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⑦
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「に、庭案内するよ」
振り返らせたら大変なことになる。
「こっち」
「も、もう繋がなくてもいいんじゃないか」
「は? 屋敷は広いんだぞ、迷子になられたら困る」
「そ、そっか。その、せめて手で繋がないか? い、嫌ならこれでも構わないけどさ!」
何を動揺しているんだ此奴は。
腕を離し、冷たい手を取る。闇の魔法が影響しているんだろうか。氷のように冷たい手だ。
冷たい手が、恐る恐る握り返してくる。
「あ、暖かいね、シルの手」
「そりゃ、こんだけ冷え冷えの手なら暖かく感じるだろう」
「そ、そうなのかな……」
ん? そう言えば初めてセーザにシルと呼ばれたな。なかなか悪くない。
「行くぞ」
「うん。あ、でも召使いさん達――……んなッ!?」
「振り返ってはダメだ!」
「べぶっ」
飛び付いて押し倒したが、意味はなかったようだ。目を零れんばかりに開いていらっしゃる。
「ん? 何だ、何か股間に当たって」
もぎゅっと言う音がして、股間の彼奴の周りを何かがちょろちょろと蠢く。
「お、おま、おま、おま」
「ん?」
セーザが真っ青だ。冷え過ぎたんじゃないのか? 大丈夫か?
「男おおおおおおおおおおおおッ!?」
「おお、バレてしまったか。これは仕来りなんだ、あまり広めないでくれたまえ」
股間を触られてしまったようだな。
「おお、じゃない! お、男だったなんて、かわ、かわいいなって思ってたのに。ひ、酷いあんまりだ騙していたのか!」
「あの悪魔と同じことを言うんだな、騙していた訳ではない、12歳になるまではずっとこの姿でいなければならない。仕来りなのだ」
「そ、そんなの、そんなのって……せっかく、せっかく」
「折角? 何だ?」
「う、うるさいドアホ! 変態女――いや男! 俺に近付くな!」
「変態は俺の兄だ、彼奴に文句を言いたまえ」
「そんなぁぁ、はじめて、はじめてだったのに」
「男の股間を触ったことがそんなに嫌か? まあ確かに嫌だな、仕方ない、俺も経験してやろう」
相手のそれに触ろうとすれば、「ややややめろ変態男! 近寄るな触るな!」と後ずさる。
急にどうしたんだ。
そ、そうか。兄や両親や召使い達は、仕来りで女装する俺を見ても可笑しいとは思わない。セーザは今、俺の事を気持ち悪いと、思っているのか。
「……すまないセーザ。騙すつもりは……」
「う、うるさい! 騙したことには変わりない……!」
その通りだ。
友人なら男だと言ったって良かった筈だ。
「すまない。セーザ。許してくれ……」
「近寄るなってばッ……」
「セーザ」
折角友人ができたと思ったのに。早速嫌われてしまったか。
……せっかく?
そうか、セーザもこれを思ったんだ。孤独だったのだから、俺が人間で初めての友人だったのかもしれない、俺は傷付けてしまったのだ。
「セーザ、待ってくれ」
逃げようとするセーザを引き止めようと手を握るけれど、弾かれてしまった。
「……や、やだ。セーザ」
「来るなってば!」
「嫌わないでくれ……」
「――気持ち悪いんだよこの変態男……!」
感情が決壊した。
ここまでの感情の動揺を、感じたことは無い。
「…………気持ち、悪い……セーザは、俺が、俺の事が」
怖い。
セーザからドレスの裾を引き摺りながら離れる。
「シル……?」
相手の顔が見えなかった。
「シ、シル」
「き、嫌わないでセーザ、お願い……嫌いにならないで」
目頭が熱くなり、ボロボロと頬を涙が濡らした。
苦しい。拒絶されることの苦しさはこんなにも辛いものだったのか。
仕来りとはいえ、女の格好をしている自分は気持ち悪い。
男の癖に、悪役令嬢に憧れている自分はもっと、気持ち悪いのかもしれない。
いや、そもそも、ただの女子高生だった自分が、悪役令嬢になりたいなんて、強くて美しい令嬢になりたいだなんて、バカな話だったのかもしれない。
この世界に来てからの不安が一気に押し寄せる。何より今一番怖いのは、セーザに嫌われること。
「ぬ、脱ぐ。脱ぐから、こんな格好もうしないから嫌いにならないで、気持ち悪いなんて言わないでくれ」
「シ、シル落ち着いて。ごめん。ごめんねシル。すまない、俺が悪かった。動揺していたんだ、嫌いになんかなってない。気持ち悪いとも、思ってないから」
脱ごうとしてから逃げようするのを、ぎゅっと抱き締められて引き留められる。
「嘘だ、さっき気持ち悪いって言っただろう」
「シ、シルは男でも可愛いよ!」
「……へ?」
そんなこと、誰も聞いてないけど。
そう思って顔を上げれば、相手の長いまつ毛が間近に迫る。
唇の上に、むに、とした感触が触れる。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
……何?
何だ? 何が起きている?
