが幼馴染みをナイフで殺そうとした所を庇って死んだ俺は、気が付くと異世界に転生していた。だが、目の前に見えるのは生い茂った木々、そして、赤ん坊の鳴き声が3つ。 そんな俺たちが捨てられていたのが孤児院だった。子供は俺たち3人だけ。そんな俺たちが5歳になった時、2人の片目の中に変な紋章が浮かび上がった。1人は悪の化身魔王。もう1人はそれを打ち倒す勇者だった。だけど、2人はそんなことに興味ない。 しかし、世界は2人のことを放って置かない。勇者と魔王が復活した。まだ生まれたばかりと言う事でそれぞれの組織の思惑で2人を手駒にしようと2人に襲いかかる。 けれども俺は知っている。2人の力は強力だ。一度2人が喧嘩した事があったのだが、約半径3kmのクレーターが幾つも出来た事を。俺は、2人が戦わない様に2人を守護するのだ。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...