上 下
31 / 33

Episode 31 unforgettable blue

しおりを挟む
 元の世界に戻って来て、1週間が過ぎた。

 私が泣き叫んだことで、両親が驚いて、酷く心配していたけれども、時も過ぎれば普通の日常に戻っていった。
 不思議なんだけれども、私が異世界に行った日と、同じ日時に帰って来ていた。だから、戻って来た時は夜だった。そのまま、朝まで泣き続けて、翌日から学校を休んだ。

 体調不良ということにして、1週間休んだ。その間、私は、本当に何もしなかった。
 携帯電話をチラッと見たけれども、興味が湧かずに、ただボーーーーっとした。
 夕陽を見ると、ジャンを思い出してしまうので、カーテンを閉めきった。

 7日たってから、これ以上は両親を心配させられないと思いなおし、今日から学校に行くことにした。


「瑠奈ー!インフルエンザだった?大丈夫?」
 久しぶりの友達。どこか頭がボーーッとしながらも、時間は過ぎていき、放課後まで一緒にいると、体も心も元に戻ってくるもので・・。
「ねぇ、卒業旅行とかってするの?」
「え~。なんだかんだ忙しくて難しくない?」
「あたし、近場なら行ける~♪」
「あ、ちょっと瑠奈!SNS放置しすぎ!」
「あ~ゴメン!これから見るね。」
 友人に催促されて、SNSをチェックする。 
 学校の門を出て、みんなで駅まで歩きながら、私は、ある事に気がつく。

 打ち込んだままで、返信していない文章。
 その文面を見て、立ち止まる。

『How do you take such beautiful pictures?』
 どうやったらこんなに素敵な写真が撮れるの?

『There is someone special in my life』
 私の人生には特別な人がいる
『Who is the most important person in your life?』
 あなたの人生で大切な人は誰ですか? 


 その質問は、私の心を抉った。
 前は、この文章を見ても、何とも思わなかった。だけど、今は違う。痛いほどに突き刺さる。誰かを心から、愛したこともなかった私には、解らなかった感情。

 何かを見て、思い出す人がいる。
 美しいものを見て、見せたいと思う人がいる。
 あなたがいれば、何もかもが何倍も美しく世界が輝いて見えた。


「瑠奈?どうした?」
 友達の1人が気がついて振り返る。
「え?どうしたの?具合悪い?お腹痛い?」
 
 必死で、涙を止めようとした。だけど、どうすることも出来ずに、涙が零れ落ちる。
 私は、みんなに頭痛と腹痛がすると言い訳した。
 最寄り駅まで友人が送ってくれて、改札を出て、近くの公園のベンチに座る。


「はぁ~っ。もうダメ。どうしたらいいの?」
 大きな独り言を呟いて、空を見上げる。
 心が痛くて苦しくて、どうにかなりそうだよ。
 自分の体が、自分の思い通りにならない。
 辛くて叫び出しそうになる。 

 もう、日が暮れ始めていて、空は薄い紫と桃色に染まって、世界中包まれていくみたい。こんなに綺麗な夕日を見せないで欲しい。
 ジャンと一緒に見た、あの日の夕日のように綺麗で、胸を締め付けられてしまうから。

 あの日、好きだって、何度も言ってくれた。私が先に死ぬのだとしても一緒にいたいと言ってくれた。あのままなら、ジャンが味わっていた苦しみだ。私が、あなたを愛していたという、証。
  
 もう1度、会いたいよ。  
 どうしようもなく、あなたの声が聞きたいよ。
 もう、2度と会えないって解っているのに、そう、自分に何度も言い聞かせれば言い聞かせる程に、会いたくなるの。
 
 息が出来ない程に苦しくて、なんとか息をしようと、空を見上げて深呼吸をする。
 夕焼けはどんどん変化していって、とばりの降りる藍色に変わっていく。
 その藍色が、青い竜の色に見えてくる。
 
「・・・綺麗。」
 もう、どうしようもなく、勝手に流れ落ちる涙は、放っておくことにして、とばりの降りる瞬間を携帯電話で写真に残した。
 
「ジャンの色だ」
 そう思うと、なんだか嬉しくなった。
 そのまま、SNSに写真を載せて、一言添えた。

 unforgettable blue… 
 I want to see you again.
 忘れられない青。もう一度、会いたい。   

 もう、届かない想い。言うことすら叶わないから、自分の心の内をSNSで吐き出す。

 そのせいなのか、少しだけ、心が落ち着いてきた。
 すると、UPした写真にコメントがつく。


Jean-Claude:『Did you remember?』


 「・・・え?」

 思わず、2度見する。 

 Jean-Claude 
 ジャン・クロード?

 SNSのアイコンをタップして、確認する。年齢は23歳。アメリカ国籍。・・・いや、まさか・・・解ってる。違うってことは、解ってる。だけど、だけどだけど。同じ名前だなんて。

 必死になって、この人のSNSを端っこから見ていく。
 ナイアガラの滝、ケベック州、ロッキー山脈、オーロラ、など、様々な写真をUPしている。けれど、人が写っているものは無い。
 写真には、いつも「Everything is going to be OK.」全て上手く行く。と、言葉が添えられている。異世界に行く前から、SNSで繋がっている人だ。どうして、今まで気がつかなかったの?同姓同名だったなんて。
 
  SNSの最初の最初の写真は、メープルの葉っぱだった。葉っぱを持つ手が一緒に写っている。・・・これだけじゃ分からない。どんな人なのか、さっぱりだ。
 
 私は、この人にメッセージを送ることにした。


Jean-Claude:『Did you remember? 』

 コメントの言葉を、もう1度見返す。Did you remember?「 思い出した?」って、どうゆう意味?

Luna:『What does it mean?』どうゆう意味?
  
Luna:『what is your real name?』あなたの本当の名前は何?

Luna:『I have a friend with the same name as you.』私には、あなたと同じ名前の友人がいる。
 
 ついつい、立て続けに質問攻めにしてしまう。
 暫く待っても、返信が無かったので、とりあえず家に帰る。 
 お風呂に入って、ボーっとする。同姓同名の別人。そんなことは解っている。だけど、同じ名前だなんて、親近感しか湧かない。もっと、知りたい。もっと、話をしたい。

 思い出した?ってどうゆう意味?
 SNSは、知り合いしかフォロワーにしてない。この人とも会った事があるはずなんだ。うっすら記憶があるのは、カナダの祖母の家に行った時だ。確か・・・空港で?声をかけられたのだと思う。
 よく知りもしない人と連絡先の交換なんてしない。だけど、この人とはSNSの交換をしたんだ。どうして?・・・わらかならい。そして、顔が思い出せない。
 
 SNSの名前なんて見ていなかった。カメラのアイコンの人。そんなふうに思っていた。時々、素敵な写真をUPして、カメラマンを目指していて、最近カメラマンになったとSNSで報告していた人。
 不思議だ。
 どうして、同じ名前だと思うだけで、ジャンの生まれ変わりのような気持ちになってしまうのだろう?

 
 その日、夜中まで待っていても、返信が無かった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件

百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。 そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。 いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。) それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる! いいんだけど触りすぎ。 お母様も呆れからの憎しみも・・・ 溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。 デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。 アリサはの気持ちは・・・。

慰み者の姫は新皇帝に溺愛される

苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。 皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。 ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。 早速、二人の初夜が始まった。

伯爵令嬢のユリアは時間停止の魔法で凌辱される。【完結】

ちゃむにい
恋愛
その時ユリアは、ただ教室で座っていただけのはずだった。 「……っ!!?」 気がついた時には制服の着衣は乱れ、股から白い粘液がこぼれ落ち、体の奥に鈍く感じる違和感があった。 ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

辺境騎士の夫婦の危機

世羅
恋愛
絶倫すぎる夫と愛らしい妻の話。

処理中です...