セーザの顔が離れて感触は消えた。
「き、気持ち悪くなんかないよ。嫌いになんか、なってない」
「セーザ、今、何した?」
「何って……?」
今、確かに。唇に。
目の前の顔が真っ赤っかに染まり上がる。ぱくぱくと口を開閉してから、ぎゅうっと俺を抱き締めた。
「ごごごごごごごめ、ごめん! お、俺、なんて事! 責任は取るから!」
「せ、責任?」
「あ、でもシルは男の子。で、でも、その。俺、分かんない、どうしたらいいのか分かんないっ」
く、苦しい。
何だこの爆音、セーザの心音か?
「す、好き。好きだよシル」
「う、うん。俺もセーザのこと好き」
「シル……」
あの悪魔みたいなこと言うんだな。
身体を離して、顔を近付けてくる。
「嫌いになんてならないから泣き止んでくれ」
「う、うん。もう大丈夫だ」
頬に冷たい指先が擦れて涙を拭ってくれる。額が触れて、鼻先が触れる。
「シル、好き」
「あ、あの」
もう一度、唇にあの感触が乗る。こ、これって。や、やっぱり、き、キス!?
「セ、セーザ!?」
「シル」
「ちょっ!?」
再びちう、と吸いつかれて、パニック寸前だ。子供の戯れとはいえ、悪魔に知られたら大変なことになるぞ!
「セ、セーザ、キスは友達同士でするものじゃないぞ!」
「え、友、だち」
「そうだよ。男同士なんだから、好き同士でも男じゃ結婚は出来ないし。何より、この好きは友達の好きだろ?」
「そ、そう、だね。あはは、ははは。男の子なんだった。あはは。シルは、男の子……俺は、どうしたら」
にしてもファーストキスが男とは。流石は悪役令嬢の魂だな。攻略キャラを惹き付けてきまうのか。
「セーザ。どうする? 遊ぶか?」
「ど、どうしようか」
両方涙でくしゃくしゃである。遊ぶ気分にはなれない。
「うぬぅ、よし、もっかいキスしとくか?」
「何でだよ!?」
冗談だったのに鋭い反応である。
しかも、唇ではないとはいえ頬にはキスされてしまった。
「あのさ、セーザ。まさか、好きってそっちの方の」
そうだったなら凄く申し訳ないことをした。悪役令嬢の魂に惹かれてしまったなら説明がつく。
「……あ、遊ぼうシル。沢山。本当は勉強しに来たんだけどな」
はぐらかされてしまったな。
「う、うん。よ、よし、じゃあ飛び降りようではないか!」
「何でだ!?」
「来たまえ! スッキリするぞ!」
「死ぬってことだろ!?」
振り返らせたら大変なことになる。
「こっち」
「も、もう繋がなくてもいいんじゃないか」
「は? 屋敷は広いんだぞ、迷子になられたら困る」
「そ、そっか。その、せめて手で繋がないか? い、嫌ならこれでも構わないけどさ!」
何を動揺しているんだ此奴は。
腕を離し、冷たい手を取る。闇の魔法が影響しているんだろうか。氷のように冷たい手だ。
冷たい手が、恐る恐る握り返してくる。
「あ、暖かいね、シルの手」
「そりゃ、こんだけ冷え冷えの手なら暖かく感じるだろう」
「そ、そうなのかな……」
ん? そう言えば初めてセーザにシルと呼ばれたな。なかなか悪くない。
「行くぞ」
「うん。あ、でも召使いさん達――……んなッ!?」
「振り返ってはダメだ!」
「べぶっ」
飛び付いて押し倒したが、意味はなかったようだ。目を零れんばかりに開いていらっしゃる。
「ん? 何だ、何か股間に当たって」
もぎゅっと言う音がして、股間の彼奴の周りを何かがちょろちょろと蠢く。
「お、おま、おま、おま」
「ん?」
セーザが真っ青だ。冷え過ぎたんじゃないのか? 大丈夫か?
「男おおおおおおおおおおおおッ!?」
「おお、バレてしまったか。これは仕来りなんだ、あまり広めないでくれたまえ」
股間を触られてしまったようだな。
「おお、じゃない! お、男だったなんて、かわ、かわいいなって思ってたのに。ひ、酷いあんまりだ騙していたのか!」
「あの悪魔と同じことを言うんだな、騙していた訳ではない、12歳になるまではずっとこの姿でいなければならない。仕来りなのだ」
「そ、そんなの、そんなのって……せっかく、せっかく」
「折角? 何だ?」
「う、うるさいドアホ! 変態女――いや男! 俺に近付くな!」
「変態は俺の兄だ、彼奴に文句を言いたまえ」
「そんなぁぁ、はじめて、はじめてだったのに」
「男の股間を触ったことがそんなに嫌か? まあ確かに嫌だな、仕方ない、俺も経験してやろう」
相手のそれに触ろうとすれば、「ややややめろ変態男! 近寄るな触るな!」と後ずさる。
急にどうしたんだ。
そ、そうか。兄や両親や召使い達は、仕来りで女装する俺を見ても可笑しいとは思わない。セーザは今、俺の事を気持ち悪いと、思っているのか。
「……すまないセーザ。騙すつもりは……」
「う、うるさい! 騙したことには変わりない……!」
その通りだ。
友人なら男だと言ったって良かった筈だ。
「すまない。セーザ。許してくれ……」
「近寄るなってばッ……」
「セーザ」
折角友人ができたと思ったのに。早速嫌われてしまったか。
……せっかく?
