63 / 90
61.現実は、想像もゲームも超えていく③
しおりを挟む
父だったあの男に、『シリル・フォレスター』は全てを支配されていた。
生れる前から、彼の命も身体も精霊力も、父の物であって、全てを父が決定し、父により生かされていた。
けれど7歳のとき、テオドールがやって来て、父の関心は明らかにテオドールへと移った。
それは、おれにとってはテオドールの身を危惧することであったのだけど、『シリル・フォレスター』からすれば、自身の存在を脅かされる事実だ。
『ラブプラ』のシリル・フォレスターは、一人過酷な寂しさの中を生きていたのだろう。どんなに、父に見放されようとも、父の承認を求め続けたのだ。
その結果、あらゆる負の感情がテオドールへと向き、凶行に至った。
逆に、おれにはテオドールがいたからこそ、その道には至らなかった。
たとえ、その違いが、父を狂わせてしまったのだとしても、おれにはどうしようもないことだった。
それに、おれがどうあったとしても、あの父は救いようのない人物であることには、違いない。
「なんていうか……結局、前フォレスター領主が、一番の極悪人よね」
おれがまさに考えていたことを、ミアが言う。
「テオドールルートでは、シリルを虐待し、さらにテオドールを虐待し、テオドールが“恵みの乙女”や王太子を取り込むように画策して、敵わないと分かれば、闇の教団と結託して、」
なるほど。
「王太子ルートでは、神災の現象により、領の利益が出ないことに立腹し、思い通りにならない“恵みの乙女”を誘拐するし、」
ああ。だったな。
「ギルバートルートでは、食糧難を引き起こし、利益を独占、さらに民衆暴動を裏から扇動して、国家転覆を企てて、」
フォレスター領は、イグレシアス王国の台所だ。
「ソフィーエルルートでは、麻薬的な違法精霊薬の製造、販売の濡れ衣をウォルター家に着せ、没落を企てるわ、」
へぇ……確か、実際にそういう精霊薬を製造してたんだよね。
おれが、こっそり術式を書き換えていたけれど。
「ダニエルルートでは、人身売買を斡旋し、自身も精霊薬開発のための人体実験のために、多くの命を犠牲にしたりして、」
実の子ですら、実験台にするくらいだから。驚きも無い。
「そして、いずれのルートでも最終的には、国家への反逆を企てて、闇の教団を利用し、内部で決裂したことで命を落とすっていうね」
悪の権化かな。
おれは王太子ルートと、ギルバートルートしか知らないけれど。
確かに、あの男が生きていれば、いかにもやっていそうなことばかりだ。
メーティスト神殿での一件以来、父の弱り方はすごかった。
あれだけ自身を過大視させることに尽力し、社交を欠かさなかった男が、自室にこもるようになり、ほとんど外出することも無くなった。領主としての仕事が滞る中、おれとテオドールは協力して、フォレスター領の改革に努めた。
そして、おれが成人するころに、父は死んだ。
だからこそ、そのような悲劇は起こらなかったのだ。
「ミアはどうやって前世のこと、思い出したんだ?」
「私は、たぶん生れたときから、前の記憶があって、成長するにしたがって同化したというか、融合したというか」
なるほど。ミアはそういう感じだったのか。
死んだ時と同じような苦痛を味わって、記憶が戻ったのではないと知って、おれは他人事ながら安心する。
「どうして今まで隠してたのよ。この神殿の存在を」
「“恵みの乙女”も現れてないのに、幻想の中にしか存在しないメーティスト神殿が、現実に在るとわかったら、どうなる?」
今現状では、この世界の人にとってはメーティストは厄災の象徴だ。
その神を祀った神殿が実在すると分かれば、一気に神災への不安が爆発するに決まっている。
「それが、わかっていて、どうしてこの場所を特定したの?」
「この場は、メーティストが構成した精霊力の法則が強く表れている場所なんだ。テオが精霊術を学ぶ上では、いい場所だったから」
テオドールの精霊力を、知れば知るほど、メーティストに基づく精霊力の性質に近しいことがわかった。
だから、メーティスト神殿で、その精霊力を体感すれば、きっと自身の精霊術の行使に役に立つと考えていた。
そして、それは正しかった。
あれ以降、テオドールは自身の精霊力を完全にコントロールできるようになった。大変な出来事ではあったけど、おれは後悔はしていない。
でも……そうか。
「なるほど。なんで、闇の教団に神殿の場所が知られているのか、疑問だったんだけど。
あの人は、当時から人身売買や、禁止精霊薬の密売で……この闇の教団に関係する人物とつながってたんだな」
父が関わっていたいずれかの悪事に、この闇の教団の関係者となる者がいたのだろう。
おれの疑問は、ミアのソフィーエルルートとダニエルルートの事実で解消される。
「でも、なんで今更、闇の教団がメーティスト神殿に?
