9 / 26
魚、獲ったことってありますか?
しおりを挟む
目的の河沿いに着いた頃には、もう夕方近くなっていた。
やはり上から見下ろしての距離と、実際の移動距離では、だいぶ感覚にズレがあるらしい。
地面が岩場だったのも手間取らされた。
岩場なんて、碌に歩いたこともなかったし。何度、岩の隙間に足を取られて、転びそうになったことか。
それでも、ここまで来た甲斐があった。
なにせ、ここには魚がいる! 魚だったら食べられる!
久しぶりの動物性蛋白質の予感に、お腹も鳴ってきた。
いざ行かん、お魚BBQへ!
と思って既に1時間。
根本的な問題に気づきました。魚ってどうやって獲るのでしょう?
僕だって、独自にいろいろ試してはみたんですよ?
竿かな、と手頃な枝を拾ってきてはみたものの、糸と針と餌がない。
そこいらの樹木の蔓は、釣り糸というには極太過ぎて、まず水に沈まない。
針と餌を探す前の段階で諦めた。
ならば銛かな、と竿を折って、尖った枝にしてみた。
一昔前は、芸人でも簡単に仕留められたくらいだから、頑張れば僕だって――
結果、芸人さんは偉大でした。水の中を素早く動く魚に、碌に河遊びなんてしたことがないゲームっ子の僕には、難易度が高すぎる。
だったらこれで、とバッグの中身を出して空にし、網代わりにしてみたけれど、これもダメ。
網目じゃないから水が抜けず、魚を追い込むどころか、水の抵抗でまともに水中で動かせない。
単なるバッグの濡らし損。
最終手段は手掴み。
この河は幅が広く、中央は深そうだけど、河縁は膝くらいと水深が浅く、水も澄んでいるので泳ぐ魚がよく見える。
これならなんとかなるかもしれない。
「よ~し、しろ! 今度こそ獲るから待っててね!」
「キュイ!」
しろは河原の岩場で、興味深そうにこちらを見ている。
ばしゃばしゃと水を撒き散らし、僕の悪戦苦闘が始まった。
見える範囲でも魚の数は多い。大きさも15cm前後となかなか手頃。
「だぁ~~~!」
でも、掴まらないのは何故か。
挙句の果てには、空振りした勢いそのままに、水の中に頭から引っくり返ってしまった。
全身ずぶ濡れになり身体も冷えた。
「ごめんよー、しろ。これはなかなかに難しいや」
僕は濡れた服を絞りながら、しろの待つ岩場に行くと――しろがなにやら口をもごもごさせていた。
嘴の端から、魚の尻尾らしきものが見えている。
おや?
「……それって、もしかして魚? どうしたの?」
「キュイ?」
しろは首を傾げてから、大空へと舞い上がった。
上空で一回転し、河面すれすれを滑空したかと思うと、一瞬だけ水切り石のように水面に顔を潜らせ、再び上空に舞い上がる。
「おお~」
僕は馬鹿みたいに大口を開けて顔ごとしろの軌跡を追っていた。
元の岩場の上空まで戻ったしろは、純白の翼を広げて音もなく着地した。
そして、しろの嘴には、見事な魚が咥えられている。
僕の苦労ってなんだったんだろ、という言葉は呑み込み、ここはもう、素直に狩人しろさまにあやかることにした。
◇◇◇◇◇
調達はしろに任せて、僕は焚き火の用意をすることにした。
河の周辺の落ち枝は湿気っているので、少し離れた場所まで薪となる枝を採りにいく。
30分ほどして岩場に戻ると、しろはよっぽど張り切ってくれたのか、岩場にちょっとした魚の山ができていた。
採ってきた薪で櫓を組み、しろのブレスで火を点けてもらう。ここでも、しろ大活躍。僕が役に立っていないだけの気もするけれど。
魚の口から細い枝を突き刺し、焚き火の周りに等間隔に並べる。
