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第1章 幼年期

令嬢、高利貸しを成敗する

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 エプロンを放り出して厨房から出ると、粗野な巨漢の男2人が店内で暴れていた。

「店主どこだ、出て来いー!」

 テーブルを蹴り、椅子を蹴倒す。やりたい放題。

「やめろ! 店で暴れんな! 父ちゃんなら留守だ!」

 勇敢にも止めに入ったサフィの言葉に、男たちは顔を見合わせていた。

「なんだ留守かよ! 無駄足じゃねえか!」

「まあまあ、落ち着けって。じゃあ、今日のところは引きあげんべか。おいガキ! また来るって伝えといてくれよ」

「そうそう、おめえの父ちゃん、他人さまから借りた金も返さねえ、悪い奴だからよ~!」

「嘘だ! 父ちゃんを悪く言うな!」

「ひゃっはっはっ! 聞いたかよ、おい!?」

「やめとけ、こんなガキに。時間の無駄だ」

「ほれこれ見てみろ。借用書ってんだが知ってっか?」

 男の1人が懐から出したのは、確かに親方の署名入りの借用書。
 子供でもぱっと見で高額なのがわかるくらいに、0が羅列している。

「で、でたらめだ、こんなの!」

 頭に血の昇ったサフィが借用書を奪おうと掴みかかったところで――殴られた。
 サフィの身体が椅子をなぎ倒しながら吹っ飛ぶ。

 少し遅れて、状況についていけていなかったアミちゃんが、思い出したように泣き出した。

「ああ、くそ! 馬鹿ガキが余計なことしやがったから! 俺ぁ、ガキのきんきんする泣き声が大嫌いだってのによ!」

「馬鹿はてめーだ! だから、やめとけつったろーが!」

 私は、泣き叫び続けるアミちゃんと、床に落ちて踏み躙られた絵を見た。

 なにがか切れる音が聞こえた。

 できれば、介入はしたくなかったのだけれど。

「少々、拝見」

 私はつかつかと歩み寄り、男の手から借用書を抜き取った。

「なにしやがる、返せ!」

 なるほど。確かに借用書の書式は正規のもの。
 夫婦が留守にしているのは、金策に走っている最中ということね。

「でも、これは無効ね」

 私はあっさりと借用書を破り捨てた。

「この金利は認可額を超えているわ。なにより、証書にアルフィリエーヌ家の印がない。貴方がた、もぐりでしょう?」

 男たちが盛大に何事かを喚いている。

 私は正体を偽っている身の上。ここで大事になると、家に迷惑をかけるかもしれない。
 理性では重々わかっている。

 ――でも、もう限界。

 怒りで、目の前がちかちかする。我慢できない。つい先ほど、する気も失せた。

 その後の数分ほどのことは、正直、あまり覚えていない。
 男たちの顔の原型がなくなるくらいまで、馬乗りになっ押さえつけタコ殴りに殴打したことはわかるのだけれども。

「レイア……おまえ、女……?」

 あら。
 暴れた拍子で帽子が脱げてしまったようね。
 零れ落ちた長髪を指差して、サフィは動揺しているようだった。

 親を馬鹿にされて怒ったり、私が女と知って動揺したり、この子も可愛げはあったということね。

 少々残念ではあるけれど、もう潮時。
 料理のいろはくらいは身に着けることが出来たので、今はこれでよしとしましょう。

「では、ごきげんよう」

 スカートは穿いていなかったので、私は紳士がするように胸に手を当ててお辞儀をし、そのまま走り去った。


 その後、悪質な高利貸しが摘発されたのだけれど、それは当然の報いね。
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