42 / 293
第三章
39話 ラルバンのマーシー
しおりを挟む紹介された宿屋の下の酒場にてウォルズとジノとイルエラとヒュウヲウンでご飯を食べることになった。
ジノは食い漁るがイルエラは手を付けない。
それを見かねたウォルズが「どうしたんだい」とイルエラに話し掛ける。
「これは食べ物なのか」
「ああ、君が今まで食べて来たのは亜人で出来た餌だもんねぇ」
とウォルズが言い出して、イルエラはシーン。
——お前は何を言い出してるんだああああああッ!?
どうしてそうデリカシーがない時のとんでも発言を制御出来ないんだお前は! そのけろっとした表情やめろ!
そう言えば誰に対しても優しいけど「ダサい服だね」とか「今日かわいくないね」とか「俺そう言うの興味ないからパス」とか言っちゃいけないような事をたまに投下してくるんだ晴兄は!
余計手を付けなくなってしまったイルエラに「う、うまいぞ!」と自分のフォークを差し出しすと。
ウォルズが「あーんキタコレ! 録画録画!」と何やら漁っている。ないだろ録画するものなんか。
「ほら、食べてみろ」
「…………」
イルエラの喉がごくりと動く。其の儘黙ってパクリ。すると、目を見開いて呟いた。
「うまい。」
「おお、もっと食え食え」
と俺のフォークで食わせていったが、正に餌付けの絵面だな。
しかし雛鳥みたいにパクパク食べて顔を綻ばせる様は普段の彼とは一風違っていて可愛らしい。
そんな時だ、隣から殺気を感じたのは。イルエラと俺の仲睦まじい様を見て美しい踊り子様が鋭い視線を送ってきている。
そ、そうだな。この役目は君だよな。
野獣のような目からそっと目を逸らそうとすると。
「ヴァ、ヴァントリア! それじゃ食べれないでしょ、ど、どうぞ」
てっきりイルエラに差し出されるだろうと思っていたフォークに刺された飯を、真逆毒入りじゃ——と考えて、その先を考えるのをやめた。彼女ならあり得るからだ。
「……いや、いいよ。」
「はがぐぅっ」
ヒュウヲウンは背後から攻撃を受けたかのようにのたうち回りやがて机に伏した。やはり毒入りだったか。
今度はウォルズが「あーん」と差し出してくる。此奴も此奴で何か入れてそうだな。
「いらねえ」
「あはぁ、可愛いヴァントリア♡」
お前はどのヴァントリアなら可愛くないんだよ。
「ほら」
今度はジノが差し出してきた。
えっと……この場合、ジノさんは俺にあーんすることが普通のことだと認識していると思ってもいいのだろう。
「さっさと食べろよ。手が疲れる」
まあジノなら変なものは……入れない、筈。いやしかし一番の危険人物は彼じゃないか、彼はヴァントリアをゲームの世界で殺害した張本人だぞ。
「……オイ。さっさと食え」
しかしヒュウヲウンの狩人の目よりウォルズの変態より怖い表情と声音でそう言われれば食べるしかあるまい。
恐る恐る口に含めば、目の前の顔が歪められる。お前はどのヴァントリアが正解なんだ。
そんなこんなでわちゃわちゃウォルズの奢り飯を楽しんでいた時だ、たった今店に入ってきた客を見てヒュウヲウンの表情が固まった。
彼女の視線を追って彼等の姿を確認する。
先刻ヒュウヲウンを襲った男とその他にも柄の悪い男が数人やって来て、店内が余計に騒がしくなる。
さらに兵士迄やって来て、ウォルズに相談して俺達は二階に移動した。
てっきりウォルズもついて来ると思ったが、ウォルズは残ると言う。
彼の視線の先には先刻の柄の悪い男達。
名の知れた男達のようでラルバンのマーシーと呼ばれていた。
ゲームで言うラルバンとは確か、人攫いの集まり——組織の名前だ。
32
お気に入りに追加
1,952
あなたにおすすめの小説
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる