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61.現実は、想像もゲームも超えていく③

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 父だったあの男に、『シリル・フォレスター』は全てを支配されていた。
 生れる前から、彼の命も身体も精霊力マナも、父の物であって、全てを父が決定し、父により生かされていた。

 けれど7歳のとき、テオドールがやって来て、父の関心は明らかにテオドールへと移った。
 それは、おれにとってはテオドールの身を危惧することであったのだけど、『シリル・フォレスター』からすれば、自身の存在を脅かされる事実だ。

『ラブプラ』のシリル・フォレスターは、一人過酷な寂しさの中を生きていたのだろう。どんなに、父に見放されようとも、父の承認を求め続けたのだ。

 その結果、あらゆる負の感情がテオドールへと向き、凶行に至った。

 逆に、おれにはテオドールがいたからこそ、その道には至らなかった。

 たとえ、その違いが、父を狂わせてしまったのだとしても、おれにはどうしようもないことだった。

 それに、おれがどうあったとしても、あの父は救いようのない人物であることには、違いない。

「なんていうか……結局、前フォレスター領主が、一番の極悪人よね」

 おれがまさに考えていたことを、ミアが言う。

「テオドールルートでは、シリルを虐待し、さらにテオドールを虐待し、テオドールが“恵みの乙女”や王太子を取り込むように画策して、敵わないと分かれば、闇の教団と結託して、」

 なるほど。

「王太子ルートでは、神災ストロフの現象により、領の利益が出ないことに立腹し、思い通りにならない“恵みの乙女”を誘拐するし、」

 ああ。だったな。

「ギルバートルートでは、食糧難を引き起こし、利益を独占、さらに民衆暴動を裏から扇動して、国家転覆を企てて、」

 フォレスター領は、イグレシアス王国の台所だ。

「ソフィーエルルートでは、麻薬的な違法精霊薬の製造、販売の濡れ衣をウォルター家に着せ、没落を企てるわ、」

 へぇ……確か、実際にそういう精霊薬を製造してたんだよね。
 おれが、こっそり術式を書き換えていたけれど。

「ダニエルルートでは、人身売買を斡旋し、自身も精霊薬開発のための人体実験のために、多くの命を犠牲にしたりして、」

 実の子ですら、実験台にするくらいだから。驚きも無い。

「そして、いずれのルートでも最終的には、国家への反逆を企てて、闇の教団を利用し、内部で決裂したことで命を落とすっていうね」

 悪の権化かな。

 おれは王太子ルートと、ギルバートルートしか知らないけれど。
 確かに、あの男が生きていれば、いかにもやっていそうなことばかりだ。

 メーティスト神殿での一件以来、父の弱り方はすごかった。
 あれだけ自身を過大視させることに尽力し、社交を欠かさなかった男が、自室にこもるようになり、ほとんど外出することも無くなった。領主としての仕事が滞る中、おれとテオドールは協力して、フォレスター領の改革に努めた。

 そして、おれが成人するころに、父は死んだ。

 だからこそ、そのような悲劇は起こらなかったのだ。

「ミアはどうやって前世のこと、思い出したんだ?」
「私は、たぶん生れたときから、前の記憶があって、成長するにしたがって同化したというか、融合したというか」

 なるほど。ミアはそういう感じだったのか。

 死んだ時と同じような苦痛を味わって、記憶が戻ったのではないと知って、おれは他人事ながら安心する。

「どうして今まで隠してたのよ。この神殿の存在を」
「“恵みの乙女”も現れてないのに、幻想の中にしか存在しないメーティスト神殿が、現実に在るとわかったら、どうなる?」

 今現状では、この世界の人にとってはメーティストは厄災の象徴だ。
 その神を祀った神殿が実在すると分かれば、一気に神災ストロフへの不安が爆発するに決まっている。

「それが、わかっていて、どうしてこの場所を特定したの?」
「この場は、メーティストが構成した精霊力マナの法則が強く表れている場所なんだ。テオが精霊術を学ぶ上では、いい場所だったから」

 テオドールの精霊力マナを、知れば知るほど、メーティストに基づく精霊力マナの性質に近しいことがわかった。

 だから、メーティスト神殿で、その精霊力マナを体感すれば、きっと自身の精霊術の行使に役に立つと考えていた。

 そして、それは正しかった。

 あれ以降、テオドールは自身の精霊力マナを完全にコントロールできるようになった。大変な出来事ではあったけど、おれは後悔はしていない。

 でも……そうか。

「なるほど。なんで、闇の教団に神殿の場所が知られているのか、疑問だったんだけど。
 あの人は、当時から人身売買や、禁止精霊薬の密売で……この闇の教団に関係する人物とつながってたんだな」

 父が関わっていたいずれかの悪事に、この闇の教団の関係者となる者がいたのだろう。
 おれの疑問は、ミアのソフィーエルルートとダニエルルートの事実で解消される。

「でも、なんで今更、闇の教団がメーティスト神殿に?
 神災ストロフだって起こっていないし、それに孤児だって救済院で積極的に保護してるじゃない!」

 一人で納得するおれに、ミアは苛立ちを隠すことなく、おれの肩につかみかかって激しく揺さぶった。
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