神災だって起こっていないし、それに孤児だって救済院で積極的に保護してるじゃない!」
一人で納得するおれに、ミアは苛立ちを隠すことなく、おれの肩につかみかかって激しく揺さぶった。
生れる前から、彼の命も身体も精霊力も、父の物であって、全てを父が決定し、父により生かされていた。
けれど7歳のとき、テオドールがやって来て、父の関心は明らかにテオドールへと移った。
それは、おれにとってはテオドールの身を危惧することであったのだけど、『シリル・フォレスター』からすれば、自身の存在を脅かされる事実だ。
『ラブプラ』のシリル・フォレスターは、一人過酷な寂しさの中を生きていたのだろう。どんなに、父に見放されようとも、父の承認を求め続けたのだ。
その結果、あらゆる負の感情がテオドールへと向き、凶行に至った。
逆に、おれにはテオドールがいたからこそ、その道には至らなかった。
たとえ、その違いが、父を狂わせてしまったのだとしても、おれにはどうしようもないことだった。
それに、おれがどうあったとしても、あの父は救いようのない人物であることには、違いない。
「なんていうか……結局、前フォレスター領主が、一番の極悪人よね」
おれがまさに考えていたことを、ミアが言う。
「テオドールルートでは、シリルを虐待し、さらにテオドールを虐待し、テオドールが“恵みの乙女”や王太子を取り込むように画策して、敵わないと分かれば、闇の教団と結託して、」
なるほど。
「王太子ルートでは、神災の現象により、領の利益が出ないことに立腹し、思い通りにならない“恵みの乙女”を誘拐するし、」
ああ。だったな。
「ギルバートルートでは、食糧難を引き起こし、利益を独占、さらに民衆暴動を裏から扇動して、国家転覆を企てて、」
フォレスター領は、イグレシアス王国の台所だ。
「ソフィーエルルートでは、麻薬的な違法精霊薬の製造、販売の濡れ衣をウォルター家に着せ、没落を企てるわ、」
へぇ……確か、実際にそういう精霊薬を製造してたんだよね。
おれが、こっそり術式を書き換えていたけれど。
「ダニエルルートでは、人身売買を斡旋し、自身も精霊薬開発のための人体実験のために、多くの命を犠牲にしたりして、」
実の子ですら、実験台にするくらいだから。驚きも無い。
「そして、いずれのルートでも最終的には、国家への反逆を企てて、闇の教団を利用し、内部で決裂したことで命を落とすっていうね」
悪の権化かな。
おれは王太子ルートと、ギルバートルートしか知らないけれど。
確かに、あの男が生きていれば、いかにもやっていそうなことばかりだ。
メーティスト神殿での一件以来、父の弱り方はすごかった。
あれだけ自身を過大視させることに尽力し、社交を欠かさなかった男が、自室にこもるようになり、ほとんど外出することも無くなった。領主としての仕事が滞る中、おれとテオドールは協力して、フォレスター領の改革に努めた。
そして、おれが成人するころに、父は死んだ。
だからこそ、そのような悲劇は起こらなかったのだ。
「ミアはどうやって前世のこと、思い出したんだ?」
「私は、たぶん生れたときから、前の記憶があって、成長するにしたがって同化したというか、融合したというか」
なるほど。ミアはそういう感じだったのか。
死んだ時と同じような苦痛を味わって、記憶が戻ったのではないと知って、おれは他人事ながら安心する。
「どうして今まで隠してたのよ。この神殿の存在を」
「“恵みの乙女”も現れてないのに、幻想の中にしか存在しないメーティスト神殿が、現実に在るとわかったら、どうなる?」
今現状では、この世界の人にとってはメーティストは厄災の象徴だ。
その神を祀った神殿が実在すると分かれば、一気に神災への不安が爆発するに決まっている。
「それが、わかっていて、どうしてこの場所を特定したの?」
「この場は、メーティストが構成した精霊力の法則が強く表れている場所なんだ。テオが精霊術を学ぶ上では、いい場所だったから」
テオドールの精霊力を、知れば知るほど、メーティストに基づく精霊力の性質に近しいことがわかった。
だから、メーティスト神殿で、その精霊力を体感すれば、きっと自身の精霊術の行使に役に立つと考えていた。
そして、それは正しかった。
あれ以降、テオドールは自身の精霊力を完全にコントロールできるようになった。大変な出来事ではあったけど、おれは後悔はしていない。
でも……そうか。
「なるほど。なんで、闇の教団に神殿の場所が知られているのか、疑問だったんだけど。
あの人は、当時から人身売買や、禁止精霊薬の密売で……この闇の教団に関係する人物とつながってたんだな」
父が関わっていたいずれかの悪事に、この闇の教団の関係者となる者がいたのだろう。
おれの疑問は、ミアのソフィーエルルートとダニエルルートの事実で解消される。
「でも、なんで今更、闇の教団がメーティスト神殿に?
