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最終章
番外編 ヴァントリアを愛おしむ会・地下からの訪問者・結婚式への招待状
しおりを挟むヒオゥネとお付き合いしていると発覚した夜、失恋組はみんなで酒場に来ていた。
イルエラの隣にはウォルズ、ウォルズの前にはジノ、その隣にテイガイア、ディオン。そして、それを見守りに来たヘイルレイラとマリルヤングヲードが向かいに座った。
「実際のところあの二人、したと思いますか?」
「こら博士! 子供がいるんですよ」
「お前が言うか。散々僕達の前でべろべろとかでろでろとか言ってただろ」
「そうでしたっけ……?」
ハイブリッドの見た目は変わらないのか、4年前から歳をとっていないように見える。実際には歳を取っているのだろうけれどその速度が普通の人より遅いのだ。生まれた頃は速かったらしいし安定しないのかもしれない。
「確かめに行けばいいんじゃないか?」
そう言ったのは、ヘイルレイラだ。
彼以外の人達はその言葉にピシリと固まった。
「さ、流石に覗き見するのはさぁ!」
「あ、あんな奴どうだっていいンだよ!」
「私は気になる。二人で暮らす意味があるのか? みんなで暮らせばいい」
「い、イルエラくん。分かってないだろう。それはそれで大分気まずいと思うのだが……」
「ヤッてるかヤッてないかこの際はっきりさせるぞ!」
ダンっと机の上に酒を置くディオン。どうやら飲んでいたらしい。
「ディオン!? 酔ったの!?」
ウォルズが尋ねれば、「酔ってない! よし行くぞ!」と言う。
「酔ってる、酔ってるよ! 相当勇気いる行動だよ!? 即決しちゃっていいのか!?」
「気にならないのか?」
「うぐ……」
ウォルズは考える。
気になる、気になりはする。だってヒオヴァンがあんなこんなをしているんだ現実で見たいに決まってるでも現実の見ちゃったらそれはそれで萌えるのかどうかいや現実の光景は流石に――でも気になるぅぅぅ。どんな言葉かけてるのかどうかだけでも知りたい知りたい! あああヒオヴァンは罪だ、これがウォルヴァンだったらこそこそしないでみんなの前でいちゃいちゃしてるのに!
「おい、なんか一瞬寒気がしたぞ」
「行こう!! このチャンスを逃すわけにはいかない!!」
「どんなチャンスだ」
ヘイルレイラのツッコミはさておき、その場にいた全員が立ち上がる。
「ジノは待機で」
「「なんで!」」
「いや純情そうだし……」
「それはイルエラさんだろ!」
「確かに」
だけど子供に見られたらヴァントリアが泣いちゃう。
「ヴァントリアのためだ。我慢してくれ」
微笑むと、ジノは真顔になる。
納得してくれたらしい、去り際に足を踏まれた。
「ってヘイルレイラも来るのか?」
「あいつらの関係にムカついてるから確かめに」
あ、こいつ不憫系だ。
「今何考えた?」
「いやだって好きになりかけてたのに相手はいなくなっちゃうし帰ってきたら婚約者出来ちゃうなんて可哀想だなって」
「ああん!?」
「すみません冗談です」
ヘイルレイラが今後ライバルにならないことを祈ろう。いや、ライバルになってくれた方がいいのかな? ……ヘイヴァン。いい!
勇者サンドもいいな。3Pか。
「な、なんか寒気が……」
「頑張ろうな、ヘイルレイラ!」
「分かってたよテメエが原因だろ!?」
――ウォルズ、イルエラ、テイガイア、ディオン、ヘイルレイラで、ヴァントリアとヒオゥネの住む第1宮殿蛇煌へ向かう。
着いた時には、ヒオゥネはヴァントリアをベッドに押さえつけており、服を脱がしに掛かっていた。
明かりの付いている部屋を見つけたので覗いたのだが。扉を閉めようかとその場にいる皆で目をあちこちにやりながら迷っていると。
ヒオゥネがヴァントリアにキスをした。
ウォルズの目はそれを見てひん剥かれる。
『ヒオヴァンだ、ヒオヴァンが始まるよ、今から始まるよ。現実でも萌える。萌えるどころか燃えたぎる! これは目が離せませんよ!』
『テメエだけだ……』
『ウォルズさん、私はもう大分ダメージが入っているのですが』
『イルエラなんてポカンとしてるぜ』
『ディオンさんは平気そうですな』
『まあ、いつでも奪い返せるし』
その自信はどこから来るのやら。
目の前でくちゅくちゅし始めるヒオヴァンを見て、ウォルズはひあああと目元を覆い隠す。が、指の隙間からガン見する。
服を脱がそうとする手が、止まる。
逆に服を着せようとしているように見える。
あれ? とウォルズが思った時だった。
ヴァントリアとの口づけをやめたヒオゥネと目が合い、ひえ、と思う。
うわ、独占欲つよ……。
下手したらシストより強いんじゃないか?
