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第三章
26話 弱小モブに何が出来るのか
しおりを挟む夜になり、無一文で宿無しで。菓子しか食えず。3人並んで途方に暮れていた。
天井には星が瞬いている。まるで映像が映し出されているみたいに同じようなタイミングで瞬く星を見て、不思議と前世の星空を思い出した。
前世とは程遠いが、綺麗な天井だとは思う。
地上の町——異世界の町そのもので、自分達が地下に捕らえられていることを忘れてしまいそうになる。
そんな星空の下、ヒュウヲウンのお菓子で早速軽く空腹を満たして、町で何かないかとほっつき歩いていたら、町に似合わない屈強な男達がそれぞれ特徴的な装備を付けて広場に集まっているのを見つけた。
すぐ近くにいた男二人組に尋ねてみると。
「魔獣狩りだよ。西のル・エルベスの森に狩りに行くんだ。」
「多く狩った者には賞金が出るらしくてよ、優勝したら100万は貰えるらしいぜ。」
――――ひゃ。
「ひゃ、100万————ッ!?」
「それ以上の額を狙って懸賞金の掛かっている魔獣を倒してお金を稼ぐ人もいるんだよ」
「か、金……。————……お、俺達も参加したいです!」
隣にいたジノとイルエラがびっくりしているが、話はどんどん進んで行く。
「参加は自由だよ。この町の行事みたいなものなんだ。今は繁殖の時期でね、気が立っている魔獣が多くて危ないんだ。食べ物を求めて町に降りてくることもあるしね」
「でも殺すのはちょっと可哀想ですね……」
ゲームでは面白楽しく攻撃出来たけど。現実で傷付ける事は正直怖い。
長身の男性は困ったように笑っていたが、もう一人の腹の出た男は少し不機嫌そうだ。
「君達武器は持ってる?」
話題を変えてくれたのだろう。
「——あ。」
見廻りの男が持っていた拳銃ならあったが、使えないと思ったし怖かったから彼の横に置いてきた。
他に何かあったっけと手でパタパタ胸ポケットやズボンのポケットを漁っていると、ハンッと腹の出た男が侮蔑するように笑った。
その態度にジノとイルエラがムッとする。
「アンタ等みたいなぬるい考えの奴等が参加できるもんじゃないぜ。この行事には死人だって出るんだ。金目当てで参加して無事だった奴はいないぜ。魔獣退治だのなんだの言ってるけどな、この行事は腹を空かせた魔獣達に頭の悪い連中をたらふく食わせてやってるみたいなもんだぜ。手前等なんか餌にしかならねえんだよ」
「おじさん優しいんだな。ありがとう」
言った途端、おじさんは、はあああっ!? と口を大きく開けて驚いた。
長身の男はくすくすと笑っていて、ジノとイルエラは額を押さえて溜息を吐いている。
「まあ、彼の言うことも一理あるよ。森には古くから住んでいる主達がいるからね。彼らに出会ったらまず逃げた方がいい」
「主?」
「ボスってことだよ。分かったら帰れ」
「やっぱ優しいな」
「分かった手前バカなんだな。」
なぜみんなその結論に至るんだ。
しかし——ゴッと背後で音がして、ガラガラと傍の石造りの街灯が壊れて行く。
振り返ると、ジノさんが目を吊り上げて何やら不穏な雰囲気を全身に纏っていた。
「そいつがバカなのは認めるけど、分かったようなフリしないでくれねえか。」
ぐい、と強い力で袖を引かれる。
どうしたんだ?
「なんだこの餓鬼。別に分かったようなフリなんてしてねえよ。」
「馴れ馴れしいって言ってんだよ」
ん、これはもしかして。
「嫉妬か?」
「うっさいッ!!」
真っ赤になって地団駄を踏むジノ。その地面を粉砕していることに気が付いているのだろうか。
目の前の光景を目にして男二人が青ざめているのも気付いていないことだろう。
目立たないようにするんじゃなかったのか。
イルエラが毎度の如く宥めてジノが大人しくなる。なんとなくだが、あの大量の呪いを浴びてからジノは苛立っている気がする。
あの触手博士に渡さなければ良かったな。治療に使ってくれと別れる時に渡してしまったのだ。
ジノの戦闘能力を確認した為か、その後、腹の出た男は忠告するのをやめた。
しばらくしてから移動が始まった。狩りに行く男達に通り掛かりの人からの声援が飛び交う。
町の行事と言っていたし、命も掛かっていると言うのにあまり関心はないのか、お祭り騒ぎとまではいかないらしい。
どちらかと言うと今夜開かれると言う本物の祭りの方が人気が高いのかもしれないな。
エルベスの森へ着き、森の入り口付近でみんな足を止めた。
エルベスの森は確かゲームでも行ったことがある。ウォルズも魔獣退治で何度か駆り出されているし、何よりお金が貯まるのだ。
金銭的に問題が発生したらエルベスの森で魔獣退治して森の主や懸賞金の掛けられている魔獣を倒せば一気にお金が稼げる。
ただ本軸を使わずに、バラバラに設置されたエレベーターで42層まで降りてくるのが面倒だった。
因みに本軸を使えば門番がシストに伝えてシストが兵士に伝えて、大勢の敵が出現する。エレベーターを使って違う階に逃げればある程度は敵の数が減るが、警戒態勢に入っている為各階に兵士の数が増え、彼等に見つかると敵が大勢やってくる。かなり面倒臭い事になるし、報酬はもちろん少ない。たまに貰えないことだってあるから、本軸を使うことはおすすめしない。面倒だが本軸以外のエレベーターを使った方がマシだ。
『魔獣狩りへご参加いただきありがとう!』
猛牛のような大男が入り口付近に設置された土台に乗って話し出した。彼が開催者らしい。
『このエルベスの森で確認されている魔獣は全部で32体! 中でもマクガンタン、ベイオロド、カリオルクス、アイオウグの4種類が繁殖期を迎えて今回の魔獣狩りの対象になっている! これ以外の魔獣は対象外になるから気を付けろ、倒した魔獣はここで待機している役員に見せてくれ! 量が多くなったらこの発煙筒で位置を知らせて、役員を呼び出してもいい。倒した合計の体重で優勝者を決める! それからもう1つ、分かっていると思うが、2人以上で行動した奴は失格だ。ルールは以上だ!!』
え。と、ジノとイルエラと俺で呆ける。
そう言えば、魔獣狩りって個人戦だった。
すう、と大男は背中を逸らすまで息を吸い込んだ——
『魔獣狩りの始まりだああああああああ————ッ!!』
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