ドウテンピー

宝狩 わいと

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ドウテンピー

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 私の話をしよう。
 私は普段から、この道の上をただひたすらに動き回っている。前へ進み、そして戻り、ただ一本の決められた道を移動する。そのためだけに生まれ、そのためだけに生きる。それが私だ。
 移動すると言っても本来ならば私は停止している。しかしそこに文章という曖昧なものの上で動いているという情報が添えられ、あたかも動いているかのように認識され、私はその認識の中でのみこの道の上を定められたルール、速さの上で動いている。

 私の仕事は道の上を動く事。そしてそれを私では無い誰かが解く事。誰にも解かれる事がなければ、私は永久的に同じ道を定められた速さで動き続けなければならないのだ。それに対して、私は文句の一つもつけることは赦されていない。それどころか、私が生まれたその瞬間から、文句どころか本来ならばこのように語りかける事すら叶わない。まるで平面上に産み落とされた小さなシミの如く、私は思考しながらも無心となって動くのである。
 真っ白な平面に黒々と、私の進む一本の道が描かれている。それは湾曲していることもあり、時に直角に曲がっている事もあり、真っ直ぐと一直線の時ももちろんある。しかし私が選り好みする事はできない。ただ一つの役目を果たすために、数多の道の上に生まれ、役目を終えるとまた次の道へと移るのだ。
 別の道に移る際、私はそれを認識する事ができない。しかし私を観測する者が何か行動を起こす……例えば私では無い誰かが、別の道が描かれた物へと視点を移すことによって、私の意識もその道へと移動する物だと考えている。即ち誰かが私を観測し、私を観測したその瞳が別の私を認識した時、初めては私は別の道を進む事が出来るようになる。

 そう、「私」は一人ではないのだ。複数の「私」が世界には幾つも存在し、観測する者が私を認識した時、そこに初めて私が生まれるのだ。
 もしかすると、私を認識できる観測者達一人一人にも、それぞれ別の「私」が存在するのかもしれない。なぜなら、複数人の観測者が同時に別々の「私」を観測する機会は絶対にあり得るにもかかわらず、私はまるでとある観測者一人の意識と同調したように、別の道へと移動できるからだ。
 観測者一人につき一人の「私」。観測者は鉛筆を握り、私の動きに頭を悩ませ、しかしながらも確実に、着実に私を解く。そして別の私を観測し、私は動き、また観測者は私を解く。そんな事をまるで永遠に続くかのように繰り返す。認識され続ける限り、私は終わり無く動き続けなければならないのだ。

 そしてまた私は、線のようなカーボン製の真っ黒道を、動く。
 私の名前は、「動く点P」。
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