「か、帰りましょうか」
戸惑っているヴァントリアを見て、興奮していた自分を叱る。固まっているイルエラとダメージを相当受けたらしいテイガイアを引きずり、皆で去ろうとしたその時だった。
「ヴァントリア様、皆さんが会いに来てますよ」
「え……」
「え?」
そんな会話が聞こえて来て、振り向けば、扉を指さすヒオゥネの姿が視界に入る。
ウォルズとヴァントリアと目がカチリと合う。瞬間、ヴァントリアの顔が真っ赤に染め上がった。
ヒオゥネの胸を慌てて押すが、びくともしない。
「ヒオヴァンかわえええええ!」
「ウォルズううううううう!!」
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ルーハンとセルは地上へやって来ていた。ヴァントリアが死亡したと知らせを受けた時は信じなかったが、何年も経ち流石に信じ始めていた頃、ヴァントリアが見つかったと言う知らせが届いた。
誰から届いたかと言うと、あの青い鎧の勇者からである。始まりは、「ヴァントリアとの結婚式はまだですか」と言う内容の手紙が兄さんに送り付けられたことだった。兄さんも、「もうすぐだ」なんて返事を返しており、いつの間にか姿さえ見なければ楽しく文通ができる仲となっていた。それからすぐに返事が来なくなった時期があったが、どうやら記憶喪失だったらしい。
ヴァントリアが行方不明になってからも、ヒオゥネ様とやらと地上についての文が届いていた。
ヒオゥネ様の頑張りを知ったからこそ、兄さんはヴァントリアを諦めたようだった。亡くなったと聞いてから兄さんは空っぽの人形のようになっていたし、仕方がなかったのだろう
俺も諦めかけていたその時、ヴァントリアが帰って来たと知らせが来て、それはそれは喜んだ。兄さんと抱き合うほどに。
しかし、兄さんがその続きを読んでピシリと石のように固まり、その手紙を覗き込み読んだことにより、俺も石のように固まった。
どうやら、あのヒオゥネ様とヴァントリアが婚約したらしい。
俺達は婚約を止めるために地上へ来たと言っても過言ではない。
ちなみに地上は繁栄しているが、その功績は王にあらず。魔獣として暴れ回り、地上にいた魔獣や敵国を滅ぼしたのはヒオゥネ様である。
この平和が全てヒオゥネ様のものであると誰もが分かっている。地下都市の王様が地上へ進出できたのはヒオゥネ様のおかげと言えよう。
ヒオゥネ様が魔獣から姿を戻してから、地下都市には人が溢れ返った。彼が実験などで命を落とした人々を甦らせたのだ。恨みを持たれてもおかしくなかったが、彼は人々を甦らせたことはもちろん、地上へ進出したきっかけになった存在だ。さらに彼の力で病気や怪我が一瞬で治ると言う噂も広まっており。彼は今や民たちから神様と呼ばれる存在になっている。
その彼がヴァントリアと婚約を交わしたと言う噂は既に国中に広がっているだろう。
ヴァントリアもヴァントリアで、呪いから民たちを救って、地下都市の太陽になったと言う噂が広まっていた。
彼らの婚姻は民たちにとって、良いお知らせというわけだ。だがそれを止めるのは俺達だ!!
今更俺達に民がどうとか説き伏せられても止まらないからな!!
