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第四章

53話 出口はすぐそこに

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 足を止めていた男の後ろで銅像のように動かなかった赤い兵士達の姿を見ずにその真ん中を通り過ぎていく。

「戻ろう。何か素晴らしいことが起きる気がする。」
「しかし。貴方様はウロボスの長なのです。身の安全が第一でしょう」
「つまらないこと言わないでくれよ。」
「向こうにセル様の興味を惹くものがあるとは思えません」
「あるよ」

 兵士は口をつぐむ。一体、何を根拠に。そんな顔で赤い衣の男を見ていた。

 最期の赤い兵士の前を過ぎた後に、その疑問に答えるように彼は振り返る。


「勘だ」


 その時、奥の扉から倒れ込むように瀕死の兵士が現れる。

 汚い色だとすぐに斬り掛かるかと思われたが、彼はいい色に染まっている。短時間なら接しても平気だろう。

「何があったのかな。素敵な色で……やはり向こう側には更にその色で染め上げられた美しい光景が……」
「セ、セル、様。助け、助け……青い、鎧の……」
「……口にするのも汚らわしいよ。汚い色。よく俺の前で言えたもんだ。ああ、排除、排除しないと」

 兵士の首を刎ねた後、「あははは、綺麗だ。外見は汚くても中身は平等に美しいなんて、神様は粋なことするなぁ。」

 汚い、汚いと目に入る兵士を腰の剣で斬っていく男の後ろを赤い兵士達は無言で付いていく。しかし、拳や仮面の下の唇は恐怖で震えていた。いつ自分達が、彼の餓えた瞳に止まり、美しい色を見せてくれ、と彼の手によって色を取り出されてしまうのかと想像するだけで。今にも逃げ出したくなる気持ちでいっぱいだった。

 兵士の数が多くなるにつれて、赤い衣の男は口元を歪める。

 色塗りをする子供のように、簡単に壁へ絵具を塗りつけていく。尤も、もしこの男が子供であれば色鉛筆も絵の具もそれを入れる器さえも全てが赤く染められていなければ汚いと言って視界から除外するだろう。

 赤い兵士達の眼前で繰り広げられる恐怖の色を割くように、やがてその色は現れた。

 青い鎧と、光り輝く金髪。澄んだ美しい瞳。

 その姿は正に、自分達を呪いの色から救い出してくれそうな勇者の立ち姿だった。

 彼はこちらに気がつくと、明らかに焦りを顔に浮かべた。

「げ、俺そこまでレベル上げてないんだけど。」
「汚い色ばかりが俺の前を汚していく。俺の理想は叶いそうもないな。」

 その頃、ヴァントリアはジノとイルエラに道案内をしながら城内を逃亡していた。担がれていると道が見えない等と適当な理由を付けて下ろしてもらおうとしたら、横抱きにされてしまった。確かに見えるが、居たたまれなさはあんまり変わんない。

 仕掛け満載の城をヴァントリアの魔法であっという間に抜け、出口へ近付いた時だ。

 ゲームでは、出口を抜けた時、まばゆい光に包まれ、やがてくっきりと輪郭を持ち始めて白い森が目の前を覆っていた。

 出口から注がれたその希望の光が辺りを照らし、先走りの達成感を感じていた時だった。

 そのまばゆい光に反する様に、黒い影がひょっこりと現れて、光の前で仁王立ちする。

 肩に掛けていた黒衣をはためかせ乱暴に纏い、ズボンのポケットからはみ出した黒い手袋を引き摺り出す。

 片方を口に咥え、それを身に付けていく様は妖艶で美しく、見ているだけで身体が戦慄する。

 ググっと伸び切るまで伸ばされた手袋を指が離し、パチンと音がする。口に咥えたもう一方も、身に付けた後同じように伸ばし切って音を立てて装着を終えた知らせを鳴らす。

 イルエラとジノは足を止め、彼を睨め付ける。


「逃がしませんよ。ヴァントリア様」


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