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Ⅳ.お腹いっぱいで幸せ編

27.僕、美味しい思いをさせたいんです②

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 ああ、もう。なんてことだろう。

 僕が、お風呂にのんびりとつかりながら、明るいお日様の光の中で、緑いっぱいの森の中、たっぷりのお湯につかるなんて、なんて贅沢なんだろう、とか。

 ぷかぷか浮かんだミカンがいい香りだな、とか。
 窓を開けたら風が入ってきてホントに気持ちいいな、とか。
 ヴァルってやっぱりすごいな、優しいな、とか。
 今度は一緒にお風呂入りたいな、とか。

 ………今度こそ、ヴァルのおっきなキャンディを真っ先に、とか。

 そんなこと考えてる間に、ヴァルは僕のために、あれやこれやお料理してくれてたなんて。

「その肉の上の目玉焼きは、ヒクイドリの卵だぞ」
「え?そうなの」
「ああ」

 ヴァルってば、わざわざヒクイドリの卵をここまで運んできてくれたってことだよね?
 割れないように気を付けながら持ってくるの、大変だっただろうな。

 ふふ。嬉しいなぁ。

 そうだよ。
 こんな何もない場所で、こんなお料理、さっき考えてできるものじゃない。
 ずっと前から考えてくれて、色々と準備してくれたってことだ。

 ヴァル、『こっちの計画も、予定も、全部無視でめちゃくちゃにしやがる』て言ってたもんね……。

 ヒクイドリの卵は、確かに美味しいけれど。

 僕は……ヴァルのお料理が美味しいってこと。
 ヴァルと食べるご飯が美味しいってこと。

 それに勝るものはないってことを、確認しただけみたい。

 じわ……っと、広がる美味しさが、僕の中に染み込んで、僕の空っぽな孤独を満たしてくれる。

「院長がな。この卵一つに、泣くほど喜んでてな」
「……そうなの?」
「ああ。院長が嬉し泣きするとこなんて、初めてみたよ」
「そっかぁ」

 卵を食べた院長は、ご先祖様の日記に記された伝説の食材を食べられたって、とっても喜んでたらしい。

 きっとその喜んでる院長を見て、ヴァルも喜んでくれたんだろうなぁ。

 えへへ。よかった。僕がヒクイドリを連れ帰ったのも、ムダじゃなかったんだ。

 ヒクイドリの卵を食べると、長生きするらしいからね。
 院長、ヴァルのために、いつまでも元気でいてね!

「へぇ……確かに美味いな、この卵」
「え?……ヴァルも初めて食べたの?」
「はあ?一緒に食おうって言ったのは、ルルドじゃねーか」
「………あ…うん」

 言った。言ったけど……僕は……それを実現する前に、ヴァルから逃げたから。

 それなのに、ヴァルは……。

「ヴァル……このご飯って、さ。
 もしかして、僕がこのお家に来た日に食べるはずだったりした……?」
「…………ま、予定なんてあくまで予定だろ」

 やっぱり、そうだったんだ。

「どんな予定だったの?」
「は?」
「ヴァルはどんな予定を立ててくれてたの?」
「………んなこと聞いて、どうするんだよ。今更」
「だって、知りたいから」

 ヴァルが、僕のためにあれやこれやと考えてくれてたことを。僕は知りたい。

「はぁ……下らねぇ」
「くだらなくないよっ!」

 目の前のお料理もとっても美味しくて嬉しいのはもちろんだけど、ヴァルが僕のことを考えてくれること自体が、すごくうれしいから。

「お前が気にすることじゃねぇって」
「気になるし!…………気に……させてよ。
 僕にそんな資格がないのは、わかってる……けど……」

 でも……それでも。
 僕が台無しにしちゃった、ヴァルの気持ちも全部、ひとつ残らず知りたいよ。

「あー……だから……そうじゃなくて。
 俺だって、好きで予定変更したんだから、お前が気にする必要ねぇって意味だよ」
「……でも、知りたい。ねぇ、ヴァル。教えてよ」
「………………はぁ……あー……。……だから……」

 言い渋るヴァルに、しつこく迫って、やっとのことで聞けた話によれば。

 まずは二人でこのお家をどうするか、見て回りながら雑談して。
 その後は、二人でお料理をして……実際には、ヴァルが作るのを僕が手伝って。
 二人でヴァルの作った美味しい豪華ディナーを楽しんで。
 将来をいい感じに語り合って。
 いい雰囲気になったところで『好きな者同士ですること』にもっていく。

 みたいな。

 なるほど。僕、間を大幅にショートカットしちゃったね。
 さらに、その後めちゃくちゃ延長しちゃったっていう。

 ごめん。ごめんね、ヴァル。
 何がごめんって、僕、同じことがあったとしたら、何度でも同じことしちゃう自信しかない。

 ああ、もう……もうっ!はぁ、ヴァルが可愛すぎる!!

 前からちょっと思ってたけど、ヴァルって、結構ロマンチスト?っていうか、乙女?だよね。やさぐれた顔に似合わずさ。

 はぁ……可愛い。全部可愛い。好き。好き好き大好き。
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