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最強転入生と予定表
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定期考査が近い。
魔術学校のテストは、学校のランクに問わず全て統一された問題が出題される。
皇立魔法学院もここも、内容は同じだ。
考査を起点に予定を立てる。
荷物検査をいつやるかが悩みどころだ。
期間中は嫌でも敏感になりやすい。
そんな時に抜き打ちで荷物検査をやろうものなら、風紀委員への印象も悪くなるだろう。
「おはようございまーす!」
生徒会室に元気な挨拶がこだました。
バナーニャの元気は無尽蔵だ。
そうだ、彼女にも聞いてみよう。この学園にいる期間は長いし、嫌なタイミングもわかるはずだ。
「なあバナーニャ、考査が近いんだが」
書類とにらめっこしながら話しかける。
やはり普通の学校とは勝手が違うだろうし、是非とも意見を取り入れたい……のだが、返事がない。
いつもならまっすぐ歩いて来て、ソファに座るか寝転がるかするはずなのに。
「……バナーニャ?」
書類から顔を上げる。
するとどうだろう。
彼女は歩いたポーズのまま、入り口近くで固まっているではないか。
別に魔術の影響という訳ではなさそうだ。
いや、なら逆になんでこんなことに?
「おーい、どうした?」
「テ……はい……で……」
「何だって?」
口をもごもごさせながら小声で喋る。
固まっていると思った体は、近くでよく見ると小刻みにプルプル震えていた。
「テストは嫌です……」
「何言ってんだ?」
「テストは嫌なんですぅぅ!!」
叫び声を上げ、カバンをひっくり返して頭にかぶる。そのまま部屋の隅に駆け、小さくしゃがみ込んだ。
カバンの中身が全部出たが、いいのか?
床に散乱した彼女の筆記用具をまとめる。
何が彼女を奇行に走らせたのだろう。
返事が得られず、再び予定表を睨む。
考査の後が良いのだろうか?
「おっすっスー」
呑気な声を上げながら、次はモモが来た。
「え、バナーニャどうしたんっスか?」
「定期考査の話をしたらこうなった」
まあこの状況を見れば気になるだろう。
俺だって、部屋に入っていきなりこんな光景に出会ったら言葉に詰まる。
「そういえばテストっスねー」
「あぁ、だからどの辺りで荷物検査を実施しようか考えてるわけで」
「テストかー、そっスかー、っスかー」
……様子がおかしい。
バナーニャのように暴走はしていないが、明らかに動揺している。
気持ち血の気が引いているように見える。
「テストっスかー、マジっすかー……」
「も、モモ?」
「……むりちゃづけぇ」
吐息交じりに意味不明な言葉を呟く。
そのままふらふらと、椅子に座らず長机にうつ伏せで寝転がった。
……白か。
「只今推参した」
「イチジク、定期考査についてなんだけど」
「言葉に気をつけろアップル。次その単語を無用心に出した時には現世に別れを告げるものと思え」
うわぁ、わっかりやすい。
* * * * * * * * * *
「三人共、いいか」
全員が正気を取り戻した。
とは言ったものの、先ほどのあまりに激し過ぎる反応を見るあたり、定期考査が相当嫌いらしい。
まあ、テストが好きな人間なんていない。
いたとしてもごく少数だ。
「いくら逃げてもテストは来るぞ」
「知ってますよ! 知識Aにバカの気持ちがわかるもんですか!」
こんなにツンツンしたバナーニャも久々だ。
「貴様はC-だから良いだろ。私なんてD-だぞ」
「Aからしたらどっちも下ですよ!」
完全にやさぐれている。
知識はBあたりに改ざんすべきだった。
こんな疎外感を味わうことになるとは。
だが、このままではダメだ。
学園の立て直しに、定期考査というイベントはどうしても外せない。
外せない理由があるのだ。
どうにか説得しなければ。
「それなら、俺が教えてやる」
「え、どういう事っスか?」
「今日から定期考査まで、授業も仕事もない空白時間に勉強会を開く」
勉強会。
俺が言うと、三人は露骨に嫌な顔をした。
「勉強するんですかぁ?」
「みっちり詰め込む」
「拒絶はせぬが、そも私は通常の勉強法で成績が上がらぬ程の阿呆だぞ?」
「そこは任せとけ」
少しだけ心が躍る。
実はまだ魔法学院に希望を持っていた頃、俺の将来の夢は理想の教師になる事だった。
今でこそ学院を抜けたが、夢は残っている。
後輩に勉強も教えていたし、自信がある。
「全員揃って成績を上げるぞ」
「……わかったっス」
「勉強嫌です……」
さあ、立て直し計画フェーズ・ワンだ。
魔術学校のテストは、学校のランクに問わず全て統一された問題が出題される。
皇立魔法学院もここも、内容は同じだ。
考査を起点に予定を立てる。
荷物検査をいつやるかが悩みどころだ。
期間中は嫌でも敏感になりやすい。
そんな時に抜き打ちで荷物検査をやろうものなら、風紀委員への印象も悪くなるだろう。
「おはようございまーす!」
生徒会室に元気な挨拶がこだました。
バナーニャの元気は無尽蔵だ。
そうだ、彼女にも聞いてみよう。この学園にいる期間は長いし、嫌なタイミングもわかるはずだ。
「なあバナーニャ、考査が近いんだが」
書類とにらめっこしながら話しかける。
やはり普通の学校とは勝手が違うだろうし、是非とも意見を取り入れたい……のだが、返事がない。
いつもならまっすぐ歩いて来て、ソファに座るか寝転がるかするはずなのに。
「……バナーニャ?」
書類から顔を上げる。
するとどうだろう。
彼女は歩いたポーズのまま、入り口近くで固まっているではないか。
別に魔術の影響という訳ではなさそうだ。
いや、なら逆になんでこんなことに?
「おーい、どうした?」
「テ……はい……で……」
「何だって?」
口をもごもごさせながら小声で喋る。
固まっていると思った体は、近くでよく見ると小刻みにプルプル震えていた。
「テストは嫌です……」
「何言ってんだ?」
「テストは嫌なんですぅぅ!!」
叫び声を上げ、カバンをひっくり返して頭にかぶる。そのまま部屋の隅に駆け、小さくしゃがみ込んだ。
カバンの中身が全部出たが、いいのか?
床に散乱した彼女の筆記用具をまとめる。
何が彼女を奇行に走らせたのだろう。
返事が得られず、再び予定表を睨む。
考査の後が良いのだろうか?
「おっすっスー」
呑気な声を上げながら、次はモモが来た。
「え、バナーニャどうしたんっスか?」
「定期考査の話をしたらこうなった」
まあこの状況を見れば気になるだろう。
俺だって、部屋に入っていきなりこんな光景に出会ったら言葉に詰まる。
「そういえばテストっスねー」
「あぁ、だからどの辺りで荷物検査を実施しようか考えてるわけで」
「テストかー、そっスかー、っスかー」
……様子がおかしい。
バナーニャのように暴走はしていないが、明らかに動揺している。
気持ち血の気が引いているように見える。
「テストっスかー、マジっすかー……」
「も、モモ?」
「……むりちゃづけぇ」
吐息交じりに意味不明な言葉を呟く。
そのままふらふらと、椅子に座らず長机にうつ伏せで寝転がった。
……白か。
「只今推参した」
「イチジク、定期考査についてなんだけど」
「言葉に気をつけろアップル。次その単語を無用心に出した時には現世に別れを告げるものと思え」
うわぁ、わっかりやすい。
* * * * * * * * * *
「三人共、いいか」
全員が正気を取り戻した。
とは言ったものの、先ほどのあまりに激し過ぎる反応を見るあたり、定期考査が相当嫌いらしい。
まあ、テストが好きな人間なんていない。
いたとしてもごく少数だ。
「いくら逃げてもテストは来るぞ」
「知ってますよ! 知識Aにバカの気持ちがわかるもんですか!」
こんなにツンツンしたバナーニャも久々だ。
「貴様はC-だから良いだろ。私なんてD-だぞ」
「Aからしたらどっちも下ですよ!」
完全にやさぐれている。
知識はBあたりに改ざんすべきだった。
こんな疎外感を味わうことになるとは。
だが、このままではダメだ。
学園の立て直しに、定期考査というイベントはどうしても外せない。
外せない理由があるのだ。
どうにか説得しなければ。
「それなら、俺が教えてやる」
「え、どういう事っスか?」
「今日から定期考査まで、授業も仕事もない空白時間に勉強会を開く」
勉強会。
俺が言うと、三人は露骨に嫌な顔をした。
「勉強するんですかぁ?」
「みっちり詰め込む」
「拒絶はせぬが、そも私は通常の勉強法で成績が上がらぬ程の阿呆だぞ?」
「そこは任せとけ」
少しだけ心が躍る。
実はまだ魔法学院に希望を持っていた頃、俺の将来の夢は理想の教師になる事だった。
今でこそ学院を抜けたが、夢は残っている。
後輩に勉強も教えていたし、自信がある。
「全員揃って成績を上げるぞ」
「……わかったっス」
「勉強嫌です……」
さあ、立て直し計画フェーズ・ワンだ。
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