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第五章 後編
136話 守るための力
しおりを挟むエレベーターも作動しない、どうやらあちら側にエレベーターの制御ができる協力者がいるらしい。……まあ、エレベーターの管理人である門番だろうとは予想が付くけれど。
エルデが出口の手前までやってきて、ゲームそのまんまの声で言った。
「非常用のエレベーターが使用されたと報告を受け、全てのエレベーターへ仲間を配置した。最後に使用されたエレベーターを我々が監視していたが、どうやらビンゴだったようだな」
——すぐ近くにあのエルデがいる事実に興奮する訳にもいかず、どうしよう、とウォルズを見る。
あー詰んだ、やべーゲームオーバーキタコレあー。とか言ってて頼りない。あの頼もしかったウォルズが。
だがウォルズはレベル70程度、そしてエルデはレベル88、この差は痛い。10も差が付けばゲームの世界では倒すことが難しい。
それにエルデだけでなく、ビレストはレベル45以上の強者揃いの騎士団だ、これ程の数を相手するには流石のジノやイルエラ、ウォルズだってきつい。因みに俺はザコいので一撃で戦闘不能レベル……。情けない。
いつまでもエレベーターに閉じ篭ってはいられないらしく、俺達は団員達に引きずり出されてしまった。
——どうすればいいんだ一体!
すぐそこまでエルデがやってきて、ウォルズも震えている。あの片手で持ってる大剣はどんな物理で肩で支えられているんだか。頑丈な身体と、馬鹿高い筋力で支えられているのか。そもそもなぜ抜刀している。
え、マジで、ここで首落とされちゃうの。
——ギラリと黒光りして、その光の消える一瞬の間に首に刃先が向けられる。
後からやってきた斬風がエルデの実力と気迫を乗せて吹き付ける。
「ひぇ……」
どんな原理で——できたんだ!? 魔法か!?
「お前を斬る許可は出ていない。そう怯えるな」
「そ、そう」
随分楽しそうに見えるけど。本当は斬りたいんじゃないの。
「う、うう……」
「ウォルズ……?」
「——うおおおエルデええええ!」
ウォルズは鼻息をふんふん鳴らして目をキラキラと輝かせた。大人しいと思ったんだ、はぁ……お前は敵に怯えるなんてタマじゃないよな。
呆れているのは俺だけではない、ジノやイルエラもジト目である。テイガイアだけはウォルズの性分をまだ良く理解できていないのか、不思議そうな顔だ。
騎士団もどよめいて一歩後退さる。やめたげて、気持ち悪がらないであげて。
「かっけえええどのアングルから見てもかっけええ! でも万の首に剣向けるとかやめてくんないかな心臓止まるから。——俺ならいいからッ!! 迫力を間近で感じさせていただきたい! フォロワーさんにどうにかして伝えてみせる!! ゲーム愛という名の思念を送り続ければイケる! さあ俺に一撃プリーズ!」
ペチャクチャ熱演するウォルズに言葉を失い、何だこいつ、と言う顔のエルデ。しかし、すぐにハッとして、「確か外からの侵入者か。優先にはされていないが貴様も逮捕状が出ている」と剣を向けてやる。天然でサービスしてくれるんだ。
それにしたって、彼の言葉には違和感があった。
——おかしいな、何で優先にされてないんだ。
「他にも脱獄者イルエラ、ジノ。貴様等も檻へ戻って貰おう。だが、最優先はヴァントリア・オルテイルだ。シスト様がそう望んでいるからな」
「シストが……?」
「シスト様だ、ヴァントリア・オルテイル」
俺に元王族と言うことを自覚させたいらしい。
エルデは抵抗しない俺達の様子を見て抜刀していた大剣を背中の鞘へ戻した。ゲームでも思ったが、煌めかせて振り上げ、長い刀身を綺麗におさめる姿は、無駄にカッコいい。
ほへーとウォルズとうっとりしながら眺めていたら、ジノに小突かれた。
「どうすんだ……あの一番偉そうな奴からぶっ飛ばすか?」
————無理無理無理無理ッ!? 何言ってんの!?
そ、そうだ、ジノはエルデの存在を知らないのか。ビレストは最上階辺りで初めて出てくる敵集団。つまり下層へ降りてくることはほとんどないのだ。
シストは一人で会いに来てたもんな。ウォルズに。たまに何人か連れてた気もするけど。ウォルズに飛びつくシストしか覚えてないや。
作り笑いが多いキャラだが、心からの無邪気な笑顔もきちんと描き分けられていた。
ウォルズにはベッタリだし——たまに抱き着いていたがそれの事ではなくて——逃がさない、捕らえる——と言う執着と言うか。敵なんだから当たり前だが。
でもウォルズのことは相当気に入っていることは確かだった、慈愛に満ちた綺麗な笑顔を何度も向けていた、戦闘中にも口論の後にもだ。
めちゃめちゃに好きだったよな。あれは。ヴァントリアにもその愛情を向けて欲しいくらいだ。
立場さえなければウォルズとシストは親友になれるかもしれなかった、とゲームの攻略本に書かれていた気がする。ウォルズへの執着についてシストの心情云々の説明があった筈だ。
——なのに、最優先じゃないってどう言うことなんだ。ほんとに。
ちら、とウォルズを見ると、彼は片手を剣の柄に乗せていた——え、と思った瞬間、数名のビレストの団員が反応してウォルズに向かって剣を振り下ろす。
その剣を全て薙ぎ払い、美しいマントが目の前で翻る——ああ、やっぱりウォルズはかっこいいな。
大人しく捕まるような俺より、例え無茶でも切り抜けようとするウォルズの方を、どんな人でも好きになるに決まってる。
——ウォルズの行動がきっかけで戦闘が始まった。
イルエラもジノも、戦闘に参加しているが、やはりレベルが足りないことは効いてくるらしく、攻撃を防ぐのでいっぱいいっぱいだ。敵も多いため、たった数人では劣勢だろう。テイガイアは俺を引っ張って走り、敵から守ろうとしている。
————っ、今俺にできることは――
「こっちだみんなッ」
引っ張られていたテイガイアの手を自分の方に引き寄せる——もはやこの町に滞在することは不可能だ、それならいっそ——ウォルズを見れば、彼はすぐに理解して笑んで承諾した。
しかし、ビレストの強さは圧倒的だ、まず包囲を突破することができない。
引っ張っていた手に、くん、と走りを止められてしまう。
周りは敵だらけなのに——焦りで振り返れば、俯いたテイガイアがいた。
「テイガイア?」
「……私がやります」
「やるって……」
——まさか、魔獣化するつもりか!?
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