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 自分の部屋に戻り、疲れて眠りについていれば。優しい手が髪を梳く。
「悪魔……?」
「こう言う時くらいお兄ちゃんって言ってよ」
「……学校は終わったのか? 仕事は?」
「何スルーしてんだよ」
 はあ、と溜息を吐いてベッドに寝転がってくる。
「何か今日は色々と疲れたんだよね~。誰かさんのせいで~」
「何かあったのか?」
「俺以外の男とキスしたよね?」
「ひぐ。そ、その、あれは、子供の戯れで」
 真顔怖い。
「俺だってまだ子供だよ」
 笑顔も怖い。
 手を握ってくるな。顔を近付けるな。
「……貴様がいなくなってから寂しかった」
「え」
「屋敷の中、つまんなかった」
「か、かわええ」
「こっちは真面目に話してるんだが」
「ごめん。疲れてんだよね。許して」
 広過ぎる屋敷はやはり落ち着かないのかな。現役JKだった頃はやはり家族がいたし、寂しくなんかなかったが。
「遊べないし、転生も出来ないし、勉強する位なんだよな」
「お兄ちゃんも勉強する意味あるのかって感じなんだよね。だってこの世界のことだよ? 余裕過ぎてチートレベル」
 自覚があったか。
「まあそろそろ卒業しようかな」
「え、中等部は?」
「どこへ行こうと俺には同じなんだよねー。其れに幾ら前世が神とは言え、幼いガキンチョの身体だからさ。身体の疲労が抜けなくて。ストレスも溜まるし、ズレは多いし。いつ片付くのやら。正直学校とか通ってる意味ないわ。魔法の制御も余裕だしな」
「帰ってくるのか?」
「んにゃ。先ずはズレの修正をしないと、最近また増えて来たんだよね。1個残ってたらどんどんズレちゃうから。数も規模も増幅してホント面倒。ゴキブリかよ」
「何で複数の世界の融合なんかしたんだよ?」
「……どうせなら楽しい世界に転生したかったし。何より、お前が諦めないから。でも叶わないって分かってるから、どうにかしてあげたくて。お前が喜びそうな世界にしたんだけど。結局お前はこの世界を気に入ってはくれなかったよ」
「な、何でそこまで」
「さあ、何でかな。愛着がわいたのかな。問題児に」
 やんちゃな生徒ほど可愛いと言うアレか?
 悪魔がポソリと呟いた。
「……まあ、理由なら分かってるんだけど」
「え、何何どんな理由だ?」
「地獄耳かよ!?」
 そんなことはないと思うが。
「今の独白的なアレだろ察してくれよ~」
「独白なら一人の時してくんない?」
 そう言えば、悪魔は渋々話し出す。
「……その、俺って転生者だったんだよね。神に転生したの」
「つ、つまり、前世ではサラリーマンだけど神様に転生しちゃった、とかそう言う最強系転生モノ?」
「そんないいもんじゃないよ。睡眠も食事もいらないし、ただじっと誰もいない空間で、頭の中に入ってきた管理下にある全世界の情報を眺める役。これはおかしいだろうって言う世界のズレだけを直すんだ。いつからあそこにいたのかも分からない。前世で何をしていたのかも、とっくの昔に忘れたし。もしかしたら最初から神様だったのかもしれない、妄想かもしれない」
「シャワーのある空間なのか?」
「出そうと思えば出せるよ。必要ないけどさ……。身体も汚れないし。もちろんトイレもいらないし。洗濯物だってない。身体がないんだ。精神だけ浮いてる世界。でもお前は前世の記憶を思い出してすぐ、転生し直すなんて言い出した。俺はそれが腹立たしかった。転生なんて出来て溜まるかってさ。しかも俺は死ねない、お前は死ねるなんてムカついた。だから邪魔をした」
 さ、逆恨みが激しいぞ。なんて奴だ。今頃俺は悪役令嬢になっていたと言うのに。
「だから無理だってば。……でもだんだんと凄い奴だと思い始めた。どんなに阻止しようと、お前は諦めそうもない。そもそも、もう一回転生してやるなんて考え方に驚いたよ。そしたらお前が言うじゃないか、こっちに転生して来い、だなんて。そんなこと思いつきもしなかった」
 俺ならすぐに悪役令嬢に転生するんだがな。
「そうだね。その通りだ。お前ならそうする。俺は嬉しくてすぐ転生したよ。素晴らしかった。ずっと頭の中で見てきた世界が、目の前に広がっていて、触れて。風の心地良さも、匂いの素晴らしさも。世界のことなんてこれっぽっちも理解していなかったんだって気が付いた。俺はお前に会ってみたくなって、直ぐに向かったんだ」
 確かに直ぐに現れたな。
「……本物のお前が目の前にいることに感動した。触れられるか試したら、お前はちゃんと温もりをくれた。本当はゾッコン設定なんてないんだ。お前に触れたかったから、演じていた。お前のそばにいたいと思ったから弟にした。俺を救ってくれたお前が愛しいと思った」
「あ、悪魔?」
「変だろう。こんなの。お前相手にドキドキするなんて」
「……そう、思う」
 自分で言っといてなんだが、俺はありえない、絶対に。悪役令嬢ならまだしも。はっ! 悪役令嬢の魂に惹かれてしまったか。
「そうだね。君の魂に引かれたのかも」
「真面目に返してくるな」
「だからさ、つまりさ、何が言いたいかと言うとさ、俺はお前をめちゃめちゃ愛してるのにさ、あんな奴より先に君のこと好きなのにさ、どうしてあんなちびっ子に君のファーストキスを奪われなきゃなんないのかって話でさ」
「あの、話の雲行きが怪しいんですけど……」
「つまりさ、キスしてもいいよね?」
「絶対に嫌だッ!?」
 貴様は兄なんだぞ、仮にも神なんだぞ、嫌がる相手を無理矢理なんて駄目だからな! 禁忌である!
「神が禁忌を犯す……興奮するね」
「やめろそれ以上近寄るなッ!?」
 ベッドの上に組み敷かれて、逃げ場がない。あの拷問を本気で実行する気か貴様!?
「俺の方が好きだから」
「……わ、分かったから」
「分かってない。俺がどれだけお前を愛しているか」
「いや、貴様以上に俺を好きになれる奴なんていないと思う」
「シ、シルベリウス」
 何故そこで感動した。
 唇にはキスしてこなかったものの、顔中にちゅっちゅされてしまった。ああ、トラウマになりそう。
 やっぱり帰ってくんな貴様。別邸に引き篭ってしまえ。
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