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 思わず指をさして、問いかけてしまう。
「会ったことありましたっけ?」
「俺はセーザの友達だ」
 確かセーザはヘテロフォニーの楽器店にお世話になっていた筈。
 ヘテロフォニーはセーザと聞き、顔を暗くする。まさかローのようにセーザのファンだったのか? 友達と聞き嫉妬しているんだろうか。
「貴方はセーザの友達だったのですか?」
 そう言ってきたのはアルトだ。
「そうだ! 大親友だ!」
「セーザのことを知らないのか?」
 そう聞いたのはコーダである。
 セーザのことなら知っているが、と首を傾げれば、二人は目を合わせて押し黙る。それ以上は話さなかった。
 何だ、何が起きている。
 むぅ、としていれば、ヘテロフォニーが「何の楽器をお探しですか」と聞いてくる。
「いいギターはあるか? セーザにプレゼントする」
「は、はぁ、でもセーザ様は長年使って来た愛用のギターがある筈ですけど」
「ならメンテナンスに必要な一式を贈りたい」
「分かりました。用意しますのでお待ちを!」
 ヘテロフォニーが準備を済ませれば、お金を払うように言われる。そう言えば持って来ていなかった。
「ヴェルヴァッカ家に請求しておいてくれ」
「ヴェルヴァッカ家!?」
「どうした?」
 子供のヘテロフォニーがヴェルヴァッカ家の恐ろしさを知っているとは思えないが。
「ヴェルヴァッカ家と言えば、うちの商品も届けてくださる貿易会社のあのヴェルヴァッカ家でしょう!? いつもお世話になっております!」
「おお、うちもちゃんと人の役に立っていて嬉しいぞ」
「ヴェルヴァッカ家は世界各国を繋ぐ貿易会社です、みんな助かっているに決まっています!」
「うんうん、ヘテロフォニーはいい子だな」
 頭を撫でると、「恐れ多いです」と言われる。
 ヘテロフォニーと別れてから、クラストラ皇国の城へと馬車で向かう。いつの間にか馬車が2台になっていた。恐らく店に入っている間に来たのだろう。城下町だから来るまでにそう時間は掛からない。
 城へ着くと、またもやイギウォンドにエスコートされる。ララから邪気が発せられた気がしたので悪役令嬢の必殺技邪気返しを喰らわせてやった。ドヤ顔で歩いていれば、何かにつっかえてこけそうになる。それをイギウォンドに抱き止められた。
「あら、ごめんなさい。裾を踏んづけてしまったみたい。男爵令嬢は寛容だからいいわよね」
 ララか。悪役令嬢がそんなんでどうする! もっと清楚で可憐でみんなの幸せを考えるような少女が悪役令嬢になれるのだぞ! いや、ララは既に悪役令嬢か……くたばれ!
「いつ俺が寛容だと言った。俺に手を出せばいずれ自分の身に危険がおよぶとも知らずに、可哀想なやつだ」
「なっ、なんですって、男爵令嬢のくせに、お父様に言いつけるわよ」
「その前に陛下に言いつけてみてはどうだ? どうなるかは分かっているだろうけどな」
 それに答えたのはジンゾウラだった。
「ヴェルヴァッカ家とはいったい何なんだい」
「知らないでいた方が幸せなこともあります」
 落ち着かせるようそう言うが、相手は納得していなさそうだ。悪役令嬢の後光を浴びせたのにどうしてだ。
「それよりバルコニーはあるか?」
「バルコニーが好きなんですか?」
 アルトがそんなことを聞いてくる。
「バルコニーは最も転生に近しい場所と言ってもいい!!」
「てんせい?」
「悪役令嬢になることだ!」
「あくやくれいじょう?」
「最も自由で美しく気高く眩しい存在、それが悪役令嬢だ!」
「つまり……シルベリウス様のことはアクヤク令嬢と呼ぶべきなのですか?」
 な、何だと。
 口を開け放って横顔を眺めていれば、真顔で「何ですか」と聞いてくる。
「俺を悪役令嬢と呼んでくれて、認めてくれる人がいるなんて!」
 感極まって抱き付けば、相手は身体をびくつかせる。ララが顔を真っ赤にして叫んだ。
「王子に気安く触れるだなんて! 無礼にも程がありますわ!」
「わたくしだって、ですわますわありますわ言葉くらい使えますわ!」
 そんなマナーだの作法だの知らないのだから仕方がないだろう。そう思いながら離れるが、相手は真顔で突っ立ったまま動かない。どうした。
 揺すってみるがゆらゆらと揺れるだけである。
 イギウォンドの手を取って歩き出す。
「ほっとこ」
「えええええ、待て待てっ?」
 仕方がない、待ってやるか。
「に、兄様。おーい大丈夫か?」
「コーダよ、いったいどうしてそうなったのだ?」
「兄様はあまり女性に触れられたことがないからな? ……て言うか女の子は好きじゃないと言うか?」
「そうなのか?」
 そんな設定があったようななかったような。だってアルトは主人公としかあんまり話さなかったし。いや寧ろそれが女嫌いと結びついている!?
「兄様、大丈夫ですか?」
「…………シルベリウス様、イギウォンド様」
「うん?」
 アルトはイギウォンドと反対の手を握ってくる。
「今回は私にエスコートさせて下さい」
「どうした急に」
「女性への苦手意識が、貴方からは感じないのです」
 そりゃそうだ男なのだから。
「それは良かった。それにしても俺に案内は必要ない。冒険したいからな。イギウォンドも離してくれたまえ」
 アルトから手を離してイギウォンドに振り向けば、イギウォンドは顰めっ面を見せてくる。何だその顔は。
 イギウォンドはこそっと耳打ちして来た。
「頼む、ララをエスコートしたくないんだ」
「そんなに嫌いなのか?」
「嫌っているわけではないが、だからと言ってエスコートしたら何か勘違いされそうだろう?」
 なるほど、確かに。
「分かった。仕方がない。エスコートされてやろう」
 そう言うと、アルトがすかさず反対側の手を握ってくる。
「狡いです。私もエスコートしたいのに」
「は、離したまえ」
「だめですか?」
 笑顔の圧が凄い。アナとどこか似ている気がする。そう思うと可愛く見えてくるぞ。
「よし、許そう」
「兄上……二人でエスコートなんて変すぎるよ……」
「兄様……まさかそんな訳ないよな、会ったばかりだよな? 確かに美しいが?」
「何なんですの、何なんですの!?」
 俺達はバルコニーへ向かったのだった。
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