「ヴァントリア……お前だけは絶対に諦めない」
「あはは、ルーハンは諦めかけてたじゃないか」
「に、兄さんだってヒオゥネ様に譲ろうとしてただろう」
「してないけど?」
「してただろ!?」
この男、なかったことにしようとしている。
ヴァントリアとは青い鎧の勇者との文で待ち合わせしている。地上に来てから町を歩き、向かっている時だった。
両腕が重くなるような感覚に合い、痛みに悶えて立ち止まる。兄さんが不思議そうに振り返った。
「ルーハン? その腕は……」
「こ、これは……」
ルーハンの手首から下がヒビ割れ、バギバキと音を立てて黒いヒビを刻んでいく。
「う、ううううあああああああ」
「ルーハン!」
セルが痛みに悶えるルーハンに手を伸ばそうとするが――轟音と共にルーハンの身体が裂け、中から黒い塊が噴き出した。
セルは素早く後退し、ルーハンだったモノの姿を捉えることができた。
「ルーハン!」
中心部らしき黒く丸い塊から黒い棒のようなものが縦に伸び、雲と地面をを突き抜ける。丸い塊から黒い触手が町中に伸ばされ、人々は悲鳴を上げた。
「セル……!」
セルは自分を呼ぶ声が聞こえて振り返る。そこに立っていたのは赤い髪、赤い瞳の、自分の理想と呼べる相手だった。
「ヴァントリア……!」
そして、黒い髪、七色の輝きを持つ瞳を持つその青年だった。
「ヒオゥネ様……!」
セルはヒオゥネの姿を見てホッとする。セルを実験していた際もヒオゥネはセルの暴走を抑えてくれたからだった。
「せ、セル、一体何が起きたんだ?」
「ルーハンがいきなり黒い塊になって暴れ出したんだ」
「これがルーハン!? ひ、ヒオゥネ、ルーハンは魔獣化したってことか?」
と言うか何故ヒオゥネ様が来ているんだろう。ヴァントリアだけを呼んだはずだが。
「ルーハンの魔獣化は過去にもありました。彼の魔獣化は厄介でした。アゼンヒルト・オルテイルから両手に半呪いアイテムの枷を付けられていた筈……」
「え……」
「え?」
真っ青になるヴァントリアの後ろから、あの青い鎧とちかちか眩しい金髪のウォルズが駆けつけてきた。その仲間達も駆け付けて、もう切り刻み散らしてやりたい。
「ヴァントリア、ルーハンの暴走が始まったのか!?」
ウォルズが言うと、黒い髪、金の瞳の男が続けて言う。
「見るからにあの裏ボスだな」
「え、え?」
ヴァントリアは分かっていないらしい。
「万、知らないのか? ルーハンの手枷を外すのが分岐で、攻略後裏ボスとして出現するんだよ」
「俺攻略してないし、実況見る勢だったから……」
「テメエ攻略出来てなかったのか? 確か裏ボスの配信は禁止だったな」
「ヘイルレイラは攻略したのか!?」
「まあな」
黒髪金眼の男――ヘイルレイラが鼻を掻きながら胸を張る。
「A and Zはプレイもしてないくせに」
「うぐ、だ、黙れ!」
何の話だろうと首を傾げていると、ヒオゥネ様が「テイガイアやジノくん、イルエラさんは呪いがないから……」なんてぶつぶつ呟いている。
「ひ、ヒオゥネ、ルーハンはどうして暴走したんだ」
「ルーハンの枷が外れていたのなら、その時から少しずつ呪いを吸収していたんでしょう。アゼンヒルト様やゼクシィル様がいない今、呪いは大分減っていた筈ですが、地上にはまだまだ呪いが溢れていますから。それを吸収して暴走したんでしょう。それにしても……手枷を外したのは…………ヴァントリア様ですか?」
「な、何で俺!? まあそうだけど……」
「さっきの反応でそうだと思いました。貴方は良かれと思って外しそうです」
「ルーハンは知らなかったのか?」
「ルーハンには暴走している時の記憶はありません。ですが、彼にとってあの枷は邪魔だったでしょうね。まるで幼少期のトラウマを蘇らせる、それに囚われていると思わせる物でしたから」
ヒオゥネ様が説明している間に、触手は目的の人物を発見したようだった。人々に手は出さなかったようだが、何かを探すように暴れ回る様を見て、誰かを探しているのだとセルは察していた。
触手に捕らえられている人物を見て、ヴァントリアが驚いた様子でその名を呼ぶ。
「エンタナ! エリオット!」
ヴァントリアの声が聞こえたのか、それを追ってきていた者達が彼の名を呼ぶ。
「ヴァントリア!」
「ヴァントリア、一体どうなっている」
ディスゲル・オルテイルとロベスティゥ・オルテイル。彼らが駆け付け、ヴァントリアは安心したように緊張した顔を緩めた。汚い色がまた増えた……。
「ディスゲル兄様、ロベスティゥ兄様」
「いきなりこの黒い触手が入り込んできて、エンタナを連れて行ったんだ」
そう言うディスゲルの隣に、新たな色が加わる。
「――まだ話は終わってないぞ!!」
プラチナブロンドの短髪。威厳のある顔立ち。汚い色がまた増えた。
またもやヴァントリアの兄、サイオン・オルテイルだ。
「あれは……!」
魔獣が新たに誰かを捕らえ、それを見たヴァントリア、ヘイルレイラ、ウォルズが叫ぶ。
「「「セルシアン・ヴェーガ! ハルネオ師匠!」」」
師匠?
