19 / 33
Episode 19 夢現
しおりを挟む
寒い・・・寒くて寒くて体がガクガクと震える。
ここは何処?
あぁ、私の部屋だ。だけど凄く寒い。エアコンは?
周囲を見渡すと、東京にある自分の部屋だった。あぁ、そうか。帰って来たんだ。
ううん。もしかしたら、全部、夢だったのかもしれない。
携帯電話を手に取って、SNSを確認する。
友人たちの充実した日々が、たくさん溢れている。自分も楽しかった事とか、美味しいモノとか、キラキラしてるものをUPしている過去を眺める。幸せで満ち足りてる。そのはずなのに。
だけど・・・だけど、何か、何か足りない。それがなんなのか、私には分からない。
何かを探して確かめるように、過去のSNSを辿って行く。
『ねぇ、何人なの?日本人?カナダ人?』
『カナダ人て何?カナディアンって言うんじゃないの?』
『え~どっちでもいいんじゃん?』
『家で何語しゃべんの?』
『将来はカナダで暮らすの?』
・・・うるさい。そんなの知らない。どうでもいい事ばかり。
私は、何人なんだろう?どこにいるのが幸せなんだろう?どうしたいんだろう?別にどこでもいいし、何者でもいいし。なんなら別に、ココに居たくて居るわけでもない。
Everything is going to be OK.
全てうまくいく。
その言葉と出会って、最初は、そんなわけない。そんなこと言う人は、余程の脳内お花畑の苦労を知らない人か、他力本願かと思った。
でも、写真を見ていて思ったんだ。
努力して頑張れば必ず上手く行くなんて事はない。用意周到に万全にしていれば、必ず成功するわけでもない。
あの人の写真は、物語っていた。
何ヵ月も準備して登山に挑んでダメだったとか、努力してもダメだった、賞をとれなかったとか、叶わないカメラマンの道とか。
それでも、最後に必ず綴られる言葉は、Everything is going to be OK.
ボウッと、携帯電話の画面の光に、吸い寄せられる虫のように、目を落とす。
Who is the most important person in your life?
その言葉の意味。つまり、この人には、人生が素晴らしと、美しいと思わせてくれる人が存在するんだ。だから、自分は美しい写真を撮れるのだと。それは、恋人かもしれないし、我が子なのかもしれない。
それって、なんか良いな。
あぁ、寒い。凍えそうだよ。
私は、家族に友人に、たくさんの人に愛されてきたのに、これほどに幸せな暮らしをしているのに、どうして満たされないの?
カナダじゃない日本じゃない、全くの縁もゆかりもない、どこか遠くに1人で行きたいと思っていた。そこで見つけたモノが、私の本当かもしれない。そこで何か見つかるんじゃないかって。
でも、結局私には、そんな勇気なんか、これっぽっちも無い。
必死で手を伸ばすけど、空気をかすめるだけ。
その時、
温かくて大きな手が、私の手を掴んだ。
そこで、目が覚めた。
「・・・ルナ。目が覚めたか?」
私は、ベッドの上で仰向けに寝ていた。。
隣には、心配そうに見下ろす、ジャンがいた。
額には濡れたタオルが乗せられていて、それを、ジャンは取って氷の入った桶に入れて絞りなおす。コン、カラカラカラ・・・という、桶に氷が当たる、心地の良い音が響く。
天井は、古い木で出来ていて、ここは宿屋だったと思い出す。
窓の方を見ると、真っ暗だった。
「・・・わたし、どうしたんだっけ?」
自分でも聞き取れないくらいの、かすれた小さい声が出た。
ジャンは、私の背中を抱えて、上半身を起こしてくれた。そして、コップに入った水を差し出してくれた。
「ルナが入浴を終えて、入れ替わりで私が入っている間に、部屋で倒れていたんだ。だいぶ熱があったから、医師を呼んだが、旅の疲れと噛まれたショックなどで、熱が上がったのだろうと。」
渡されたコップを口に付けたけれども、上手く飲めずに、少し胸元にこぼれる。それを、ジャンが拭き取ってくれた。だいぶ、体に力が入らない。コテンッと、抱えてくれるジャンの腕と胸に自分の体を預ける。
「まだ、体が熱いな。目が覚めたら飲ませるように、薬を貰っている」
そう言って、おかしな臭いのする飲み物を渡される。見た感じも、真っ黒い。いや、少し紫色かも・・。
「・・・・・・飲みたくない」
「・・・確かに、鼻が、ひん曲がりそうな臭いだが、薬だ。飲め。」
じとっと、視線を向けると、ジャンは困った顔をした。
「ルナ。おまえが部屋で倒れていて、心臓が止まるかと思った。本当に怖かった。ずっと、苦しそうに熱にうなされているお前を見て、気が気じゃ無かった。これ以上、心配させないでくれ。・・・我慢して飲むんだ。」
そ・・・それは本当に迷惑かけたと思う。だけど、なんだろう?なんか、バクバクと心臓が鳴り出して、恥ずかしくなる。心配させて申し訳無いのに、心配されて嬉しくもあったりして・・・。
“怖かった”とか、なんかキュンとくる。あたし、頭おかしくなってるのかも。
とにかく息を止めて、苦い薬を一気に飲み干す。
うえ~!必死に飲み込んで、涙目になっている私の顔を覗き込んで、ジャンは可哀そうな人を見るような顔で、苦笑いをした。
はぁ、酷い味の薬のせいか気分も悪いし、益々グラグラ眩暈がする。
ジャンが、私の手からコップを取り上げてテーブルに戻すと、ベッドに横にさせてくれて、布団をかけてくれようとするので、その手を握る。
ジャンは、私の目を見て首を傾げる。
「どうした?」
なんか、いつもの倍、すっごく優しい声のジャンに甘えたくなる。
「ねぇ、一緒に寝て。」
寒気は消えてくれなくて、冷蔵庫の中にいるようだった。
「ルナ・・・しかし」
「お願い、寒いの。寒くて死にそう。一緒に寝て。お願い。」
朦朧とした視界の中で、眩暈のする頭で、心細い心と、寒気に負けて、必死にお願いする。
「このままじゃ、凍え死んじゃう。」
カタカタと震える手で、ジャンの腕を引っ張り、もう片方の手で服を引っ張る。
困った顔のままで、ジャンは布団の中に入り込む。そのまま、私は彼の体に抱きついた。
「あぁ・・・あったかぁい。」
大きくて、温かかった。
足が冷たかったので、ジャンの足に自分の足を絡めて必死に温めようとする。スリスリと、擦り寄って暖をとろうと必死に抱きつく。
「ル、ルナ!ちょっ・・・ま、待て!」
「良い匂い~。落ち着く~。」
ガッチリとホールドして、抱き枕となったジャンは、身動きがとれなくなった。そんなことは、お構いなしで、私は温かさにホッとして、ウトウトと目を閉じる。
「はぁ~。大好き。」
ポロリと、ルナの口から零れた言葉に、ジャンの心臓はドクンと跳ね上がった。
睡魔に襲われながら、ルナは、夢うつつの中で言った。
「ずっと、傍にいてね・・・」
その言葉を聞いて、ジャンは、そうっとルナを抱きしめて、目を閉じた。
そして、ルナが眠ったのを確認してから、コツンと、おでことおでこを、くっつけた。
ここは何処?
あぁ、私の部屋だ。だけど凄く寒い。エアコンは?
周囲を見渡すと、東京にある自分の部屋だった。あぁ、そうか。帰って来たんだ。
ううん。もしかしたら、全部、夢だったのかもしれない。
携帯電話を手に取って、SNSを確認する。
友人たちの充実した日々が、たくさん溢れている。自分も楽しかった事とか、美味しいモノとか、キラキラしてるものをUPしている過去を眺める。幸せで満ち足りてる。そのはずなのに。
だけど・・・だけど、何か、何か足りない。それがなんなのか、私には分からない。
何かを探して確かめるように、過去のSNSを辿って行く。
『ねぇ、何人なの?日本人?カナダ人?』
『カナダ人て何?カナディアンって言うんじゃないの?』
『え~どっちでもいいんじゃん?』
『家で何語しゃべんの?』
『将来はカナダで暮らすの?』
・・・うるさい。そんなの知らない。どうでもいい事ばかり。
私は、何人なんだろう?どこにいるのが幸せなんだろう?どうしたいんだろう?別にどこでもいいし、何者でもいいし。なんなら別に、ココに居たくて居るわけでもない。
Everything is going to be OK.
全てうまくいく。
その言葉と出会って、最初は、そんなわけない。そんなこと言う人は、余程の脳内お花畑の苦労を知らない人か、他力本願かと思った。
でも、写真を見ていて思ったんだ。
努力して頑張れば必ず上手く行くなんて事はない。用意周到に万全にしていれば、必ず成功するわけでもない。
あの人の写真は、物語っていた。
何ヵ月も準備して登山に挑んでダメだったとか、努力してもダメだった、賞をとれなかったとか、叶わないカメラマンの道とか。
それでも、最後に必ず綴られる言葉は、Everything is going to be OK.
ボウッと、携帯電話の画面の光に、吸い寄せられる虫のように、目を落とす。
Who is the most important person in your life?
その言葉の意味。つまり、この人には、人生が素晴らしと、美しいと思わせてくれる人が存在するんだ。だから、自分は美しい写真を撮れるのだと。それは、恋人かもしれないし、我が子なのかもしれない。
それって、なんか良いな。
あぁ、寒い。凍えそうだよ。
私は、家族に友人に、たくさんの人に愛されてきたのに、これほどに幸せな暮らしをしているのに、どうして満たされないの?
カナダじゃない日本じゃない、全くの縁もゆかりもない、どこか遠くに1人で行きたいと思っていた。そこで見つけたモノが、私の本当かもしれない。そこで何か見つかるんじゃないかって。
でも、結局私には、そんな勇気なんか、これっぽっちも無い。
必死で手を伸ばすけど、空気をかすめるだけ。
その時、
温かくて大きな手が、私の手を掴んだ。
そこで、目が覚めた。
「・・・ルナ。目が覚めたか?」
私は、ベッドの上で仰向けに寝ていた。。
隣には、心配そうに見下ろす、ジャンがいた。
額には濡れたタオルが乗せられていて、それを、ジャンは取って氷の入った桶に入れて絞りなおす。コン、カラカラカラ・・・という、桶に氷が当たる、心地の良い音が響く。
天井は、古い木で出来ていて、ここは宿屋だったと思い出す。
窓の方を見ると、真っ暗だった。
「・・・わたし、どうしたんだっけ?」
自分でも聞き取れないくらいの、かすれた小さい声が出た。
ジャンは、私の背中を抱えて、上半身を起こしてくれた。そして、コップに入った水を差し出してくれた。
「ルナが入浴を終えて、入れ替わりで私が入っている間に、部屋で倒れていたんだ。だいぶ熱があったから、医師を呼んだが、旅の疲れと噛まれたショックなどで、熱が上がったのだろうと。」
渡されたコップを口に付けたけれども、上手く飲めずに、少し胸元にこぼれる。それを、ジャンが拭き取ってくれた。だいぶ、体に力が入らない。コテンッと、抱えてくれるジャンの腕と胸に自分の体を預ける。
「まだ、体が熱いな。目が覚めたら飲ませるように、薬を貰っている」
そう言って、おかしな臭いのする飲み物を渡される。見た感じも、真っ黒い。いや、少し紫色かも・・。
「・・・・・・飲みたくない」
「・・・確かに、鼻が、ひん曲がりそうな臭いだが、薬だ。飲め。」
じとっと、視線を向けると、ジャンは困った顔をした。
「ルナ。おまえが部屋で倒れていて、心臓が止まるかと思った。本当に怖かった。ずっと、苦しそうに熱にうなされているお前を見て、気が気じゃ無かった。これ以上、心配させないでくれ。・・・我慢して飲むんだ。」
そ・・・それは本当に迷惑かけたと思う。だけど、なんだろう?なんか、バクバクと心臓が鳴り出して、恥ずかしくなる。心配させて申し訳無いのに、心配されて嬉しくもあったりして・・・。
“怖かった”とか、なんかキュンとくる。あたし、頭おかしくなってるのかも。
とにかく息を止めて、苦い薬を一気に飲み干す。
うえ~!必死に飲み込んで、涙目になっている私の顔を覗き込んで、ジャンは可哀そうな人を見るような顔で、苦笑いをした。
はぁ、酷い味の薬のせいか気分も悪いし、益々グラグラ眩暈がする。
ジャンが、私の手からコップを取り上げてテーブルに戻すと、ベッドに横にさせてくれて、布団をかけてくれようとするので、その手を握る。
ジャンは、私の目を見て首を傾げる。
「どうした?」
なんか、いつもの倍、すっごく優しい声のジャンに甘えたくなる。
「ねぇ、一緒に寝て。」
寒気は消えてくれなくて、冷蔵庫の中にいるようだった。
「ルナ・・・しかし」
「お願い、寒いの。寒くて死にそう。一緒に寝て。お願い。」
朦朧とした視界の中で、眩暈のする頭で、心細い心と、寒気に負けて、必死にお願いする。
「このままじゃ、凍え死んじゃう。」
カタカタと震える手で、ジャンの腕を引っ張り、もう片方の手で服を引っ張る。
困った顔のままで、ジャンは布団の中に入り込む。そのまま、私は彼の体に抱きついた。
「あぁ・・・あったかぁい。」
大きくて、温かかった。
足が冷たかったので、ジャンの足に自分の足を絡めて必死に温めようとする。スリスリと、擦り寄って暖をとろうと必死に抱きつく。
「ル、ルナ!ちょっ・・・ま、待て!」
「良い匂い~。落ち着く~。」
ガッチリとホールドして、抱き枕となったジャンは、身動きがとれなくなった。そんなことは、お構いなしで、私は温かさにホッとして、ウトウトと目を閉じる。
「はぁ~。大好き。」
ポロリと、ルナの口から零れた言葉に、ジャンの心臓はドクンと跳ね上がった。
睡魔に襲われながら、ルナは、夢うつつの中で言った。
「ずっと、傍にいてね・・・」
その言葉を聞いて、ジャンは、そうっとルナを抱きしめて、目を閉じた。
そして、ルナが眠ったのを確認してから、コツンと、おでことおでこを、くっつけた。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件
百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。
そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。
いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。)
それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる!
いいんだけど触りすぎ。
お母様も呆れからの憎しみも・・・
溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。
デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。
アリサはの気持ちは・・・。
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
伯爵令嬢のユリアは時間停止の魔法で凌辱される。【完結】
ちゃむにい
恋愛
その時ユリアは、ただ教室で座っていただけのはずだった。
「……っ!!?」
気がついた時には制服の着衣は乱れ、股から白い粘液がこぼれ落ち、体の奥に鈍く感じる違和感があった。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる