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第1章 アバター:シノヤ
第11話 レグランド城塞
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――3時間後。
シノヤはエリシアに連れられて、レグランド城塞と呼ばれる場所を訪れていた。
ここも千年前には建築されていなかった場所で、シノヤのかつてのA.W.Oの記憶にはない。
エリシアの話によると、ここが現在の人族の最前線であり、最終防衛拠点ということらしい。
この後にはヴィーグリーズル王国の王都しかない。
ヴィーグリーズル王国は、A.W.Oの公式な人族の本拠地で、現在では千年王国と呼ばれているらしい。
ここで魔族陣営を押し返すことができなければ、やがて人族は確実に滅びを迎える。
ただ実際には、人族はあくまで神族の陣営の一角であり、人族が滅亡したとしても、神族の敗北とイコールではない。
魔族側の勝利条件にして神族側の敗北条件とは、神族の神域にいる神王の落命のみ。
魔族にとって人族を滅ぼすのは、通過点のひとつに過ぎないのだ。
シノヤが神族からの援軍はないのかエリシアに訊ねると、答えはNOだった。
少なくとも伝承では、過去、幾度となくあった人族の危機にも、神族が助勢した事例はないらしい。
そして、そのことをエリシア自身も理不尽には思っていないようだった。
ゲームとしてそう決められているため、設定に忠実なのは仕方ないのかもしれないが、神族陣営として身体を張っている人族のピンチのときくらい助けてやれよ、と叫びたくなるのが人情ではある。
とにかく、そんな状況の上、近日中にも人族に向けた魔族の大侵攻が迫っているらしい。
エリシアが神頼みならぬ神人頼みするのも、無理ないことだった。
城内は、戦準備であふれ返るほどの兵士や騎士、そこいらを駆け回る伝令とで、殺伐とした雰囲気となっていた。
そんな者たちの脇をすり抜けていく余所者で不愛想のシノヤの姿に、あからさまに不穏な眼差しを投げかけてくる者も多い。
先導するエリシアの存在がなければ、まず間違いなく揉め事になっていただろう。
ここでのエリシアは有名で人望もあるらしく、行き交う兵たちによく声をかけられている。
それだけに、その後に続くシノヤには、様々な感情交じりの、より鋭い視線が突き刺さる。
レグラントに着くまで同行していた、エリシアの従騎士というファシリア聖騎士のふたりにも、同じような視線を終始向けられていたものだ。
最大の問題は、それにエリシアがまったく気づいてくれていないことだった。
なんというか、傍目にも彼女は浮かれている。ともすれば、鼻歌でも口ずさみそうなくらいには。
気持ちはわからないでもないが、シノヤにとってみれば、居心地悪いことこの上ない。
そんな精神的苦行に耐えつつ、エリシアに案内されたのは、城の最上階だった。
物々しい衛兵が複数人も扉の前を警護している辺り、かなりの要人の執務室といったところか。
「ファシリア聖騎士団のエリシアです。閣下への拝謁を願います」
エリシアが衛兵のひとりに声をかけると、今度はその衛兵が扉越しに室内に問いかけ、すぐに認可は下りた。
閣下と呼ばれるほどの相手が唐突な来訪に即応してくれるとは、やはりエリシアの姫騎士の称号は伊達ではないらしい。
「失礼します」
状況に流されるままにエリシアに倣ってシノヤが入室すると、一見して豪奢な執務室には、ふたりの男性が並び立っていた。
鍛え上げられた恰幅のいい壮年男性と、やたら派手な衣装に身を包んだ小太りの男性という、対照的な相手だった。
「これはこれはエリシア様。そのように慌ててどうなさいましたかな?」
小太りの男性のほうが、両手を掲げてにこやかに歩み寄ってくる。
「突然のご訪問、申し訳ありません。閣下」
そう切り出してからエリシアがふたりを紹介してくれた。
前者が、名前をナコール・アレンドル。
中老に差し掛かった白髪混じりの金髪男性で、身なりがいいと思ったら、公爵位を持つ貴族だった。
人族の中でもかなりの有力者で、国内随一の支援者でもあるとか。
後者が、カレッド・スコルト将軍。
このレグランド城塞の駐留軍の総指揮官ということらしい。
力強い双眸に威圧感のある雰囲気と、指揮官というよりは、名うての戦士の風格が感じられる。
「して、そちらの御仁はどなたですかな?」
「こちらこそ、神人のシノヤ様です!」
ナコール公爵の問いに、待ってましたとばかりにエリシアが間髪入れずに即答する。
答えたのはいいが、直後に室内の空気は一変した。もちろん、悪いほうに。
「……神人、ですか? あの? 伝承にある?」
「そうです!」
エリシアの返事には微塵の揺らぎもない。
矢継ぎ早に出会いの状況を熱く語っているが、シノヤとしては目を覆いたくなるところだった。
エリシアが熱弁を振るえば振るうほど、逆に相手のシノヤに対する視線が冷たくなってゆく。
ナコール公爵は露骨に胡散臭そうな態度をしているし、カレッド将軍は値踏みするように一瞥しただけで、目を閉じて黙してしまった。
(今の俺のこんな姿じゃあ、説得力は皆無ってか……)
わかりやすい格好――それこそ、ログイン時にロストしてしまった装備をしていたのなら、また違っただろう。
あれらはランクAを超えるドロップレアアイテムだった。NPCではお目にかかる機会すらない逸品だ。
しかし、今のシノヤの装備は、ランクG-の初期装備、『ただの服』一枚きり。見た目貧相なのは拭えない。
(これで、伝説の存在とか紹介されても、俺でも困るよな、うん)
シノヤはエリシアに連れられて、レグランド城塞と呼ばれる場所を訪れていた。
ここも千年前には建築されていなかった場所で、シノヤのかつてのA.W.Oの記憶にはない。
エリシアの話によると、ここが現在の人族の最前線であり、最終防衛拠点ということらしい。
この後にはヴィーグリーズル王国の王都しかない。
ヴィーグリーズル王国は、A.W.Oの公式な人族の本拠地で、現在では千年王国と呼ばれているらしい。
ここで魔族陣営を押し返すことができなければ、やがて人族は確実に滅びを迎える。
ただ実際には、人族はあくまで神族の陣営の一角であり、人族が滅亡したとしても、神族の敗北とイコールではない。
魔族側の勝利条件にして神族側の敗北条件とは、神族の神域にいる神王の落命のみ。
魔族にとって人族を滅ぼすのは、通過点のひとつに過ぎないのだ。
シノヤが神族からの援軍はないのかエリシアに訊ねると、答えはNOだった。
少なくとも伝承では、過去、幾度となくあった人族の危機にも、神族が助勢した事例はないらしい。
そして、そのことをエリシア自身も理不尽には思っていないようだった。
ゲームとしてそう決められているため、設定に忠実なのは仕方ないのかもしれないが、神族陣営として身体を張っている人族のピンチのときくらい助けてやれよ、と叫びたくなるのが人情ではある。
とにかく、そんな状況の上、近日中にも人族に向けた魔族の大侵攻が迫っているらしい。
エリシアが神頼みならぬ神人頼みするのも、無理ないことだった。
城内は、戦準備であふれ返るほどの兵士や騎士、そこいらを駆け回る伝令とで、殺伐とした雰囲気となっていた。
そんな者たちの脇をすり抜けていく余所者で不愛想のシノヤの姿に、あからさまに不穏な眼差しを投げかけてくる者も多い。
先導するエリシアの存在がなければ、まず間違いなく揉め事になっていただろう。
ここでのエリシアは有名で人望もあるらしく、行き交う兵たちによく声をかけられている。
それだけに、その後に続くシノヤには、様々な感情交じりの、より鋭い視線が突き刺さる。
レグラントに着くまで同行していた、エリシアの従騎士というファシリア聖騎士のふたりにも、同じような視線を終始向けられていたものだ。
最大の問題は、それにエリシアがまったく気づいてくれていないことだった。
なんというか、傍目にも彼女は浮かれている。ともすれば、鼻歌でも口ずさみそうなくらいには。
気持ちはわからないでもないが、シノヤにとってみれば、居心地悪いことこの上ない。
そんな精神的苦行に耐えつつ、エリシアに案内されたのは、城の最上階だった。
物々しい衛兵が複数人も扉の前を警護している辺り、かなりの要人の執務室といったところか。
「ファシリア聖騎士団のエリシアです。閣下への拝謁を願います」
エリシアが衛兵のひとりに声をかけると、今度はその衛兵が扉越しに室内に問いかけ、すぐに認可は下りた。
閣下と呼ばれるほどの相手が唐突な来訪に即応してくれるとは、やはりエリシアの姫騎士の称号は伊達ではないらしい。
「失礼します」
状況に流されるままにエリシアに倣ってシノヤが入室すると、一見して豪奢な執務室には、ふたりの男性が並び立っていた。
鍛え上げられた恰幅のいい壮年男性と、やたら派手な衣装に身を包んだ小太りの男性という、対照的な相手だった。
「これはこれはエリシア様。そのように慌ててどうなさいましたかな?」
小太りの男性のほうが、両手を掲げてにこやかに歩み寄ってくる。
「突然のご訪問、申し訳ありません。閣下」
そう切り出してからエリシアがふたりを紹介してくれた。
前者が、名前をナコール・アレンドル。
中老に差し掛かった白髪混じりの金髪男性で、身なりがいいと思ったら、公爵位を持つ貴族だった。
人族の中でもかなりの有力者で、国内随一の支援者でもあるとか。
後者が、カレッド・スコルト将軍。
このレグランド城塞の駐留軍の総指揮官ということらしい。
力強い双眸に威圧感のある雰囲気と、指揮官というよりは、名うての戦士の風格が感じられる。
「して、そちらの御仁はどなたですかな?」
「こちらこそ、神人のシノヤ様です!」
ナコール公爵の問いに、待ってましたとばかりにエリシアが間髪入れずに即答する。
答えたのはいいが、直後に室内の空気は一変した。もちろん、悪いほうに。
「……神人、ですか? あの? 伝承にある?」
「そうです!」
エリシアの返事には微塵の揺らぎもない。
矢継ぎ早に出会いの状況を熱く語っているが、シノヤとしては目を覆いたくなるところだった。
エリシアが熱弁を振るえば振るうほど、逆に相手のシノヤに対する視線が冷たくなってゆく。
ナコール公爵は露骨に胡散臭そうな態度をしているし、カレッド将軍は値踏みするように一瞥しただけで、目を閉じて黙してしまった。
(今の俺のこんな姿じゃあ、説得力は皆無ってか……)
わかりやすい格好――それこそ、ログイン時にロストしてしまった装備をしていたのなら、また違っただろう。
あれらはランクAを超えるドロップレアアイテムだった。NPCではお目にかかる機会すらない逸品だ。
しかし、今のシノヤの装備は、ランクG-の初期装備、『ただの服』一枚きり。見た目貧相なのは拭えない。
(これで、伝説の存在とか紹介されても、俺でも困るよな、うん)
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