「彼らを知っているのかい?」
「う、うん。みんなハイブリッドだ」
「師匠と言うのは?」
「あ、愛称だよ。あいつの名前はハルメネオノーネ・アンベルケルシュレイン」
「覚える気はないよ」
にこりと笑うと、ヴァントリアの顔が引き攣った。何か変なことを言っただろうか。
「ヒオゥネ様、ルーハンは何故ハイブリッドを捕らえるのかな」
「ルーハンはカプセルから出来たハイブリッドではなく、僕が人間だった彼を実験するうち吸血鬼やハイブリッドとなった最高傑作です。だからなのか、ルーハンが魔獣化した時、呪いへの渇望が一番強かったんです。呪いを吸収するためにハイブリッドを集めます。その対象は王様や、オウシェラも同じです。つまり無意識に核になろうとしたと言うことです。ですからアゼンヒルト・オルテイルが珍しく協力的になって頑丈な枷を付けていたんですが……」
ちらりとヒオゥネ様がヴァントリアのことを見て、目が合ったヴァントリアは「ごめんなさい、俺が王族の証を使って外しました」と頭を下げた。
「まあ呪いなら何でもいいので、昔のヴァントリア様や僕を狙う可能性もあったんですけど。今のヴァントリア様は僕が呪いを吸収しましたし、僕の呪いは希望へと変わっていますので狙われていません。ジノくん、イルエラさん、テイガイアも呪いがないので狙われていないんでしょう。バークレイ先輩も同じです」
「ルーハンを止める方法は!?」
ヴァントリアが聞くと、ヒオゥネ様は顎に手をやってのんびり考える。
「……そうですね。僕がまた吸収すればいいだけの話なんですけど、ハイブリッドに呪いを溜める実験が出来なくなるのは残念ですね」
「そんなこと言ってる場合か! ルーハンを助けるぞ」
ヴァントリア様がポカッと頭を叩くと、ヒオゥネ様はこくりと頷いた。
「助けましょう。と言いたいところですが、分身を集めないとルーハンの呪いは解けそうにないです。僕が分身を集めている間、皆さんにはルーハンを止めておいていただきたいです。では僕は分身を集めてきますので」
「え、ちょ……!?」
ヒオゥネ様が空間移動で姿を消し、その場にいた皆が恐らく思っただろう。
簡単に言ってくれる、と。
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みんなで奮闘した結果、何とかハイブリッド達の保護に成功した。今は触手から逃げている最中だ。
「エンタナと言ったな。貴様には話がある」
「サイオン兄さん、今はそんな状況じゃ――」
「ディスゲル、お前も悪いのだぞ。主人となったのだから、ちゃんと躾けろ」
「お、オレは主人になったつもりなんかないんだ……!」
「ならなおさらこの男は邪魔だろう。兄弟のスキンシップを邪魔するとは、許せぬ」
「貴方には関係ない。俺はただディスゲルに忠誠を誓った、それだけだ」
「それだけなら邪魔をする必要はないだろう」
「主人を辱められたら守るのが従者だ」
サイオンとエンタナが睨み合う。
ロベスティゥがそばに寄ってきて尋ねてくる。
「ヴァントリア、ディスゲルとサイオンの間に何があったんだ?」
「わ、分かんない……けど、修羅場じゃないかな」
「修羅場? 何故?」
「ディスゲル兄様の取り合ってるんだと思う。スキンシップって言葉が聞こえてきたし、どうせサイオンがディスゲル兄様にセクハラしたんだろ」
「弟に手を出すとは、サイオンはやはりイカれている。エンタナはいい従者だ」
「そう言うロベスティゥはどうなんだ? エリオットとは」
「エリオットはワタシに反抗気味だ。好きにさせてやっている」
「……反抗などしていない」
「ワタシにも顔と言うものがある、いつまでも反抗されていてはワタシの顔も丸潰れだ」
「…………」
もしかして、ロベスティゥ兄様、また誤解されてる?
「意思疎通が足りないんじゃないのか?」
「どう足りないんだ」
「ロベスティゥ兄様はエリオットを助けたかったからしもべにするなんて言い出したんだろ? 拒まれてたけど、そばに置いていくのは守るためだろ?」
「ああ」
「…………理解している」
帰ってきたのは意外な答えだった。
「ロベスティゥ兄様のどこが気に入らないんだ?」
「……気に入らない箇所などない」
「ならどうして反抗するんだ?」
「反抗などしていない。……素直になれないだけだ。どうしても主人として見てしまう、それが失礼な気がするだけなんだ」
「だから反抗すると」
「反抗などしていない」
ギロリと睨まれ、どうしてもそれを認めたくないのだなと分かる。
「まあ地上に進出してからワタシの顔を見る相手も減ったからな。別に反抗的でもそうでなくても構わん」
エリオットは見たところロベスティゥを特別視している気がするけど、ロベスティゥはそれに気が付いていないから、それが不満で素直になれないのかも。
「そう言う関係もありっちゃありか……」
「ん? どう言う関係だ?」
ロベスティゥに頭を撫でられると、ギロリとエリオットから不機嫌そうな視線が飛ぶ。
「エリオットの頭も撫でてあげたら?」
「……!」
「どうしてだ? ヴァントリアだから撫でるんだろう? オマエが可愛いから撫でるんだろう……?」
「…………そうですか」
エリオットは視線を逸らし不貞腐れる。どうやら撫でて欲しかったらしい。拗らせてるなぁ……。
触手から逃げている最中、騒ぎを聞きつけたのかあの少年が行く手に現れた。
「お兄様達、一体何をしてるんだ?」
「アスナロヴ!」
「ヴァントリアお兄様、いたんですか」
こ、こいつは笑顔でそう言うことを言う……!
「行方不明になっていたと聞いていたけど」
「お前は? どうしてここに?」
「……シストお兄様に地下都市の仕事を貰いに」
「地下都市の?」
「……ウラティカシェハニエル様の身の回りの世話を任してもらえないか頼みに」
「ウラティカの? お前が?」
そう尋ねると、珍しく優しい顔が歪み、キッと睨まれる。
「ウラティカちゃんを傷付けたおまえだけは絶対に許さない」
そう言い放ち、アスナロヴは去ろうとする。どうやら今の状況を厄介だと考えたらしい。
何故アスナロヴがあんなことを言うのか、不思議でならなかった。まるで恋してるみたいじゃないか、会ってないはずなのに。
「だがウラティカ様が外を歩けるようになったのはヴァントリアがシストに頼んだからだとシストから聞いている」
去ろうとする彼を呼び止めたのはロベスティゥだ。
「ロベスティゥお兄様、どうしてヴァントリアお兄様を庇うのですか」
「庇って当然だ。大事な弟だからな」
「ならわたしはあなたの何なんですか!」
「…………」
黙り込むロベスティゥを、おい、と肘で突く。
「オマエは兄弟達を蝕む毒虫だ。シストと変わらん」
し、辛辣ぅぅぅ。
「……でもそのシストお兄様だって、ヴァントリアお兄様に……」
「自分のせいだと思ったことはないのか?」
「……っ」
「オマエが人を突き放すような態度を取ってきた結果がこれだ。ヴァントリアと同等の関係を求めるなら、オマエから歩み寄って来い」
「……わたしは」
「オマエのプライドがそうさせるんだろうが、ワタシにとってオマエのプライドなどどうでも良い」
ロベスティゥ手厳しいんですけど!
アスナロヴは兄達に劣等感を抱いていると言う設定だった筈。ヴァントリア以外の。でもヴァントリアが人助けしていたと言う噂は5年前から流れていた筈、つまり全員の兄から劣等感を感じていてもおかしくはなかった。
それをロベスティゥはどうでもいいと言い放ったわけだが……。
アスナロヴは泣きそうな顔をしながら、立ち去ろうとする。
「ま、待ってくれアスナロヴ」
「ウラティカちゃんはおまえを探していた。謝りたいんだと」
ウラティカが自由になっていたってことは、その間にウラティカと会って大切な存在になったのかもしれない。
「ウラティカを支えてくれてありがとうな」
「まるで自分のものかのように言うな。もうおまえの婚約者じゃない」
「分かってるよ。でも大切な人なんだ」
「…………っ、どうしておまえばかりが思われるんだ!」
「アスナロヴ……」
「だからそれはオマエの態度のせいだろう」
ロベスティゥ黙ってろ……!
「わたしはお兄様達に言われるまま今まで頑張ってきたつもりだ」
「少しは甘えろと言っているんだ」
「な……! そんな子供っぽいこと……!」
「甘えてこない弟を甘やかすことなど、ワタシには出来ない」
「ディスゲル兄様の時もそうだったもんなー」
呆れて棒読みで答えれば、アスナロヴはその言葉に反応する。
「ディスゲルお兄様も?」
「ロベスティゥはシストにも厳しいぞ」
「そう言えばロベスティゥお兄様ってシストお兄様のお兄様だった……」
忘れてたのかよ! 俺もたまに忘れるけど!
「ロベスティゥお兄様、本当にわたしは甘えてもいいんですか?」
「……まあ、オマエが今まで地下都市や国のために頑張ってきたことは確かだ」
「ロベスティゥお兄様……っ」
「アスナロヴ、来なさい」
ロベスティゥとアスナロヴの会話を聞いていたのか、サイオンとディスゲルもやってくる。エンタナとエリオットは不機嫌そうだ。エンタナはまだサイオンと修羅場中だし、エリオットはまた甘える邪魔者が現れたことで怒っているんだろう。
「オレはオマエを可愛がってきたつもりだけど? むしろずっと毛嫌いしてたのはヴァントリアだし」
「た、確かに、ディスゲルお兄様はずっとウザいくらい構ってくれましたね」
「余にとって、可愛い弟はシストだけだ。キモ可愛い弟、ヴァントリアとまあまあ可愛い弟、ディスゲルが増えたが。ロベスティゥは可愛いとは思っていない。お前はロベスティゥに比べたら多少は可愛い弟だ」
サイオンお前ロベスティゥに失礼! でもロベスティゥが全然気にしてないのも確かだ。それに対してサイオンは眉間に皺を寄せている。もしかして俺がいない間に一緒に仕事をしていて、少しは可愛いと思ってたとか?
「ロベスティゥ兄さんはどちらかと言うとかっこいいしな」
「……余は?」
「え?」
「余はどうなのだディスゲル」
何でそこで聞く。
「え……か、かっこいいと、思うけど」
何でそこで顔を赤らめる。
こいつら、5年の間に距離を縮めてやがる。
「サイディスサイディス!」
「黙れヴァントリア!」
真っ赤になるディスゲルは、どうやら俺の言いたいことを理解しているらしい。サイディスと言う言葉の意味を知ったに違いない。
アスナロヴがサイディス?と首を傾げたので、「サイオンとディスゲル兄様は特別な関係らしい」と教えてやる。
「特別な関係……わたしもウラティカちゃんと……」
何か妄想でもしているのか、顔を緩めるアスナロヴを見て、初めて弟を可愛いなと思う。頭を撫でれば、びっくりした顔をされた。
「兄様達が甘やかしてくれない時は俺が存分に甘やかしてやるからな」
「いい。おまえの婚約者が怖い」
「え?」
アスナロヴの視線の先に振り返ると、笑顔で突っ立っているヒオゥネの姿を発見した。
「本当に兄弟仲がよろしいですね」
「ひ、ヒオゥネ、ルーハンは!?」
「今から直します」
ヒオゥネの希望の力によって、呪いは浄化(希望として吸収)され、ルーハンは元の姿へと戻っていく。
ルーハンの元へ駆け寄れば、同じく駆け寄ってきていたらしいセルと合流する。
皆がその場に集まってから、俺、ウォルズ、ヘイルレイラは感動した。
「ハイブリッドが第一第二以外揃ってる……」
「二人は第一第二が誰なのか知ってるのか?」
「俺様は第二がオウシェラってこと以外知らないけど……第一は誰なんだ?」
「シストだったよ」
「「えええええ!? どう言うことだ!?」」
あれウォルズが知らないってことはA and Zでも明かされなかったのかな?
詳しくは後で話すな、と約束して、ルーハンに近づいていく。
ウォルズが後ろで「ハルネオ師匠と話してこよう」とか言い出して、ズルい、と振り向きそうになった。
ハルメネオノーネ・アンベルケルシュレインは前世のゲームの途中にプレイヤーとしてプレイすることができる場面があって、圧倒的な強さで敵を倒せるすごいキャラクターだった。
彼はウォルズの仲間の一人の師匠で、ウォルズの仲間達からも師匠と呼ばれていた。
だから前世でも師匠と呼ばれ、ハルメネオノーネの通称ハルネオと組み合わされてハルネオ師匠と呼ばれるようになった。
第一のハイブリッド、シスト・オルテイル
第二のハイブリッド、オウシェラ
第三のハイブリッド、ジノ
第四のハイブリッド、セルシアン・ヴェーガ
第五のハイブリッド、ハルメネオノーネ・アンベルケルシュレイン
第六のハイブリッド、ルーハン・メリットス
第七のハイブリッド、エリオット・マークス
第八のハイブリッド、テイガイア・ゾブド
第九のハイブリッド、イルエラ
第十のハイブリッド、エンタナ
恐らく生まれた順番だと思うんだけど……。ヒオゥネに尋ねると、オリオに行き来していた時にハイブリッドとして完成させた順番だと告げられた。つまり人の形になっていない状態のハイブリッドもなっていた状態のハイブリッドもハイブリッドとして完成していたし完成していなかったと言うことだろう。
難しいことを考えると頭が痛い……。
ハイブリッド達からも呪いを吸収したので、彼らの第一の力や第二の力はもう奪われてしまったらしい。イルエラの黄金に輝く瞳はもう見られないらしい。綺麗だったから残念だ。その代わりセルは呪いを吸収していないので第一、第二などの力は使える。
セルはハイブリッドになる前の状態で実験を止めることに成功したらしかった。だから彼はハイブリッドのうちに数えられていないんだろう。もし今彼がハイブリッドになったとしたら、第十一のハイブリッド、セロウボス・メリットスと呼ばれたに違いない。
「ルーハン、ルーハン」
セルが呼び掛ければ、ルーハンはゆっくりと目を開けた。
「兄さん……? ヴァントリア?」
ルーハンはハッとして起き上がり、自分の両手首を確認した。
「さっきのは一体……」
「魔獣になって暴走してたんだ。今後はならないから心配するな」
「ヴァントリア……」
