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縁談の真実

縁談の真実

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 縁談用の肖像画を渋々開いたアシュランは、そこに描かれていた見合い相手に目を瞠った。
 思わず問いかける視線で王を見る。
「これには理由がある」
 王も渋い顔で説明するつもりらしい。聞くだろう? と無言の質問が見えた。
 そこに描かれていたのは。
 正式ではないものの魔女の服装であるベロアのドレス。黒い豊かな髪をお下げにして、異様なほど巨大な丸眼鏡が残念ながら顔を隠してしまっている。
「…でもまぁ、メデルのリリアナ姫よりは、ずっと可愛い女の子ですよね」
 呟いてしまったのは本音だが、問題はそこではない。
「魔女が見合い相手なんて、聞いたことないですよ」
「ああ、もちろんだ。でも、その胸元にかかっているペンダントを見てみろ」
 言われてよく見直すと、胸の中央辺りに直径五センチほどの円形のペンダントトップがかかっている。銅のような渋い色合いは装飾品にしては地味すぎるような気がしないでもないが。
 もちろん、王国ヴィダルの王子であるアシュランには、それが何か、すぐにわかった。
「これは――――…どういうことですか」
「紹介者は、かの有名なルート・オブ・アッシュの魔女リコ様だそうだ。そしてこの娘は彼女の養女で見習いの魔女。ちゃんと書状もついておる」
「魔女が娘を嫁がせるなんて、もっと聞いたことないですよ」
 魔女の娘は魔女。それが基本だからだ。
「そうだが、それは全部このペンダントが語っておる」
「……そうですね」
 アシュランは頷いた。
「よいではないか、お前もこれであの恐ろしい姫を断る理由ができるというもんだろう」
「まぁ、そうですけど…でもこの眼鏡はちょっと、いただけないなぁ」
 どこか釈然としないまま、リコの書状に目を走らせるアシュラン。
 王は、きっぱりと告げた。
「とにかく、これは正式な縁談だ。隣国メデルよりずっと重大で深刻で最優先の縁談だということを忘れるな」
「…わかりました」
 正直、その時のアシュランにとっては、それほど気が進む話でもなかった。
 だってやっぱり可愛い女の子の方がいいしー、とまだ諦められない気持ちが燻る。
 しかし、その直前の恐ろしい姫君との見合いを思えば、とりあえずアレを断れるだけでもありがたいと思わなければいけないのかもしれない。
 だから。
 リコからの書状に書いてあるように、王国へ向かっているという見習い魔女の顔を見ようと、家出を演出してやってきた。思いがけないドジっ子ぶりに心配になったが、すれていない純粋さに惹かれもした。
 短い時間ながらラシルの人柄の可愛らしさがわかってきたのもあったが、その上で追い打ちのように素顔を見て一瞬で恋に落ちた。
 そう。
 恋に落ちたのだ。
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