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王国の歴史とドラゴン使い
王国の歴史とドラゴン使い2
しおりを挟むアシュランの父上、つまり王国ヴィダルの現国王、イシュタス王は、アシュランの父とは思えない恰幅のいい中年だった。髪も目も黒に近い。
(…アシュラン様は、きっとお母様に似たんですね)
とラシルはこっそり思ってみるが、きっとリコもメンディスも同じように思っているだろうということは見て取れた。
「ラシル、大丈夫なのか?」
メンディスが部屋に入ってきたラシルに声をかける。リコがいるからか人の姿になっている。それだけではなく、さすがにお城の中に巨大な梟がいては大騒ぎになりかねないからだろう。
「あ、はい。大丈夫です」
「あのくらいで倒れるなんて情けないったら」
リコはソファに踏ん反り返るようにしてラシルを見上げると、悪態をついた。
「は、はあ…すいません」
でも、これが師匠なりの心配なのだということはラシルにもわかっている。
「おお、お前さんがラシルかい? これはまた、随分と可愛らしいお嬢さんだ!」
王が満面の笑みでラシルに話しかけてきて、ラシルの方が面食らった。ええっと、誰ですかこのおじさん、と言いたくなるようなざっくばらんさだ。王様ってこんなだっけ?
「あ、あのぅ…初めまして、ラシルです。えっと、アシュラン王子様には、いろいろとお世話になりまして…」
主に美味しいものばかり食べさせてもらった気がするが。
何から言えばいいのかわからなかったので、へどもどしてしまったら、師匠がぶつぶつ文句を言っているのが微かにわかった。多分、もっとしゃっきり喋れ、とか、もっとてきぱきと、とか言ってるのだろう。師匠の域まで達するのはまだまだ時間がかかると思われます、と心の中で言い訳をしておいた。
「うん、いやいや、うちの息子こそ世話になったね。隣国メデルの姫君が来たんだって?」
「ええ、あ、でもあれは……」
オークの魔女ドリーの変身だったようで、あれは、あの森にいたのは少なくともリリアナ姫本人ではないのでは。
そう思ったのだが、アシュランが王の言葉を肯定するようにラシルの肩を持った。実際に肩を抱きながら。ちょっとちょっと、緊張するじゃないですか。ラシルは固まってしまった。
「ええ、父上。あの恐ろしい姫君からラシルが俺を守ってくれました。わたしはアシュラン王子の婚約者ですってね」
ああ、しかもそれを言うんですか今ここで!
「ほう、それはそれは」
イシュタス王も嬉しそうに身を乗り出した。
「そ、それは! ベルナールって人に、そう言えって…言われたんです!」
自分が言った台詞を人から聞かされるほど恥ずかしいことはない。ラシルは真っ赤になって何とか話題を変えないとと焦った。そもそも、こんな話をしにきたのではない筈だ。
「そ、そんなことより! わたしのことを、教えてください! ドラゴン使いって、何なんですか!」
必死で叫んだら、師匠がええーっとブーイングを唱えた。
「あなた、その意味もわかってなかったの?」
「お師匠様が何の説明もしなかったんじゃないですか!」
「いやあねぇ、その前に倒れたのはあなたでしょ?」
「う、うう」
反論できないところまで引っ張ってしまって結局ラシルが白旗を揚げることになるのは、まぁある意味わかりきった展開でもある。
王はまあまあとその場をとりなして、居住まいを正した。
「今から話すことは王国の重大な秘密なんだがね。だが、お前さんには聞く権利がある」
「権利、ですか?」
それはドラゴンがヴィダルの森にいることと無関係ではないのだろう。
そして権利というからには。
「…聞かない権利もあるんですか?」
「聞きたくないのかね?」
面白そうに問い返されてラシルは言葉に詰まった。
「聞きたいです」
言葉遊びをするつもりはなかったのだが、聞かなければいけないのなら義務と変わらないのでは、と思ったのだ。だがやっぱり好奇心には勝てなかった。そしてそれはきっと、自分のルーツを手繰る糸口でもある。
「では、どうぞ座りたまえ」
「…はい」
王の執務室なのか机に座った王と、その前に並べられたソファセットのうち、横向きになった一人がけのソファに座ったリコ。反対側の同じく一人がけのソファにメンディスが座っている。必然的にラシルは王から見て正面の、三人がけのソファに腰を下ろした。アシュランも当たり前のように隣に座る。
(ちょ、ちょっとアシュラン様、近いんですけど!)
三人がけに三人座るのはきついが、二人で座るならもう少し離れていても余裕がありそうなものなのに。
(何でそんなにぴったりくっついてるんですかー!)
森の中であれば叫べることも、さすがに王の前では躊躇った。じりじりと体を縮めてしまう。表面だけは何とか体裁を保って笑顔に見える顔を作ったつもりだったが、どうだったか。
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