上 下
139 / 293
第五章 後編

136話 守るための力

しおりを挟む


 エレベーターも作動しない、どうやらあちら側にエレベーターの制御ができる協力者がいるらしい。……まあ、エレベーターの管理人である門番だろうとは予想が付くけれど。

 エルデが出口の手前までやってきて、ゲームそのまんまの声で言った。

「非常用のエレベーターが使用されたと報告を受け、全てのエレベーターへ仲間を配置した。最後に使用されたエレベーターを我々が監視していたが、どうやらビンゴだったようだな」

 ——すぐ近くにあのエルデがいる事実に興奮する訳にもいかず、どうしよう、とウォルズを見る。

 あー詰んだ、やべーゲームオーバーキタコレあー。とか言ってて頼りない。あの頼もしかったウォルズが。

 だがウォルズはレベル70程度、そしてエルデはレベル88、この差は痛い。10も差が付けばゲームの世界では倒すことが難しい。

 それにエルデだけでなく、ビレストはレベル45以上の強者揃いの騎士団だ、これ程の数を相手するには流石のジノやイルエラ、ウォルズだってきつい。因みに俺はザコいので一撃で戦闘不能レベル……。情けない。

 いつまでもエレベーターに閉じ篭ってはいられないらしく、俺達は団員達に引きずり出されてしまった。


 ——どうすればいいんだ一体!


 すぐそこまでエルデがやってきて、ウォルズも震えている。あの片手で持ってる大剣はどんな物理で肩で支えられているんだか。頑丈な身体と、馬鹿高い筋力で支えられているのか。そもそもなぜ抜刀している。

 え、マジで、ここで首落とされちゃうの。

 ——ギラリと黒光りして、その光の消える一瞬の間に首に刃先が向けられる。

 後からやってきた斬風がエルデの実力と気迫を乗せて吹き付ける。

「ひぇ……」

 どんな原理で——できたんだ!? 魔法か!?

「お前を斬る許可は出ていない。そう怯えるな」
「そ、そう」

 随分楽しそうに見えるけど。本当は斬りたいんじゃないの。

「う、うう……」
「ウォルズ……?」
「——うおおおエルデええええ!」

 ウォルズは鼻息をふんふん鳴らして目をキラキラと輝かせた。大人しいと思ったんだ、はぁ……お前は敵に怯えるなんてタマじゃないよな。

 呆れているのは俺だけではない、ジノやイルエラもジト目である。テイガイアだけはウォルズの性分をまだ良く理解できていないのか、不思議そうな顔だ。

 騎士団もどよめいて一歩後退さる。やめたげて、気持ち悪がらないであげて。

「かっけえええどのアングルから見てもかっけええ! でも万の首に剣向けるとかやめてくんないかな心臓止まるから。——俺ならいいからッ!! 迫力を間近で感じさせていただきたい! フォロワーさんにどうにかして伝えてみせる!! ゲーム愛という名の思念を送り続ければイケる! さあ俺に一撃プリーズ!」

 ペチャクチャ熱演するウォルズに言葉を失い、何だこいつ、と言う顔のエルデ。しかし、すぐにハッとして、「確か外からの侵入者か。優先にはされていないが貴様も逮捕状が出ている」と剣を向けてやる。天然でサービスしてくれるんだ。

 それにしたって、彼の言葉には違和感があった。

 ——おかしいな、何で優先にされてないんだ。

「他にも脱獄者イルエラ、ジノ。貴様等も檻へ戻って貰おう。だが、最優先はヴァントリア・オルテイルだ。シスト様がそう望んでいるからな」
「シストが……?」
「シスト様だ、ヴァントリア・オルテイル」

 俺に元王族と言うことを自覚させたいらしい。

 エルデは抵抗しない俺達の様子を見て抜刀していた大剣を背中の鞘へ戻した。ゲームでも思ったが、煌めかせて振り上げ、長い刀身を綺麗におさめる姿は、無駄にカッコいい。

 ほへーとウォルズとうっとりしながら眺めていたら、ジノに小突かれた。

「どうすんだ……あの一番偉そうな奴からぶっ飛ばすか?」

 ————無理無理無理無理ッ!? 何言ってんの!?