顔を覗き込みながら話しかければ、何故かむぎゅっと抱き締められる。
「ルーハン?」
にっこりと笑うセルを見て、ルーハンはべっと舌を出した。
「今くらいいいだろう」
「何が今くらいなんだい? 覚えていないくせに」
「誰かに罵声を浴びせられて、暴力を振るわれているような、そんな感覚がした」
「……そうか」
セルは笑顔を消し、地面を眺めるように俯く。しかし次の瞬間、「ヴァントリア!」と飛びついてきて、俺とルーハンを抱きしめた。
ルーハンとセルの目が合う――次の瞬間、両方の頬に柔らかい感触が押し当てられ、瞠目する。
何故かルーハンとセルから頬にキスをされた。
ポカンとしていれば、セルの顔が近づいてきて、唇同士が接近した。
「待っ――!?」
「――えい」
ヒオゥネのそんな声が聞こえて、一本の薔薇が唇同士の間に出現する。
キスは免れたようだ。
「兄さん、諦めが悪いぞ!」
「ルーハンこそ、諦めが悪いよ」
ヒオゥネがハァ、とため息をついてから言った。
「二人とも諦めが悪いですよ」
.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+
集められたハイブリッド達はそれぞれ行きたいところへと散っていた。しかし、セルシアン・ヴェーガだけがその場を動かなかった。
「ディスゲル兄様にはエンタナがついていったし、ロベスティゥ兄様にはエリオットが付いていった」
「ハルネオ師匠は地上の王宮に興味があるって言ってサイオンについていった。順当に行けば……」
その場に残っていたアスナロヴに、俺とウォルズは視線を向ける。
「嫌だよ。わたしは面倒ごとが嫌いなんだ」
「セルシアンはどうしたい?」
セルシアンは面倒くさそうに頭を掻きながら答えた。
「俺は別に……やりたいこともねえよ」
「今までは何してたんだ?」
「適当に暮らしてたよ」
「…………」
今まで地下都市や国のために頑張ってきたアスナロヴとは相性が悪そうだな。
「…………おまえのその性根、わたしが叩き直してくれる」
なんか勝手に火が付いた。
「ああ? めんどくせぇ」
「いいから来い!」
セルシアンの腕を掴み、アスナロヴが去っていく。どうやらセルシアンは抵抗するのも面倒くさいらしい。
オルテイル一族それぞれにハイブリッドが割り当てられるなんて、チートだな。ウロボスやイノスオーラはこのままでもいいんだろうか。
それをヒオゥネに聞くと、こう答える。
「僕は神様らしいので、ウロボス一族の名前は広まってますし、力もありますよ」
ウォルズとヘイルレイラは、まあイノスオーラ一族を今更広めたいとは思っていないらしかった。
「でも、イノスオーラ一族って地上にいた一族だよな? 彼らはどうなったんだ?」
「さあ。まだどこかで生きてるかも」
「もしくは滅んだかもな」
こいつら全く興味ないんだな。ゲームの設定の粗探しみたいで確かにあまり深く関わりたくないところではあるけど、もしかしたら詳しく設定されてるんじゃないのか?
そうウォルズに尋ねてみると、「地上の話は流石に作り込んでないと思うよ」と伝えられる。ヘイルレイラがそれを聞いて、「何でテメエがそんなこと知ってるんだ」と尋ねる。
「前世の記憶は和泉晴仁なんだ」
「え!? 和泉ってあの和泉!?」
「そう。あの和泉」
「す、すごい前世をお持ちで」
あ、ヘイルレイラの腰が珍しく引いている。突けば、ビクッと体を揺らした。ケラケラと笑っていたら睨まれた。説教される前に逃げよう。
「ヒオゥネ、帰ろう」
「はい」
今まで空気になりつつ、いがみ合っていたセルとルーハンは、「待て!?」と俺の腕を掴んでくる。
「ヴァントリア、俺とも婚約しよう」
セルに手の甲にキスを落とされ、真っ赤になると、拗ねるようにヒオゥネの唇が尖る。
「ご、ごめんなセル」
「うがあああああ!!」
胸を押さえ地面に倒れるセルを見て、ここで介抱したら永遠にループしそうだとルーハンに任せようと考えた。
「婚約したからって諦めないからな!」
ルーハンはそんなことを言ってくる。
「何を?」
「……っ、…………っ、お前を、愛してるんだ」
「……へ?」
あ、愛してる? ルーハンが俺を!?
