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13話「皇帝出陣」

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 堂々たる彼の号に、戦士は驚き立ち止まる。
 魔法使いは依然として眼前の少年を見つめている。
 高く昇りはじめた朝陽が、戦場を照らす。
 その光にフォルテは目を見開き、覚悟を決めた。

 フォルテはステータスを開いて魔法使いに見せた。
 そして彼の肩を掴み返し、強く語る。

「聡明な軍師なら、俺の正体はわかるな?」
「……こ、この名前は……しかし、そんな!?」

 魔法使いは思わずフォルテの肩を強く掴み、その顔を観察した。
 軍師である彼にとってフォルテの名は当然学ぶ対象である。
 フォルテが指揮を執った軍略の歴史はもちろん、彼の誕生からその死までが今を生きる軍師達の教科書の一つだ。
 だからこそ、思いだした記憶と目の前の情報を飲み込まざるを得ない。

(いくら見てもそっくりだ……三代皇帝の、幼少期の肖像に……!)

 魔法使いは言葉を失っていた。
 ステータスに刻まれた王権の秘密と、彼の記憶にあるフォルテの肖像画が、目の前の事実を確信づけていく。

 それでも彼は一応軍師だ。
 もはや確信しているが、無礼を承知で少年に尋ねる。

「三代皇帝が幼い頃……ちょうど今のあなたくらいの頃に経験した、最も恐ろしいと感じた経験は?」
「ふふん、試す気か?」

 魔法使いの言葉に、少し得意げに笑うフォルテ。
 この情報は皇帝になったあと、自身の半生を記した際に僅かに触れた程度の情報であり、一般人どころか知識人でも知る者の少ない雑学だ。
 フォルテもそれは弁えており、答えは当然知っている。

 だが今は一刻の猶予もない有事である。
 フォルテは表情から笑みを消すと、低い声で回答した。

「氷海の上で遭難し、三週間ペンギンと生活したことだ。お前、よく覚えているな」

 その回答に魔法使いは首を縦に振った。
 魔法使いは目の前の少年の正体を知り、体が震えだす。
 しかし無礼と知りながらも、肩を掴む力が強くなっていく。
 
 だがその魔法使いの行動が、フォルテに緊張を伝えさせた。
 彼の感情を理解したフォルテは優しく語りかける。

「昨日の義と、この地に生まれ変わった運命により、今は君たちに助力したい。構わないか?」
「し、しかし本当に三代皇帝だとしたら、手を煩わせるような、そんな!」
「大丈夫だ、策はもうできている」

 「少々荒っぽいけどな」と付け加え、フォルテは恥ずかしげに笑う。
 実際に自身の正体を確信させるためとはいえ、門外不出であるはずの王権の正体を彼には晒してしまっている。
 
 だがその効果は、魔法使いにとっては抜群だった。
 千年続いた戦争をたった三年で治めた三代皇帝の武勇を、知らない軍師などこの世にはいない。
 そんな彼が、力を貸してくれるというのだ。
 魔法使いは体の芯から湧き出る武者震いを抑え、立ち止まった戦士に告げる。

「重装兵さん、彼と共に戦場へ」
「何言ってんだ軍師殿!?」
「彼の強さはあなたも知っているはずです。彼の指示に従い、護衛を」

 そう言うと、魔法使いはフォルテの背を優しく押して戦士に渡す。
 フォルテが振り向くと魔法使いは立ち上がり、目を輝かせて頷いた。
 彼の意思を察知し、フォルテも頷き返して重装兵へ駆け寄った。

 状況が呑み込めないまま、重装兵はフォルテに尋ねる。

「どういうことだ……?」
「気にしないでくれ。それよりも、俺を指定の場所まで運んでほしい」

 容姿に似合わぬ堂々とした口調で重装兵に指示を出すフォルテ。
 その言葉にため息をつき、癖のように鼻で笑って彼を担いだ。

 朝日に照らされ、今にも駆け出さんとするフォルテ達。
 

「どこに行きたいんだ?」
「ここから一番近い、戦場を見渡せるところ」
「了解、いいところがあるぜ――《チャージダッシュ》!」

 本来突撃用の加速スキルを唱えると、戦士はその重装に似合わぬ超速で戦場へ駆け出した――!


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