 そ、そうだ、ジノはエルデの存在を知らないのか。ビレストは最上階辺りで初めて出てくる敵集団。つまり下層へ降りてくることはほとんどないのだ。

 シストは一人で会いに来てたもんな。ウォルズに。たまに何人か連れてた気もするけど。ウォルズに飛びつくシストしか覚えてないや。

 作り笑いが多いキャラだが、心からの無邪気な笑顔もきちんと描き分けられていた。

 ウォルズにはベッタリだし——たまに抱き着いていたがそれの事ではなくて——逃がさない、捕らえる——と言う執着と言うか。敵なんだから当たり前だが。

 でもウォルズのことは相当気に入っていることは確かだった、慈愛に満ちた綺麗な笑顔を何度も向けていた、戦闘中にも口論の後にもだ。

 めちゃめちゃに好きだったよな。あれは。ヴァントリアにもその愛情を向けて欲しいくらいだ。

 立場さえなければウォルズとシストは親友になれるかもしれなかった、とゲームの攻略本に書かれていた気がする。ウォルズへの執着についてシストの心情云々の説明があった筈だ。

 ——なのに、最優先じゃないってどう言うことなんだ。ほんとに。

 ちら、とウォルズを見ると、彼は片手を剣の柄に乗せていた——え、と思った瞬間、数名のビレストの団員が反応してウォルズに向かって剣を振り下ろす。

 その剣を全て薙ぎ払い、美しいマントが目の前で翻る——ああ、やっぱりウォルズはかっこいいな。

 大人しく捕まるような俺より、例え無茶でも切り抜けようとするウォルズの方を、どんな人でも好きになるに決まってる。

 ——ウォルズの行動がきっかけで戦闘が始まった。

 イルエラもジノも、戦闘に参加しているが、やはりレベルが足りないことは効いてくるらしく、攻撃を防ぐのでいっぱいいっぱいだ。敵も多いため、たった数人では劣勢だろう。テイガイアは俺を引っ張って走り、敵から守ろうとしている。

 ————っ、今俺にできることは――

「こっちだみんなッ」

 引っ張られていたテイガイアの手を自分の方に引き寄せる——もはやこの町に滞在することは不可能だ、それならいっそ——ウォルズを見れば、彼はすぐに理解して笑んで承諾した。

 しかし、ビレストの強さは圧倒的だ、まず包囲を突破することができない。

 引っ張っていた手に、くん、と走りを止められてしまう。

 周りは敵だらけなのに——焦りで振り返れば、俯いたテイガイアがいた。

「テイガイア?」
「……私がやります」
「やるって……」


 ——まさか、魔獣化するつもりか!?





しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について

はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

俺の妹は転生者〜勇者になりたくない俺が世界最強勇者になっていた。逆ハーレム(男×男)も出来ていた〜

七彩 陽
BL
 主人公オリヴァーの妹ノエルは五歳の時に前世の記憶を思い出す。  この世界はノエルの知り得る世界ではなかったが、ピンク髪で光魔法が使えるオリヴァーのことを、きっとこの世界の『主人公』だ。『勇者』になるべきだと主張した。  そして一番の問題はノエルがBL好きだということ。ノエルはオリヴァーと幼馴染(男)の関係を恋愛関係だと勘違い。勘違いは勘違いを生みノエルの頭の中はどんどんバラの世界に……。ノエルの餌食になった幼馴染や訳あり王子達をも巻き込みながらいざ、冒険の旅へと出発!     ノエルの絵は周囲に誤解を生むし、転生者ならではの知識……はあまり活かされないが、何故かノエルの言うことは全て現実に……。  友情から始まった恋。終始BLの危機が待ち受けているオリヴァー。はたしてその貞操は守られるのか!?  オリヴァーの冒険、そして逆ハーレムの行く末はいかに……異世界転生に巻き込まれた、コメディ&BL満載成り上がりファンタジーどうぞ宜しくお願いします。 ※初めの方は冒険メインなところが多いですが、第5章辺りからBL一気にきます。最後はBLてんこ盛りです※

猫になった俺、王子様の飼い猫になる

あまみ
BL
 車に轢かれそうになった猫を助けて死んでしまった少年、天音(あまね)は転生したら猫になっていた!?  猫の自分を受け入れるしかないと腹を括ったはいいが、人間とキスをすると人間に戻ってしまう特異体質になってしまった。  転生した先は平和なファンタジーの世界。人間の姿に戻るため方法を模索していくと決めたはいいがこの国の王子に捕まってしまい猫として可愛がられる日々。しかも王子は人間嫌いで──!?   *性描写は※ついています。 *いつも読んでくださりありがとうございます。お気に入り、しおり登録大変励みになっております。 これからも応援していただけると幸いです。 11/6完結しました。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

処理中です...