神災だって起こっていないし、それに孤児だって救済院で積極的に保護してるじゃない!」
一人で納得するおれに、ミアは苛立ちを隠すことなく、おれの肩につかみかかって激しく揺さぶった。
1
お気に入りに追加
349
あなたにおすすめの小説
【完結】ラスボスヤンデレ悪役令息(仮)に転生。皆に執着溺愛され過ぎて世界滅亡エンドの危機です
日月ゆの
BL
「色無し」と蔑まれる『ラズ・クレイドル』はヤンデレないと死にかけ、いつの間にかヤンデレ製造機になっていた。
ヤンデレの連鎖が止まらない?
黒に近い濃い色であればあるほど、魔力が強いといわれ尊ばれる世界。
『聖爵家』と云われる癒やしの聖魔法を唯一血縁継承可能である、貴重な公爵家『クレイドル家』の嫡男として生まれた『ラズ・クレイドル』。
透けるような白髪、ラズベリーピンクの瞳を持つ彼は『色無し』『忌み子』といわれ蔑まれていた。
彼にはクレイドル家とリューグナー王家との昔からのしきたりにより、「数代おきに婚姻し子を授かる」という生まれる前から決められた運命が。
当の本人ラズは前世の記憶が朧げにあるためなのか、元の性格か。
意外にもこの「しきたり」や「色無し」に対してぽやんと楽観的に受け入れていた。
しきたりにより、将来の伴侶である『レオン・リューグナー』との初顔合わせの日。
ラズの目の前には『清く正しく美しいヤンデレを目指せ!』と目を疑うような文言を表示したウィンドウが出現した。
突然出現したウィンドウの指示により、その日からラズは婚約者相手に『ヤンデレ』行動を強制的に行なうことに。
すると何故か周りの皆のほうがヤンデレが連鎖し、ヤンデレ製造機に。
ひょんなことから知ってしまった、自身の悲惨な未来を回避するだけで精一杯のラズは、周りに過剰に執着溺愛されているのも気付かない。
ある日降された神託により、世界滅亡をも巻き込むラズへの周りの執着溺愛が加速する⸺
※ハピエンです。
※男性妊娠可能な世界のお話です。
直接的な描写はありませんが、苦手な方はご回避下さい。
※攻め視点ヤンデレているので、苦手な方はご回避下さい。
※序盤はショタ時代続きます!
※R18は保険です。最後の方にほんのりあり。※つけます。
※ep13大幅改稿しました。
★ぜひポチッと『お気に入り登録』『いいね』押していただき作者への応援お願いします!どんな感想でも良いのでいただけると嬉しいです。
☆表紙絵はAIで画像作成しました。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、騎士見習の少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される
Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木)
読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!!
黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。
死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。
闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。
そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。
BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)…
連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。
拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。
Noah
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
【完結】TL小説の悪役令息は死にたくないので不憫系当て馬の義兄を今日もヨイショします
七夜かなた
BL
前世はブラック企業に過労死するまで働かされていた一宮沙織は、読んでいたTL小説「放蕩貴族は月の乙女を愛して止まない」の悪役令息ギャレット=モヒナートに転生してしまった。
よりによってヒロインでもなく、ヒロインを虐め、彼女に惚れているギャレットの義兄ジュストに殺されてしまう悪役令息に転生するなんて。
お金持ちの息子に生まれ変わったのはいいけど、モブでもいいから長生きしたい
最後にはギャレットを殺した罪に問われ、牢獄で死んでしまう。
小説の中では当て馬で不憫だったジュスト。
当て馬はどうしようもなくても、不憫さは何とか出来ないか。
小説を読んでいて、ハッピーエンドの主人公たちの影で不幸になった彼のことが気になっていた。
それならヒロインを虐めず、義兄を褒め称え、悪意がないことを証明すればいいのでは?
そして義兄を慕う義弟を演じるうちに、彼の自分に向ける視線が何だか熱っぽくなってきた。
ゆるっとした世界観です。
身体的接触はありますが、濡れ場は濃厚にはならない筈…
タイトルもしかしたら途中で変更するかも
イラストは紺田様に有償で依頼しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる