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第三章
22話 待ち焦がれる町
しおりを挟む人口3万人の町で俺達たった三人を見つけだすのは困難だろう。ただ、このみすぼらしい見廻りの格好と囚人服二人を常人と見るかは別として。
まず服をどうにかしようと、見覚えのある店があったので、取り敢えずイルエラとジノを連れてそっと入ってみる。
「らっしゃい。うちは何でも揃ってるよ」
聞いたことのある声で聞いたことのあるセリフを言ったそのおっちゃんは、勇者・ウォルズの装備を見繕っていた店の店長だ。ついでに回復薬や薬草などの、必要最低限のアイテムも買える。
ウォルズの装備のデザインは正に勇者と言う感じで、強さと優しさが醸し出された、あまりギラギラしていない驕っていない衣装だ。
シンプルだが格好良く、種類も様々でこれもゲームの人気の1つ。
もう1つは、ウォルズの仲間として傍に同行する美少女の衣装も変更出来るのが良かった。
清楚なものから露出の高いものまで揃っており、何より可愛い見た目に可愛い声で人気が高いキャラだった気がする。
「後ろの二人の服を見繕って貰いたいんだ」
「ん? それはいいが、アンタはいいのかい?」
「ああ。俺は要らなくなったローブとかでいい」
確か、廃棄物から見つかったフード付きのローブが硬貨0で置いてあった筈だ。
「ああ、それならちょうどいいのがあるぜ。」
おっちゃんが裏へ行って取ってきたのは、ゲームの中で見たあのローブだ。
ジノとイルエラが採寸をしている間に、町を探検することにした。もちろん見廻りの服はローブで、顔はフードで何とか隠している。
何かない限り不自然とは思われないだろう。
「お母さんあの人変な格好!」
「そうねー」
あれ!? 逆に目立ってないか?
それに母親は定番のセリフを言ってくれないのか。……でもまあ、この状態じゃあな。
くるりと周囲を見回すと、路地裏や地面には枷をつけた子供達がいる。皆、俺に劣らず見窄らしい格好だ。
ストーリーでは主人公であるウォルズが彼等を助けて上の階を目指す。だからヴァントリアである悪者で弱小モブな俺では助けることが出来ない。ここは、見て見ぬ振りをするしかない。
「ヴァントリア。服は明日までには完成するらしい。また改めて取りに来てくれって店主が……ヴァントリア?」
「え、ああ。そうか」
「何見てたんだ?」
店から出て来てそう言ったジノが、不思議そうに小首を傾げる。その眉間には皺を寄せているが。
イルエラも出て来て、どうした、と聞いてくる。
奴隷がこれだけいると言うことは奴隷商人も人攫いも、他にもヤバイ奴らが沢山いるのだろう。そもそも43層は奴隷を囚人と呼び閉じ込めている設定もあった。
だが囚人でいた方がマシな暮らしは出来そうだな。檻の中とは言えベッドもトイレもあるのだから。路地裏で捨てられた人形のようにピクリとも動かなくなるよりは幾分かマシだと思う。ただ、檻の中で死なないとは言えないし。実験台にされるかもしれないリスクだって付いてくる。おすすめはしない。
彼等と比べてジノやイルエラの身体は頑丈に出来ていて、飲まず食わずでも3日くらいは元気でいられる。
兵士と比べてもズバ抜けて戦闘能力が高い。だが高いが故に裏組織と言う部類の者達によく狙われていた。
ハイブリッドは恐れられる存在でもあるが石油ばりの値打ち物なのだ。
ジノとイルエラがハイブリッドであることを知られる訳にはいかない。目立たないことこそがよっぽど無難な選択だ。
裏組織の方々はド偉い方々とよろしい仲であると、ゲームのストーリーで知ってしまっている。捕まれば最悪の事態になると簡単に予測できた。
シスト様に目を付けられたヴァントリアである俺が出ていったところで、どうにもならない。
元王族だし、ザコだし、いい取引材料だと人攫いや奴隷商人に狙われることになるだろう。
兵士達も絶賛捜索中だろうし。
ほとぼりが冷めれば捜索は中止になる筈だ。ヴァントリアはゲームじゃ脱獄常習犯だったからな。何度檻に入れられても、脱獄して、ウォルズをいじめに行くストーカーだ。
ちら、と路地裏の子供達を見る。ボロ布を巻いただけの身体には、無数の傷跡が窺える。その傷は生々ししくて、痛々しい。傷のない筈の自分にも痛みを訴えかけてくる。
俺がどう動こうと、あの子達を助ける所か危険に晒すだけだ。今は耐えなければ。
「今……?」
「ヴァントリア?」
今っていつだ、ウォルズがここに来る保証なんてないのに。だって、ウォルズが外の世界から侵入しているなら、シストが放っておかない筈だ、なのに、ヴァントリアを優先している時点で、彼はそもそも地下都市へ侵入すらしていないんじゃないのか。
「——ッ」
「ヴァントリア!」
走り出そうとした途端、イルエラに腕を掴まれてしまう。
「い、イルエラ」
「……私も助けてやりたいが、今は耐えろ」
「でも……っ」
イルエラに訴えようと振り返って、息を呑む。彼もまた、耐えるように目を伏せていた。ジノを見ると、いつも以上に顔が険しい。
……決して悪い町ではない。人々には笑顔が溢れ、子供達は道を走って鬼ごっこをする。しかしその地面と路地に隠れた存在が、良い町とは形容し難くしている。
本当にこの世界に勇者は現れるのだろうか。
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