56 / 293
第四章
53話 出口はすぐそこに
しおりを挟む足を止めていた男の後ろで銅像のように動かなかった赤い兵士達の姿を見ずにその真ん中を通り過ぎていく。
「戻ろう。何か素晴らしいことが起きる気がする。」
「しかし。貴方様はウロボスの長なのです。身の安全が第一でしょう」
「つまらないこと言わないでくれよ。」
「向こうにセル様の興味を惹くものがあるとは思えません」
「あるよ」
兵士は口をつぐむ。一体、何を根拠に。そんな顔で赤い衣の男を見ていた。
最期の赤い兵士の前を過ぎた後に、その疑問に答えるように彼は振り返る。
「勘だ」
その時、奥の扉から倒れ込むように瀕死の兵士が現れる。
汚い色だとすぐに斬り掛かるかと思われたが、彼はいい色に染まっている。短時間なら接しても平気だろう。
「何があったのかな。素敵な色で……やはり向こう側には更にその色で染め上げられた美しい光景が……」
「セ、セル、様。助け、助け……青い、鎧の……」
「……口にするのも汚らわしいよ。汚い色。よく俺の前で言えたもんだ。ああ、排除、排除しないと」
兵士の首を刎ねた後、「あははは、綺麗だ。外見は汚くても中身は平等に美しいなんて、神様は粋なことするなぁ。」
汚い、汚いと目に入る兵士を腰の剣で斬っていく男の後ろを赤い兵士達は無言で付いていく。しかし、拳や仮面の下の唇は恐怖で震えていた。いつ自分達が、彼の餓えた瞳に止まり、美しい色を見せてくれ、と彼の手によって色を取り出されてしまうのかと想像するだけで。今にも逃げ出したくなる気持ちでいっぱいだった。
兵士の数が多くなるにつれて、赤い衣の男は口元を歪める。
色塗りをする子供のように、簡単に壁へ絵具を塗りつけていく。尤も、もしこの男が子供であれば色鉛筆も絵の具もそれを入れる器さえも全てが赤く染められていなければ汚いと言って視界から除外するだろう。
赤い兵士達の眼前で繰り広げられる恐怖の色を割くように、やがてその色は現れた。
青い鎧と、光り輝く金髪。澄んだ美しい瞳。
その姿は正に、自分達を呪いの色から救い出してくれそうな勇者の立ち姿だった。
彼はこちらに気がつくと、明らかに焦りを顔に浮かべた。
「げ、俺そこまでレベル上げてないんだけど。」
「汚い色ばかりが俺の前を汚していく。俺の理想は叶いそうもないな。」
その頃、ヴァントリアはジノとイルエラに道案内をしながら城内を逃亡していた。担がれていると道が見えない等と適当な理由を付けて下ろしてもらおうとしたら、横抱きにされてしまった。確かに見えるが、居たたまれなさはあんまり変わんない。
仕掛け満載の城をヴァントリアの魔法であっという間に抜け、出口へ近付いた時だ。
ゲームでは、出口を抜けた時、まばゆい光に包まれ、やがてくっきりと輪郭を持ち始めて白い森が目の前を覆っていた。
出口から注がれたその希望の光が辺りを照らし、先走りの達成感を感じていた時だった。
そのまばゆい光に反する様に、黒い影がひょっこりと現れて、光の前で仁王立ちする。
肩に掛けていた黒衣をはためかせ乱暴に纏い、ズボンのポケットからはみ出した黒い手袋を引き摺り出す。
片方を口に咥え、それを身に付けていく様は妖艶で美しく、見ているだけで身体が戦慄する。
ググっと伸び切るまで伸ばされた手袋を指が離し、パチンと音がする。口に咥えたもう一方も、身に付けた後同じように伸ばし切って音を立てて装着を終えた知らせを鳴らす。
イルエラとジノは足を止め、彼を睨め付ける。
「逃がしませんよ。ヴァントリア様」
11
お気に入りに追加
1,938
あなたにおすすめの小説
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
悪役令嬢に転生するも魔法に夢中でいたら王子に溺愛されました
黒木 楓
恋愛
旧題:悪役令嬢に転生するも魔法を使えることの方が嬉しかったから自由に楽しんでいると、王子に溺愛されました
乙女ゲームの悪役令嬢リリアンに転生していた私は、転生もそうだけどゲームが始まる数年前で子供の姿となっていることに驚いていた。
これから頑張れば悪役令嬢と呼ばれなくなるのかもしれないけど、それよりもイメージすることで体内に宿る魔力を消費して様々なことができる魔法が使えることの方が嬉しい。
もうゲーム通りになるのなら仕方がないと考えた私は、レックス王子から婚約破棄を受けて没落するまで自由に楽しく生きようとしていた。
魔法ばかり使っていると魔力を使い過ぎて何度か倒れてしまい、そのたびにレックス王子が心配して数年後、ようやくヒロインのカレンが登場する。
私は公爵令嬢も今年までかと考えていたのに、レックス殿下はカレンに興味がなさそうで、常に私に構う日々が続いていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる