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Ⅳ.お腹いっぱいで幸せ編
9.俺は、どこまでも飛んでいける①
しおりを挟む「あ。こっちは寝室だね!」
台所の東側、右のドアを開けて、ルルドが入っていく。
「へぇ………ここはー……ヴァルの寝室かな?」
「は?」
俺の寝室だと?
こいつ、何とぼけたこと言ってんだ。
「それにしても、随分と大きなベッドだねぇ」
あー……もしかして、ベッドが一つしかねぇからか。
「一緒に寝んのには、二つもベッドは必要ねぇだろ。大きさもこんくらい普通だ」
当然ながらこの家には、寝室は一つしかない。で、ベッドだって一台だ。
「ふーん……そっか。
……………………………え。
あー……ふーん………一緒に寝るのか、僕たち。この一つのベッドで。毎日。
………二人で?」
明らかに動揺した様子のルルドは、さっきまでの勢いは何処へやら、段々と尻窄みになっていく。
待てよ、おい。そういう反応は予想してねーぞ。
「なんだ?ルルドは俺と同じベッドで寝んのが嫌なのかよ」
「っ!ううん、そんなこと無いよ!全然ないよ!!」
「……ホントか?」
どうみても、躊躇ってるようにしか見えねぇけど。
一緒に暮らしてたときだって、実質同じベッドで寝てたじゃねぇかよ。
まぁ……どっちかが、どっちかのベッドに潜り込むって感じではあったけどよ……。
実は、一人寝が好きだったのか?
ルルドはただでさえ、自分のものに愛着が強い。“自分のベッド”への思い入れでもあるのかもしれない。
ッチ……なんだそりゃ。
俺はルルドのリアクションに、どっと疲労感が増して、ドサリっとベッドに倒れこみ、そして、大きくため息をついた。
はぁ……つーか、風呂は一緒に入んのは良くて、一緒に寝んのは駄目って意味わかんねぇわ。
誘ってんのか、拒否ってんのかはっきりしろよな。
……これも、いまさらだけどよ。
あー……はいはい。どーせ、俺が勝手に一人で期待したり、ガッカリしたりしてるだけだよ。
でもこの状況じゃ仕方なくねぇか?
まぁ、はっきりしてることといえば。
ルルドが嫌がろうが、何だろうが、ベッドは一つだってことだ。今もこれからも。
「…………ヴァル…何、その顔」
「は?」
何だ、顔って。この顔は生まれつきだよ。
「ヴァル、拗ねた子供みたいだよ。やめてよ、もう」
「おい」
誰が拗ねた子供だ。なんだ。馬鹿にしてんのか?
「可愛過ぎでしょ。いきなりそんな顔されたら……はぁ、びっくりした。
ズッキューンときて、ドキドキして……ぼく、心臓止まるかと思ったじゃない」
「………はあ」
「ヴァルってホント不意を突いてくるよね。ツンからのデレが、容赦なさ過ぎる。
僕、いつかヴァルに殺されちゃうよ」
お前にだけは、んなこと死んでも言われたくねぇよ。
……つーか、ルルドの奴には、俺が可愛く見えてんのか?
目、大丈夫かよ。竜専門の目医者とかいねぇの?
お前も大概俺のこと大好きだな、まったく。
――ぎしり、っとベッドの軋む音に、はっとして顔を起こせば、ルルドがベッドに上がってきているところで。
慌てて跳るように上体を起こす。
「おい……ルルド。お前は、ベッドに上がってくんな」
「ええー?なんで?ヴァルばっかりずるいじゃない。
…………あっ!大丈夫だよー。何とね、この服全然汚れないから!」
さらに、「びっくりだよね?いつも驚きの白さなんだよ!」とか言ってる。
いや、誰も服の汚れでベッドが汚れることなんて、心配してねぇよ。
俺が言いたいのは、さっきから新婚みたいだの、一緒に風呂入るだの言っておいて、今ベッドに乗っかったらどうなるか、って話であって……。
なんだこれ。俺をどうしたいんだ、こいつは。
「僕のふわふわもこもこの毛が汚れないのと同じ原理みたいでね。汚れないんだ」
「はぁ」
「でもさ。
この服の不思議なところは、そこだけじゃないんだよ。
何が一番不思議ってさ。竜体の時の毛と同じで、僕の身体と一体の感覚なのにさ。
なんとー……」
「……なんと?」
「じゃっじゃーんっ!これ、脱げるんだよ!」
「………は」
「ね?ね?びっくりじゃない?
竜体の時の毛皮と同じ感覚なのに、脱げるなんて意味わかんなくない?
だって、これってつまり、毛皮をはがれちゃってるのと同じってことでしょ?」
「やめろ」
妙なもん、想像させんな。
「一度わかれば、結構単純な構造でね。着物みたいで、脱ぐのも簡単なんだよ。
右の肩から下げて、左を下げると中にぐるぐる布が巻きついてて、このお腹の帯を――」
ルルドは説明しながら、袖と一体になっている左右の身ごろをぺろんと下げた。
「っ!分かったから、んなとこで脱ぐんじゃねぇ!」
突然に目に飛び込んできたルルドの肌は傷もシミもなく、日に晒されると、絹のような光沢を放っていて相変わらず滑らかで艶っぽかった。
ルルド自らずり下げていた前合わせを、ぐっと引き上げて、露になった肩や胸元を隠す。
「お前なぁ……」
「く……苦しいよぉ、ヴァル」
「いきなり脱ぐ奴があるか」
「えー。僕、脱いでもちゃんと自分で着れるから。
心配しなくても、大丈夫だよー」
だから、んなことは心配してねぇっつーの。
突然、好きな奴が、目の前でベッドの上でストリップ始めるって、何だ一体。
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