ルーハンの顔って流石に兄弟だからか、セルに似てるんだよな……。
かああっと顔が熱くなれば、ヒオゥネがムッとして言う。
「ヴァントリア様は僕を愛しています」
「うがッ!!」
ルーハンはダメージを受けたらしい、セルの上に転がった。
「ほ、放っておいていいのかな」
「分身をつけておきますよ。これ以上しつこく付き纏われないためにも」
「は、はあ……。お前って容赦ないよな」
「ヴァントリア様こそ、否定しないところを見ると容赦ないですよ」
ヒオゥネと去ろうとしていた時、ザッと背後から砂の擦れる音がして、二人して振り返る。
「オウシェラ……!」
「久しぶり、シストが君に会いたいそうだ」
「俺に?」
「僕も行きます」
「え?」
「一人で行かせるわけにはいきません」
「まあ、いいけど……」
オウシェラは俺についてくる気満々のヒオゥネの様子を見て、ため息を溢す。
「シスト……可哀想に」
.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+.。.:✽・゜+
シストは俺とヒオゥネを見るなり言った。
「ヴァントリアだけを呼び出したはずなのに、どうしてウロボス帝がいるのか文句を言いたいところだけど……それより君達、婚約したんだって?」
「はい、祝ってくださいますか?」
にこにこと笑ってヒオゥネが言う。
「ウロボスとオルテイルの婚約を許すわけがないだろう」
「貴方は何を言っているんですか? 貴方も王ですが僕も王ですよ? 貴方が許さなくても僕が許します」
ヒオゥネは煽るようにニコニコ笑ってそう言う。
「な、何でこんな時ばっかり笑顔なんだ」
「ヴァントリア様は僕と結婚してくれますよね」
「う、うん……」
改めて言われると恥ずかしくて目を逸らしながら頷くと、むぎゅっと抱き締められる。顔を上げればそのまま唇に口付けされる。その後もシストに見せつけるようにちゅぱちゅぱされて、シストの拳が震えだすのが目に止まる。
恥ずかしくて逃げようとすれば、ヒオゥネはそれを逃がさないと言わんばかりに追いかけてきて唇を合わせてきた。
「ひ、ヒオゥネ……」
「はい?」
「見られるの……。は、恥ずかしい……」
「…………」
「…………」
「…………」
シストとヒオゥネが固まり、不思議に思って眺めていると、目の合ったヒオゥネが柔らかく微笑む。ドキンと胸を高鳴らせていれば、ヒオゥネとの距離が縮まって、ヒオゥネはぽてっと頬を頬に押し付けてきた。
「ヴァントリア様……かわいい」
そのまま頬擦りされ、俺は真っ赤っかに染めあげられる。
「ひ、ヒオヒオ」
「かわいいです」
「地上では貴様らの披露宴など開かせないぞ!!」
シストが立ち上がり、大声で怒鳴る。
「いいですよ、第一宮殿で式を上げる予定なので」
「ヒオゥネ……貴様」
「貴方も諦めが悪いですよ、シスト様」
ヒオゥネとシストがバチバチと睨み合っていると、オウシェラが近づいてきて話しかけてきた。
「君は本当にヒオゥネ様と結婚する気なのか?」
「うん」
「……オルテイルとウロボスが結婚か。国にとってはいいことなんだけどな」
オウシェラはうんうん唸っている。
「アゼンヒルト様を探すのはもう諦めたのか?」
「アゼンは俺の中……いや、ヒオゥネの中にいるから」
「もしかして、ヒオゥネ様を好きな理由って……」
「違うよ。俺は心からヒオゥネを愛してるんだ」
「こ、ここでそう言うこと言う?」
「え?」
オウシェラの視線の先を見れば、シストが青ざめた顔をしており、ヒオゥネがぽわぽわした顔を浮かべていた。
ヒオゥネのあんな顔見たことない、かわいい……。
じっとヒオゥネを眺めていると、オウシェラが呟いた。
「シスト……可哀想に。後で君には俺がいるとでも言ってやろうかな……」
ヒオゥネは同情だけのその言葉ににこりと笑みを浮かべて言った。
「貴方には貴方を思う人がいるでしょう。ヴァントリア様のことは諦めてください。僕達は帰ります、結婚もします。それでは……」
あ、来た。
「お別れの……」
「ひ、ヒオゥネダメだ!」
俺以外の人とちゅーなんかしないでくれ!
「お手紙を」
ヒオゥネはパッと手品みたいに希望の光でそれを出す。
「手紙?」
シストが訝しげにそれを受け取るのを見てから、ヒオゥネは俺の腰を掴んで背を向けた。
「結婚式への招待状です」
「なっ!?」
俺ももちろん、オウシェラもシストも口をあんぐりと開けた。
「貴方も一応、ヴァントリア様のお兄様ですからね」
ヒオゥネは人差し指を上げて呟く。
「僕のお兄様になる日も近いです」
シストは真っ青になり完全に固まって動かなくなった。
どうやらトドメを刺し終えたようだ。
「ヴァントリア様、貴方は僕のものです」
「ヒオゥネも、俺のものだからな」
「はい」
腰の手に導かれるまま、空から降り注ぐ太陽の光に照らされた、眩いばかりに色のある地上の町へ向かった。
空から、結婚式への招待状が舞っているとは知らず、外に出ると。
祝福の拍手が贈られる。
数日後開かれた結婚式では、乗り込んでくる者や、待ったを掛けるタキシード姿の勇者などの姿が見られたらしい。
花嫁は奪われることはなかったが、散々な結婚式となった。
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