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15話「1ターンキル!」

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 言葉と共にフォルテの右手に野球ボール大の青い光球が現れる。
 今にもはじけ飛びそうに空中でブレながら浮かぶ光の球。
 彼は掌でそっと球に触れつつ、張りのある声で唱えた――!

「『|絶対零閃(アブソリュート・レイ)』!」

 詠唱と共に、光の球体は無数の光線を解き放つ!
 光線は次々に敵戦士へ直撃し、その肉体を氷塊へ変えていく!
 かすめただけでも敵を凍り付かせ、琥珀の中の虫のように閉じ込めてしまうこの威力……無数の蒼閃が、容赦なく獣戦士達を蹂躙する!

 間近で見ていた重装兵も驚きの声を上げる!

「なんつー威力だ……!」
「ああ、だがこれだけじゃない」

 返されたフォルテの言葉に首をかしげる重装兵。
 そんな彼に、フォルテは続けて説明する。

「氷柱で敵を減らしつつ道を塞いだのもこの状況も、全部作戦のうちだ」

 フォルテの言葉にハッとした重装兵は丘の下へ視線を向ける。
 そこにいる獣人軍の兵はもはや数え切れるほどの少数で、それらを第三大陸の戦士達が各個撃破していたのだ。
 丘の下へ戻ろうとする戦士達も悉く氷柱に阻まれ、光線に貫かれていく。

 最高の状況を作り出したフォルテに歓喜の笑みを浮かべる重装兵。
 フォルテもそれに微笑み返すが、彼は同時に異常に気付き、前へ向いた。

 ほぼ全ての敵戦士が凍り付いた戦場に、たった一つだけ影が立つ。
 四つ足のモンスターに跨った彼は、今にも凍結しそうになるモンスターから飛び降り、光線を弾きながら単身でフォルテの下に歩み寄る。
 一騎当千の豹人……獣人軍の大将だ。
 彼は歩を少しずつ速めながら口を開く。

「ジャリ風情がここまでやるとはな……だがしかし、貴様さえ倒せば最早恐れるものなどないのだ!」

 地面を揺らすような大声で威風堂々と叫ぶ将軍。
 彼は更なる威圧のため、饒舌に言葉を続けた。

「この第五大陸の王から賜った対魔術用の鎧と、我が無双の肉体があれば……敵う者などないのだああァァァァァァアアアッッッ!」

 絶対的自信を背に咆哮を上げ駆け出した敵将。
 しかしフォルテは至って冷静だった。
 彼の中でゆっくりと流れる時間の中、敵将の言葉を反芻する。

(第五大陸の王……?)

 自分もよく知る新たなワードを考察するフォルテ。
 それは彼の大陸統一時、彼を皇帝と認めた各大陸の代表者の一人だった。

 その人物から渡されたという黄金の鎧へ目を移したフォルテは、心の中で一息置いて思案した。

(対魔術……どの程度の耐久度なんだ?)

 彼の右の掌にあった青い球体は薄っすらと空間に溶けていく。
 交戦により彼のマナは枯渇したが、すぐさま《接続》によりマナは回復する。

 そうとも知らず、光線の猛攻が途切れたと思い駆け出す敵将。
 距離は一気に詰められフォルテの眼前まで近づく。
 しかしその瞬間、フォルテの手から朝日より眩しい光が解き放たれた。
 駆け寄りながら驚く敵将をよそに、彼は呟く。

「『収束・|絶対零閃(アブソリュート・レイ)』」

 時の流れが正常に戻る――。
 同時にフォルテから放たれた巨大な青白い光の束が、敵将を飲み込んでいく。
 敵将はそれを受け止め足で踏ん張ろうとするが、光線に押されその足はズガガガガッ! と地面を削っていく。
 黄金の鎧は軋み、敵将は歯を噛みしめすぎて口元に血が滲む。
 全身に氷がまとわりつき、彼も氷塊になりかけていた。

 だが……敵将もまだ諦めない。
 丘の中腹まで押し返された彼はそこで何とか踏ん張り、自分を奮い立たせるように叫んだ。

「何のこれしき……まだまだああアアァァァァァァッッ!」

 ドスン! ドスン! と着実に一歩ずつ歩を進め、フォルテの光線を押し返していく敵将。
 状況を理解し丘を登ってきた第三大陸の戦士達は、その光景に足を竦めた。
 超威力の光線に、それを押し返す敵将。
 こんな敵に勝てるのか? 戦士達の恐怖が彼らを後ずさりさせる。

 しかしそんな中、丘の上の二人は違った。
 獣戦士も顔を青ざめさせていたが、その表情は他の戦士達とは異なる。
 彼が見ていたのは、他ならぬフォルテの表情。
 光線を放つ彼の顔は……冷たく笑っていた。

 彼はその笑みの答えを語るように、小さく呟く。

「これも防ぐか……鎧だけじゃなく、彼自身の筋力も凄まじいな」

 虫を見るように淡々と敵将を観察するフォルテ。
 彼は今まで使っていなかった左手を右手に添えると、浮かべていた笑みを消して小さい声のまま唱えた。

「《解放(リバース)》」

 唱えた瞬間、草原に出現していた氷柱が一斉に光を放つ。
 同時にフォルテにも変化が現れた。

 彼の足元が瞬時に凍りつき、その小さな肉体を強化するように龍の姿に似た氷の鎧が全身に出現する。
 凍った地面や鎧からは雪の形をしたマナが溢れる。
 急激な周囲の変化に、獣戦士は腰を抜かして驚いた。

「な、なんだこれ!?」
「俺のマナだ。氷柱に蓄積しておいたな」

 そう、氷柱はただの障害物ではなかった。
 外部に自身のマナをストックし、好きな時にそれを引き出すことのできる、言わばマナの銀行のようなもの。その際に許容量の限界がある肉体を介さなくても使用できるのが、氷柱の凶悪な一面である。

 つまり氷柱と《接続》を組み合わせれば、上限なくマナを使用できる。
 ――フォルテに溜め込まれたマナのみ(・・)から放たれる、強大な魔術をも超えた威力が簡単に放てるのだ。

「《|究極零閃(ウルティメイト・レイ)》――!」

 彼が呟いた瞬間、光線の威力が何十倍にも膨れ上がる――!
 空まで届きそうな程の極太光線が敵将を包む!
 満身創痍の彼にもはや抵抗できる術はない!
 体が地面から離れ、光の渦に巻き込まれながら断末魔を上げる!

「グ、ギャァァァァァアアアアアアアアアッッ!!」

 叫びと共に天へと渦巻き作られていく氷塔!
 それはまるで、その内部に閉じ込められた敵将を弔う墓標のようであった……。

 氷塔の完成を確認し、光線を止めたフォルテ。
 彼は指を鳴らし氷の鎧を砕き、呟く。

「1ターンキル、完遂」

 粉々になった氷は朝日に煌めき、宝石のように輝いていた――。

★☆★☆★


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