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Episode 13 竜の玉

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「翼麟は、粉々にして燃やした。だから諦めろ。そなたは、竜の心を癒し鎮め、竜の子を産むのが使命だ。」

 私は顔を上げて、国王を睨んだ。
 無意識に拳に力が入る。
 怒りに任せて、私は国王に言った。
「こんなこと、許せない・・・!許せるわけない!」
「そうだろうな。しかし、竜は、もうどこへも行けぬ。」
 国王は、ほくそえむ。
 ・・・・!!
 生まれて初めて、私は人を、ぶん殴りたいと思った。
 
 翼麟が無い。
 もう、どこにも・・・無い・・・!
 
 復習してやりたい。このオヤジに、同じ位に苦しい想いをさせたい。私の中で溢れだす感情が、怒りとなって体をぶるぶると震わせる!

 映像の中で、竜が空に火を吐く。人間にぶつからないように、地面を叩く。
 戦いをやめろ!殺し合いをやめろ!まるで、そう言うみたいに。
 
『大量の死人が出るだけだ』
 ジャンの言葉が蘇る。

 暴力で何が変わる?何を得られる?やられても、やりかえすな?言葉で分かり合おう?そうだよ。日本ではそう勉強してきたし、そう教育されてきたよ!

 だけど・・・悔しい!!悔しい悔しい悔しい悔しい!!!
 
「国王様は!竜は、翼麟が無いと知ったら、この国を滅ぼしてしまうかもしれない!そうは思わないんですか?!」
「だからこその生贄だ!竜の心を掴み、鎮めるのが、そなたの役目だ!」
「人は、物じゃない!!道具じゃない!!」
 怒りにかられて、国王だってことも吹き飛ぶ。
「誰かの大事な物を奪った人間が、幸せなんか得られるわけがない!!奪えば必ず奪われる!自分の力で国も守れず、知恵も使わず、竜が居なきゃ何にもできない、この国に未来なんか無い!!」
 国王は、目を見開き、怒りに目を血走らせる。
「貴様・・・・!!衛兵!何をしている!追い出せ!!いや、牢獄へ入れろ!」
 扉から、兵士が数名入って来る。

 ガシっと、腕を掴まれて、もうダメだと目をつぶる。
 すると、私を掴んだ兵士が兜を取って言った。
「話は聞かせて頂きましたよ。さぁ、帰りましょう、ルナベル様。」
 この声・・・・!
 目を開けて、見上げると、そこにはポールが居た。
「主人の生贄に手を出されては困ります。は連れて帰りますのであしからず。」
 ポールはニッコリと笑って、私の腕を掴んだままで部屋を出て行こうとする。

「待て!貴様は・・・・竜のしもべか!」
 国王が声を上げた。
 ポールは、微笑んで答える。
「はい。執事ですよ国王陛下。あぁ、私は人間ではありません。私の目も耳も、あるじの目であり耳なのです。今ここで、私を始末しても、もう情報は全てあるじの知る所です。その上で、私を今ここで殺しますか?あるじは既にお怒りです。竜と真っ向勝負いたしますか?」

 国王は、顔をピクピクさせながら黙った。
 ポールは、最後に国王に言った。
「今後の事は、あるじが決めるでしょう。生贄の娘を連れて帰ります。生贄に満足して、竜が静まってくれることを祈っていてください。」
 
 そう言って、ポールが私の手を引っ張った。
 扉に向かって数歩、歩き出す。

 このまま・・・このままじゃ、何も変わらない! 
  
 その瞬間、私は、ポールの手を振りほどく。
 意を決して振り返り、走り出す。
 それは、誰も予測していなかったようで、誰も動けなかった。

 竜の玉を、台座から奪いとる!
 触って見て思う。ただのガラス玉みたい。
「何をする!!」
 衛兵や神官、国王が全員で取り返そうとしてきた。

「コレがあるから!こんなのが有るから!こんなもの!!」

 私は思いっきり、地面に叩きつけた。
 確実に割れるように、台座の足の角に叩きつけてやった。

 ビキッ!!と音がして、ヒビが入る。

「うああああああああ!!!」
 国王の叫び声が響く。

 ポールは、慌てて私の腕を掴んで走り出した。
 私も、必死に走る。

 地下から1階に出て、エントランス目掛けて走る。
 もう、その辺でゼーゼー息切れして、足がもつれる・・・。
 もうダメ・・・と思ったら、ポールが、私を抱きかかえた。
 
 足がひと蹴りしただけで、一足飛びに10メートルは飛んだ?と思えるスピードで走り、馬車の馬を拝借すると、屋敷まで馬で走った。

「追手が来るかもしれません。とにかく屋敷まで急ぎましょう。」 
 私は、呆気にとられながら言う。
「ポール、すっごく足早くない?マッハ?」
 ポールはニコニコ笑って、馬を走らせながら前を向いたままで言う。
「私は人間ではないですからね。馬車より早く走れますけど、おそらく、あなたが呼吸できなくなってしまうので。」
 
 なんとなく、後ろを振り返る。
 誰も追って来ていない様子なので、ホッとする。

「私・・・大変な事しちゃったよね?」
 急に不安になって、聞いてみた。
 ポールは、はははと笑った。
「驚きました。あるじから、貴方の護衛を頼まれていたのですが、途中、最後まで全うできるか不安でした。」
 ずっと、ついて来てくれてたなんて、気がつかなかった。

 ポールは、笑いながら言う。
「しかし、ずっとあの地下室には入れなかったので、本当に運が良かったですよ。私は取り返す事だけを考えていましたが、まさか壊すとは!」
「だよね・・・。ごめんなさい。」 
 今更だけど、すっごく反省する。
「破壊するという考え方は、竜や天界にはありません。人間特有の考え方と言えます。ただ・・・ふふふ。」
 ポールは、笑いが止まらないと言う感じだ。
「愉快ですね。スッキリしました!」
 
 ・・・まぁ、確かに。
 国王様のあの悲鳴。

  
 でも、どうしよう。
 これじゃ、ルナベルの立場がマズイ・・・。
 それに、ジャンも・・・。

 感情に任せて何かをするって、あんまり良い事は無い。


 私は、深く反省しながら、屋敷に戻った。





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