そうか、セーザもこれを思ったんだ。孤独だったのだから、俺が人間で初めての友人だったのかもしれない、俺は傷付けてしまったのだ。
「セーザ、待ってくれ」
逃げようとするセーザを引き止めようと手を握るけれど、弾かれてしまった。
「……や、やだ。セーザ」
「来るなってば!」
「嫌わないでくれ……」
「――気持ち悪いんだよこの変態男……!」
感情が決壊した。
ここまでの感情の動揺を、感じたことは無い。
「…………気持ち、悪い……セーザは、俺が、俺の事が」
怖い。
セーザからドレスの裾を引き摺りながら離れる。
「シル……?」
相手の顔が見えなかった。
「シ、シル」
「き、嫌わないでセーザ、お願い……嫌いにならないで」
目頭が熱くなり、ボロボロと頬を涙が濡らした。
苦しい。拒絶されることの苦しさはこんなにも辛いものだったのか。
仕来りとはいえ、女の格好をしている自分は気持ち悪い。
男の癖に、悪役令嬢に憧れている自分はもっと、気持ち悪いのかもしれない。
いや、そもそも、ただの女子高生だった自分が、悪役令嬢になりたいなんて、強くて美しい令嬢になりたいだなんて、バカな話だったのかもしれない。
この世界に来てからの不安が一気に押し寄せる。何より今一番怖いのは、セーザに嫌われること。
「ぬ、脱ぐ。脱ぐから、こんな格好もうしないから嫌いにならないで、気持ち悪いなんて言わないでくれ」
「シ、シル落ち着いて。ごめん。ごめんねシル。すまない、俺が悪かった。動揺していたんだ、嫌いになんかなってない。気持ち悪いとも、思ってないから」
脱ごうとしてから逃げようするのを、ぎゅっと抱き締められて引き留められる。
「嘘だ、さっき気持ち悪いって言っただろう」
「シ、シルは男でも可愛いよ!」
「……へ?」
そんなこと、誰も聞いてないけど。
そう思って顔を上げれば、相手の長いまつ毛が間近に迫る。
唇の上に、むに、とした感触が触れる。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
……何?
何だ? 何が起きている?
セーザの顔が離れて感触は消えた。
「き、気持ち悪くなんかないよ。嫌いになんか、なってない」
「セーザ、今、何した?」
「何って……?」
今、確かに。唇に。
目の前の顔が真っ赤っかに染まり上がる。ぱくぱくと口を開閉してから、ぎゅうっと俺を抱き締めた。
「ごごごごごごごめ、ごめん! お、俺、なんて事! 責任は取るから!」
「せ、責任?」
「あ、でもシルは男の子。で、でも、その。俺、分かんない、どうしたらいいのか分かんないっ」
く、苦しい。
何だこの爆音、セーザの心音か?
「す、好き。好きだよシル」
「う、うん。俺もセーザのこと好き」
「シル……」
あの悪魔みたいなこと言うんだな。
身体を離して、顔を近付けてくる。
「嫌いになんてならないから泣き止んでくれ」
「う、うん。もう大丈夫だ」
頬に冷たい指先が擦れて涙を拭ってくれる。額が触れて、鼻先が触れる。
「シル、好き」
「あ、あの」
もう一度、唇にあの感触が乗る。こ、これって。や、やっぱり、き、キス!?
「セ、セーザ!?」
「シル」
「ちょっ!?」
再びちう、と吸いつかれて、パニック寸前だ。子供の戯れとはいえ、悪魔に知られたら大変なことになるぞ!
「セ、セーザ、キスは友達同士でするものじゃないぞ!」
「え、友、だち」
「そうだよ。男同士なんだから、好き同士でも男じゃ結婚は出来ないし。何より、この好きは友達の好きだろ?」
「そ、そう、だね。あはは、ははは。男の子なんだった。あはは。シルは、男の子……俺は、どうしたら」
にしてもファーストキスが男とは。流石は悪役令嬢の魂だな。攻略キャラを惹き付けてきまうのか。
「セーザ。どうする? 遊ぶか?」
「ど、どうしようか」
両方涙でくしゃくしゃである。遊ぶ気分にはなれない。
「うぬぅ、よし、もっかいキスしとくか?」
「何でだよ!?」
冗談だったのに鋭い反応である。
しかも、唇ではないとはいえ頬にはキスされてしまった。
「あのさ、セーザ。まさか、好きってそっちの方の」
そうだったなら凄く申し訳ないことをした。悪役令嬢の魂に惹かれてしまったなら説明がつく。
「……あ、遊ぼうシル。沢山。本当は勉強しに来たんだけどな」
はぐらかされてしまったな。
「う、うん。よ、よし、じゃあ飛び降りようではないか!」
「何でだ!?」
「来たまえ! スッキリするぞ!」
「死ぬってことだろ!?」
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