もう一つの小学校

ゆきもと けい

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2章 新しい世界への入口

もう一つの小学校

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 校舎内は真っすぐに伸びた廊下に沿うように教室が1列に並んでいる。反対側はすべて窓になっていて、窓の外には小高い山々が見え、青々とした樹々が広がっている。セミの声も聞こえる。
 廊下を歩くと時々きしむような音がするのは、校舎が古いので仕方がない。各教室のドアの上には昔の名残である学年の札が下げられているが、1年生・2年生・・・だいぶ色がおちかけている。

 全員が揃って、玄関口から掃除を始めた。
 下駄箱も昔の名残でそのまま置かれているが、殆どが使われないままだ。
 それでも埃なので汚れる。

 玄関を掃き終えると、上履きに履き替え、手前の教室から順番に掃除を始める。使われていない教室でも、机や椅子はほぼ以前のままで、後ろの方にまとめられて置かれており、椅子は机の上に逆さ向きで重ねられている。

 順番に教室を3つほど掃除すると、次に保健室と教員室が並んでいる。保健室も使われることはないが、救急箱くらいは用意されている。
 掃除していると、結奈ちゃんが、不注意にも壁から出ていた小さい釘で右手の人差し指を切ってしまった。それほど痛がる素振りは見せないが、少し血が出ているようだ。

それに気づいた蓮君が先生に、

「結奈が指怪我したから、先生、絆創膏使うよ」

 保健室に置かれている救急箱から絆創膏を取り出し、結奈ちゃんの指に巻く。

「ありがとう」

 結奈ちゃんがお礼を言うと、蓮君は照れ臭そうに頷く。

 次に教員室の掃除だ。
 先生は2人しかいないが、ここも昔の名残で教員用の机が6つほど置かれている。
 佐々木先生の机と校長先生の机だけに書物が置かれ、PCなどは別の机に置かれている状態だ。山間部だが、インターネットの環境などは整っている。

 手分けして掃除を始める。机を拭く生徒や床を掃除する生徒。部屋の隅奥には空になっている1m60Cmほどの本棚がある。小6の平均身長よりは高い。
ベニア板で作られている本棚なので、安定が悪く、少しガタつく。

 転校生の小阪君が先生に訊く。

「先生、これっているの?」

「ああ、それでしょ。邪魔よね・・・全員でなら動かせるかしら?そんなに重くないハズだけど・・・」

「大丈夫じゃないの?」

「みんな、ちょっと手を貸してくれる・・・」

 沙織先生がみんなを集める。

「ちょっとこの本棚を横に動かしてみるから手伝って・・・
ムリしちゃだめよ。ムリならムリと言ってね」

 本棚は思ったより軽く、女子の手を借りることなく簡単に持ち上がった。
 横にずらすと、その後ろには本棚とほぼ同じ大きさのドアがあった。

(本棚の後ろに部屋なんかあったの?校長先生は何も言ってなかったけど・・・)

 沙織先生はちょっと不思議に思う。

「開けてみようか?」

 小阪君がドアノブに手をかける。

「中に死体があったりして・・・」

 蓮君が笑いながら冗談交じりに言う。

「そういう怖い事は言わないの・・・いいわね?」

 沙織先生が蓮君をたしなめる。

 小阪君が開けたドアの先の部屋は畳4畳半ほどのスペースで何もない。ただの空間だ。木造校舎のため、かすかに古い木の匂いがする。

「入ってみようか」

 部屋のすぐ左脇に電気のスイッチがあり、天井の1本の蛍光灯が点いた。使われていないせいだろう、蛍光灯の灯りは黄色味がかっている。

 沙織先生も含め、全員が中に入ってみる。自然とドアが閉まる。
 次の瞬間、全員が妙な違和感を全身で感じた。フワっと浮いているようでいて、身体が重くなる変な感じだ。

 部屋の蛍光灯が消え、一瞬暗くなる。

 暗闇の部屋の外から突然、子供たちの声が聞こえ始めた。何をしゃべっているのかはわからないが、ざわざわとした感じは伝わってくる。でも間違いなく子供の声だ。
 灯りが点いた。やけに明るい。頭上には蛍光灯ではなくLEDライトがあった。
 部屋の壁も木製だったはずだが、コンクリート製に変わっている。
 全員が言葉を失い。互いに顔を見合わせる。沙織先生も含め、意味がわからない。

 転校生の小阪君が、ドアノブの方へ近寄りみんなの方へ振り返ると、ゆっくりと口を開いた・・・

 時間はちょうど10時。


  2章 新しい世界への入口 完 続く
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