実際にやったことはないけど、マンガ知識からはこんなものかな。なんでも知っておいて損はないね。
待つこと数分で、香ばしくいい匂いが漂い始めた。じゅうじゅうと皮が焦げて弾け、内側から魚の脂が溢れる。濃厚な脂が枝を伝わって滴り落ちていた。
嗅覚と視覚のダブルパンチが胃を直撃し、恥ずかしげもなく音を響かせる。
もう我慢は無理でした。
「いっただっきまー」
語尾の「す」が被る勢いで、僕は焼き魚に齧りついた。
ほくほくして弾力のある身と、脂の甘さがたまらない。焼き魚って、こんなに美味しいものだったっけ。
貪る勢いで、一気に3匹分を食べ尽くし、ようやく一息吐いた。
欲を言うと、塩があれば、なおよかった。醤油があれば言うことない。だったら、大根おろしなんて――
いやいや、贅沢はいけない。
まずは最大、というか、ほぼ唯一の功労者、しろに感謝をしておこう。
「ありがとう、しろ。美味しかったよ」
口に出すのは大事だからね。
しろは、焼き魚に夢中で、気づいてなかったけれど。
さて、人心地着いたところで、そろそろ寝床の準備をしないとね。
しろの奮闘のおかげで、魚にはまだ余裕があるから、明日の食料も充分。
食料の心配をしなくていい分、明日は移動に集中できそう。
久しぶりの食いでのある食事で、英気も養えた。
明日は人里に出れるといいなぁ。
やはり上から見下ろしての距離と、実際の移動距離では、だいぶ感覚にズレがあるらしい。
地面が岩場だったのも手間取らされた。
岩場なんて、碌に歩いたこともなかったし。何度、岩の隙間に足を取られて、転びそうになったことか。
それでも、ここまで来た甲斐があった。
なにせ、ここには魚がいる! 魚だったら食べられる!
久しぶりの動物性蛋白質の予感に、お腹も鳴ってきた。
いざ行かん、お魚BBQへ!
と思って既に1時間。
根本的な問題に気づきました。魚ってどうやって獲るのでしょう?
僕だって、独自にいろいろ試してはみたんですよ?
竿かな、と手頃な枝を拾ってきてはみたものの、糸と針と餌がない。
そこいらの樹木の蔓は、釣り糸というには極太過ぎて、まず水に沈まない。
針と餌を探す前の段階で諦めた。
ならば銛かな、と竿を折って、尖った枝にしてみた。
一昔前は、芸人でも簡単に仕留められたくらいだから、頑張れば僕だって――
結果、芸人さんは偉大でした。水の中を素早く動く魚に、碌に河遊びなんてしたことがないゲームっ子の僕には、難易度が高すぎる。
だったらこれで、とバッグの中身を出して空にし、網代わりにしてみたけれど、これもダメ。
網目じゃないから水が抜けず、魚を追い込むどころか、水の抵抗でまともに水中で動かせない。
単なるバッグの濡らし損。
最終手段は手掴み。
この河は幅が広く、中央は深そうだけど、河縁は膝くらいと水深が浅く、水も澄んでいるので泳ぐ魚がよく見える。
これならなんとかなるかもしれない。
「よ~し、しろ! 今度こそ獲るから待っててね!」
「キュイ!」
しろは河原の岩場で、興味深そうにこちらを見ている。
ばしゃばしゃと水を撒き散らし、僕の悪戦苦闘が始まった。
見える範囲でも魚の数は多い。大きさも15cm前後となかなか手頃。
「だぁ~~~!」
でも、掴まらないのは何故か。
挙句の果てには、空振りした勢いそのままに、水の中に頭から引っくり返ってしまった。
全身ずぶ濡れになり身体も冷えた。
「ごめんよー、しろ。これはなかなかに難しいや」
僕は濡れた服を絞りながら、しろの待つ岩場に行くと――しろがなにやら口をもごもごさせていた。
嘴の端から、魚の尻尾らしきものが見えている。
おや?
「……それって、もしかして魚? どうしたの?」
「キュイ?」
しろは首を傾げてから、大空へと舞い上がった。
上空で一回転し、河面すれすれを滑空したかと思うと、一瞬だけ水切り石のように水面に顔を潜らせ、再び上空に舞い上がる。
「おお~」
僕は馬鹿みたいに大口を開けて顔ごとしろの軌跡を追っていた。
元の岩場の上空まで戻ったしろは、純白の翼を広げて音もなく着地した。
そして、しろの嘴には、見事な魚が咥えられている。
僕の苦労ってなんだったんだろ、という言葉は呑み込み、ここはもう、素直に狩人しろさまにあやかることにした。
◇◇◇◇◇
調達はしろに任せて、僕は焚き火の用意をすることにした。
河の周辺の落ち枝は湿気っているので、少し離れた場所まで薪となる枝を採りにいく。
30分ほどして岩場に戻ると、しろはよっぽど張り切ってくれたのか、岩場にちょっとした魚の山ができていた。
採ってきた薪で櫓を組み、しろのブレスで火を点けてもらう。ここでも、しろ大活躍。僕が役に立っていないだけの気もするけれど。
魚の口から細い枝を突き刺し、焚き火の周りに等間隔に並べる。
実際にやったことはないけど、マンガ知識からはこんなものかな。なんでも知っておいて損はないね。
待つこと数分で、香ばしくいい匂いが漂い始めた。じゅうじゅうと皮が焦げて弾け、内側から魚の脂が溢れる。濃厚な脂が枝を伝わって滴り落ちていた。
嗅覚と視覚のダブルパンチが胃を直撃し、恥ずかしげもなく音を響かせる。
もう我慢は無理でした。
「いっただっきまー」
語尾の「す」が被る勢いで、僕は焼き魚に齧りついた。
ほくほくして弾力のある身と、脂の甘さがたまらない。焼き魚って、こんなに美味しいものだったっけ。
貪る勢いで、一気に3匹分を食べ尽くし、ようやく一息吐いた。
欲を言うと、塩があれば、なおよかった。醤油があれば言うことない。だったら、大根おろしなんて――
いやいや、贅沢はいけない。
まずは最大、というか、ほぼ唯一の功労者、しろに感謝をしておこう。
「ありがとう、しろ。美味しかったよ」
口に出すのは大事だからね。
しろは、焼き魚に夢中で、気づいてなかったけれど。
さて、人心地着いたところで、そろそろ寝床の準備をしないとね。
しろの奮闘のおかげで、魚にはまだ余裕があるから、明日の食料も充分。
食料の心配をしなくていい分、明日は移動に集中できそう。
久しぶりの食いでのある食事で、英気も養えた。
明日は人里に出れるといいなぁ。
3
お気に入りに追加
1,028
あなたにおすすめの小説
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
1枚の金貨から変わる俺の異世界生活。26個の神の奇跡は俺をチート野郎にしてくれるはず‼
ベルピー
ファンタジー
この世界は5歳で全ての住民が神より神の祝福を得られる。そんな中、カインが授かった祝福は『アルファベット』という見た事も聞いた事もない祝福だった。
祝福を授かった時に現れる光は前代未聞の虹色⁉周りから多いに期待されるが、期待とは裏腹に、どんな祝福かもわからないまま、5年間を何事もなく過ごした。
10歳で冒険者になった時には、『無能の祝福』と呼ばれるようになった。
『無能の祝福』、『最低な能力値』、『最低な成長率』・・・
そんな中、カインは腐る事なく日々冒険者としてできる事を毎日こなしていた。
『おつかいクエスト』、『街の清掃』、『薬草採取』、『荷物持ち』、カインのできる内容は日銭を稼ぐだけで精一杯だったが、そんな時に1枚の金貨を手に入れたカインはそこから人生が変わった。
教会で1枚の金貨を寄付した事が始まりだった。前世の記憶を取り戻したカインは、神の奇跡を手に入れる為にお金を稼ぐ。お金を稼ぐ。お金を稼ぐ。
『戦闘民族君』、『未来の猫ロボット君』、『美少女戦士君』、『天空の城ラ君』、『風の谷君』などなど、様々な神の奇跡を手に入れる為、カインの冒険が始まった。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。
異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。
そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。
異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。
龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。
現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
前世ポイントッ! ~転生して楽しく異世界生活~
霜月雹花
ファンタジー
17歳の夏、俺は強盗を捕まえようとして死んだ――そして、俺は神様と名乗った爺さんと話をしていた。話を聞けばどうやら強盗を捕まえた事で未来を改変し、転生に必要な【善行ポイント】と言う物が人より多く貰えて異世界に転生出来るらしい。多く貰った【善行ポイント】で転生時の能力も選び放題、莫大なポイントを使いチート化した俺は異世界で生きていく。
なろうでも掲載しています。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる