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第1章 アバター:シノヤ

第8話 三界の覇権

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「できれば、先ほどの醜態は忘れてください……」

 消え入りそうな声で、エリシアは顔面を両手で覆って恥じ入っていた。
 そうしていると、勇ましい鎧姿でも、年相応の少女にしか見えない。

 彼女が落ち着いたのを見計らって、シノヤは世界の情勢を聞き出してみた。
 彼女はシノヤを、というか、神人を崇拝しているらしく、これまでの態度がなんだったのかというほど、素直に話に応じてくれた。

 現在、A.W.Oでのメインストーリー、神族・魔族・精霊族の三つ巴の戦いにおいて、圧倒的優勢は魔族、次いでかなり劣勢で神族、精霊族に至っては、既に決戦に破れて覇権争いから脱落しているらしい。
 三竦みは崩れ去り、事実上の正面対決状態。しかも、我らが陣営の神族は、風前の灯ときた。

 そもそも、A.W.OはPRGと銘打っていながらも、SLGとしての側面もある。
 個々のキャラクターを鍛えてイベントをこなして育て、大局としては所属陣営を戦争で勝たせ、敵対する二勢力の王を討つことにある。
 それを完遂すると、晴れてグランドエンドとなるわけだ。

 生産職でサポートに回るもよし、軍団に加勢して敵軍を打ち破るもよし、指揮官となって戦略を駆使するもよし、少数精鋭にて敵本陣に攻め込んだり、搦め手で国力を削るのもよしと、なにかと自由度はあるゲームだった。

 それを担うのが、プレイヤーである超人類の神人、魔人、精人である。
 各国のNPCたちは、基本的に軍備を整え、軍団戦で他国に攻め込む、という動作を繰り返す仕様だ。
 サービスの停止と同時に、ゲーム世界からプレイヤーが消え、各国は愚直にルーチンに従うことになったのだろう。

 その結果、人の手が介入しないランダム的な運要素で精霊族が敗北し、神族が滅びかけて、魔族が世界を支配しかけている状況になった。
 まあ、ゲームであるし、場合によっては真逆の戦況になった可能性もある。

 エリシアのような通常の人族は、神族側に属している。
 そして、敗色濃厚の決戦のときが近いらしく、祖国の無念、人族の滅亡、エリシアはそういった諦観の最中にあったそうだ。
 だからこそ神人であるシノヤの登場に、エリシアは天啓を得たかのごとく、神に感謝したらしい。そんなところだ。

「シノヤ様は、我らをお救いくださるために、ご降臨されたのでしょう?」

 エリシアは両手を組み、疑うこともない純真な眼差しで、シノヤを見つめていた。

 実際は違うのだけれど、ゲームの展開上、もともと神族側に属する神人設定にあることだし、手伝うことはやぶさかではない。
 NPCとはいえ、可愛い年下の女の子に頼られて、悪い気がしないというのもある。

 ただ、彼女は勘違いしているようだが、神人ひとりで戦況を覆すほどの力はない。チート的なものも噂ではあったそうだが、それも常識内での範疇だ。
 さすがにそんなものは、ゲームバランスを壊してしまう。運営会議での企画すら通らないだろう。
 あくまで各国のプレイヤーは、数千、数万人が集まることにより、戦況を動かしていくというコンセプトで製作されたゲームなのだ。
 ここは、言わぬが華というやつか。

 神族陣営として尽力はする。が、聞く限り、現状での逆転勝利は無理だろう。
 ただし、敗北するにしても、参戦するからにはあっさり負けるのはかっこ悪い。
 それを考えると、装備品やアイテムをロストしたのは痛かった。

 10年前の記憶なので、装備の名前や特殊能力までは覚えていないが、少なくともランクA以上の一級品ではあったはずだ。

(そういや、最終レベルってどれだけだっけ?)

 こちらもまた、記憶に薄い。
 A.W.O公式サイトのランキングでは中の上くらいだった……ような。レベル50は下らなかったはずだ。
 当時の最高レベルでは、なんと100超えの廃人プレイヤーもいたが、それはさすがに除外するとして、課金アイテムなしでも、敵国の中ボスクラスなら、1対1でなんとか倒せるくらいには強かった。

「……ステータスオープン」

 シノヤはエリシアにバレないよう、こっそりと呟く。
 基本的に、NPCにはプレイヤー専用機能と呼ばれるものは見えないし使えもしないので、いろいろ聞かれるのも面倒だろう。

『ステータスを表示します』

 システムナビゲーターの声がする。表示や声もまた、実行した本人にしか見聞きできない。仮想電子体の視覚領域や聴覚領域に、直接信号を流しているとかなんとか。
 ログインログアウトの宣告だけは、注意を促す意味で、周囲にも聞こえるそうだけど。

「……あれ?」

 直接信号のやり取りのため、見間違いなどあり得ず、意味などないのだが、ウィンドウを確認したシノヤは、反射的に眼を擦っていた。

 何度見直しても、表示内容は変わらない。

『レベル999』

 それがシノヤの現在のレベル表記だった。

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