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最強転入生と脅迫状

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 朝早く、まだホームルームも始まる前。

「何ですか理事長先生」

 理事室に呼ばれた俺は、初めて深刻な顔をする理事長先生と面会した。

 机の上に一通の便箋が置かれている。
 それを一身に見つめたまま、理事長先生は動かない。

「来てくれたね、アップル」

「……どうしたんですか?」

 その表情のせいで、いつものように軽く応対することができない。ギャップというには心臓に悪すぎる。
 ともかく非常事態らしい。

「今朝、この手紙が理事室前に落ちているのを発見してね」

 机の手紙を俺に差し出してくる。
 読めと? この学園に来てから、手紙にあまり良い思い出がないのだが。

 まあ読まなければ話も進まないだろう。
 既に開封された手紙を取り、広げていく。

「……これは?」

「どうやら皇国全土の魔術学校に届いているらしい」

 真っ白な紙に赤いインクで描かれた魔法陣。
 それ以外には何も記されていない。

 そして一目でわかった。
 この魔法陣には何の魔術的意味も込められていない。魔法陣風の柄でしかないのだ。

 意図が読み取れない魔法陣に、僅かながら恐怖心を覚える。

「気づいたと思うが、これを描いたのはかなりの手練れだよ。慣れていない者が書く魔法陣特有のためらいがない」

 ただのイタズラではないということか。

 ならばこれは、一体どんな意図がある?

「図形自体には意味がない。だが、そこに記された魔術文字を読み上げるとわかるはずだ」

 魔法陣から魔術文字のみを抜き出す。
 皇国外の魔術文字であるため、一旦通常の魔術文字へと変換してから文章を作り上げる。

 するとどうだろうか。
 まるで脅迫のような文章が浮かび上がってくる。

 "四日後に開催される定期考査を中止にしろ。さもなければ、以下の座標にある魔術学校を襲撃する"

 そして、座標の位置は。

「皇立魔法学院と……」

「……ここだよ。この手紙をばら撒いた犯人は、皇立魔法学院と我が校を襲撃すると宣言して来た。あちらの学校からも連絡が入っている」

 学院だけなら襲撃されるのはわかる。
 だが、何故犯人はうちのようなEクラスの魔術学園を狙う必要がある? 
 有名な学校はいくらでもあるのに?

「学院側は、アップルくんが犯人なんじゃないかと疑っている」

「な……っ!」

 言葉を失う。

 だが、学院側の言い分もわかる。
 学院に良い印象を持たず、つい最近こちらの学園へ転入した人物。
 俺しかいないのだ。

「キミ、犯人じゃないって証拠ある?」

「ありません……でも、信じてください」

 アリバイなんてあるわけない。
 逆に、俺なら皇国全土の魔術学校に手紙をばらまく事だって簡単にできる。
 これだけの芸当をできる人物は、きっと少ないだろう。

 だから信じてもらうしかない。
 俺は犯人ではないと。

「私がキミを疑っていると思ったのかい? 心外だなぁ」

 深刻そうな顔を歪め、理事長は微笑んだ。

「確かに学院側への動機はあるけど、キミがウチを襲撃する理由なんてないじゃないか」

「…………」

「だってまさに今、キミはウチを立て直そうとしてくれているじゃないか。それとも、天才だから人とは思考が違うのかい?」

 理事長らしいいつもの陽気さだ。
 普段なら少し鬱陶しいが、今だけはその陽気さが頼もしく見える。

 首を横に振る。
 天才と呼ばれるのも億劫なんだ。なのにそれを理由に意味不明な脅迫だと? ふざけるな。
 俺は真っ当だっつーの。

「向こうの理事には私が話しておく。何かあったら出てもらうかもしれないけど」

「大丈夫ですか? 学院の理事長は皇帝陛下とも面識のある方ですよ?」

「あのねぇアップルくん、あんまり私を見くびってもらっちゃ困るよ?」

 不敵に笑う理事長。
 確かにそれなりの信頼をしているが、相手は最高学府の理事長だ。最底辺が交渉できるような相手じゃない。

 俺やモモのように言いくるめられる訳でもない。
 何か交渉材料でもあるのか?

「大船に乗った気持ちとまではいかないが、まあ安心して彼女たちを支えてあげてくれ」

「はい……わかりました」

 理事長に告げられ、俺は部屋を後にする。

 異常事態が始まっている。
 第六感が、俺の耳元で囁いた。
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