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31.二人の長い夜⑤ ※

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 変わらない毎日の、変わらない日課。
 まるで、その一つのように、一日の締めくくりにテオドールとの行為が組み込まれて、10日が経った。

「へぇ……本当に、濡れるようになるんだね」

 順調に確実に『女神の願い』の薬効が、発現しつつあった。
 さすが、おれの作った精霊薬だ。

 秘薬『女神の願い』の薬効の発現にはいくつかの段階がある。

 まずは、導入期。
 これはただひたすら性的刺激に伴う愛の精霊力ラブマナを貯めていく時期。

 そして、変態期。
 身体が徐々に男性には無い胚の成長が可能な器官を形成する時期だ。
 この場合の変態とは、いわゆる異常者のことでは無い。念のため。

 なんやかんやと二人で取り組んで……主に、色々と試行錯誤してくれているのはテオドールの気がするけれど、秘薬『女神の願い』の効果は、おれの設計通り次の段階へと進んでいる。

「シリル兄さん、痛くない?」
「ふぅっ……あ、痛く、はない……けど…」
「けど?」
「ん、……何というか……肛門に…指が、はいってるな……って」

 あと、死ぬほど恥ずかしい。

 うん。おれも身体を張って、結構頑張ってるんだよ?
 一度死んだことのあるおれが、本気で死ぬかもと思うくらい、超絶恥ずかしい!!

「そのままだね」

 そのまま、がどれだけ壮絶な体験か、テオにはわかってるのか。

 普通は絶対に人に見せることも、触られることも無い場所を、弟の指で撫でられるという羞恥から意識を逸らしつつ、通常は絞扼が最大の仕事である括約筋の脱力に全力を尽くしている頑張りを、認めてもらえなかったら、おれは泣くしかない。

 テオドールは、おれのことを気遣いながらも、『女神の願い』の効果で濡れるようになったところに、おもいっきり遠慮なく指を突っ込んでくる。

「テオは……」
「ん?」

 気持ち悪いとか、嫌だとか思わないの?

 と、聞こうと思って……今おれを見上げてくるこの美麗な顔で、淡々と肯定されてしまう想像をして、密かに一人で勝手にショックを受けて閉口した。

「いや…その……」
「なに?」

 入っている指はたったの一本なのに、異物感がすごい。無理矢理に広げられたら裂けてしまいそうで、ものすごく怖い。

 おれの思いを知ってか知らずか、テオドールの指が、ぐるりと内壁をなぞるように撫でて、ぐちゅりと湿った音が響いた。

「あっ…………ん、優しく、して」

 長い間をおいて、おれはやっと絞り出した。

 声が震えて、極小になってしまったのは、許して欲しい。
 お尻に力が入れられないと、声を張るなんてできない。

 こくり、とテオドールの咽が上下するのが見える。

「はぁ……天然、て本当に恐ろしい……」

 ゆっくりと指が引き抜かれ、刺激と音に身体が自ずと強張り引けてしまう。

「んっ……痛いの、ぜったい……だめだからな…っ」

 力が入りぎゅっとつぼまったところから、とろりと蜜が垂れて、割れ目を伝うのが分かった。

「………………ふう」

 なんだよ、その溜息。

 テオドールは大きな息を吐いて、何かに耐えるような苦悶様の表情で「……実は計算なのかな」と呟いた。

 計算?薬効については当然計算しているけど、それがなにか。

 力んでぷるぷる震えるおれの太ももを、テオドールが撫でる。
 優しいだけじゃない甘い感触が、触れられたところから背筋を這いあがってきて、未知の感覚にまた怖くなった。

 痛いのがダメなんて、こんなに怖がって……呆れられた? 

「わかってるよ。シリル兄さんは痛いのや苦しいの、苦手だものね」

 そう。おれは痛いのや苦しいのは全力拒否だ。もう死ぬほど味わった。

 特に痛みに対する鎮痛は、おれが精霊医薬師として研究を始めて以来、最も精力を注いできたテーマ、と言ってもいい。

 この世界では外科手術などは一般的でない。

 基本的には怪我も病気も精霊力マナを使った治癒術や、精霊薬による治療を中心とする。

 それなのに、だからこそなのか鎮痛や除痛と言った、対症療法は存在しなかったのだ。
 概念自体、おれが研究するまでないものだった。

 そんなこと、ある?

 精霊力マナだとか精霊術だとか、素敵未知数超常能力が存在する世界で、敢えて、痛みに耐えて苦しむ必要はない。

 怪我が治る前だって、治った後だって、痛いときは痛い。けど、治癒術でどうにかするまでは痛いの我慢しろなんて。

 さらに言えば、治癒術で治すとき、程度はあれどめちゃくちゃ痛い。
 もう、大の大人が叫んじゃうくらい痛いのだ。
 それを皆、それが普通だと、何の疑問も抱くことなく耐えていた。

 この世界の人って、みんなマゾヒストなの?そうだろ?絶対にそうだよっ!

 でも、おれは違う。

「大丈夫だよ。気持ちいいことしかしない、て言ってるでしょう」
「うう……それは、そうだけど」

 テオドールにされていることは、おれにとって現在進行形で未経験のものばかりだ。初体験の事象は、単純に恐怖だ。
 
 ほらまたっ!超指入ってきてるじゃん!!
 お尻の中なんて、もっと感覚が鈍いものかと思ってたのに。

 想像していたよりずっと指が入ってる感があって、今後の展開に完全に怖気づいている。

「それよりも、シリル兄さん。前からは、恥ずかしいんじゃなかったの?」
「恥ずかしいに決まってるっ! 」

 言った瞬間、ぎゅっとお尻が締まって、テオドールの指を締め付けた。
 それにより自分も内側から刺激されて、びくりと腰が震える。

 おれ、バカなのかな。

 数回、細く長く息を吐いて、

「んんっ………恥ずかしい、けど」

 今度は慎重に小声で訴える。

 おれは今、真っ白なシーツの上に、下半身丸出しで仰向けに寝ている。
 さらに、腰の下にすっごくふわふわの大きなクッションを入れられて、足を大きく開いた状態だ。

 足の間には、いつもと変わらぬ平静な面持ちのテオドールがいて。
 その視線はおれの股間に熱心に注がれている。

 で、本来は出口であるはずの場所に、テオドールの長くて綺麗な指が、突っ込まれているのだ。

 こんなの、恥ずかしい以外、ない。

「……でも…何されてるのか見えないのは、怖いから…っ」

 おれは前世で注射されるときだって、決まって刺入部をガン見していた。
 逆に怖くないかって?おれにはいつ刺されるか分からない方が怖い。

 抱え込んだもう一つの大きなふわふわクッションをぎゅっと抱きしめる。

「うぅっ……もう、見るなぁ…っ」

 おれは今、顔のみならず全身真っ赤な自信がある。

 何だよ、この状況。もう、本気で恥ずか死ぬ。

「でも、見ないと痛くするかも」
「ダメっ……それは、しっかり見てやって…っいや、やっぱり見ないで…っ」
「どっちなの? 」

 おれにはもう判断できない。わからない。

「僕は何と言われても見るけど」

 もう、テオの好きにしてくれ。
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