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今冬
今冬 3
しおりを挟むそれから数日、水希がうきうきした顔で再び聞いてきた。
「ねえねえ、トク子さん、年越しはどうするの?」
トク子さんは、呆れたような、可笑しいような気持ちになった。
「つい先日、同じようなこと言ってましたよね?」
「年末年始はイベント盛りだくさんだからさぁ」
ね、とにっこり笑う神様は、楽しむことが上手だな、とトク子さんは思う。
「みーくんはイベント好きなんですか?」
「トク子さんは嫌いなの?」
質問したのに質問で返されて、トク子さんはうーん、と唸る。
「嫌いではないです。でも、特に楽しい記憶がなくて」
子どもの頃家族と過ごしたことぐらいしかない。トク子さんは友達がいないのだ。堅実な両親はあまり娯楽を好まなかったし、兄も姉も年が離れていてトク子さんが中学生になる頃には家を出ていたので、なしくずし的にやらなくなった。
「大晦日はお蕎麦を食べて、お正月はお節やお雑煮を食べてテレビ観るぐらいかなぁ」
ふーん、と感情の読めない顔をして、次の瞬間には悪戯っ子みたいに上目遣いでおねだりされた。
「じゃあさ、大晦日お泊まりしていい? 一緒に年越ししようよ」
一瞬、慶さんに聞いてみないと、と思ったけれど、慶さんが駄目とは絶対に言わないだろうと思って頷いた。
「たまにはいいですよね、夜更かし」
「そうそう」
そう言ってまるで悪いことをするみたいに二人でにひひ、と笑った。
そうか、とトク子さんは納得してしまった。
水希といて楽なのは、子どものような純粋さがあるからなのかもしれない。そして大人になりきれず自分を責めていた気持ちが、とても軽く楽になるからなのだ。
大晦日当日、お蕎麦はインスタントのカップ麺が食べたいと言われ、楽でいいけど複雑だなと思っているトク子さんは、別の意味で溜め息をつく。
「……神様とか、神様のお付きとはいえ、見た目動物や小学生の男の子にお酒を飲ませるのは、物凄く複雑な気分なんですけど……」
夕方食事時に、大晦日だからお酒持ってきたよー、飲もうよー、と言われてから何度目かのぼやきを、つい呟いてしまう。
「んもう、トク子さん、もう慣れてよ。僕たちは人間じゃないんだから問題なしだよ」
色白の頬をほんのり赤く染めて水希が笑う。確かに人間の法律は当てはまらないだろうし、実年齢がいくつなのかも謎である。ただ、外から見ると完全に犯罪ですけどね、とトク子さんはハラハラする。
「まあ、御神酒だと思えばいいんじゃないですか?」
慶さんは、それほど気にならないのか、面白そうに笑っている。確かに、神様だからお供えには違いないが。
「御神酒なら、私たちがお供えしないといけないのでは……?」
自分が持ってきたお酒を飲むだけなら御神酒にはならないのではと、トク子さんは諦めて冷蔵庫にあった缶ビールや、実際に家の神棚に供えるために買ってきた御神酒も出すことにした。慶さんはザルで、トク子さんはそんなに量は飲めないがお酒を飲むこと自体は好きなのである。
トク子さんの実家では大晦日は夕食が年越しそばだったので、その後デザートやスナック菓子などは食べても食事で何か食べることはなかったのだけれど、お酒を飲み始めると肴がほしくなって、お節代わりに用意した市販のオードブルや手作りの唐揚げなど、フライングで少し出した。
「トク子さんも、どうぞどうぞ」
たぬ吉さんが小さいお手々でお酌してくれる。どうやって缶ビールを掴んでるんだろう、と凝視してみたがよくわからない。ドラえもん的な何かかな、と結論づけることにした。
「ありがとうございます……」
うーん、こんなに飲んだら眠くなっちゃうな。と思っていたら案の定、みんなで潰れて和室のこたつ周りで雑魚寝になった。これはこれでいいか、楽しいし。
「そういえば、初詣って、どうすればいいんだろう……」
氏神様ってどこにあるんだろう? 歩いていける? いや、ここは山の中だし外は真っ暗だ。夜が明けてからでもいいけれど。
うとうとしながら急に思い出して呟くと、水希がおほん、と咳払いして急におっさんみたいな口調になった。
「ここに、わしがおるではないか、はよう願い事なりお祈りなりするが良いぞ?」
「…………」
一瞬、意味がわからなくて固まってしまったトク子さんだったが、次の瞬間、全員で大爆笑になった。
「ほ、ほんとだ! 神様、ここにいた!」
「本当ですねぇ。ありがたや、ありがたや」
水希を褒め称え日頃のお礼を言って、トク子さんは最後に一つだけお願い事をした。
「今年も、みなさんで元気に幸せに過ごせますように」
「……うん、それが一番だね」
そう呟いたのは水希だったのか、慶さんだったのか、はっきりしないままトク子さんは寝落ちしたのだった。
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