18 / 20
最強転入生と脅迫状
しおりを挟む朝早く、まだホームルームも始まる前。
「何ですか理事長先生」
理事室に呼ばれた俺は、初めて深刻な顔をする理事長先生と面会した。
机の上に一通の便箋が置かれている。
それを一身に見つめたまま、理事長先生は動かない。
「来てくれたね、アップル」
「……どうしたんですか?」
その表情のせいで、いつものように軽く応対することができない。ギャップというには心臓に悪すぎる。
ともかく非常事態らしい。
「今朝、この手紙が理事室前に落ちているのを発見してね」
机の手紙を俺に差し出してくる。
読めと? この学園に来てから、手紙にあまり良い思い出がないのだが。
まあ読まなければ話も進まないだろう。
既に開封された手紙を取り、広げていく。
「……これは?」
「どうやら皇国全土の魔術学校に届いているらしい」
真っ白な紙に赤いインクで描かれた魔法陣。
それ以外には何も記されていない。
そして一目でわかった。
この魔法陣には何の魔術的意味も込められていない。魔法陣風の柄でしかないのだ。
意図が読み取れない魔法陣に、僅かながら恐怖心を覚える。
「気づいたと思うが、これを描いたのはかなりの手練れだよ。慣れていない者が書く魔法陣特有のためらいがない」
ただのイタズラではないということか。
ならばこれは、一体どんな意図がある?
「図形自体には意味がない。だが、そこに記された魔術文字を読み上げるとわかるはずだ」
魔法陣から魔術文字のみを抜き出す。
皇国外の魔術文字であるため、一旦通常の魔術文字へと変換してから文章を作り上げる。
するとどうだろうか。
まるで脅迫のような文章が浮かび上がってくる。
"四日後に開催される定期考査を中止にしろ。さもなければ、以下の座標にある魔術学校を襲撃する"
そして、座標の位置は。
「皇立魔法学院と……」
「……ここだよ。この手紙をばら撒いた犯人は、皇立魔法学院と我が校を襲撃すると宣言して来た。あちらの学校からも連絡が入っている」
学院だけなら襲撃されるのはわかる。
だが、何故犯人はうちのようなEクラスの魔術学園を狙う必要がある?
有名な学校はいくらでもあるのに?
「学院側は、アップルくんが犯人なんじゃないかと疑っている」
「な……っ!」
言葉を失う。
だが、学院側の言い分もわかる。
学院に良い印象を持たず、つい最近こちらの学園へ転入した人物。
俺しかいないのだ。
「キミ、犯人じゃないって証拠ある?」
「ありません……でも、信じてください」
アリバイなんてあるわけない。
逆に、俺なら皇国全土の魔術学校に手紙をばらまく事だって簡単にできる。
これだけの芸当をできる人物は、きっと少ないだろう。
だから信じてもらうしかない。
俺は犯人ではないと。
「私がキミを疑っていると思ったのかい? 心外だなぁ」
深刻そうな顔を歪め、理事長は微笑んだ。
「確かに学院側への動機はあるけど、キミがウチを襲撃する理由なんてないじゃないか」
「…………」
「だってまさに今、キミはウチを立て直そうとしてくれているじゃないか。それとも、天才だから人とは思考が違うのかい?」
理事長らしいいつもの陽気さだ。
普段なら少し鬱陶しいが、今だけはその陽気さが頼もしく見える。
首を横に振る。
天才と呼ばれるのも億劫なんだ。なのにそれを理由に意味不明な脅迫だと? ふざけるな。
俺は真っ当だっつーの。
「向こうの理事には私が話しておく。何かあったら出てもらうかもしれないけど」
「大丈夫ですか? 学院の理事長は皇帝陛下とも面識のある方ですよ?」
「あのねぇアップルくん、あんまり私を見くびってもらっちゃ困るよ?」
不敵に笑う理事長。
確かにそれなりの信頼をしているが、相手は最高学府の理事長だ。最底辺が交渉できるような相手じゃない。
俺やモモのように言いくるめられる訳でもない。
何か交渉材料でもあるのか?
「大船に乗った気持ちとまではいかないが、まあ安心して彼女たちを支えてあげてくれ」
「はい……わかりました」
理事長に告げられ、俺は部屋を後にする。
異常事態が始まっている。
第六感が、俺の耳元で囁いた。
0
お気に入りに追加
92
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……
こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる