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第八章

ギルドからの呼び出しです 2

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 カルディナの街の中心部には、ギルド総合会館と呼ばれる建物がある。

 戦後の街の規模拡大に伴ない、多種多様なギルドが増えてきた。
 各々のギルドは独立しているものの、街に拠点を構えている以上、街を取り仕切る運営組織との連携は密とならねばならない。
 そこで、各ギルドへの通達の利便さと不法なギルドの撤廃のため、一箇所にギルド本部を集約することが全体会議のもとで締結された。
 ギルド総合会館の成り立ちである。

 全体集会場を兼ねた中庭を取り囲んで、回の字に建築された3階建ての建物は部屋数で約300、100人収容の大会議場を筆頭に、複数の中小会議場や集会場を備え、宿泊施設や娯楽施設まで完備したカルディナの街のシンボル的な大建築物となっている。
 実際、街の観光名所にも指定されており、人の足が途絶えることはない。

 これまで俺も、ここには数回ほど訪れたことがある。
 初回は商人ギルドへの加入登録時、以降はちょっとした集会や懇親会で、最寄では月光灯花の鑑定に持ち込んだときだ。

 普段は寄合い所も兼ねているため、引退や代替わりで一線を退いた老商人の憩いの場ともなっており訪問も気楽なものだが、今回は呼び出しとあって若干緊張気味なのは否めない。

 タイミング的に、紙販売関連のような気もするが、別に違法や違反をしたわけでもなく、それ以外に心当たりもない。
 俺が新参者でよく知らないだけで、単なる定例的なものかもしれない。
 ただ、やましいことはないが、隠していたい事情が多々あるので困りものだ。

 まずは受付を済ませるために、総合会館の正面口、総合受付所に向かうことにした。

「や。アキトくん、おひさ。なになに? またなにか売り込みに来たの? この前の月光灯花の件、すっごく盛りあがってたねー。あの後、皆の話題になってたんだから!」

 気軽な感じで出迎えてくれたのは、ギルド会館所属の受付嬢だ。
 異世界にも現代日本ふうの服があり、このギルド会館の制服が企業の一般的な制服に酷似している。
 白いブラウスにベスト、タイトスカートという出で立ちだ。あまりにまんまなので、発案者が身内のあの人じゃないかと疑いたくなる。

 ちなみにこの受付嬢、意外に交友関係の広いリコエッタの友人だ。
 以前から彼女づてに俺のことを聞いていたそうで、最初に受付したときに名前で気づき、以降は事あるたびに声をかけてくれる。

「いや~、別に売り込みに来たわけじゃなかったんだけどね。結果的にああなっただけで。話題っていいほう? 悪いほう?」

「もち、いいほう! ああゆう、臨時オークションっての? 商人の街らしくていいなーってことで、定期的にやったらどうかって。上に報告した子が言ってたんだけど、なんだか乗り気みたいだったって!」

「それはすごい。でも、オークション開催主の役は、もうこりごりだけど」

「言えてる! アキトくん、白熱する隣ですっごい微妙そうな顔してたもんねー。で、今日も商人ギルド?」

「そうそう。なんだか、会長に呼ばれちゃってて」

「だったら、いつもの部屋ね。はいこれ」

 受付用紙が差し出された。
 防犯のため、来館者は必ず受付をすることになっている。

 もう慣れたので、訪問先別の専用用紙にちゃっちゃと記名を済ませて提出した。

「うん。OKね。じゃあ、まったねー!」

 手を振って見送られながら、商人ギルドに割り当てられた部屋に向かう。
 商人ギルドは古参の大手だけあって、部屋も西館1階の奥まった場所にある大部屋だ。

 ちなみに、先ほどの受付嬢と仲がよくても、実は名前を知らない。というか、一度も名乗られていないのだから仕方ない。
 相手が一方的にこちらのことを知っており、初対面のときに聞きそびれたものだから、今さら訊くのも気が引けてそのままになってしまっている。

 こういうのは、以前も何度か経験がある。
 たまたまばったり出会って、顔は思い出せるけど名前が出てこない昔の同級生とか。
 話し込んだ末、結局お互いに一度も名前を口にしなかった、みたいな。

 制服の名札ってこのためにあるんだな、と実感させられた。
 名札制度も取り入れてもらえないだろうかと切に願う。

 それはさておき。

 程なくして部屋に着いた。
 中を覗いてみると、十数名ほどのギルド所属の商人たちがいて、談笑したり、商談したり、飲食したりと、思い思いにくつろいでいた。
 くつろぎに商談も含まれているあたり、さすがは商人ギルドといえるだろう。

 商人ギルドに登録している商人の数からすると、大部屋だろうと室内には到底納まりきれない。
 しかし平時の、しかも日中のギルド内はこんなもので、今頃の時間帯、大半の商人は商売に勤しんでいる。
 それを考えると、今のこの人数でも多いくらいだろう。

 顔馴染みとなった商人たちに会釈をして通り過ぎ、部屋のさらに奥に位置する小部屋に向かった。
 扉の前には『ギルド長室』のプレート。
 ここが、俺を呼びだした張本人のギルド長の執務室である。

 ノックをすると、すぐさま返答があった。女性の声だ。

 商人ギルド長に会ったのは、ギルドの加入登録手続き時の1回きり。
 長い白髭を三つ編みにした、サングラスにアロハシャツ姿のファンキーな好々爺だった。

 隣には、秘書と思しき女性がいたのを覚えている。
 なにぶんこの秘書、とあることから印象的だったので、爺さまと共に記憶に色濃い。
 返事をしたのは、こちらの秘書のほうだろう。

「シラキ屋の秋人です。失礼します」

 扉を開けて入室すると、そこに面会相手がいた。

 仮にも、大ギルドの長。前回の装いは、新参者に対してなにか意図があっての格好だったのかと思ったりもしたが――なんの捻りもなく、以前と同じアロハだった。
 室内にデッキチェアを持ち込み、だらしなく仰向けに寝そべっている。
 傍らのスーツをきっちり着込んで直立不動でいる秘書とのギャップがすごい。

「会長、アキトさまがいらっしゃいましたよ」

「あ~?」

 デッキチェアからだらしない声。
 サングラスでわからなかったが、どうやら本気で寝ていたらしい。

 商人ギルドの長、アンダカーレン老。通称、会長。
 齢70の高齢だが、その商人としての敏腕さに陰りはないと言われている。
 若き頃は、種族間を股にかけて大陸中を飛び回る、凄腕の商人だったとか。

 昔はともかく、現状の『敏腕』には、大いに首を捻りたくなる様相である。

「そうじゃったな。よう来たよう来た。まずは座りんしゃい」

 久しぶりに里帰りしてきた孫を出迎えるかのように、対面の椅子を勧められた。
 立派な応接テーブルを挟んで据えられているのは、会長が寝そべっていたのと同じデッキチェアだったが、これも椅子は椅子と諦めて、勧めに応じて腰かけた。

 即座に、テーブルにすっとお茶が置かれるあたり、秘書の人は隙がない。
 年はこちらより少し上の20代前半といったところだろう。
 ちなみに、この人の名前も知らない。やはり名札はなかった。

「エレスタです」

「は?」

「エレスタです」

 繰り返されて、ようやく秘書の人が名乗ってることに気がついた。
 一瞬、胸元を確認した視線で意図を察したらしい。すごい、やはり隙がない人だった。

 でも、もう一度胸元に目をやったとき、両腕を組んでわずかに身体をくねらせていたのは何故だろう。

「…………」

「…………」

 なにやらエレスタさんの眼差しが熱い。

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